第79話 イエローシャーク
ー/ー「義勇軍では女性の比率が高かった。というか、女ばっかりで男なんてほとんどいなかった」とアリサ。「当時の適齢期の男は大半が正規軍に徴兵されていた。しかも魔女の適性は女に偏っている。そんな中にこのお調子者の色男が送り込まれてきた。イエローシャークでは、ちょっとしたお祭り騒ぎだったよ」
「武史は艦内でさんざん浮名を流して、翌年には通信技師長のマヤと結婚した」とアリサ。「その何年後かの休暇で子供ができちまって、マヤは艦を降りた。第一次防衛戦争の終結直前のことだ。娘を産んだと聞いた」
「孝子という名だ」と武史。「今は朝風の航空隊にいる。」
「ほう。ということは、リリス様の直属か。よかったな」とアリサ。「話を戻すと、マヤの妊娠中に武史が連合海軍作戦本部付きの精鋭部隊に転属になった。そのころエリナが妊娠した。残敵掃討期で忙しくて艦長が休暇を取る余裕はなかった。だからエリナは艦内で出産した。男の子だった。私たちは順番で子守をしたよ。父親がだれかなんて野暮なことは誰も聞かなかった」
「すまなかった」と武史。
アリサは無視をして続けた。
「武史は艦内でさんざん浮名を流して、翌年には通信技師長のマヤと結婚した」とアリサ。「その何年後かの休暇で子供ができちまって、マヤは艦を降りた。第一次防衛戦争の終結直前のことだ。娘を産んだと聞いた」
「孝子という名だ」と武史。「今は朝風の航空隊にいる。」
「ほう。ということは、リリス様の直属か。よかったな」とアリサ。「話を戻すと、マヤの妊娠中に武史が連合海軍作戦本部付きの精鋭部隊に転属になった。そのころエリナが妊娠した。残敵掃討期で忙しくて艦長が休暇を取る余裕はなかった。だからエリナは艦内で出産した。男の子だった。私たちは順番で子守をしたよ。父親がだれかなんて野暮なことは誰も聞かなかった」
「すまなかった」と武史。
アリサは無視をして続けた。
「その後、海軍との合同作戦があった。火星軌道の内側に入り込んだ異星生物を殲滅することが目的だった。イエローシャークは海軍巡洋艦のニューハンプシャーとハルビンと共に艦隊行動をとっていたのだが、突然味方の二隻から攻撃を受けた。その数分後に、義勇軍の緊急放送が涙の魔術師様暗殺のニュースを知らせてきた。すでに機関部に被弾していて逃げられそうになかった。白旗を上げたが海軍の攻撃は続いた。艦長のエリナは退艦命令を出した。乗組員は脱出艇で退艦を始めた。艦橋の士官は応戦を続けていたが、エリナが私たちにも脱出しろと言ってきた。命令だとさ」
アリサは一呼吸おいて、遠くを見るような眼をした。
アリサは一呼吸おいて、遠くを見るような眼をした。
「エリナは指揮官タイプの冷静沈着な女だった。乗組員たちから尊敬されていたから、あたし以外に逆らう人間はいなかった。エリナは砲雷長のあたしを無理やり艦橋から追い出して、赤ん坊を押し付けてきた。あたしは他の仲間に引きずられて脱出艇にのせられた。エリナは巧みな操艦でイエローシャークを盾にして、脱出艇の進路を確保してくれた。そしてイエローシャークはニューハンプシャーに体当たりして自爆した」
「エリナと交わした最後の会話は『ホルストをよろしく』だった。あたしたちイエローシャークの元乗組員はアステロイドベルトのいくつかの秘密基地を点々とした。どこも涙の魔術師様暗殺後に始まった魔女狩りを逃れた義勇軍の残党でいっぱいだった。変な話だが、物資は十分にあって、生活に不自由はなかった。涙の魔術師様は裏切りを事前に予想していて避難先を準備をしていたそうだ」
「あたしたちの問題はエリナから預かった子供をどうするかだった。あたしは可愛くて手放したくなかったが、地球圏にいる父親に帰すべきだという意見が強かった。異性生物の艦隊を撃破したとはいえ、あたしたちが隠れていたアステロイドベルト付近は相変わらず最前線だった。敵の偵察部隊がうようよいて、いつ襲われても不思議ではなかった。その上、海軍はあたしたちをしつこく探索していた。散発的な戦闘が続いて、ずっと危険と隣り合わせだった」
