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第58話 先輩参戦

ー/ー



 一矢たち四人は着地地点で追撃がないか警戒を怠らない。ビアンカ以外は。

「カズくんさーあ。ノースリーブみたいで面白いね! 蛮族~」

 一矢の両腕と右足は再生こそしたが、両腕がむき出しになっている。

 右足には焼き焦げた布が貼り付いているのがせめてもの救いか。

「そう言われても……うわっ」

 不破が着ていたジャケットを一矢の頭に被せるように投げ付けた。

「着ろ」

「いいのか? ありがとう」

 背中が血で汚れていたが、一矢を助けたときのものだ。彼は不破に何か変化があったことを感じる。

「なあおい、あれヴァルキリーの使い魔じゃないか?」

 マクスウェルが唐突に指で示したところに二足歩行の猫が数匹いた。ポコちゃんに似たトラ猫も混じっている。

「助けてくれえ! 吸血鬼から逃げてきたんだ!」

 マクスウェルを見た猫たちは顔を寄せ合って何か相談している。そして一斉に頷くと四方八方に逃げていく猫たち。

「なんでだあああ」

「ばーか。ここにいいるの、君以外吸血鬼でしょうが。捕まった死神にしか見えないでしょ。吸血鬼で内紛が起きてるなんてわかりゃーしないって」

 マクスウェルは必死で手招きするが使い魔は省みもしない。

「どうする? 近くまでヴァルキリーの軍が来ているだろうが、吸血鬼の俺たちが出ていけば殺されるぞ」

「カズくんが先頭に立って両手上げながら降伏すれば? 君って有名人なんでしょ?」

「俺は御免だな。あの女を殺して仲間の仇を取るまで俺はここを離れない」

 ヴァルキリーに保護を求めるというビアンカの意見に真っ向から反対するのは不破だった。

 そしてつい先ほどまで猫をおびき寄せようとしていたマクスウェルが突然叫ぶ。

「上から来るぞ!」

 中央棟上部に開いた大穴から次々と生き血啜り(グール)が落ちてきたのだ。

 生き血啜りの足は砕けるがすぐさま再生し、起き上がって一矢たちに向けて手を伸ばす。

 すぐさま血牙の手斧で近づいてくる腕を切り落としながらビアンカは叫ぶ。

「かったーい! 死神の生き血啜りなんてろくでもないモノ作りやがって! あいつ!」

 切り落とした腕はすぐさま再生を始める。

 一矢も、不破もそれぞれで対応するが、死神の身体の頑強さと吸血鬼の再生能力に押され気味だ。

 マクスウェルは生き血啜りとは正反対の方へ走る。ただ闇雲に走っているわけではない。

 猫たちが逃げて行った東京拘置所入口に向かってヴァルキリー軍が前進してきたのである。

「マクスウェルさん! 椿さんがいたらよろしく!」

「精々がんばれよ、小僧!」

 マクスウェルも自身が足手まといにしかならないことを理解している。

 ヴァルキリー総司令ヘルムヴィーゲに「血戦派」の内情を知らせようと突っ走った。

 その間もヴァルキリーが率いる軍は前進を続け、両者の距離は縮まりつつある。

 そして術式が発動し、拘置所周辺に結界が張られた。

「死神殺戮領域、きっど~う!」

 拘置所に開いた大穴からピンクのツインテール、深紅のワンピースで着飾ったエリザベートが高らかに宣言する。

 が、進軍する死神たちに影響が出ている様子は無い。

「なにこれ。なら『ブラッディ・バス』で死んじゃえ!」

 この術式も不発に終わった。エリザベートが足を踏み鳴らして苛立ちを表す。

「なにこれなにこれなにこれ! ふっざけんな!」

「カーニャちゃん。エリザベートちゃんちょっとこわい……」

「うるっさい! 豚!」

 怒鳴り付けられた豚のぬいぐるみがカーニャにしがみ付く。

 ヴァルキリーと彼女らが率いる死神は二度も三度も同じ手を食わない。二つの術式に関しては既に対策済みのようだった。

「先走ったな。エリザベート。もう少し多くの死神が集まってから動きたかったが……」

「頭首様~ん! だってだって、わたしのお気に入りが二人も逃げ出したのよ! お預けなんて残酷なこと言わないでちょうだい!」

