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第78話 魔女アリサ

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 突然ドアが荒々しくノックされ、返事をする前にバタンと開けられた。

 背の高い女がずかずかと部屋に入ってきて、武史の前に立った。女は義勇軍の派手な紫色の制服を着て、もさもさの茶色い髪を束ねて背中に垂らしている。

 「こんな場所に私を呼び出すなんて、どういうつもりだい?」と言って女が武史をにらみつけた。

 「第二次特別攻撃作戦の前にどうしても紹介しておきたい人物がいるのだ」と武史。

 「誰だい?」と女。

 「よかったら、座ってくれないか」と武史は応接セットの椅子を手のひらで示した。

 女は武史と向かい合う椅子の近くまで歩いて行き、ブーツをはいた右足でコーヒーテーブルをドンと踏みつけた。

「馴れ合いはしない。早く話を終わらせろ」と女。

 武史は吾郎を自分の横に立たせた。

「彼は連合海軍の山口吾郎中佐で、巡洋艦比叡の艦長だ」と武史。「こちらの女性は義勇軍の高田アリサ大佐で、第二次特別攻撃隊第一随伴艦隊の指令官だ。通信艦パープルキティの艦長を兼任している」

 吾郎は驚いた顔をした。

「この若造が艦長だと。お前、ふざけているのか?」とアリサ。

「どうか山口中佐の面倒を見てやってほしい」と武史。

「あたしゃ帰るよ」とアリサは机にのせた足を下した。

「この子はエリナ・ヴィーラントの息子だ」と武史。

 アリサはじろりと吾郎の顔を見て、ドスンと椅子に座った。「あたしはあんたのことを許しちゃいないよ」

「わかっている。ただこの子に母親のことを話しておいてほしい」と武史。「それだけだ」

「簡単に言うね」とアリサ。「この子はどこまで知っているんだ?」

「私の妹の子供として育てた」と武史。「何も知らない」

「ひどい父親だね、あんたは」とアリサ。

「仕方がないだろう。私はエリナのことをよく知らない。詳しい経歴のことも最期のことも」と武史。

「そうだったな」とアリサ。「あんたの言う通り、あたしにはこの子にエリナのことを話す義理がある」

「どうか頼む」と佐々木。

 アリサはソファーにもたれて、しばらく天井を見つめていた。それから前を向いて、まじまじと吾郎の顔を見た。
「言われてみれば、エリナの面影がある」

「あれは第一次防衛戦争が始まってから三年ほど経ったころだった。矯正施設にいたあたしは、たまたま訪ねてきた涙の魔術師様の目にとまり、魔女としてスカウトされた」
 おもむろにアリサは話し始めた。
「地上の研究所で適性試験を受けて、参入儀式で冥界の女王にお目通りした。このとき魔女として認められた他の四人のうちの一人がエリナだった。エリナと私は同時に女王の配下となり、涙の魔術師様直属の魔女になった。いわば同期だ。エリナは芸術調和教育を受けたエリートのお嬢様だったが、元不良のあたしとは不思議と馬が合った」

「ほどなく私たちはラグランジュフォーの義勇軍基地に送られた」とアリサ。「エリナと私は一緒に訓練を受けて義勇軍の士官になり、同じ船に配属された。ブルーマーキュリーという小型のコルベット艦で、足は速かったがひどく居住性の悪い船だった。エリナは航海員であたしは射撃員だった。上官のアンジェラという女が性悪で、エリナとあたしはしょっちゅうケツを蹴り飛ばされた。四年後には二人とも高速巡洋艦マハルシに転属になった。高速とは名ばかりの鈍重艦で、よくガンマクラスの敵に追いかけ回されて難渋した。艦長はイラという尊大な女だった。そこでマヤという通信員の女と仲良くなって、エリナとマヤとあたしは、仕事でもプライベートでも四六時中三人で(つる)んでた」

「マハルシには五年ほど乗っていた。その後マハルシがガニメデ沖の海戦で大破して修理中だったとき、エリナとマヤとあたしの三人にまとめて転属の命令が出た」とアリサ。

「なぜ、三人一緒なのか?」と武史。

「転属後も連携を取りやすいように、できるだけまとめて移動させていたそうだ。あのころは次の日から実戦というのは、当たり前だったからな」とアリサ。「次の配属先は、新造巡洋艦イエローシャークだった。飛行甲板を持つ、航空母艦型だ。エリナが艦長になり、マヤが通信技師長で、あたしが砲雷長だった。そして、フォックス戦闘機の搭乗員としてこいつが、武史が配属されてきた」

「伯父さんは海軍所属ではなかったのですか?」と吾郎。

「そうだ。海軍中尉だったよ」と武史。「当時は海軍と義勇軍の混成部隊は珍しくなかった。そもそもフォックス戦闘機の運用は海軍の艦船では難しかったから、義勇軍のイエローシャークに配属された」




