第百五話:逆転の福音と三元ユニゾンの嵐
ー/ー 戦場の霧が晴れ、重力の枷が外れた。
エルフの賢者イリスの解析と、元聖女候補シルヴィアの祈りによって、絶望的な戦況は覆された。
今こそ、反撃の時だ。
「視界良好! 敵の姿、完全に捉えました!」
「重力が消えたぞ! 動ける! 動けるぞ!」
恐怖から解き放たれた人類と竜の連合軍の士気は、沸点に達していた。
「反撃だ! やられっぱなしで終われるかよ!」
爆炎龍将軍フレアが剣に炎を纏わせ、魔族の歩兵集団に突っ込む。
「続けぇ! 竜族の背中は我らが守る!」
レオナルド摂政も帝国騎士団を率い、フレアが開けた穴を押し広げる。
「邪魔だよ、そこどいて!」
空虚の斥候王ゼファーが風のように戦場を駆け抜け、魔族の指揮官クラスの首を次々と刎ねていく。
「押し返せ! 大地の怒りを知れ!」
不動の防衛将ガイアとリヒター総帥率いる重装部隊が、質量で魔族の隊列を粉砕する。
数万の魔族兵が、怒涛の勢いで押し寄せる連合軍の前に次々と沈んでいく。
かつて「尖兵」に蹂躙された雪辱を晴らすかのように、彼らは四天王の本陣へと続く道を、物理的にこじ開けていった。
そして、戦場には二人の魔人だけが取り残された。
『忘却の策士』と『無価値の守護者』。
彼らを守る盾は、もう一枚もない。
◇◆◇◆◇
後方司令部。
バルコニーに立つヒカルは、丸裸になった四天王を見据え、右腕の『調律の剣』を天に掲げた。
「時は満ちた! これより最大火力を以て、敵将を討つ!」
その隣で、元聖女候補シルヴィアが杖を握りしめ、一歩前へ出る。
かつて聖女アリアの影に隠れ、今は王国の片隅で福祉に尽くす彼女が、戦場の中心で叫んだ。
「皆様! どうか私の声を聞いてください! これでも私、腐っても元聖女の端くれ……! 神に届く祈りの声量には、自信がありますのよッ!!」
シルヴィアの全身から、眩いばかりの黄金の光が噴き上がる。
それは防御のための光ではない。戦う者たちの魂を燃え上がらせる、勝利への賛歌(アンセム)だ。
「光よ! 勇気ある者たちに、限界を超える力を! 『聖女の福音』!!」
「そして俺も……全力で応える!」
ヒカルが咆哮する。
「形態発動・最大出力!!」
バギギギギッ!
ヒカルの右腕だけでなく、右半身全体が深紅の竜鱗に覆われ、片翼の竜翼が背中から噴出する。
王のカリスマと聖女の祈りが融合し、戦場全体に巨大な魔力の波動となって拡散した。
ドクンッ!!
