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出会いと別れ

ー/ー



ウンディーネは、そっと湖から出て
剣で貫かれて身動きが取れなくなっているものを見つめる
彼はそんな事では死なないが身体の動きは鈍り、力も入らなくなる
そのためか諦めたように手足を大きく広げ
凄まじいいびきをかき眠っている
あと数時間もすれば太陽が登り彼の身体は灰になるだろう

ウンディーネは興味本位だったが
気が付かれないように両手で柄を持ち
剣を引き抜く
彼女は、ヴァンパイアを助けたのだ

いびきが止みピクっと手が動く、続いて頭、足も動くようになり
剣でついた身体の傷はものの数分で
修復され、いつものように動けるようになった。
彼は身体を起こし、何がおきたのかと眠そうな目で辺りを見回し
舌なめずりをして、血の匂いを探す
血が足りない…

そんな彼を見てウンディーネは、慌てて湖に戻り
ヴァンパイアの様子を水の中から見ていた
「おい。そこの女。」
ヴァンパイアが声をかける

水から恐る恐る頭を出す。
言葉を発することは無い

「剣を抜いたことには、礼を言う。助かった。
だが、私は腹が減った。
お前には…」
スンスンと空気の匂いを嗅ぐ
「血がないようだな。
残念だ。役に立たん。消えろ。」

無礼な態度にウンディーネは、気分を害し
自分がどこかへ行けばいいのに。と心で呟いた

心の声を聞いたかのように
黙ったまま立ち去るヴァンパイアを
冷たい目で見つめ静かに見送る
(もう、戻ってこないで。乱暴な人)
心ではそう言うが、ウンディーネは
彼は必ず戻ってくると微かに感じていた


ヴァンパイアは餌を探し、匂いを頼りに
人里近くまで降りていき
先程まで剣が刺さっていたところをさする
剣の傷は完全に消えはしたが癒えてはいない
ヴァンパイアの身体を内側から蝕んでいた
刺さっていた剣は、教会で清められたものだった。


やはり、人の血がいる
だが剣で刺されたばかり
また人里に入るのには少しばかり恐怖を感じる

「この私が恐れているのか…
困ったものだな
また教会にでも行って信者を襲うか…
この時間なら再び刺されることもないだろう…」

さっと周りを確認し、距離と位置を正確に把握する
「ここからそう遠くはない、私の翼なら10分ほどか。」
彼は大きなマントを広げ、ふわりと風に乗り
鳥のように大きく羽ばたいた

夜空を優雅に浮かび
月に照らされエネルギーで満たされるのが分かる
心地良い
「やはり、私は夜の生き物なのだな」
ふふっと笑う

教会の屋根に静かに降り立ち
人間の気配を探る
「1人か。十分だな。」
ヴァンパイアにとって教会は怖くもなんともない。
神のエネルギーを溜め込んだ
ただの器にすぎず、彼にとってはなんの影響もない
階級が低いうちは、エネルギーに焼かれ
のたうち回るだろうが
そのエネルギーを少しずつ分け与えられた信者を大量に摂り階級を上げた彼には
ほかの狩場となんの変わりもない

辺りを見回し、何処から入るか。と考える
(入口…は人間に化けなければいけない
面倒だ…それなら窓だ…)
入れそうな窓を見つけ、音を立てないよう
ゆっくり慎重に風の音に合わせて窓を開ける
ほんの少しの隙間から
スルリと中へ入る
彼はマントで深く身体を覆い
闇に溶け込み
スルスルと人間に迫っていく

真後ろまで近づき、衣擦れの音を立て
人間を振り向かせる
この少しの恐怖の隙をつき
影の中に入り込む
これで人間は身動きが取れなくなる
目立たぬよう、影を操り人気の全くないところへ…森の奥へ誘う

「そろそろ良いか。」

ヴァンパイアは気付かぬうちに
ウンディーネの湖の前まで戻ってきていた。

湖から顔を出し、ウンディーネは思う
(やっぱり戻ってきた)
ヴァンパイアはウンディーネに目もくれず
餌の首筋に歯を突き立てる

溢れ出す血を一滴も無駄にするものかと
口を押し当てゆっくりと喉に流しこむ
静かに目を閉じ、全身で味わう
「これでは足りぬ。」と彼は
さらに、深く歯を差し込み
勢いよく吹き出す飛沫を全身に浴び
うっとりと高揚する

(これだ…)
自らのシャツを引き裂き、素肌にも
たっぷりと飛沫を浴びる
肌から少しずつ血が吸収され
自慰でも感じられぬほどの快楽を得た
「いい…いいぞ…俺をもっと感じさせてくれ…はぁ…力が漲ってくる…」

ヴァンパイアは血の力に絶頂し、肩で息をする
口の端を大きく上げ
尖った歯をギラつかせ笑みをこぼす
「はぁ…はぁ…はぁ…やはりいい…信者の血は格別だ…」
階級の低いヴァンパイアには1滴も口にすることはできぬ
神のエネルギーを含んだ至高の液体

恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくり頭を下げると

ウンディーネと目が合った
目に怒りを浮かべている

(私の湖が穢れた
私の身体が…人間の体液で穢れた…私の…
許せない…)

ウンディーネは湖の真ん中に立ち
くるっとその場で回ると
湖の水が金色に輝きだし、辺りに甘い優しい香りを漂わせながら波を立てる

ヴァンパイアは湖に近づきすぎていた
輝く水滴が頬に1粒触れると
彼の頬はじわりと焼け爛れた
「ぐぅ…がぁぁ」
痛みに顔を歪めその場に膝を付く

ウンディーネはヴァンパイアに近寄り
彼女は指から水滴をぽたっと垂らす

「ぐっ…」
傷を治さなければと身体に残った血を舐める
回復が中々進まない
彼女は精霊、邪悪を一切受け入れない
ヴァンパイアには何よりも恐ろしい存在だった
少し触れれば身はじわじわと焼け爛れ、血を飲んでも修復されない
彼女の力は、神の力に匹敵する

(私にとってあなたを消すことなんて簡単なことなのよ。
あまり、私の湖を穢さないで。)
声を出せないウンディーネはヴァンパイアの頭に直接語りかけ
頭から大量の水をかけようと構える

「わかった…私が悪かった…だからやめてくれ…私の美しい顔を焼かないでくれ…」

ウンディーネはにこりと微笑み
構えた手をゆるめ湖の中に姿を消した

ヴァンパイアはプライドが高い
謝罪したとはいえ、もう二度とやらないとは約束していない
私の身を傷つけたものは許さない
それが、たとえ精霊でも。
ヴァンパイアの逆恨みである


ヴァンパイアは復讐を近い
ウンディーネの湖をあの手この手で穢そうと企む

手始めに信者の血を。
彼女が嫌がることは分かっている。
1人じゃ足りないな…せっかくだからと
3人分流し込む。
ウンディーネはもちろん、怒る
(穢さないでって言ったのに。)
怒りまかせにザバッと水をかけ、前よりも
広い範囲を焼いていく
ヴァンパイアは、自分の顔が
自慢の顔が爛れていくことに怒りを覚え
どうすればウンディーネをねじ伏せられるかを
沸き立った頭で考える

一晩では思いつかず、よろよろとした足取りで森から抜け出し、村のはすれにある墓地までたどり着く
「高貴な私がこんなものを…
今の状態では背に腹はかえられぬ」
墓を掘り起こし、最近死んだ神父の遺体を棺から起こし不快感から腕に噛み付く
「苦味が強いな…死んでからたった数日でここまで不味くなるものか?腐っても神の子ということか…?」
ぶつぶつと文句を言いながらも弱った体では
生きた人間を襲うことはできず
仕方なく死んだ人間の血を吸い回復を促す
もちろん、一体では足りず
神父の近くに埋められた信者たちの遺体を
掘り起こし吸い続ける
「そろそろ良いか…」
皮膚が修復され、力が戻り始めた
完璧ではないにせよ生き血を啜るには十分だった
身体を戻すためとはいえ
何十体も餌にしたヴァンパイアの周りには屍の山

「ふむ…掘り出したはいいが、埋め直すのも面倒だ…焼くのもいいが、火があがると人間が騒いでめんどうだ…」

彼は墓地に座りこみどうしたものかと
考え込む

「そうか。」
数体の影と自身の影を結び
指をパチンと鳴らすと、死んでいたはずの信者たちが起き上がる

「いい子だ。お前たちの家族を連れてこい。」

死者たちは頷くと一斉に方々に散っていった
「さて、残りだが…」
残しておいた神父の遺体の影と自分の影を結び
また指を鳴らすと神父が起き上がる

神父の遺体は神の力に守れてはいたが
邪悪な力と合わさると抗えず
言われるがまま動き出す
「お前はこちら側にくるがいい。」
神父の首に噛みつき、自分の血を数滴流し込む
すると神父の身体はヴァイオレットの煙に包まれ
悲鳴とともに灰になる
もう、陽の光は浴びれないという証だった
「こいつは、中々だな。
まぁ、私が作り出したのだから当たり前だが。」
独り言を呟きながら、指に深い傷を付け
灰に1滴、2滴と血を垂らす。

1…2…3…4……
「ふむ。おかしいな。」
さらに3滴、4滴と血を垂らす
1…2…3…

神父だった灰はヴァイオレットの炎を纏って
立ち上がり
「ご主人さま、私を起こしてくださり感謝します。」
不気味な笑顔を絶やさずお辞儀をする
「私はこれから食事をする。私の体力が戻るまでお前は全ての遺体を埋め直せ。」
「承知いたしました。」
笑顔を絶やさず、一体一体丁寧に手際よく
墓に戻していく。
「流石は元神父だな。私が埋め直してもそこまで完璧に痕跡は消せない。」

