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第三百四十四話

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 あの集会から時間を置いた後。院は上田に付きまとわれていた。

「ねえねえそこのチャンネー! 君キャワウィーネ!!」

「やかましいですわよ上田ァ!! 私以前の経験から軽薄な男は嫌っていますのよ!!」

「ちょっとちょっとぉ、俺一応先輩だゼ……? あ、今の季節にピッタリな向日葵一本要る?」

「要る訳ねーーーーですわよォ!! 先輩もクソも関係ねーーーーですわ!!」

「酷いッ! 俺、そんな魅力無いかな……? 俺、自他ともに認めるイケメンなんだけど……?」

「礼安の方が比べるのが失礼なほどにウン億倍ほど魅力に溢れていますわ!! 先輩に対してかける言葉じゃあねェですが、去れッッッ!! 散れッッッッ!!」

 一か月弱の準備期間。その間に、各々の出し物を計画し合い、練習を始めるのがスケジューリングとして正しい。のだが……院と上田に関してはそれ以前の話であった。
 院のとにかく苦手な『軽薄』『不遜』『男』。これら三拍子が綺麗に重なり合う状況だなんてそうそう有り得ないのだが、短期間に出会ってしまったのだ、二人も。信玄に関しては基本的に心根を知ったために、嫌うだなんてことは無いのだが。
 しかし、上田は違った。それらに綺麗に当てはまり、あろうことかしつこく付きまとう。付いてこないのはトイレなどのプライベートゾーンくらい。その間も上田以外の相方を何とか見つけようと必死に奮闘していたのだ。
 しかし。状況はどうも芳しくなかった。

「ごめんなさい、真来さん……もう既に相方がいて……」

「あっ、あ~……ご愁傷様ね、真来さん」

「……ドンマイね、一年次ちゃん」

 声をかける生徒全て、やんわりと断られていた。さらに、傍に憑いている幽霊のような上田の屈託のない笑顔を見た瞬間に全てを察し、そそくさと足早に去って行く。

「待って下さいまし!! 私こんな見え透いた地雷踏み抜きたくありませんの!!」

 何とも失礼な文言だが、上田はそんな院の足元に跪き、ウインクと共に先ほどの立派な向日葵を一本捧げながら求婚……ならぬタッグを組むことを、周囲に人がわんさかいる状況にて行ったのだ。


「どうか、この上田青空(ウエダ ソラ)と共に……最ッッ高の音楽(アルモニー)……奏でようじゃアないか、(マドモアゼル)?」

「――無理ッッッッッッッ!!!!」


 あまりにも歯の浮く、そして身の毛もよだつような、気障(キザ)な台詞を超至近距離で聞かされた院の精神は、どこまでもタフネスな彼女の精神は、すぐに限界を迎え上田を熱烈に拒否したのだった。
 しかし――上田は猛者であった。

「そんなこと言わないでおくれよ院さん……俺作曲も編曲も何でもござれ、優良物件オブ優良物件だゼ……♪ さらに家事全般何でもござれッ! 最高の音楽は俺こそ作れるッ!」

 あまりにも熱烈な求愛……ならぬ猛アピール。どれだけ拒否されようと立ち上がり続ける雑草のような魂が、光輝いて見えるのだった。その度に、院の否定の言葉に踏みつぶされようと、そのアピールを止めることは無い。


「しかし……あれだけのアピールするだなんて……変人であることは知っていたけれど、上田君『あんな振る舞い初めて』だろうに……どうしてだろう?」



 院と別れた透は、と言うと……

「透ちゃん、こんな義弟妹を養っていたの? 私も手伝わせて!」

「あッ、あまりグイグイ行かないでくれませんか! チビたちが怖がるから……」

「大丈夫、私こういう子たちとも接してきたことあるから……安心して!」

 透だけでなく、義弟妹達と共同生活を送る寮内にて、院と異なり一足早くタッグを組んだ透と渡部が、少しでも親しくなろうと放課後からパーティーを開こうとしていたのだった。
 パーティーの材料を買う道すがら、透がうっかり義弟妹のことに関して口を滑らせた瞬間から、ある意味英雄学園に所属する存在としては才能の一つである『お節介』が働き、このようになっていたのだった。

「透お姉ちゃん……この人誰……?」

「あ、ああ……このお姉さんは一カ月弱後に開かれる音楽のお祭りがあって……」

「そこで、一緒にいい音楽を作ろうってことで私からお誘いしたの! 新たな分野を覚えるのは好きだから、未経験であったとしても私が力になれれば、って!」

 これまで長いこと、そして多くの人と接してきた透であるが、渡部の心の内に悪心が無いことくらいは理解できる。礼安やベース能力『念』の力を保有している訳ではないため、ただの長年の勘が働いているというだけなのだが、もしこれで騙されたとしても、深くまで信じ込んだ自分が悪いと割り切れるくらいには、デメリットが無いと考えていた。

