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第61話 大雨の危機

ー/ー



 ゴゴゴゴゴゴ……。

 大きな地鳴りが響き渡る。

「くそっ! こんなところで土砂崩れか!」

『これでは聖女様のいらっしゃる洞窟の入口がふさがってしまいます』

 そう、強く降り始めた雨によって、よりにもよってクロナのいる洞窟の入口付近の土砂が崩れ始めたのだ。
 おそらくはスチールアントによって急ごしらえで掘られたことにより、地面の状態が不安定になっていたのだろう。そこに強い雨が降り始めたことによって、想像以上に一気に地面が緩んでしまったようなのだ。

「この程度のことで、お嬢様を死なせるわけにはまいりません!」

『まったくです。なんとしても入口を死守するのですよ、ブラナ』

「分かっていますよ、イトナ!」

 ブラナはどこからともなく短剣を取り出すと、地面に向けて投げつける。
 ザクザクザクっといい音がして、短剣は地面へと突き刺さる。

「糸をかけますよ」

『承知』

 ブラナとイトナは、そろって短剣に向かってクモの糸を吐きかける。
 無駄な努力かも知れないが、少しでもスペースを確保するためである。
 短剣を起点として、アサシンスパイダーの強靭な糸が入口の上に屋根を作り上げていく。
 ひと通りできたと思った次の瞬間だった。

 どざざざざーっ!

 凄まじい音が鳴り響き、洞窟の入口を土砂が覆い隠してしまう。

「お嬢様!」

『聖女様!』

 目の前が土砂で完全に埋まってしまう。二人が防ごうとして作り上げた屋根も、簡単に押し流されてしまっていた。

「イトナ、すぐに掘り起こしますよ」

『分かっています』

 あまりに一瞬のできごとに一瞬目の前が白くなりかけたが、すぐさま気を取り戻してクロナを助けるために地面を掘り返し始める。
 まったく、邪神というものは様々な方法でクロナを殺そうとしているらしい。
 この時ほど、ブラナもイトナも邪神のことを強く恨んだ瞬間はなかっただろう。
 しばらくすると、洞窟の入口に積もった土砂が急に震え始める。

『ブラナ、この魔力の振動は?!』

「イトナ、土砂から離れますよ」

『はいっ』

 何かを感じ取った二人は、土砂から一度退避している。
 二人が距離を取ると同時に、洞窟の入口を覆っていた土砂が一気に吹き飛んでいた。
 ブラナもイトナも、一瞬何が起きたのか分からなかった。
 だが、このような芸当ができるものといったら、それは一人しかいない。

「まったく、私を誰も殺せないとみたから、このような方法を取ってきましたか。まったく、邪神とやらは思うように事が運ばずに焦っていると見えますね」

 そう、クロナだった。
 あれからたった数か月とはいえ、兄と親友に命を狙われ、その二人が命を落とした。そのことによって精神が壊れてしまい、可憐な笑顔も今は昔、その面影もないどす黒い笑みを浮かべるようになっていた。
 はっきりいって、ブラナもイトナもこの表情は好きではない。しかし、邪神によって無残にも心を傷つけられ続けられたという状況があるために、心苦しく思いながらもなんとか見ていられるという状態だった。
 二人とも、クロナのことがそれだけ心配なのだ。
 心の壊れた状態のクロナなら、敵からの襲撃に対しては耐えきれるかもしれない。だが、これまでは大切に守られてきたお嬢様なのだ。自分のことはどうにかできても、食事などの問題点がある。
 ブラナもイトナも、絶対にクロナを見捨ててはならない。その心だけは持ち続けようと決意を固めていた。

