第百十一話:永遠の守護と激情の昇華
ー/ー 左翼戦線で『忘却の策士』を撃破した歓喜は、一瞬で終息した。
盟約軍の最前線指揮所。ヒカルは、形態発動による激しい精神消耗と、長寿化の代償である「竜の支配欲」との葛藤に苛まれていた。右腕の『調律の剣』が、王の人間性を保つ最後の砦だ。
(計測した結果、隷属の使徒の単体BPI 8,000、絶望の破壊者のBPI は12,000にもなる……。こちらは、純粋な武力、個別の戦力では劣る。だが、忘却の策士を破った愛の補正係数 が、まだ俺の心身に残っている。この優位性を、絶望の破壊者の最大の弱点に叩き込むしかない。そう、みんなの力で勝つんだ!)
ヒカルは、中央防衛戦線でテラ、ルーナ、ヴァルキリアが隷属の使徒の風の猛攻を正面から受け止めているのを確認した。そして、右翼の第三戦線へ急行した遊撃部隊に、最終指令を下す。
「レヴィア! 右翼の絶望の絶望の破壊者を殲滅しろ! アクア、セフィラ! レヴィアの激情を、論理と自由で制御し、最大の火力を発揮せよ!」
絶望の破壊者の精神攻撃と激情の暴走
右翼の第三戦線では、紅蓮の激情竜姫レヴィア、蒼玉の理性竜姫アクア、疾風の遊撃竜姫セフィラが、マグマの炎を噴き出す『絶望の絶望の破壊者』と対峙していた。
「フン! 醜い憎悪の炎め! 私の激情の愛の炎で、貴様の存在を焼き尽くしてやるわ!」
レヴィアの炎が、絶望の破壊者の憎悪の炎と正面から激突する。炎と炎の衝突は、レヴィアの激情をさらに煽り、彼女の魔力は一気に限界値を超えて暴走しかけた。絶望の破壊者と同じ炎属性であるため、感情の揺さぶりが増幅されていた。
その瞬間、絶望の破壊者のマグマの瞳がレヴィアの魂を射抜いた。
絶望の破壊者は、魔王軍四天王の中でも最も感情というトラウマを抉ることに長けていた。
『愚かな竜姫よ! 貴様が長寿化の儀式を終え、永遠の命を得たことは知っている! だが、その人間(ヒカル)はせいぜい百年! 貴様の永劫の愛は、一時の激情で終わり、永遠の孤独だけが残る! 貴様の愛は無価値だ!』
絶望の破壊者の精神攻撃は、レヴィアが抱く「永遠の長寿」と「人間との短い愛」の間に横たわる絶望的な時間差というトラウマを抉った。
「う、うるさいッ……! 違う! 貴様の言う通り、私は永遠に孤独になるのか……! いや、夫は私だけのものだ! 永遠に独占する! 貴様が、貴様が邪魔なのだ!」
レヴィアの激情的な愛の炎は、「夫を失う悲しみ」という新たな絶望によって完全に歪められ、制御不能な領域へと暴走し始める。炎の魔力は不規則に暴れ、アクアとセフィラのユニゾンの調律を論理的に崩壊させた。
「レヴィア! 感情的になるな! ユニゾンの調律が乱れるわ!」
「レヴィア姉さん、ダメだよ! 火力がバラバラになっちゃう! 団長!」
ヒカルの「絆の共感者」には、レヴィアの激情のD音(レ)が絶望の不協和音となり、耳朶を突き刺す。同時に、ヒカル自身の形態発動の反動で、竜の支配欲が「この弱い感情を排除しろ」とヒカルの人間性を侵食し始める。盟約側妃シルヴィアの信仰の光が、ヒカルの心に流れ込み、支配欲の誘惑をギリギリで押さえ込むという、極限の精神戦だ。
(まずい! 絶望の破壊者の狙いは、レヴィアの激情を「愛の暴走」へと転換させること! このままでは、俺の支配欲がレヴィアの感情と共鳴し、ユニゾンが内部崩壊する!)