「――しっかし。俺が得意なのはブレイクダンス等の多少荒っぽいものなんスけど……そういうヒップホップミュージックは造詣深いんスか」

「J-POPしか聞かない!」

「そうか~……まあだよなァ……」

 完全な未経験者。その分野を齧った程度の透ではあったが、少しばかり頭を抱えていた。同時刻内において、別の要因で頭を悩ませる院よりは幸せな悩みであったが、これも喫緊の難題であった。どう学ばせるか、そして自分がどう学ぶか、それは二人共通の悩みであった。

「まあまあ、でも私……透ちゃんとなら良い順位行けるんじゃあないかな、って思うんだ! まるで泥船に乗ったつもり、っていうか!」

「泥船じゃア沈むッスよ、せめて大船にして下さい」

 何とも気の抜けるやり取りであったが、義弟妹にとってはウケがいいようで、冷静なツッコミと暢気なボケという構造を非常に面白がっていた。

「らいあおねーちゃんとおはなししているみたいだね、とおるおねーちゃん!」

「……礼安と、か」

「あ、あのすっごい子でしょ、私知ってる!」

「そりゃあ……すっげェッスよ、アイツは。敵う気が起きないほどに、どこまでも強くなる……アイツが同学年かつ同クラスであることを疑ってしまうほどの――才能の塊ッスから」

 しかし、そう話している透の表情は、非常に穏やか。どころか、ほんの少し頬が赤らむ始末であった。毎度の如く礼安の話をする際、透の振る舞いを見てきた義弟妹達は、それを茶化しにかかるのが恒例であった。透も分かっているがどうもその態度は無意識であるために途中で変えることが出来ない。彼女も乙女なのである。

「とおるおねーちゃん、らいあおねーちゃんすきだもんね!」

「ちゅっちゅしたいんでしょ!」

「山梨ですっごい嬉しそうだったよね、礼安さんのお話している時!」

「バッ……! チビたち……ち、ちゅーとか言うなって!! そんなえっちなこと俺教えてねェって!! 俺と礼安はそっっそそそそそそっそんなんじゃあねえし!!」

「あら、あらあらあらあらあらあらァ……♡」

 透の『乙女』としての側面を見た瞬間に、渡部のお世話スイッチが完全に起動してしまった。涎を垂らしながら、そして身を抱きよじりながら、透の頭を撫でさすりまくったのだった。
 義弟妹の前で見せる姿としては非常に恥ずかしいものであったため、何とか逃げようとしていたのだが、お世話の魔の手(?)はすぐ傍にまでにじり寄る。呆気なく捕まった透は、義弟妹と謡の前で情けなく撫でられまくるのだった。