「申し訳ございません、お嬢様」

『私どもで対処できず、聖女様の手を煩わせてしまうとは……。なんとも不徳の致すところでございます』

 ブラナもイトナも、クロナに対して素直に謝罪をしている。

「気にしないで下さい。誰にでもできることとできないことがあるのです。お二人は、私とともにいるだけで十分なのです」

「お嬢様……」

『聖女様』

 にこりと微笑んで優しい声をかけてくれただけで、ブラナとイトナの二人は十分報われた気がした。心は壊れてしまったが、クロナの根本は変わっていなかったのだから。

「さあ、さっさと中に入りましょう。ここにいては風邪を引きますからね。バタフィー殿下の対処は、スチールアントの報告を待ってから考えましょう」

「はい、お嬢様」

 クロナの呼び掛けに応じ、ブラナとイトナは斜面に掘られたアジトの中へと戻っていった。

 それからさらに一日が経過し、偵察に出ていたスチールアントたちが戻ってきた。

『聖女様にご報告いたします。バタフィー王子と見られる大軍は、大雨のために退却を行うようです』

「そうですか。ふん、あの王子にしては賢明な判断をしたようですね」

 報告を受けたクロナは、少しバカにしたように鼻で笑いながら反応を示していた。

「それがよいでしょうね。これだけの雨となれば、この辺りでは下手に動けなくなります。少しでも安全な国境の方へと退き、体勢を立て直した方がいいというものですよ」

『ええ、よい判断をしたと思います。いくら聖女様と敵対しているとは申しましても、彼までいなくなってしまえば国が立ち行かなくなるでしょう。聖女様の環境が元に戻った時、国がなくなっていては困りますからね』

