引き留める灰崎の声に振り返る信一郎。しかし、その表情に一切の罪悪感は見て取ることが出来ない。
「――何だい? ああ、もしかして『庇った』可能性が過ったかな? それについては心配ご無用、私が校則違反者に対して、淡々と粛清を行っただけだから大丈夫だよ」
「……そうじゃあないッスよ。あそこまでやる必要があったか、って話ッスよ」
いくらこれまでの言動や立ち振る舞いが、英雄学園に在籍する者として見合っていないものではあるのだろうが、それにしては大分厳し過ぎる物言いが引っ掛かったのだ。
信一郎の『英雄』という概念に対しての
ひたむきさは、『原初の英雄』という名誉ある無形勲章を胸に煌かせているため、その概念を背負うものとして厳しくあるべき、ということはしかと理解しているのだが、それにしても英雄の卵に対しても一切変わらない。
だからこそ、「厳し過ぎる」と思ってしまったのだ。元々極道の世界は温室などではなく、寧ろ常時嵐のような風雨にさらされているような立場にて、権力闘争を行うことがほとんど。そこで少なからずとも厳しい世界には慣れているつもりであった。そんな灰崎であっても、そう思ってしまったのだった。
「――まあ、あの子に関してなんだけど……以前から黒い噂が出ていてね。合同演習会以降、ちょーっと行動が怪しかったから事前に監視していたんだよね。あそこに監視カメラつけたのも……通常の校内風紀を保つためってのもあるし、あの子の何かしらの企みを抑えたい、ってのもあったのよね」
「……最初から、計算ずくって事だった訳ですか、信一郎さん」
「そゆこと。まあこのことを話した、ってことは……どこと繋がっているかってのは容易に理解できるよね」
正しく、教会。しかし、教会所属であるはずなのに、チーティングドライバーも持たされていないところから、端役も端役なのだろう。
「……あの千葉の一件の後から、校内でもちゃんとした記憶を保有している存在はごく少数だ。というか、学園のソートを外したとしても、世界各国というガバガバな網目に広げたとしても……千葉の一件に関わった存在だけと、教会関係者以外その記憶を保有していない。来栖善吉という存在を完全に忘れ去ったとしても、事件は確かにそこにあった。経験の差というものは、どうあっても軋轢を生んでしまうものでね」
それが、ちゃんとした記憶を保有しているかどうかで明確に変わってくる。密接な被害者同然のエヴァたちや、それを知り『激昂』した礼安たち。事情を知らないと、学園長がまた案件を優先的に
斡旋して解決した、そしてそれによってさらに地力を上げた、とみるのは当然のこと。現に、先ほどの男子生徒も同じような思考に陥った結果、教会に関わったのだろう。
「あと少しで学園祭も迫っているってのに……結構校内の雰囲気にがたが来ていてね。こっちは色々と忙しいってのに、色々悩ませてくれるよね、教会ってのは」
「――学園祭、か。なら、こんなのはどうッスか」
「……話を聞こうか?」
そこで灰崎が一つ思い立ち信一郎に語って見せたのは、組が入り乱れた催し物。これまで組ごとの出し物がメインで、武器科は工芸品の売り出しや出し物、英雄科は喫茶店だったり飲食店だったり幅は広い。しかも、英雄学園の学園祭はただの催し事、で終わるものでは無く、そこから大企業によるスカウトがかかることも多少なり存在する、まさしくキャリアが積める場所である。
そのため、基本的に勉学や実技が多少なり苦手な生徒も、学園祭をチャンスの場として捉えるものは少なくない。灰崎は以前礼安たちに入学後のパーティーの際に聞き及んだのだが、ある程度の商才のある彼はそこで『スクランブル』を考え付いたのだ。
基本的に、組の上下によって差が存在するものは、学力やら地力やら、魔力量や経験など、そういった『これまで』のものばかり。ならば、そこに地力やら何やら、一切関係が無くなるような『これから』積み重ねるものを提示してしまえば、全てが同じスタートラインに立てるだろう。
「――なるほど。それで……どんなことをするつもりだい? 基本的に英雄学園に入学するような存在だ、皆身体能力は出来ている方だけど……」
「何も、完全に無関係なものをやらせるのは見苦しいものがあるでしょう。大企業の人間も暇じゃアない、だから準備期間の一カ月弱の間に出来るものかつ、見栄えの良いもの、そして身体能力が活きるようなものをやらせれば、様になるだろうってことッス」
「……! ぴっこーん、
学園長……良いこと思いついちゃった♪ ナイス、灰崎君!!」
咄嗟に『何か』を思いついた様子の信一郎は、その場からスキップして去って行った。自分きっかけではあるものの、何かしら無力に嘆く生徒たちの手助けが出来たのでは、と灰崎は安堵していた。
しかし、翌日。待っていたのは灰崎も頭を抱えるような催し事であった。