◇◆◇◆◇
ヒカルは、右腕に宿る『調律の剣』に全精神力を集中させた。王の人間性という、最も脆い核をシルヴィアの信仰の光で支えながら、通信魔力を通じて、レヴィアの魂の核に、王の義務という愛の論理を直接語りかけた。
「レヴィア! 貴様の愛は、一時の激情ではない! 貴様は長寿化の儀式を終えたばかりだ! その永遠の命は、俺との永続的な防衛の義務のためにある!」
ヒカルの言葉は、絶望の破壊者の精神攻撃を否定するのではなく、「愛の形を変える」という新たな論理をレヴィアに突きつけた。
「貴様が愛を独占したいのなら、俺の命が尽きるまでの間、その炎を『守護の情熱』として制御しろ! 貴様の愛は、俺を焦がし尽くす炎ではない! 俺を護り抜く永遠の盾となれ! それが、王の妻としての永続的な義務だ!」
ヒカルの愛の調律は、レヴィアの激情を否定するのではなく、「独占欲」という感情を「永遠の守護の義務」へと昇華させた。
レヴィアの瞳から、激情の狂気が消える。彼女は、王の命令が、愛の独占という本能的な要求を、より高次の「永遠の愛の王妃」という使命へと導いていることを悟った。
「あ……ああ……! 永遠の守護……! そうよ、夫! 私は貴方を護るために、永遠の命を捧げたのだわ!」
レヴィアの炎の魔力は、暴走から一転して、穏やかで強靭な黄金の炎へと変貌した。その炎は、絶望の破壊者の憎悪の波動を静かに焼き払い、レヴィアの魂に「永遠の愛の王妃」となる決意を刻んだ。
◇◆◇◆◇
レヴィアの愛の調律が成功した瞬間、ヒカルは間髪入れずにユニゾンを命じた。
「テラ、アクア、レヴィア! 中央の隷属の使徒から隷属の使徒の風の魔力を奪い、絶望の破壊者に叩き込む! 三属性ユニゾン、複合防御聖炎だ!」
この瞬間、ヒカルはレヴィアの炎の特性が「破壊」から「沈静化」へと変化したことを利用し、中央の隷属の使徒への防御に回っていたテラとアクアを、即座にユニゾンに参加させた。
テラのコントラバス(献身)のE音(ミ)が、絶望の破壊者への防御基盤を築き、アクアのクラリネット(理性)のF音(ファ)が、沈静化のベクトルを正確に誘導する。レヴィアの永遠の守護の炎(G音/ソ)が融合し、ユニゾンは「ドオオオオオォン!」という重厚な和音を響かせた。
それは、メジャー・トライアドという、揺るぎない安寧の響きだった。炎は絶望の破壊者の憎悪の炎を焼き尽くすのではなく、愛の論理でそのエネルギーを中和・沈静化させた。
絶望の破壊者は、レヴィアの炎が「憎悪の炎」から「守護の炎」へと転じたことに驚愕した。
「馬鹿な! 炎が…炎が我が憎悪の炎を沈静化させるだと!?」
絶望の破壊者の炎の鎧は、複合防御聖炎の安寧の波動に耐えきれず、メキメキと音を立てて崩壊し始める。BPI 12,000という絶望的な数値を持ちながら、愛の調律がもたらした戦略的な優位性の前には為す術がなかった。
「くそっ、次こそは必ず貴様を焼き尽くす……!」
絶望の破壊者は、その半身を失い、マグマの炎を吐きながら右翼戦線から撤退した。魔王軍四天王の一柱が、ヒカルの愛の調律によって、屈辱的な逃走を余儀なくされたのだ。
「レヴィア! 深追いは許さない! 王の命令は隷属の使徒の討伐よ!」
勝利に沸き、絶望の破壊者を追いかけようとしたレヴィアの背中に、冷徹な声が叩きつけられた。中央防衛戦線から、深淵の孤高竜姫ヴァルキリアが闇の結界を纏い、瞬間移動してきたのだ。
「ヴァルキリア姉さま!? なぜ、私を止めるの! このまま焼き尽くせば、私の武功は確定よ!」
「愚かだぞ、レヴィア! それでも、契約者の、ヒカルの第一王妃を狙う身か!? 貴様の激情的な愛は、常に目の前の独占欲に囚われがちだ! 王の最大の脅威は中央の隷属の使徒よ! テラとルーナが防衛を維持している間に、貴様の愛の炎を中央にぶつけなさい! それが、王国の命脈を護る長姉からの命令だ!」
ヴァルキリアの叱咤は、レヴィアの激情を再び王の義務へと引き戻した。ヴァルキリアはレヴィアの頬に触れ、冷たい、しかし確固たる感情を込めた声で諭す。
「貴様はもう、一時の感情で動く女ではない。王の愛を永遠に独占するためには、王国の防衛という義務を果たせ。さあ、中央へ! 隷属の使徒の支配欲を打ち砕くのだ!」
レヴィアは、ヴァルキリアの長姉としての威厳と、その裏にある静かな愛情に唇を噛んだ。
「……くっ。わかったわ。ありがとう、ヴァルキリア姉さま。私の愛は、王の論理に従う!」
「なぁに、これも長女の役割さ」
レヴィアは炎の魔力を中央戦線へ送り込み、アクア、セフィラと共に急行する。右翼の残党掃討と絶望の破壊者の監視は、爆炎龍将軍フレアと人類連合軍に託された。
戦闘は、残る一体、『隷属の隷属の使徒』(風)が支配する中央防衛戦線へと、その舞台を移す。隷属の使徒は、レヴィアの愛の昇華を見て、その支配欲をより強固なものへと変えていた。
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