 ロデリックはヴァルキリー軍を完膚なきまでに叩きのめすためにヴァルキリー軍の包囲が完成するのを待っていた。

 だがエリザベートが生き血啜りを動かしたことでヴァルキリーは包囲を敷く途中で進軍を開始したのだ。



「ハハハハハ! 馬鹿が! 地脈は既にこっちが抑えてある! あの忌々しい杭はもう封じた!」

 ヘルムヴィーゲは高笑いしながら全軍を前進させる。

 彼女は事前に術師たちに地脈の支配権を奪い取らせ、土中に染み込んだ血液が干渉できないように手配していたのだ。

 さらにロスヴァイセは補佐に回り、死神弱体化の結界「死神殺戮領域」を封じていた。

 数少ないロスヴァイセの配下とかき集めた弱い死神たちに、敵の術式の効果を一手に引き受けさせていたのだ。

 元が弱い死神たちのため、術式の効果に悶え苦しむが軍への影響は最小限に抑えられてある。

 そして椿。彼女は一矢を見つけ出すために最前線に出張っていた。

 拘置所の中央棟以外にも各棟の壁が爆破され次々と生き血啜りが落下し追加される。

 今や拘置所の敷地内を埋め尽くさんばかりに生ける屍がうごめいていた。

「圧し潰されるぞ。策はないのか」

「キッショいけど内臓の血でも浴びれば同族に見られる、はーず!」

 不破の問いに答えながら、両断した生き血啜りの上半身を、赤子をあやすように高く掲げ血を浴びるビアンカ。

「勘弁しろよ……」

 続けて一矢、不破と同じように血を浴びていく。

「俺はエリザベートを殺す。手出し無用だ」

 一矢は先行する不破を止めようとするが肉塊の群れがそれを阻止する。

「カズくんはどうするの?」

「とりあえず死神勢が来る前にこいつらを殺していくしかないだろ。混戦になったら巻き添えで死ぬかもしれない」

「それもそーだ!」

 戦斧状に大きくした血斧で生き血啜りをなぎ倒すビアンカ。

 最前線ではかつて死神だった存在と死神が交戦を始める。椿は周囲を見回しながら赤口を振るう。

 そして上空から黒い翼を広げ一矢を探す漆黒の鳥型妖魔が一人。

「全く出来の悪い後輩を持つと苦労するねー。死神縛りでハブられた恨みを見とけよー。妖魔舐めんな、おい!」


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 一矢たち四人は着地地点で追撃がないか警戒を怠らない。ビアンカ以外は。
「カズくんさーあ。ノースリーブみたいで面白いね! 蛮族~」
 一矢の両腕と右足は再生こそしたが、両腕がむき出しになっている。
 右足には焼き焦げた布が貼り付いているのがせめてもの救いか。
「そう言われても……うわっ」
 不破が着ていたジャケットを一矢の頭に被せるように投げ付けた。
「着ろ」
「いいのか? ありがとう」
 背中が血で汚れていたが、一矢を助けたときのものだ。彼は不破に何か変化があったことを感じる。
「なあおい、あれヴァルキリーの使い魔じゃないか?」
 マクスウェルが唐突に指で示したところに二足歩行の猫が数匹いた。ポコちゃんに似たトラ猫も混じっている。
「助けてくれえ! 吸血鬼から逃げてきたんだ!」
 マクスウェルを見た猫たちは顔を寄せ合って何か相談している。そして一斉に頷くと四方八方に逃げていく猫たち。
「なんでだあああ」
「ばーか。ここにいいるの、君以外吸血鬼でしょうが。捕まった死神にしか見えないでしょ。吸血鬼で内紛が起きてるなんてわかりゃーしないって」
 マクスウェルは必死で手招きするが使い魔は省みもしない。
「どうする? 近くまでヴァルキリーの軍が来ているだろうが、吸血鬼の俺たちが出ていけば殺されるぞ」
「カズくんが先頭に立って両手上げながら降伏すれば? 君って有名人なんでしょ?」
「俺は御免だな。あの女を殺して仲間の仇を取るまで俺はここを離れない」
 ヴァルキリーに保護を求めるというビアンカの意見に真っ向から反対するのは不破だった。
 そしてつい先ほどまで猫をおびき寄せようとしていたマクスウェルが突然叫ぶ。
「上から来るぞ!」
 中央棟上部に開いた大穴から次々と|生き血啜り《グール》が落ちてきたのだ。