顔を上げ、主人からの言葉に笑顔を返し
再び作業に戻る神父

「あーそうだ、3体ほどたっぷり血が詰まったのを掘り起こしてくれ。罪人と信仰心の強いものを頼む。」
人差し指を1本伸ばし、振りながら指示を出す
元神父は手を止め
「ご主人様、質問してもよろしいですか?」

「なんだ。」
面倒くさそうに答えると
「掘り起こすことは可能ですが、何にご利用で?」
「なんだ、そんなことか。それはだな…」
「私の美しい顔を焼いたウンディーネを苦しめるために使うんだ!!」
怒りの表情を浮かべ、墓場に声を響かせる
そんな主人を見ても驚きも恐れもせず
元神父は答える
「左様でございますか。でしたら、もっといいものがございます。」
「ほう。面白い。ではお前に任せるとしよう。」
元神父は軽く頭をさげ、目的の者の墓まで歩いていく
ヴァンパイアは待ってる間
自分の身体の様子を観察した

足は治った、他はまずまずといったところか
顔は…ズキズキと痛む
恐る恐る手で感触を確かめと
ツルツルとした感触、ザラついているところもある

痛みに顔を歪め、その度に痛むが確かめずにはいられない

腹の底からふつふつと再び湧き上がる怒り
私の顔!
自慢だった私の顔が!
言葉では言い表せないほどの怒り
確かめれば確かめるほど強くなる怒りに
体を震わせ、歯をむきだし
地面に拳をぶつける
力いっぱい殴られた地面は
大きく円を描くように割れ
かなり下の方まで覗ける
その音に引かれたのか慌てたように戻ってくる
死人たち
腕には生きた家族が抱えられている
ギャーギャー騒いで暴れて抵抗する家族たちだが死人の力に敵うわけもなく
ヴァンパイアに差し出される

力任せに押さえつけ首筋をむき出しにされ
鋭く尖った白金の歯を深く深く根元まで
突き刺されゆっくりゆっくりと
血を吸っていく
注射器で少しずつ血を抜かれる感覚と違い
太いストローでコップの中のジュースを
一気に飲み干されるような不快感に人間は震え
吐き気をもよおし、白目をむく
血を吸われる間、力なく声を上げるが
それもつかの間。
身体の中の血が本来とは違う流れに乗り
勢いよく外に出ていく感覚は表しようのない恐怖
次々と人間の血を飲み干し
ヴァンパイアの身体は大分修復された
だが、自慢の顔だけは痛みは引けど
醜いままだった
その事実を受け入れることができず
ウンディーネへの憎しみは増す

「もっと信仰心の強い信者はいないのか…。」
己の顔を修復するため
とにかく飲み続け、それでも顔は治らない

気づいてはいた。
相手は精霊。他が治っただけでも運がいい

腹がパンパンに膨れ
まだまだ血は並ぶけれど
「これ以上は無理だ。」と余った人間たちは
逃がされた

「さぁ、これを。」
元神父が頃合いを見て戻ってきた
元神父の前の神父
かなり年老いてはいるが、まだ干からびてはいない

「こいつは、いつ死んだ?」
「そうですねぇ、私がここに来る少し前なのでひと月経ってないんじゃないですか?」

「お前は何故死んだ?」

「教会について早々、ロイヤルブルーの瞳をした神父を名乗るものに後ろから何かされましたね。気づいたらこの姿です。」
「なるほど」


何やら考え込みながら
老神父をウンディーネの湖まで運び
「ウンディーネ!よくも私の顔を台無しにしてくれたな!」
勢いよく老神父の喉元を掻き切り
血を神聖な湖へ流し込む

(はぁ…あなたの自業自得でしょう…
こんなに…穢して…)
ウンディーネは何度も繰り返される行為に呆れ返りため息をつく

そんなことは気にもとめず
不気味な引きつった笑顔を浮かべ
ヴァンパイアは老神父の遺体ごと
湖に落とした
それでも満足せず、今度は自分の
手のひらを深く切り裂き
ヴァンパイアの邪悪な血を流し込む

ウンディーネの身体がピリピリと痛み始め
邪悪な血に怒りを覚え涙を流し
ささっと浄化する

ほとんど毎日ヴァンパイアは彼女のところへ足を運びあの手この手で仕返しをしていく。
こんな行いには次第に慣れていき、遊びを楽しむように笑いながら
水を浄化し、水飛沫をヴァンパイアに浴びせる

どれほど身体が焼けようとも、皮膚が爛れようとも彼は諦めなかった
身体の修復は間に合わず、それでも
彼女の水飛沫を浴び続けた彼の外見は
明らかに醜く、化け物と呼ばれるに相応しい姿に変わっていた
そんな彼を村人が見逃すわけもなく
彼を葬ろうと企てていた


村人の企みをヴァンパイアは
気がつくことなく足繁く通い続けていた

ヴァンパイアは、いつしか怒りを忘れ
ウンディーネとの掛け合いを楽しむようになった
元神父はヴァンパイアに忠実に付き従っていたが、主人を傷つけるウンディーネが許せず
主人の態度に納得がいかなかった
そこで、元神父はヴァンパイアが休んでいる隙に
日除けの黒いローブを被り
ウンディーネの湖まで向かった