戦場にいる全ての竜姫、六天将、そして兵士たちの心臓が、王の鼓動と同期する。
BPI(戦闘能力指数)の数値が、計測器の限界を超えて跳ね上がっていく。
「力が……溢れてくる!」
「今なら、なんだってできる気がするわ!」
六龍姫たちの瞳が、かつてない輝きを放つ。
準備は整った。二つの戦場で、最強の三龍ユニゾンが発動する。
◇◆◇◆◇
左翼戦線、『忘却の策士』の前。
紅蓮の激情竜姫レヴィア、蒼玉の理性竜姫アクア、疾風の遊撃竜姫セフィラが並び立つ。
「アクア、セフィラ! 私の熱に溶けなさい!」
「ええ。今の私の情熱なら、貴女の爆発力とも計算が合います」
「いっくよー! 最高速のフィナーレだね!」
ヒカルの指揮棒が振られるイメージと共に、三人の魔力が共鳴する。
レヴィアの激情(D音)、アクアの覚醒した情熱的理性(F#音)、セフィラの自由な高音(B音)。
それは、既存の枠組みを破壊し、新たな世界を切り開く『増三和音(オーギュメント・トライアド)』の響き。
「三龍ユニゾン――『三元螺旋崩壊砲』!!」
レヴィアの放つ超高熱の火球を、セフィラの暴風が螺旋状に巻き上げ、そこにアクアの高圧水流が貫通するように融合する。
水蒸気爆発のエネルギーを風が極限まで圧縮し、一点に収束させた破壊の光条。
BPIは推定28,000オーバー。
「な、なんだこのデタラメな出力は……!?」
『忘却の策士』が水銀の壁を展開するが、触れた瞬間に蒸発した。
「ぐああああッ!! 計算外だ……! 愛などという非合理が、これほどの力を……!」
光の渦が忘却の策士を飲み込み、その半身を消し飛ばしながら、はるか後方の山脈ごと大地を穿った。
◇◆◇◆◇
中央戦線、『無価値の守護者』を目前にし、磐石の守護龍テラ、純白の調和聖女ルーナ、深淵の孤高竜姫ヴァルキリアが対峙する。
「貴様の重力など、もはや重荷ではありません!」
テラが大地を踏みしめる。
「光が、貴方の罪を照らします!」
ルーナが杖を掲げる。
「闇に沈め。貴様の存在そのものが不要だ!」
ヴァルキリアが冷徹に告げる。
テラの献身(E音)、ルーナの調和(C音)、ヴァルキリアの断罪(Eb音)。
重厚で、厳粛で、そして逃れようのない深淵を感じさせる『短三和音』だ。
「三龍ユニゾン――『三元重力断罪獄』!!」
テラが操作する大地が無価値の守護者を四方から拘束し、ルーナの光がその魔力抵抗を無効化(デバフ)する。
そして、ヴァルキリアの闇が、無価値の守護者の頭上に「擬似ブラックホール」を生成した。
「な、なに……!? 私の重力が、私自身を……!?」
「貴様の質量が仇となったな。自らの重さに潰れろ!!!」
ヴァルキリアが指を振り下ろすと、ブラックホールが無価値の守護者を飲み込むように落下した。
メキメキメキッ!!
岩のような鎧がひしゃげ、巨体が内側へと圧縮されていく。
BPI 12,000の巨魁が、BPI 29,000相当の超重圧によって、豆粒のようなサイズへと圧縮され――。
「お、おのれぇぇぇ……! 魔王様万歳……!!」
プツン、という音と共に、無価値の守護者は事象の地平線の彼方へと消滅した。
完全なる圧殺であった。
◇◆◇◆◇
轟音が止み、戦場に静寂が戻る。
中央戦線の『無価値の守護者』は、痕跡すら残さずに消滅した。
左翼戦線では、半身を失った『忘却の策士』が、霧となって辛うじて戦場から離脱していくのが見えた。
「逃がしたか……。だが、深手だ」
ヒカルは形態発動を解除し、その場に膝をついた。
激しい消耗。だが、心地よい達成感があった。
「ヒカル様!」
「団長!」
六龍姫たちが、それぞれの戦場からヒカルの元へと駆け寄ってくる。
誰もが傷だらけだが、その表情は晴れやかだった。
「勝った……。俺たちの『愛』が、四天王を退けたんだ」
人類と竜の連合軍が上げる勝鬨(かちどき)が、青空に響き渡る。
だが、これはまだ四天王の半分へのかろうじての勝利に過ぎない。
逃げた忘却の策士は、必ずこの情報を持ち帰り、残る二体、そして魔王と共に対策を練ってくるだろう。
次は、四天王三体同時、あるいは魔王自身の出陣か。
ヒカルは、王城の方角――愛するシエルとお腹の子が待つ場所を見つめ、拳を握りしめた。
「休んでいる暇はない。……次が、本当の正念場だ」
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