「エリナと交わした最後の会話は『ホルストをよろしく』だった。あたしたちイエローシャークの元乗組員はアステロイドベルトのいくつかの秘密基地を点々とした。どこも涙の魔術師様暗殺後に始まった魔女狩りを逃れた義勇軍の残党でいっぱいだった。変な話だが、物資は十分にあって、生活に不自由はなかった。涙の魔術師様は裏切りを事前に予想していて避難先を準備をしていたそうだ」
「あたしたちの問題はエリナから預かった子供をどうするかだった。あたしは可愛くて手放したくなかったが、地球圏にいる父親に帰すべきだという意見が強かった。異性生物の艦隊を撃破したとはいえ、あたしたちが隠れていたアステロイドベルト付近は相変わらず最前線だった。敵の偵察部隊がうようよいて、いつ襲われても不思議ではなかった。その上、海軍はあたしたちをしつこく探索していた。散発的な戦闘が続いて、ずっと危険と隣り合わせだった」
「魔女狩りがひと段落したころ、ラグランジュフォーにあるフォックス重工の工場にこっそり出向いて社長のリコ・ファレンに相談した。彼女は海軍の伝手をたどって、当時英雄扱いされていた武史に子供の引き取りを打診した。遺伝情報を含んだ血液サンプルをつけてな」
「武史から子供を引き取ると返事が来た。あたしは泣く泣く義理の息子を手放したよ。かわいい盛りだった。リコ・ファレンに引き渡した後のことは知らない」とアリサ。「あんたの母親がつけた名前はホルストだ。あんたの本当の名前はホルスト・ヴィーラントだよ」
「吾郎、すまなかったな」と武史。
吾郎はしばらく無言だった。
武史は仕事机の引き出しを開けると、青い木箱を取り出して吾郎の前でふたを開けた。中には翡翠の首飾りが入っていた。
「それはあんたの母親、エリナ・ヴィーラントの形見だよ。イエローシャークから脱出したとき、あんたの手に握らされていたものだ」とアリサ。
「うそだ!」と吾郎。
「嘘なわけあるか。その首飾りは参入儀式でエリナが涙の魔術師様から頂いたものだ。お前がそれを持って碧目の魔女エリナ・ヴィーラントの息子、ホルスト・ヴィーラントだと名乗れば涙の魔術師様が会ってくださるはずだ。冥界の女王からも何がしかの思し召しがあるはずだ」とアリサ。
しばらく沈黙が続いた。
「話はこれで終わりだ」とアリサ。
「そうか。どうもありがとう」と武史。
「義理は果たした。あたしは帰るよ」
「武史から子供を引き取ると返事が来た。あたしは泣く泣く義理の息子を手放したよ。かわいい盛りだった。リコ・ファレンに引き渡した後のことは知らない」とアリサ。「あんたの母親がつけた名前はホルストだ。あんたの本当の名前はホルスト・ヴィーラントだよ」
「吾郎、すまなかったな」と武史。
吾郎はしばらく無言だった。
武史は仕事机の引き出しを開けると、青い木箱を取り出して吾郎の前でふたを開けた。中には翡翠の首飾りが入っていた。
「それはあんたの母親、エリナ・ヴィーラントの形見だよ。イエローシャークから脱出したとき、あんたの手に握らされていたものだ」とアリサ。
「うそだ!」と吾郎。
「嘘なわけあるか。その首飾りは参入儀式でエリナが涙の魔術師様から頂いたものだ。お前がそれを持って碧目の魔女エリナ・ヴィーラントの息子、ホルスト・ヴィーラントだと名乗れば涙の魔術師様が会ってくださるはずだ。冥界の女王からも何がしかの思し召しがあるはずだ」とアリサ。
しばらく沈黙が続いた。
「話はこれで終わりだ」とアリサ。
「そうか。どうもありがとう」と武史。
「義理は果たした。あたしは帰るよ」
アリサは立ち上がった。
「山口中佐殿、第二次特別攻撃作戦ではよろしく頼む。足を引っ張るなよ」
アリサはカツカツと足音を響かせて部屋を出ていった。
アリサはカツカツと足音を響かせて部屋を出ていった。
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