何ともしても殺してやろうと試みた
弱点は分からない
だが、自分は元々神父だ。
なんとかなるだろうと。あれだけウンディーネの力を見ていたにも関わらず
タカをくくっていた
湖の上に手をかざし、干からびさせようと力をこめる
だが、何も起こらない

ヴァンパイアになった時点で
神聖な力はもう使えない
完全に失念していた
仕方なくそこらに生えている毒草を集め湖に沈める

これでウンディーネは死ぬはずだ

(何をしているの?)
静かに頭に響く声
元神父はその声を無視し、次に自分の血を流し込む
これで毒素は強まるが、ウンディーネには効かなかった

(あなたは弱い…)
その一言を聞いたのか聞いていないのか
元神父はその場に倒れた
遺体に戻ったのだ。

ウンディーネは、その遺体を
灰に変え、何事もなかったように湖に戻った

ヴァンパイアは元神父がいなくなっても
気にしなかったそんなことよりも
ウンディーネだ
心が弾んでいた

彼は湖を穢すことよりも
ウンディーネに会いに行くことが
目的になっていることに気が付き
今日こそはと、泥でも死人でもなく
湖を彩るだろう花を持って彼女の元へ向かう

いつもの様に、森を駆け抜けて
いつもより速く彼女の待つ湖へ向かう。
逢いたい…その気持ちが強すぎて彼は油断していた。
毎晩ウンディーネの元へ通っていたことが人間に知られ待ち伏せをされていた。

彼女の湖は、人間に取り囲まれており
ウンディーネは出てこられない
そして、人間たちはみな手に杭をもっている
逃げることも考えた。
ほとぼりが冷めるまで、身を隠すことも
今ならまだできる。
ヴァンパイアの速さに人間は付いてこられないから。

だが、彼女に会うことを諦められず立ち向かうことを決めた。
彼は持っていた花を静かに湖に浮かべ
姿が見えぬ彼女に微笑みを…

さて…と
人間に振り返ると、ヴァンパイアはニヤリと鋭い歯を見せ長く伸びた木の影に溶け込む
影から影へ移動し、人間たちの動きを操り
恐怖に陥れる

人間たちは驚きと焦りの声をあげ、
血眼になって自らの影を夢中で突き刺し、抵抗する
だが、影になったヴァンパイアは実体がなく
刺したところでかすり傷1つ負うことはない。

背後からゆっくり、静かに忍び寄り
一気に首元へ齧り付く

まず、1人…
口元を拭いながらまた影に溶け込み
木の上へ

上から見下ろすとどこを狙えば弱いか
一目瞭然

ふわっと風に乗り、間合いを詰め
腹を突き破る
自分の腹から突き出した腕に
力なく触れ、ヴァンパイアが腕を引き抜くと
同時に地面に倒れ込む

「ふむ…」
腕に付いた血を舐め、辺りを見渡す
「さすがに多いか?」
腕を組み、余裕を見せつけながら
考え込む

よくよく観察していると
神父が1人、奥の方で隠れて指示を出している
「面倒だな…神父の血は飲むと数日胃が痛む
触れても痛いし、十字架なんて向けられたら眠くなる
全く神の力を与えられたものは厄介だ
だが、見るからに臆病だな
あいつは最後でいいだろう」

神父を凝視している間に数人が動いた
ヴァンパイアは目の端に集団を捕え
背後に回りこみ
鋭い爪で首元を掻き切っていく

「もろいな…
そろそろ腹も満たされた
これ以上は必要ないが…もったいない」
1人の遺体を拾い上げ
思い切り息を吐き出し、切り裂いた首元を
一呼吸で吸い上げる
彼の瞳がロイヤルグリーンからロイヤルレッドに変わる

「はははははははは!!
どうやら少し位の高い信者だったようだ
力が漲ってくる…
笑いが止まらない
はぁ…この血は浴びたかった…」
絶頂しないよう気を保ち
残りの遺体からも血を吸いあげる

「あ"ぁ"ぁ"!!」
顔が勝手に笑う
そろそろ終わりにしようか

グッと足に力を入れ
今なら神父も難なくいただけるだろう
勢いよく飛び出した
神父へ一直線に向かっていく

違和感を覚えたのは
神父まであと数歩というところ
ニヤッと嫌らしい笑みを浮かべ
大きな十字架を影から取り出した時だった

気が付くと彼の腹には
十字架の根元が刺さっていた

あまりにも速く走ったせいで
痛みは感じなかった

驚いたまま神父に目をやると
木の隙間から差し込んだ月明かりで
奴の眼がロイヤルブルーに輝いた

自分より上位のヴァンパイアだった
神父に化けているとは考えても見なかったぞ

耳元で
「教会に難なく侵入するから
どれほどのやつかと思ったが
大したことはないな…
精霊なんぞに絆されおって
雑魚が…」

信者たちが神父にかけより
喜びの声をあげる

「では、みなさん帰りましょう
そのヴァンパイアは直、死ぬでしょう」
とニッコリと笑い、森から去っていく

奴らが去るのを確かめ、ウンディーネは
ゆっくりと湖から顔を出す
彼女の目に飛び込んできたのは
ヴァンパイアが串刺しになり息絶えそうな姿だった

(そんな!!)
ウンディーネは慌てて湖から飛び出し
彼の元へ流れ寄る
彼の腹を貫いた大きな十字架を抜くことはできない
引き抜いたら、血や臓物が溢れ出し
すぐに死んでしまうだろう
皮肉なことに彼の命を留めているのは
十字架なのだ