 これが、音楽フェスをやる一か月弱前の彼女たちであった。非常に暢気した雰囲気である。



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「ねえねえそこのチャンネー! 君キャワウィーネ!!」
「やかましいですわよ上田ァ!! 私以前の経験から軽薄な男は嫌っていますのよ!!」
「ちょっとちょっとぉ、俺一応先輩だゼ……? あ、今の季節にピッタリな向日葵一本要る?」
「要る訳ねーーーーですわよォ!! 先輩もクソも関係ねーーーーですわ!!」
「酷いッ! 俺、そんな魅力無いかな……? 俺、自他ともに認めるイケメンなんだけど……?」
「礼安の方が比べるのが失礼なほどにウン億倍ほど魅力に溢れていますわ!! 先輩に対してかける言葉じゃあねェですが、去れッッッ!! 散れッッッッ!!」
 一か月弱の準備期間。その間に、各々の出し物を計画し合い、練習を始めるのがスケジューリングとして正しい。のだが……院と上田に関してはそれ以前の話であった。
 院のとにかく苦手な『軽薄』『不遜』『男』。これら三拍子が綺麗に重なり合う状況だなんてそうそう有り得ないのだが、短期間に出会ってしまったのだ、二人も。信玄に関しては基本的に心根を知ったために、嫌うだなんてことは無いのだが。
 しかし、上田は違った。それらに綺麗に当てはまり、あろうことかしつこく付きまとう。付いてこないのはトイレなどのプライベートゾーンくらい。その間も上田以外の相方を何とか見つけようと必死に奮闘していたのだ。
 しかし。状況はどうも芳しくなかった。
「ごめんなさい、真来さん……もう既に相方がいて……」
「あっ、あ~……ご愁傷様ね、真来さん」
「……ドンマイね、一年次ちゃん」
 声をかける生徒全て、やんわりと断られていた。さらに、傍に憑いている幽霊のような上田の屈託のない笑顔を見た瞬間に全てを察し、そそくさと足早に去って行く。
「待って下さいまし!! 私こんな見え透いた地雷踏み抜きたくありませんの!!」
 何とも失礼な文言だが、上田はそんな院の足元に跪き、ウインクと共に先ほどの立派な向日葵を一本捧げながら求婚……ならぬタッグを組むことを、周囲に人がわんさかいる状況にて行ったのだ。
「どうか、この|上田青空《ウエダ ソラ》と共に……最ッッ高の|音楽《アルモニー》……奏でようじゃアないか、|院《マドモアゼル》?」
「――無理ッッッッッッッ!!!!」
 あまりにも歯の浮く、そして身の毛もよだつような、|気障《キザ》な台詞を超至近距離で聞かされた院の精神は、どこまでもタフネスな彼女の精神は、すぐに限界を迎え上田を熱烈に拒否したのだった。
 しかし――上田は猛者であった。
「そんなこと言わないでおくれよ院さん……俺作曲も編曲も何でもござれ、優良物件オブ優良物件だゼ……♪ さらに家事全般何でもござれッ! 最高の音楽は俺こそ作れるッ!」
 あまりにも熱烈な求愛……ならぬ猛アピール。どれだけ拒否されようと立ち上がり続ける雑草のような魂が、光輝いて見えるのだった。その度に、院の否定の言葉に踏みつぶされようと、そのアピールを止めることは無い。
「しかし……あれだけのアピールするだなんて……変人であることは知っていたけれど、上田君『あんな振る舞い初めて』だろうに……どうしてだろう?」
 院と別れた透は、と言うと……
「透ちゃん、こんな義弟妹を養っていたの? 私も手伝わせて!」
「あッ、あまりグイグイ行かないでくれませんか! チビたちが怖がるから……」
「大丈夫、私こういう子たちとも接してきたことあるから……安心して!」
 透だけでなく、義弟妹達と共同生活を送る寮内にて、院と異なり一足早くタッグを組んだ透と渡部が、少しでも親しくなろうと放課後からパーティーを開こうとしていたのだった。
 パーティーの材料を買う道すがら、透がうっかり義弟妹のことに関して口を滑らせた瞬間から、ある意味英雄学園に所属する存在としては才能の一つである『お節介』が働き、このようになっていたのだった。
「透お姉ちゃん……この人誰……?」
「あ、ああ……このお姉さんは一カ月弱後に開かれる音楽のお祭りがあって……」
「そこで、一緒にいい音楽を作ろうってことで私からお誘いしたの! 新たな分野を覚えるのは好きだから、未経験であったとしても私が力になれれば、って!」
 これまで長いこと、そして多くの人と接してきた透であるが、渡部の心の内に悪心が無いことくらいは理解できる。礼安やベース能力『念』の力を保有している訳ではないため、ただの長年の勘が働いているというだけなのだが、もしこれで騙されたとしても、深くまで信じ込んだ自分が悪いと割り切れるくらいには、デメリットが無いと考えていた。
「――しっかし。俺が得意なのはブレイクダンス等の多少荒っぽいものなんスけど……そういうヒップホップミュージックは造詣深いんスか」
「J-POPしか聞かない!」
「そうか~……まあだよなァ……」
 完全な未経験者。その分野を齧った程度の透ではあったが、少しばかり頭を抱えていた。同時刻内において、別の要因で頭を悩ませる院よりは幸せな悩みであったが、これも喫緊の難題であった。どう学ばせるか、そして自分がどう学ぶか、それは二人共通の悩みであった。
「まあまあ、でも私……透ちゃんとなら良い順位行けるんじゃあないかな、って思うんだ! まるで泥船に乗ったつもり、っていうか!」
「泥船じゃア沈むッスよ、せめて大船にして下さい」
 何とも気の抜けるやり取りであったが、義弟妹にとってはウケがいいようで、冷静なツッコミと暢気なボケという構造を非常に面白がっていた。
「らいあおねーちゃんとおはなししているみたいだね、とおるおねーちゃん!」
「……礼安と、か」
「あ、あのすっごい子でしょ、私知ってる!」
「そりゃあ……すっげェッスよ、アイツは。敵う気が起きないほどに、どこまでも強くなる……アイツが同学年かつ同クラスであることを疑ってしまうほどの――才能の塊ッスから」
 しかし、そう話している透の表情は、非常に穏やか。どころか、ほんの少し頬が赤らむ始末であった。毎度の如く礼安の話をする際、透の振る舞いを見てきた義弟妹達は、それを茶化しにかかるのが恒例であった。透も分かっているがどうもその態度は無意識であるために途中で変えることが出来ない。彼女も乙女なのである。
「とおるおねーちゃん、らいあおねーちゃんすきだもんね!」
「ちゅっちゅしたいんでしょ!」
「山梨ですっごい嬉しそうだったよね、礼安さんのお話している時!」
「バッ……! チビたち……ち、ちゅーとか言うなって!! そんなえっちなこと俺教えてねェって!! 俺と礼安はそっっそそそそそそっそんなんじゃあねえし!!」
「あら、あらあらあらあらあらあらァ……♡」
 透の『乙女』としての側面を見た瞬間に、渡部のお世話スイッチが完全に起動してしまった。涎を垂らしながら、そして身を抱きよじりながら、透の頭を撫でさすりまくったのだった。
 義弟妹の前で見せる姿としては非常に恥ずかしいものであったため、何とか逃げようとしていたのだが、お世話の魔の手(?)はすぐ傍にまでにじり寄る。呆気なく捕まった透は、義弟妹と謡の前で情けなく撫でられまくるのだった。
 これが、音楽フェスをやる一か月弱前の彼女たちであった。非常に暢気した雰囲気である。