第百十話:聖炎竜巻と三元超高圧突風
ー/ー ドワーフ族との技術協定を終え、ヒカルが「部分竜化」という新たな力を得てから数日。
統一王国の最前線指揮所には、一触即発の緊張感が漂っていた。ヒカルの体内に流れるのは、ドワーフの技術によって強化された鋼のような骨格と、長寿化のコード。その肉体的な強靭さが、王の心に初めて「永遠に戦い続けられる」という冷たい確信を与えていた。
(ボルタの骨髄改変で、俺のベースBPIは20から80にまで上昇した。これは単なる防御力ではない。ユニゾン時の魔力増幅の土台そのものが強化されたことを意味する)
ヒカルは、右腕に宿る『調律の剣(レギュレート・ソード)』を握りしめ、長寿化と強化で得た力は、ヒカルの「王の義務」と、愛する妻たちの揺るぎない絆だけが制御できることを再認識した。
(俺の精神消耗と盟約側妃シルヴィアの信仰は、この戦いの恒常的な補正係数だ。この二つの力が、竜姫たちの魔力とユニゾン係数を常に3.0以上で固定し、魔族の論理的支配を跳ね返すための聖なる土台を築いている。俺が消耗すればその分、シルヴィアの信仰の光が強まるという、極限の精神戦だ。そう、俺たちがこの戦いの勝敗を左右しているんだ……)
魔王軍の残り二体、『絶望の絶望の破壊者』(BPI 12,000)と『隷属の隷属の使徒』(BPI 8,000)が、十万の魔族本隊を率いて再度侵攻してきたのだ。
「報告! 敵は三方向へ分断! 中央に隷属の使徒(風)、左翼に忘却の策士(水)の残存魔力、そして右翼に絶望の破壊者(炎)です!」
空虚の斥候王ゼファーが、顔に冷や汗を滲ませて報告する。彼の斥候部隊は、この苛烈な同時攻撃を予測できなかった。
ヒカルの戦場の視覚化が映し出すのは、絶望的な状況だ。
右翼の『絶望の絶望の破壊者』は、身長3メートル超の巨漢。全身が硬質な黒曜石の鎧に覆われ、鎧の隙間からマグマのような炎が噴き出している。その存在自体が、地形を破壊する暴力の塊だ。
左翼の霧の向こうに潜む『忘却の策士』は、銀髪の細身で、顔の半分が水銀のような金属質の仮面で覆われ、冷たい嘲笑を浮かべている。
そして、中央の『隷属の隷属の使徒』は、流線型で中性的な体躯に漆黒の全身スーツを纏い、風の刃を常時纏っている。三体の中でも、もっとも高いBPIが観測されている。
絶望の破壊者は炎で大地を焦がす。隷属の使徒は強大な風の魔力で全軍の機動力を削ぐ。そして、忘却の策士は再戦への執念を燃やし、盟約軍の愛の調律を乱そうと暗躍していた。
「くそっ、カインの置き土産め! 忘却の策士まで加わり、三体同時攻撃だと!」
ヒカルは、右腕に宿る『調律の剣』を握りしめた。
最高戦略官のアクアが、冷静にヒカルを見つめた。
「王よ。敵は三体。我々も三方向へ戦力を集中させます。六天将と人類軍を基盤とし、姫たちを流動的に切り替えながら指揮してください。これは、王の真価が問われる戦いです!」
ヒカルは、愛の指揮棒を振るうように、全軍に最終指令を下した。
「全軍、迎撃態勢! 俺にすべてを預けてくれ! 魔王軍の傲慢を、我々の絆で打ち砕くぞ!!」
◇◆◇◆◇
ヒカルは、敵の連携のなさを弱点と見抜き、戦力を二つに強制分断した。魔族というものは、個々の力を過信するあまり、連携という概念に乏しいらしい。そこが最大の弱点なのだ。
【チーム攻(オフェンス)】はレヴィア(炎)、アクア(水)、ルーナ(光)が核となり、まず、左翼の忘却の策士(水)に対応する遊撃部隊となり、これの撃破を試みる