(ねぇ、なんで逃げなかったの)
ヴァンパイアの頭に語りかける

「お前に会いたくて……
どうやら私はお前を好いていたようだ」
ヴァンパイアは血を吐きながら応える

「私の命はもう尽きるだろう
奴らの手でなど我慢ならん…
どうかお前の手で終わらせてはくれないか?」

ウンディーネは光を零す
(ばかね……逃げてからまた会いに来てくれたら
よかったのに……)

彼女は彼に静かにキスをして
ゆっくりと彼の身体を包み込む
ヴァンパイアは微笑み、息絶えた
ウンディーネに包まれた彼の身体は溶けて
跡形もなく消えた



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凄まじいいびきをかき眠っている
あと数時間もすれば太陽が登り彼の身体は灰になるだろう
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気が付かれないように両手で柄を持ち
剣を引き抜く
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いびきが止みピクっと手が動く、続いて頭、足も動くようになり
剣でついた身体の傷はものの数分で
修復され、いつものように動けるようになった。
彼は身体を起こし、何がおきたのかと眠そうな目で辺りを見回し
舌なめずりをして、血の匂いを探す
血が足りない…
そんな彼を見てウンディーネは、慌てて湖に戻り
ヴァンパイアの様子を水の中から見ていた
「おい。そこの女。」
ヴァンパイアが声をかける
水から恐る恐る頭を出す。
言葉を発することは無い
「剣を抜いたことには、礼を言う。助かった。
だが、私は腹が減った。
お前には…」
スンスンと空気の匂いを嗅ぐ
「血がないようだな。
残念だ。役に立たん。消えろ。」
無礼な態度にウンディーネは、気分を害し
自分がどこかへ行けばいいのに。と心で呟いた
心の声を聞いたかのように
黙ったまま立ち去るヴァンパイアを
冷たい目で見つめ静かに見送る
(もう、戻ってこないで。乱暴な人)
心ではそう言うが、ウンディーネは
彼は必ず戻ってくると微かに感じていた
ヴァンパイアは餌を探し、匂いを頼りに
人里近くまで降りていき
先程まで剣が刺さっていたところをさする
剣の傷は完全に消えはしたが癒えてはいない
ヴァンパイアの身体を内側から蝕んでいた
刺さっていた剣は、教会で清められたものだった。
やはり、人の血がいる
だが剣で刺されたばかり
また人里に入るのには少しばかり恐怖を感じる
「この私が恐れているのか…
困ったものだな
また教会にでも行って信者を襲うか…
この時間なら再び刺されることもないだろう…」
さっと周りを確認し、距離と位置を正確に把握する
「ここからそう遠くはない、私の翼なら10分ほどか。」
彼は大きなマントを広げ、ふわりと風に乗り
鳥のように大きく羽ばたいた
夜空を優雅に浮かび
月に照らされエネルギーで満たされるのが分かる
心地良い
「やはり、私は夜の生き物なのだな」
ふふっと笑う
教会の屋根に静かに降り立ち
人間の気配を探る
「1人か。十分だな。」
ヴァンパイアにとって教会は怖くもなんともない。
神のエネルギーを溜め込んだ
ただの器にすぎず、彼にとってはなんの影響もない
階級が低いうちは、エネルギーに焼かれ
のたうち回るだろうが
そのエネルギーを少しずつ分け与えられた信者を大量に摂り階級を上げた彼には
ほかの狩場となんの変わりもない
辺りを見回し、何処から入るか。と考える
(入口…は人間に化けなければいけない
面倒だ…それなら窓だ…)
入れそうな窓を見つけ、音を立てないよう
ゆっくり慎重に風の音に合わせて窓を開ける
ほんの少しの隙間から
スルリと中へ入る
彼はマントで深く身体を覆い
闇に溶け込み
スルスルと人間に迫っていく
真後ろまで近づき、衣擦れの音を立て
人間を振り向かせる
この少しの恐怖の隙をつき
影の中に入り込む
これで人間は身動きが取れなくなる
目立たぬよう、影を操り人気の全くないところへ…森の奥へ誘う
「そろそろ良いか。」
ヴァンパイアは気付かぬうちに
ウンディーネの湖の前まで戻ってきていた。
湖から顔を出し、ウンディーネは思う
(やっぱり戻ってきた)
ヴァンパイアはウンディーネに目もくれず
餌の首筋に歯を突き立てる
溢れ出す血を一滴も無駄にするものかと
口を押し当てゆっくりと喉に流しこむ
静かに目を閉じ、全身で味わう
「これでは足りぬ。」と彼は
さらに、深く歯を差し込み
勢いよく吹き出す飛沫を全身に浴び
