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第57話 共同戦線

ー/ー



 不破が真っ先に殺そうとしたエリザベートは霧状のままどこかに逃げてしまったようで、近い位置にいた静馬へ両手にナイフ状の血牙を持って襲い掛かる。

「全く……エリザベート殿は厄介なものを……」

 刀の血牙で受け止めながら静馬が苦言を呈した。

 現在の不破は単なる中級吸血鬼ではない。

 その一撃はナイフによるものとは思えないほど重く、「血戦派」幹部きっての武闘派である静馬ですら唸らせるものだった。



 不破は伯爵による改造ではなく、本人の純粋な成長によって死神すら相手取ることのできる異能者だった。

 だからこそ集められた異能者の中で一人だけ生かされた。

 その特異性に目を付けられた彼は、エリザベートに噛まれることで自由意志を持った吸血鬼となり、カタストロフィメンバーの血液を「投与」されることで独自進化をした改造吸血鬼(デミ・ヴァンパイア)となった。

 改造は丁寧に、そして大胆に行われた。

 抽出した死神の力の許容量を誤れば吸血鬼であれ死ぬからだ。

 吸血鬼一人一人で死神の血の許容量は異なる。「血戦派」の幹部クラスになると底無しのように血を取り込んでいくが、不破の許容量は少なかった。

 だからこそ最初に投与されたのはドクターの能力を含んだ血液だった。

 壊れていく身体。だがドクターに由来する回復能力が死ぬことを許さない。

 吸血鬼の身であっても不破は地獄の苦しみを味わうことになった。

 実験は続いた。次に血牙を強化するためにマイスターの血を、さらには近接戦で絶対的な効果を生み出すシールドの血を。

 そうやって次々とカタストロフィの血が投与されていった。

 実験が重ねられるにつれ、世界の秩序に向けられていた不破の怒りは吸血鬼たちに向けられるようになった。

 たった六人で世界を敵に回すという「馬鹿」ができる仲間を殺し、人としての尊厳さえも奪った吸血鬼を憎んだ。

 その憎悪故に命令以外の行動を許されない拘束具をエリザベートによって付けられ、「面白い実験体」として飼われていたのだ。

 結果として吸血鬼にして複数の異能を持つ彼はエリザベートよりも高位のビアンカによって解き放たれ、自身の身体をドクターの能力で、血牙をマイスターの能力で強化して静馬に絶え間ない攻撃を仕掛けている。