 生き血啜りの足は砕けるがすぐさま再生し、起き上がって一矢たちに向けて手を伸ばす。
 すぐさま血牙の手斧で近づいてくる腕を切り落としながらビアンカは叫ぶ。
「かったーい! 死神の生き血啜りなんてろくでもないモノ作りやがって! あいつ!」
 切り落とした腕はすぐさま再生を始める。
 一矢も、不破もそれぞれで対応するが、死神の身体の頑強さと吸血鬼の再生能力に押され気味だ。
 マクスウェルは生き血啜りとは正反対の方へ走る。ただ闇雲に走っているわけではない。
 猫たちが逃げて行った東京拘置所入口に向かってヴァルキリー軍が前進してきたのである。
「マクスウェルさん! 椿さんがいたらよろしく!」
「精々がんばれよ、小僧!」
 マクスウェルも自身が足手まといにしかならないことを理解している。
 ヴァルキリー総司令ヘルムヴィーゲに「血戦派」の内情を知らせようと突っ走った。
 その間もヴァルキリーが率いる軍は前進を続け、両者の距離は縮まりつつある。
 そして術式が発動し、拘置所周辺に結界が張られた。
「死神殺戮領域、きっど~う!」
 拘置所に開いた大穴からピンクのツインテール、深紅のワンピースで着飾ったエリザベートが高らかに宣言する。
 が、進軍する死神たちに影響が出ている様子は無い。
「なにこれ。なら『ブラッディ・バス』で死んじゃえ!」
 この術式も不発に終わった。エリザベートが足を踏み鳴らして苛立ちを表す。
「なにこれなにこれなにこれ! ふっざけんな!」
「カーニャちゃん。エリザベートちゃんちょっとこわい……」
「うるっさい! 豚!」
 怒鳴り付けられた豚のぬいぐるみがカーニャにしがみ付く。
 ヴァルキリーと彼女らが率いる死神は二度も三度も同じ手を食わない。二つの術式に関しては既に対策済みのようだった。
「先走ったな。エリザベート。もう少し多くの死神が集まってから動きたかったが……」
「頭首様~ん! だってだって、わたしのお気に入りが二人も逃げ出したのよ! お預けなんて残酷なこと言わないでちょうだい!」
 ロデリックはヴァルキリー軍を完膚なきまでに叩きのめすためにヴァルキリー軍の包囲が完成するのを待っていた。
 だがエリザベートが生き血啜りを動かしたことでヴァルキリーは包囲を敷く途中で進軍を開始したのだ。
「ハハハハハ! 馬鹿が! 地脈は既にこっちが抑えてある! あの忌々しい杭はもう封じた!」
 ヘルムヴィーゲは高笑いしながら全軍を前進させる。
 彼女は事前に術師たちに地脈の支配権を奪い取らせ、土中に染み込んだ血液が干渉できないように手配していたのだ。
 さらにロスヴァイセは補佐に回り、死神弱体化の結界「死神殺戮領域」を封じていた。
 数少ないロスヴァイセの配下とかき集めた弱い死神たちに、敵の術式の効果を一手に引き受けさせていたのだ。
 元が弱い死神たちのため、術式の効果に悶え苦しむが軍への影響は最小限に抑えられてある。
 そして椿。彼女は一矢を見つけ出すために最前線に出張っていた。
 拘置所の中央棟以外にも各棟の壁が爆破され次々と生き血啜りが落下し追加される。
 今や拘置所の敷地内を埋め尽くさんばかりに生ける屍がうごめいていた。
「圧し潰されるぞ。策はないのか」
「キッショいけど内臓の血でも浴びれば同族に見られる、はーず!」
 不破の問いに答えながら、両断した生き血啜りの上半身を、赤子をあやすように高く掲げ血を浴びるビアンカ。
「勘弁しろよ……」
 続けて一矢、不破と同じように血を浴びていく。
「俺はエリザベートを殺す。手出し無用だ」
 一矢は先行する不破を止めようとするが肉塊の群れがそれを阻止する。
「カズくんはどうするの?」
「とりあえず死神勢が来る前にこいつらを殺していくしかないだろ。混戦になったら巻き添えで死ぬかもしれない」
「それもそーだ!」
 戦斧状に大きくした血斧で生き血啜りをなぎ倒すビアンカ。
 最前線ではかつて死神だった存在と死神が交戦を始める。椿は周囲を見回しながら赤口を振るう。
 そして上空から黒い翼を広げ一矢を探す漆黒の鳥型妖魔が一人。
「全く出来の悪い後輩を持つと苦労するねー。死神縛りでハブられた恨みを見とけよー。妖魔舐めんな、おい!」