うっとりと高揚する
(これだ…)
自らのシャツを引き裂き、素肌にも
たっぷりと飛沫を浴びる
肌から少しずつ血が吸収され
自慰でも感じられぬほどの快楽を得た
「いい…いいぞ…俺をもっと感じさせてくれ…はぁ…力が漲ってくる…」
ヴァンパイアは血の力に絶頂し、肩で息をする
口の端を大きく上げ
尖った歯をギラつかせ笑みをこぼす
「はぁ…はぁ…はぁ…やはりいい…信者の血は格別だ…」
階級の低いヴァンパイアには1滴も口にすることはできぬ
神のエネルギーを含んだ至高の液体
恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくり頭を下げると
ウンディーネと目が合った
目に怒りを浮かべている
(私の湖が穢れた
私の身体が…人間の体液で穢れた…私の…
許せない…)
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湖の水が金色に輝きだし、辺りに甘い優しい香りを漂わせながら波を立てる
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輝く水滴が頬に1粒触れると
彼の頬はじわりと焼け爛れた
「ぐぅ…がぁぁ」
痛みに顔を歪めその場に膝を付く
ウンディーネはヴァンパイアに近寄り
彼女は指から水滴をぽたっと垂らす
「ぐっ…」
傷を治さなければと身体に残った血を舐める
回復が中々進まない
彼女は精霊、邪悪を一切受け入れない
ヴァンパイアには何よりも恐ろしい存在だった
少し触れれば身はじわじわと焼け爛れ、血を飲んでも修復されない
彼女の力は、神の力に匹敵する
(私にとってあなたを消すことなんて簡単なことなのよ。
あまり、私の湖を穢さないで。)
声を出せないウンディーネはヴァンパイアの頭に直接語りかけ
頭から大量の水をかけようと構える
「わかった…私が悪かった…だからやめてくれ…私の美しい顔を焼かないでくれ…」
ウンディーネはにこりと微笑み
構えた手をゆるめ湖の中に姿を消した
ヴァンパイアはプライドが高い
謝罪したとはいえ、もう二度とやらないとは約束していない
私の身を傷つけたものは許さない
それが、たとえ精霊でも。
ヴァンパイアの逆恨みである
ヴァンパイアは復讐を近い
ウンディーネの湖をあの手この手で穢そうと企む
手始めに信者の血を。
彼女が嫌がることは分かっている。
1人じゃ足りないな…せっかくだからと
3人分流し込む。
ウンディーネはもちろん、怒る
(穢さないでって言ったのに。)
怒りまかせにザバッと水をかけ、前よりも
広い範囲を焼いていく
ヴァンパイアは、自分の顔が
自慢の顔が爛れていくことに怒りを覚え
どうすればウンディーネをねじ伏せられるかを
沸き立った頭で考える
一晩では思いつかず、よろよろとした足取りで森から抜け出し、村のはすれにある墓地までたどり着く
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今の状態では背に腹はかえられぬ」
墓を掘り起こし、最近死んだ神父の遺体を棺から起こし不快感から腕に噛み付く
「苦味が強いな…死んでからたった数日でここまで不味くなるものか?腐っても神の子ということか…?」
ぶつぶつと文句を言いながらも弱った体では
生きた人間を襲うことはできず
仕方なく死んだ人間の血を吸い回復を促す
もちろん、一体では足りず
神父の近くに埋められた信者たちの遺体を
掘り起こし吸い続ける
「そろそろ良いか…」
皮膚が修復され、力が戻り始めた
完璧ではないにせよ生き血を啜るには十分だった
身体を戻すためとはいえ
何十体も餌にしたヴァンパイアの周りには屍の山
「ふむ…掘り出したはいいが、埋め直すのも面倒だ…焼くのもいいが、火があがると人間が騒いでめんどうだ…」
彼は墓地に座りこみどうしたものかと
考え込む
「そうか。」
数体の影と自身の影を結び
指をパチンと鳴らすと、死んでいたはずの信者たちが起き上がる
「いい子だ。お前たちの家族を連れてこい。」
死者たちは頷くと一斉に方々に散っていった
「さて、残りだが…」
残しておいた神父の遺体の影と自分の影を結び
また指を鳴らすと神父が起き上がる
神父の遺体は神の力に守れてはいたが
邪悪な力と合わさると抗えず
言われるがまま動き出す
「お前はこちら側にくるがいい。」
神父の首に噛みつき、自分の血を数滴流し込む
すると神父の身体はヴァイオレットの煙に包まれ
悲鳴とともに灰になる
もう、陽の光は浴びれないという証だった