 静馬も不破の連撃を捌きながら好機を伺う。

 戦場が再び動き出した。

 奪った自動小銃の弾を撃ち尽くしたマクスウェルが押し寄せるぬいぐるみに拳銃で対抗を開始。

 息も絶え絶えの桐子にはビアンカが対峙している。

「ねーえ。君はすぐ弾切れでしょ。代わってよ」

 マクスウェルが捨てた弾切れの自動小銃を手に取ると、ビアンカが前に出て血弾による射撃を開始する。

 下位吸血鬼の装填していた弾とは威力が段違いで、一発でぬいぐるみが弾け飛ぶ。

 対してマクスウェルは手負いの幹部桐子を相手取ることになる。撃ち込んだ拳銃の弾丸は片手の血剣で容易に弾かれる。

「無理だろ!」

 前進してくる桐子から逃げ回るマクスウェル。

 そして一矢はどこに加勢すべきか考える。

 妥当なのはぬいぐるみを操る本体のカーニャかと考え、動き始めた。

 ビアンカの前方に一矢が出ようとした瞬間、大声で止められる。

「カズくんはそっちじゃない! ロデリックが来る! そっちをお願い!」

 ビアンカに言われずとも一矢も只者ではない気配が近づいてくるのを感じる。

 頭首ロデリック。

 中央棟にたどり着くまでに名前は聞いていた。一矢は桁違いの霊力を感じた。

 そのロデリックの気配が一矢の周囲を取り囲むように広がった。試しに血牙空亡(けつがくうぼう)を振ってみるも、何も感じない。

 そして一矢が気付くと背後から胸を貫かれていた。

 心臓を狙ったその一撃は突き刺されながら一矢が身をひねることでどうにか避けられた。

 背後から一矢を突き刺したその吸血鬼は今、彼の目の前に立っていた。

 黒いトレンチコートを着込んだ吸血鬼。その手には片手剣状の血牙を持っている。

 一矢の傷は吸血鬼の力で再生するが、一撃で血液ごと霊力をごっそりと持っていかれたのを感じる。

「お初にお目にかかる。“新たな英雄”アマガセ・カズヤ。私は『血戦派』の頭首ロデリック、道中ビアンカから名前くらいは聞いているだろう」

「ああ、丁寧なご挨拶をどうも。貴族主義を滅ぼしたって割りには丁寧で礼儀正しいな。ビアンカよりよっぽど貴族らしい」

「ビアンカから聞いたのか? おしゃべりな娘だ」

 時間を稼ぎながら一矢は自身の権能でロデリックの実力を探る。

 そしてその桁違いの能力に驚きを隠せない。彼にかかれば高位の吸血鬼であるビアンカも赤子のようなものだろう。

「どーお!? いける!?」

「やってみる!」

 一矢は権能で能力をロデリックから借り、即座に斬りかかった。想像以上の動きに彼は自分でも驚く。

 ロデリックは血牙剣で一矢の一撃を受け止めるが、一矢はまだロデリックの力の全容を把握し切れていない。

 彼はロデリックの剣に込められた霊力の高まりを感じたが、血牙空亡をごと一矢を斬るための霊力強化だと判断し思わず距離を取る。

 そして飛ぶ斬撃が一矢の右腕を切断した。

 ロデリックが血牙剣から放った血液の斬撃である。そして一度下ろした剣を振り上げると第二の斬撃が一矢の左腕を飛ばした。

 一矢は再生に霊力を回そうとするが追いつかない。

 そして血牙を出す術がないので次の攻撃を受けられない。

 それを狙いすましていたかのように、第三の斬撃を放とうとロデリックが剣を振り上げる。

「他愛ない」

(クソ……さっきから賭けばっかりだ! でもやるしかない!)