「神はすべてを元通りにするとは言っていますが、いまいち怪しいですからね。私は神の遣わした聖女ですが、これまでの状況を見れば疑いたくなります」

『お気持ちはよく分かります、聖女様』

「とはいえ、状況がよくなればまた攻め入ってくるでしょう。なんとしても対策を講じておきませんとね」

「畏まりました。このブラナ、お嬢様のために死力を尽くさせていただきます」

「ええ、頼みましたよ。ブラナ、イトナ」

 ひとまず大雨による危機は脱したが、まだまだ状況は油断ならない。
 また襲いくる危機を前に、次なる対処を講じることを決めるクロナたちなのであった。


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 ゴゴゴゴゴゴ……。
 大きな地鳴りが響き渡る。
「くそっ! こんなところで土砂崩れか!」
『これでは聖女様のいらっしゃる洞窟の入口がふさがってしまいます』
 そう、強く降り始めた雨によって、よりにもよってクロナのいる洞窟の入口付近の土砂が崩れ始めたのだ。
 おそらくはスチールアントによって急ごしらえで掘られたことにより、地面の状態が不安定になっていたのだろう。そこに強い雨が降り始めたことによって、想像以上に一気に地面が緩んでしまったようなのだ。
「この程度のことで、お嬢様を死なせるわけにはまいりません!」
『まったくです。なんとしても入口を死守するのですよ、ブラナ』
「分かっていますよ、イトナ!」
 ブラナはどこからともなく短剣を取り出すと、地面に向けて投げつける。
 ザクザクザクっといい音がして、短剣は地面へと突き刺さる。
「糸をかけますよ」
『承知』
 ブラナとイトナは、そろって短剣に向かってクモの糸を吐きかける。
 無駄な努力かも知れないが、少しでもスペースを確保するためである。
 短剣を起点として、アサシンスパイダーの強靭な糸が入口の上に屋根を作り上げていく。
 ひと通りできたと思った次の瞬間だった。
 どざざざざーっ!
 凄まじい音が鳴り響き、洞窟の入口を土砂が覆い隠してしまう。
「お嬢様!」
『聖女様!』
 目の前が土砂で完全に埋まってしまう。二人が防ごうとして作り上げた屋根も、簡単に押し流されてしまっていた。
「イトナ、すぐに掘り起こしますよ」
『分かっています』
 あまりに一瞬のできごとに一瞬目の前が白くなりかけたが、すぐさま気を取り戻してクロナを助けるために地面を掘り返し始める。
 まったく、邪神というものは様々な方法でクロナを殺そうとしているらしい。
 この時ほど、ブラナもイトナも邪神のことを強く恨んだ瞬間はなかっただろう。
 しばらくすると、洞窟の入口に積もった土砂が急に震え始める。
『ブラナ、この魔力の振動は?!』
「イトナ、土砂から離れますよ」
『はいっ』
 何かを感じ取った二人は、土砂から一度退避している。
 二人が距離を取ると同時に、洞窟の入口を覆っていた土砂が一気に吹き飛んでいた。
 ブラナもイトナも、一瞬何が起きたのか分からなかった。
 だが、このような芸当ができるものといったら、それは一人しかいない。
「まったく、私を誰も殺せないとみたから、このような方法を取ってきましたか。まったく、邪神とやらは思うように事が運ばずに焦っていると見えますね」
 そう、クロナだった。
 あれからたった数か月とはいえ、兄と親友に命を狙われ、その二人が命を落とした。そのことによって精神が壊れてしまい、可憐な笑顔も今は昔、その面影もないどす黒い笑みを浮かべるようになっていた。
 はっきりいって、ブラナもイトナもこの表情は好きではない。しかし、邪神によって無残にも心を傷つけられ続けられたという状況があるために、心苦しく思いながらもなんとか見ていられるという状態だった。
 二人とも、クロナのことがそれだけ心配なのだ。
 心の壊れた状態のクロナなら、敵からの襲撃に対しては耐えきれるかもしれない。だが、これまでは大切に守られてきたお嬢様なのだ。自分のことはどうにかできても、食事などの問題点がある。
 ブラナもイトナも、絶対にクロナを見捨ててはならない。その心だけは持ち続けようと決意を固めていた。
「申し訳ございません、お嬢様」
『私どもで対処できず、聖女様の手を煩わせてしまうとは……。なんとも不徳の致すところでございます』
 ブラナもイトナも、クロナに対して素直に謝罪をしている。
「気にしないで下さい。誰にでもできることとできないことがあるのです。お二人は、私とともにいるだけで十分なのです」
「お嬢様……」
『聖女様』
 にこりと微笑んで優しい声をかけてくれただけで、ブラナとイトナの二人は十分報われた気がした。心は壊れてしまったが、クロナの根本は変わっていなかったのだから。
「さあ、さっさと中に入りましょう。ここにいては風邪を引きますからね。バタフィー殿下の対処は、スチールアントの報告を待ってから考えましょう」
「はい、お嬢様」
 クロナの呼び掛けに応じ、ブラナとイトナは斜面に掘られたアジトの中へと戻っていった。
 それからさらに一日が経過し、偵察に出ていたスチールアントたちが戻ってきた。
『聖女様にご報告いたします。バタフィー王子と見られる大軍は、大雨のために退却を行うようです』
「そうですか。ふん、あの王子にしては賢明な判断をしたようですね」
 報告を受けたクロナは、少しバカにしたように鼻で笑いながら反応を示していた。
「それがよいでしょうね。これだけの雨となれば、この辺りでは下手に動けなくなります。少しでも安全な国境の方へと退き、体勢を立て直した方がいいというものですよ」
『ええ、よい判断をしたと思います。いくら聖女様と敵対しているとは申しましても、彼までいなくなってしまえば国が立ち行かなくなるでしょう。聖女様の環境が元に戻った時、国がなくなっていては困りますからね』
「神はすべてを元通りにするとは言っていますが、いまいち怪しいですからね。私は神の遣わした聖女ですが、これまでの状況を見れば疑いたくなります」
『お気持ちはよく分かります、聖女様』
「とはいえ、状況がよくなればまた攻め入ってくるでしょう。なんとしても対策を講じておきませんとね」
「畏まりました。このブラナ、お嬢様のために死力を尽くさせていただきます」
「ええ、頼みましたよ。ブラナ、イトナ」
 ひとまず大雨による危機は脱したが、まだまだ状況は油断ならない。
 また襲いくる危機を前に、次なる対処を講じることを決めるクロナたちなのであった。