「こいつは、中々だな。
まぁ、私が作り出したのだから当たり前だが。」
独り言を呟きながら、指に深い傷を付け
灰に1滴、2滴と血を垂らす。
1…2…3…4……
「ふむ。おかしいな。」
さらに3滴、4滴と血を垂らす
1…2…3…
神父だった灰はヴァイオレットの炎を纏って
立ち上がり
「ご主人さま、私を起こしてくださり感謝します。」
不気味な笑顔を絶やさずお辞儀をする
「私はこれから食事をする。私の体力が戻るまでお前は全ての遺体を埋め直せ。」
「承知いたしました。」
笑顔を絶やさず、一体一体丁寧に手際よく
墓に戻していく。
「流石は元神父だな。私が埋め直してもそこまで完璧に痕跡は消せない。」
顔を上げ、主人からの言葉に笑顔を返し
再び作業に戻る神父
「あーそうだ、3体ほどたっぷり血が詰まったのを掘り起こしてくれ。罪人と信仰心の強いものを頼む。」
人差し指を1本伸ばし、振りながら指示を出す
元神父は手を止め
「ご主人様、質問してもよろしいですか?」
「なんだ。」
面倒くさそうに答えると
「掘り起こすことは可能ですが、何にご利用で?」
「なんだ、そんなことか。それはだな…」
「私の美しい顔を焼いたウンディーネを苦しめるために使うんだ!!」
怒りの表情を浮かべ、墓場に声を響かせる
そんな主人を見ても驚きも恐れもせず
元神父は答える
「左様でございますか。でしたら、もっといいものがございます。」
「ほう。面白い。ではお前に任せるとしよう。」
元神父は軽く頭をさげ、目的の者の墓まで歩いていく
ヴァンパイアは待ってる間
自分の身体の様子を観察した
足は治った、他はまずまずといったところか
顔は…ズキズキと痛む
恐る恐る手で感触を確かめと
ツルツルとした感触、ザラついているところもある
痛みに顔を歪め、その度に痛むが確かめずにはいられない
腹の底からふつふつと再び湧き上がる怒り
私の顔!
自慢だった私の顔が!
言葉では言い表せないほどの怒り
確かめれば確かめるほど強くなる怒りに
体を震わせ、歯をむきだし
地面に拳をぶつける
力いっぱい殴られた地面は
大きく円を描くように割れ
かなり下の方まで覗ける
その音に引かれたのか慌てたように戻ってくる
死人たち
腕には生きた家族が抱えられている
ギャーギャー騒いで暴れて抵抗する家族たちだが死人の力に敵うわけもなく
ヴァンパイアに差し出される
力任せに押さえつけ首筋をむき出しにされ
鋭く尖った白金の歯を深く深く根元まで
突き刺されゆっくりゆっくりと
血を吸っていく
注射器で少しずつ血を抜かれる感覚と違い
太いストローでコップの中のジュースを
一気に飲み干されるような不快感に人間は震え
吐き気をもよおし、白目をむく
血を吸われる間、力なく声を上げるが
それもつかの間。
身体の中の血が本来とは違う流れに乗り
勢いよく外に出ていく感覚は表しようのない恐怖
次々と人間の血を飲み干し
ヴァンパイアの身体は大分修復された
だが、自慢の顔だけは痛みは引けど
醜いままだった
その事実を受け入れることができず
ウンディーネへの憎しみは増す
「もっと信仰心の強い信者はいないのか…。」
己の顔を修復するため
とにかく飲み続け、それでも顔は治らない
気づいてはいた。
相手は精霊。他が治っただけでも運がいい
腹がパンパンに膨れ
まだまだ血は並ぶけれど
「これ以上は無理だ。」と余った人間たちは
逃がされた
「さぁ、これを。」
元神父が頃合いを見て戻ってきた
元神父の前の神父
かなり年老いてはいるが、まだ干からびてはいない
「こいつは、いつ死んだ?」
「そうですねぇ、私がここに来る少し前なのでひと月経ってないんじゃないですか?」
「お前は何故死んだ?」
「教会について早々、ロイヤルブルーの瞳をした神父を名乗るものに後ろから何かされましたね。気づいたらこの姿です。」
「なるほど」
何やら考え込みながら
老神父をウンディーネの湖まで運び
「ウンディーネ!よくも私の顔を台無しにしてくれたな!」
勢いよく老神父の喉元を掻き切り
血を神聖な湖へ流し込む
(はぁ…あなたの自業自得でしょう…
こんなに…穢して…)
ウンディーネは何度も繰り返される行為に呆れ返りため息をつく
そんなことは気にもとめず
不気味な引きつった笑顔を浮かべ
ヴァンパイアは老神父の遺体ごと
湖に落とした
それでも満足せず、今度は自分の
手のひらを深く切り裂き
ヴァンパイアの邪悪な血を流し込む
ウンディーネの身体がピリピリと痛み始め
邪悪な血に怒りを覚え涙を流し
ささっと浄化する