 一矢は再生に霊力を回すのを止め、瞬間的に足から霊力を含んだ血液を前方に放つ。

 一矢を縦に両断すべく放たれた第三の斬撃は彼が足から放った血の波動によって散るが、飛び散った両者の霊力が突き出した一矢の右足を焼く。

 両腕と片足を失い倒れる一矢。だがロデリックは既に次の斬撃を放つ準備をしている。

「どーうにか……なれっ!」

 四度目の攻撃の直前にビアンカが絶叫し、身の丈ほどの大きさになった血斧を思い切り壁に叩きつけた。

 空間操作され拡大していた中央棟の一室が元の簡素な狭い一室に戻る。

 そしてビアンカの一撃で外に面した壁に大穴が開いた。

 ロデリックは周囲の吸血鬼を巻き込む可能性を鑑みて、第四の斬撃を止める。

「ずらかるぞーっ」

 ビアンカは血斧を振り回し、ロデリックに向けて放り投げる。

 すかさず静馬が間に入りその攻撃を受け止めるが、その結果を見るまでもなくビアンカは外に飛び降りていた。

 続いて呆気に取られる桐子の隙を突いてマクスウェルが飛び降りる。

 そして静馬目がけて走り寄る不破が追撃をすると見せかけ、背中を斬られながら一矢の左足を掴み引きずりながら穴から飛び出す。

 一秒ほどの浮遊感の後、逆さに吊られた一矢は五体ボロボロで脱出することができたのだった。


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 不破が真っ先に殺そうとしたエリザベートは霧状のままどこかに逃げてしまったようで、近い位置にいた静馬へ両手にナイフ状の血牙を持って襲い掛かる。
「全く……エリザベート殿は厄介なものを……」
 刀の血牙で受け止めながら静馬が苦言を呈した。
 現在の不破は単なる中級吸血鬼ではない。
 その一撃はナイフによるものとは思えないほど重く、「血戦派」幹部きっての武闘派である静馬ですら唸らせるものだった。
 不破は伯爵による改造ではなく、本人の純粋な成長によって死神すら相手取ることのできる異能者だった。
 だからこそ集められた異能者の中で一人だけ生かされた。
 その特異性に目を付けられた彼は、エリザベートに噛まれることで自由意志を持った吸血鬼となり、カタストロフィメンバーの血液を「投与」されることで独自進化をした|改造吸血鬼《デミ・ヴァンパイア》となった。
 改造は丁寧に、そして大胆に行われた。
 抽出した死神の力の許容量を誤れば吸血鬼であれ死ぬからだ。
 吸血鬼一人一人で死神の血の許容量は異なる。「血戦派」の幹部クラスになると底無しのように血を取り込んでいくが、不破の許容量は少なかった。
 だからこそ最初に投与されたのはドクターの能力を含んだ血液だった。
 壊れていく身体。だがドクターに由来する回復能力が死ぬことを許さない。
 吸血鬼の身であっても不破は地獄の苦しみを味わうことになった。
 実験は続いた。次に血牙を強化するためにマイスターの血を、さらには近接戦で絶対的な効果を生み出すシールドの血を。
 そうやって次々とカタストロフィの血が投与されていった。
 実験が重ねられるにつれ、世界の秩序に向けられていた不破の怒りは吸血鬼たちに向けられるようになった。
 たった六人で世界を敵に回すという「馬鹿」ができる仲間を殺し、人としての尊厳さえも奪った吸血鬼を憎んだ。
 その憎悪故に命令以外の行動を許されない拘束具をエリザベートによって付けられ、「面白い実験体」として飼われていたのだ。
 結果として吸血鬼にして複数の異能を持つ彼はエリザベートよりも高位のビアンカによって解き放たれ、自身の身体をドクターの能力で、血牙をマイスターの能力で強化して静馬に絶え間ない攻撃を仕掛けている。
 静馬も不破の連撃を捌きながら好機を伺う。
 戦場が再び動き出した。
 奪った自動小銃の弾を撃ち尽くしたマクスウェルが押し寄せるぬいぐるみに拳銃で対抗を開始。
 息も絶え絶えの桐子にはビアンカが対峙している。
「ねーえ。君はすぐ弾切れでしょ。代わってよ」
 マクスウェルが捨てた弾切れの自動小銃を手に取ると、ビアンカが前に出て血弾による射撃を開始する。
 下位吸血鬼の装填していた弾とは威力が段違いで、一発でぬいぐるみが弾け飛ぶ。
 対してマクスウェルは手負いの幹部桐子を相手取ることになる。撃ち込んだ拳銃の弾丸は片手の血剣で容易に弾かれる。
「無理だろ!」
 前進してくる桐子から逃げ回るマクスウェル。
 そして一矢はどこに加勢すべきか考える。
 妥当なのはぬいぐるみを操る本体のカーニャかと考え、動き始めた。
 ビアンカの前方に一矢が出ようとした瞬間、大声で止められる。
「カズくんはそっちじゃない! ロデリックが来る! そっちをお願い!」
 ビアンカに言われずとも一矢も只者ではない気配が近づいてくるのを感じる。
 頭首ロデリック。
 中央棟にたどり着くまでに名前は聞いていた。一矢は桁違いの霊力を感じた。
 そのロデリックの気配が一矢の周囲を取り囲むように広がった。試しに|血牙空亡《けつがくうぼう》を振ってみるも、何も感じない。
 そして一矢が気付くと背後から胸を貫かれていた。
 心臓を狙ったその一撃は突き刺されながら一矢が身をひねることでどうにか避けられた。
 背後から一矢を突き刺したその吸血鬼は今、彼の目の前に立っていた。
 黒いトレンチコートを着込んだ吸血鬼。その手には片手剣状の血牙を持っている。
 一矢の傷は吸血鬼の力で再生するが、一撃で血液ごと霊力をごっそりと持っていかれたのを感じる。
「お初にお目にかかる。“新たな英雄”アマガセ・カズヤ。私は『血戦派』の頭首ロデリック、道中ビアンカから名前くらいは聞いているだろう」
「ああ、丁寧なご挨拶をどうも。貴族主義を滅ぼしたって割りには丁寧で礼儀正しいな。ビアンカよりよっぽど貴族らしい」
「ビアンカから聞いたのか? おしゃべりな娘だ」
 時間を稼ぎながら一矢は自身の権能でロデリックの実力を探る。
 そしてその桁違いの能力に驚きを隠せない。彼にかかれば高位の吸血鬼であるビアンカも赤子のようなものだろう。
「どーお!? いける!?」
「やってみる!」
 一矢は権能で能力をロデリックから借り、即座に斬りかかった。想像以上の動きに彼は自分でも驚く。
 ロデリックは血牙剣で一矢の一撃を受け止めるが、一矢はまだロデリックの力の全容を把握し切れていない。
 彼はロデリックの剣に込められた霊力の高まりを感じたが、血牙空亡をごと一矢を斬るための霊力強化だと判断し思わず距離を取る。
 そして飛ぶ斬撃が一矢の右腕を切断した。
 ロデリックが血牙剣から放った血液の斬撃である。そして一度下ろした剣を振り上げると第二の斬撃が一矢の左腕を飛ばした。
 一矢は再生に霊力を回そうとするが追いつかない。
 そして血牙を出す術がないので次の攻撃を受けられない。
 それを狙いすましていたかのように、第三の斬撃を放とうとロデリックが剣を振り上げる。
「他愛ない」
(クソ……さっきから賭けばっかりだ! でもやるしかない!)
 一矢は再生に霊力を回すのを止め、瞬間的に足から霊力を含んだ血液を前方に放つ。
 一矢を縦に両断すべく放たれた第三の斬撃は彼が足から放った血の波動によって散るが、飛び散った両者の霊力が突き出した一矢の右足を焼く。
 両腕と片足を失い倒れる一矢。だがロデリックは既に次の斬撃を放つ準備をしている。
「どーうにか……なれっ!」
 四度目の攻撃の直前にビアンカが絶叫し、身の丈ほどの大きさになった血斧を思い切り壁に叩きつけた。
 空間操作され拡大していた中央棟の一室が元の簡素な狭い一室に戻る。
 そしてビアンカの一撃で外に面した壁に大穴が開いた。
 ロデリックは周囲の吸血鬼を巻き込む可能性を鑑みて、第四の斬撃を止める。
「ずらかるぞーっ」
 ビアンカは血斧を振り回し、ロデリックに向けて放り投げる。
 すかさず静馬が間に入りその攻撃を受け止めるが、その結果を見るまでもなくビアンカは外に飛び降りていた。
 続いて呆気に取られる桐子の隙を突いてマクスウェルが飛び降りる。
 そして静馬目がけて走り寄る不破が追撃をすると見せかけ、背中を斬られながら一矢の左足を掴み引きずりながら穴から飛び出す。
 一秒ほどの浮遊感の後、逆さに吊られた一矢は五体ボロボロで脱出することができたのだった。