【チーム防衛(ディフェンス)はテラ(土)、セフィラ(風)、ヴァルキリア(闇)が核となり、中央の隷属の使徒への防御と、ヒカルの司令部の安寧を護る。
さらに、シエル(水)が不在の中、古王軍編入部隊総司令官ユグドラが、人類側の行政顧問であるレオーネ皇女と共に後方司令部の頭脳代行を担う。ユグドラの土の魔力とガイア(土)の武功、そしてリヒター総帥率いる人類軍が盟約軍の防御基盤を固める。
ヒカルは、まず最も苛立たしい忘却の策士を叩き潰すため、左翼戦線に光の調律を命じた。
「ルーナ! まずは、左翼戦線へ、遠隔で『調律の光』を! レヴィア、セフィラ、ルーナ! 三属性ユニゾン、聖炎竜巻を左翼に叩き込む!」
純白の調和聖女ルーナは、中央防衛戦線で待機していたが、王の命令を受け、一瞬で光の魔力を集中させた。
「ヒカル様! わたくしの光が、憎悪の霧を浄化します!」
忘却の策士が潜む左翼の霧の戦線に、レヴィアの激情とセフィラの自由、そしてルーナの調和が融合したユニゾンが発動した。炎と風と光の三色が一つに収束し、「ヴァーヴッ!!」という轟音と共に、光の螺旋を纏った巨大な竜巻が出現する。
『聖炎竜巻』(炎+風+光)だ。
凄まじい熱量と風圧が空間をねじ曲げ、忘却の策士が展開していた憎悪の霧が「シュウウウウウ……」という音と共に瞬時に蒸発。
その中心では、レヴィアのトランペット(情熱)のD音(レ)と、セフィラのヴァイオリン(自由)のG音(ソ)、ルーナのホルン(調和)のB音(シ)が、破壊と浄化の緊張を内包する増三和音を響かせた。
ヒカルの脳内オーケストラで、このユニゾンの理論BPIが弾き出された。レヴィア(1200)+セフィラ(400)+ルーナ(300)の合計1900に、調和係数1.7が乗算され、ユニゾンBPIは3230に達する。
(忘却の策士のBPI 8000に対し、理論値では劣る。しかし、忘却の策士の論理は、愛のユニゾンが「浄化」のベクトルを持つことを計算に入れていない! そして、シルヴィアの信仰が、この理論値に非線形な補正をかける!)
絶妙なタイミングだった。後方司令部から、盟約側妃シルヴィアが発する純粋な信仰心の光が、ヒカルの心に流れ込んできた。
『王よ! あなたの消耗は、私が、人類の信仰の全てを束ねて支えます!』
シルヴィアの献身は、ヒカルの脳内オーケストラに「人類の希望」という強靭な持続音を加え、愛の補正係数の増幅を可能にする。
「ユニゾンBPI、17,100に到達!この浄化の力が、忘却の策士の防御論理を上回る!」
三つの愛の音色が融合した竜巻は、忘却の策士の憎悪の霧を全て蒸発させながら、本体へと迫る。その圧倒的な破壊力は、忘却の策士のBPI 8000を遥かに上回り、忘却の策士の霧の魔力構成が、空間の理ごと上書きされるように内側から崩壊していく。
「バカな……! 愛のユニゾンが、なぜ戦闘中に属性を切り替えられる!? この和音は、計算外だ!」
忘却の策士は、ヒカルの「臨機応変な指揮」という、最も計算外の要素に絶望した。忘却の策士の半身を炎と光の竜巻が飲み込んだ。前回逃げた忘却の策士は、今度こそ論理的な敗北を悟り、その存在を霧散させた。
「王よ……忘却の策士、撃破!! 左翼戦線の魔族どもは総崩れです!!」
アクアの冷静な報告が、ヒカルの心に安堵をもたらした。魔王軍四天王の一柱が、ヒカルの知恵と愛のユニゾンの前に、完全に討ち取られたのだ。