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 突然ドアが荒々しくノックされ、返事をする前にバタンと開けられた。
 背の高い女がずかずかと部屋に入ってきて、武史の前に立った。女は義勇軍の派手な紫色の制服を着て、もさもさの茶色い髪を束ねて背中に垂らしている。
 「こんな場所に私を呼び出すなんて、どういうつもりだい?」と言って女が武史をにらみつけた。
 「第二次特別攻撃作戦の前にどうしても紹介しておきたい人物がいるのだ」と武史。
 「誰だい?」と女。
 「よかったら、座ってくれないか」と武史は応接セットの椅子を手のひらで示した。
 女は武史と向かい合う椅子の近くまで歩いて行き、ブーツをはいた右足でコーヒーテーブルをドンと踏みつけた。
「馴れ合いはしない。早く話を終わらせろ」と女。
 武史は吾郎を自分の横に立たせた。
「彼は連合海軍の山口吾郎中佐で、巡洋艦比叡の艦長だ」と武史。「こちらの女性は義勇軍の高田アリサ大佐で、第二次特別攻撃隊第一随伴艦隊の指令官だ。通信艦パープルキティの艦長を兼任している」
 吾郎は驚いた顔をした。
「この若造が艦長だと。お前、ふざけているのか?」とアリサ。
「どうか山口中佐の面倒を見てやってほしい」と武史。
「あたしゃ帰るよ」とアリサは机にのせた足を下した。
「この子はエリナ・ヴィーラントの息子だ」と武史。
 アリサはじろりと吾郎の顔を見て、ドスンと椅子に座った。「あたしはあんたのことを許しちゃいないよ」
「わかっている。ただこの子に母親のことを話しておいてほしい」と武史。「それだけだ」
「簡単に言うね」とアリサ。「この子はどこまで知っているんだ?」
「私の妹の子供として育てた」と武史。「何も知らない」
「ひどい父親だね、あんたは」とアリサ。
「仕方がないだろう。私はエリナのことをよく知らない。詳しい経歴のことも最期のことも」と武史。
「そうだったな」とアリサ。「あんたの言う通り、あたしにはこの子にエリナのことを話す義理がある」
「どうか頼む」と佐々木。
 アリサはソファーにもたれて、しばらく天井を見つめていた。それから前を向いて、まじまじと吾郎の顔を見た。
「言われてみれば、エリナの面影がある」
「あれは第一次防衛戦争が始まってから三年ほど経ったころだった。矯正施設にいたあたしは、たまたま訪ねてきた涙の魔術師様の目にとまり、魔女としてスカウトされた」
 おもむろにアリサは話し始めた。
「地上の研究所で適性試験を受けて、参入儀式で冥界の女王にお目通りした。このとき魔女として認められた他の四人のうちの一人がエリナだった。エリナと私は同時に女王の配下となり、涙の魔術師様直属の魔女になった。いわば同期だ。エリナは芸術調和教育を受けたエリートのお嬢様だったが、元不良のあたしとは不思議と馬が合った」
「ほどなく私たちはラグランジュフォーの義勇軍基地に送られた」とアリサ。「エリナと私は一緒に訓練を受けて義勇軍の士官になり、同じ船に配属された。ブルーマーキュリーという小型のコルベット艦で、足は速かったがひどく居住性の悪い船だった。エリナは航海員であたしは射撃員だった。上官のアンジェラという女が性悪で、エリナとあたしはしょっちゅうケツを蹴り飛ばされた。四年後には二人とも高速巡洋艦マハルシに転属になった。高速とは名ばかりの鈍重艦で、よくガンマクラスの敵に追いかけ回されて難渋した。艦長はイラという尊大な女だった。そこでマヤという通信員の女と仲良くなって、エリナとマヤとあたしは、仕事でもプライベートでも四六時中三人で|連《つる》んでた」
「マハルシには五年ほど乗っていた。その後マハルシがガニメデ沖の海戦で大破して修理中だったとき、エリナとマヤとあたしの三人にまとめて転属の命令が出た」とアリサ。
「なぜ、三人一緒なのか?」と武史。
「転属後も連携を取りやすいように、できるだけまとめて移動させていたそうだ。あのころは次の日から実戦というのは、当たり前だったからな」とアリサ。「次の配属先は、新造巡洋艦イエローシャークだった。飛行甲板を持つ、航空母艦型だ。エリナが艦長になり、マヤが通信技師長で、あたしが砲雷長だった。そして、フォックス戦闘機の搭乗員としてこいつが、武史が配属されてきた」
「伯父さんは海軍所属ではなかったのですか?」と吾郎。
「そうだ。海軍中尉だったよ」と武史。「当時は海軍と義勇軍の混成部隊は珍しくなかった。そもそもフォックス戦闘機の運用は海軍の艦船では難しかったから、義勇軍のイエローシャークに配属された」