忘却の策士の撃破と共に、レヴィア、アクア、セフィラは、そのまま左翼に残っていた魔族残党の掃討に移行した。
レヴィアは爆炎龍将軍フレアを、セフィラは空虚の斥候王ゼファーを指揮し、勝利の余韻に沸く左翼戦線の残党を半数に絞り、その戦力を中央防衛線へ急行させる。
「フレア! 残党はゼファーに任せろ! 左翼の戦力は緊急編成! 半分を中央戦線へ! テラとガイアが持たない!」
アクアが冷静な判断を下す。
「了解! 王の命令だ! 者ども、中央へ急げ!!」
フレアとゼファーは、人類軍の精鋭を伴い、中央戦線へと急行した。左翼戦線には、残りの人類軍と、遊撃隊の一部を残し、掃討と防衛を継続させる。
◇◆◇◆◇
中央と右翼の戦線は、隷属の使徒と絶望の破壊者の猛攻により極度の劣勢に陥っていた。
中央には『隷属の隷属の使徒』(風)が、風の魔力で人類連合軍の機動力を完全に奪い、テラの防御結界の側面を攻めようとしていた。
さらに、右翼から『絶望の絶望の破壊者』(炎)が、大地を溶岩に変えながらテラの防御結界を焼き尽くそうとしていた。
だが、中央戦線では、ドワーフ族の天才技術者ボルタが提供したDSW応用防御シールドが展開されていた。
人類軍のDSW応用防御シールドが、隷属の使徒の風の魔力と絶望の破壊者の炎の猛攻を相殺し、かろうじて防御線を維持している。
中央防衛戦線で磐石の守護龍テラは、ヴァルキリアとルーナと共に、中央の隷属の使徒の風の魔力の猛攻を正面から受け止めていた。
「主よ! わらわの防御基盤が、風の魔力で削られます! ガイア! DSW応用防御シールドを右翼にも展開せよ!」
テラの母性の愛が、隷属の使徒の憎悪の風の前で、限界を迎えていた。
「ヒカル様! 左翼より今戻りました!!」
ルーナが左翼から戻ってきたことを確認とほぼ同時に、ヒカルは、ここで、ヴァルキリアの闇の断罪で隷属の使徒を沈静化させつつ、遊撃隊を絶望の破壊者に投入するという、次の戦略へと移行する。
「ヴァルキリア! 隷属の使徒に、お前の闇の断罪を叩き込め! ヴァルキリアとテラ、ルーナで、『複合防御聖炎』を応用した、断罪の闇を! ルーナ、立て続けだが、ユニゾンブレスだ!!」
「お任せください、ヒカル様!!」
深淵の孤高竜姫ヴァルキリアは、闇の魔力を解放。テラの防御基盤とルーナの光の調律を応用し、隷属の使徒に「憎悪を否定する闇」をぶつけるユニゾンを発動した。
「契約者。貴様の敵は、この闇の王族が断罪する!」
ヴァルキリアの闇の攻撃は、隷属の使徒の風の魔力を一時的に沈静化させたが、魔人の絶望的な風の魔力は依然として強大だ。
◇◆◇◆◇
ヒカルは、忘却の策士を撃破したことで、チーム攻の姫たちを遊撃戦に投入する準備を整える。
「アクア! 左翼からレヴィア、中央からセフィラを右翼の第三戦線へ遊撃戦に投入! 絶望の絶望の破壊者に集中攻撃を仕掛け、テラの防御を援護せよ!」
この指令は、忘却の策士討伐による激しい精神消耗と、中央防衛戦線の逼迫という二重の重圧のもとで下された。ヒカルの表情は、次の波状攻撃への備えを命じる王の厳しさに満ちていた。
「テラ! ルーナ! ヴァルキリア! 隷属の使徒と絶望の破壊者の連携を断ち、次の指示まで防衛を維持せよ!」
「「「承知!!」」」
戦闘は新たな局面へと移行した。
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