ほとんど毎日ヴァンパイアは彼女のところへ足を運びあの手この手で仕返しをしていく。
こんな行いには次第に慣れていき、遊びを楽しむように笑いながら
水を浄化し、水飛沫をヴァンパイアに浴びせる
どれほど身体が焼けようとも、皮膚が爛れようとも彼は諦めなかった
身体の修復は間に合わず、それでも
彼女の水飛沫を浴び続けた彼の外見は
明らかに醜く、化け物と呼ばれるに相応しい姿に変わっていた
そんな彼を村人が見逃すわけもなく
彼を葬ろうと企てていた
村人の企みをヴァンパイアは
気がつくことなく足繁く通い続けていた
ヴァンパイアは、いつしか怒りを忘れ
ウンディーネとの掛け合いを楽しむようになった
元神父はヴァンパイアに忠実に付き従っていたが、主人を傷つけるウンディーネが許せず
主人の態度に納得がいかなかった
そこで、元神父はヴァンパイアが休んでいる隙に
日除けの黒いローブを被り
ウンディーネの湖まで向かった
何ともしても殺してやろうと試みた
弱点は分からない
だが、自分は元々神父だ。
なんとかなるだろうと。あれだけウンディーネの力を見ていたにも関わらず
タカをくくっていた
湖の上に手をかざし、干からびさせようと力をこめる
だが、何も起こらない
ヴァンパイアになった時点で
神聖な力はもう使えない
完全に失念していた
仕方なくそこらに生えている毒草を集め湖に沈める
これでウンディーネは死ぬはずだ
(何をしているの?)
静かに頭に響く声
元神父はその声を無視し、次に自分の血を流し込む
これで毒素は強まるが、ウンディーネには効かなかった
(あなたは弱い…)
その一言を聞いたのか聞いていないのか
元神父はその場に倒れた
遺体に戻ったのだ。
ウンディーネは、その遺体を
灰に変え、何事もなかったように湖に戻った
ヴァンパイアは元神父がいなくなっても
気にしなかったそんなことよりも
ウンディーネだ
心が弾んでいた
彼は湖を穢すことよりも
ウンディーネに会いに行くことが
目的になっていることに気が付き
今日こそはと、泥でも死人でもなく
湖を彩るだろう花を持って彼女の元へ向かう
いつもの様に、森を駆け抜けて
いつもより速く彼女の待つ湖へ向かう。
逢いたい…その気持ちが強すぎて彼は油断していた。
毎晩ウンディーネの元へ通っていたことが人間に知られ待ち伏せをされていた。
彼女の湖は、人間に取り囲まれており
ウンディーネは出てこられない
そして、人間たちはみな手に杭をもっている
逃げることも考えた。
ほとぼりが冷めるまで、身を隠すことも
今ならまだできる。
ヴァンパイアの速さに人間は付いてこられないから。
だが、彼女に会うことを諦められず立ち向かうことを決めた。
彼は持っていた花を静かに湖に浮かべ
姿が見えぬ彼女に微笑みを…
さて…と
人間に振り返ると、ヴァンパイアはニヤリと鋭い歯を見せ長く伸びた木の影に溶け込む
影から影へ移動し、人間たちの動きを操り
恐怖に陥れる
人間たちは驚きと焦りの声をあげ、
血眼になって自らの影を夢中で突き刺し、抵抗する
だが、影になったヴァンパイアは実体がなく
刺したところでかすり傷1つ負うことはない。
背後からゆっくり、静かに忍び寄り
一気に首元へ齧り付く
まず、1人…
口元を拭いながらまた影に溶け込み
木の上へ
上から見下ろすとどこを狙えば弱いか
一目瞭然
ふわっと風に乗り、間合いを詰め
腹を突き破る
自分の腹から突き出した腕に
力なく触れ、ヴァンパイアが腕を引き抜くと
同時に地面に倒れ込む
「ふむ…」
腕に付いた血を舐め、辺りを見渡す
「さすがに多いか?」
腕を組み、余裕を見せつけながら
考え込む
よくよく観察していると
神父が1人、奥の方で隠れて指示を出している
「面倒だな…神父の血は飲むと数日胃が痛む
触れても痛いし、十字架なんて向けられたら眠くなる
全く神の力を与えられたものは厄介だ
だが、見るからに臆病だな
あいつは最後でいいだろう」
神父を凝視している間に数人が動いた
ヴァンパイアは目の端に集団を捕え
背後に回りこみ
鋭い爪で首元を掻き切っていく
「もろいな…
そろそろ腹も満たされた
これ以上は必要ないが…もったいない」
1人の遺体を拾い上げ
思い切り息を吐き出し、切り裂いた首元を
一呼吸で吸い上げる
彼の瞳がロイヤルグリーンからロイヤルレッドに変わる
「はははははははは!!
どうやら少し位の高い信者だったようだ
力が漲ってくる…
笑いが止まらない
はぁ…この血は浴びたかった…」
絶頂しないよう気を保ち
残りの遺体からも血を吸いあげる
「あ"ぁ"ぁ"!!」
顔が勝手に笑う
そろそろ終わりにしようか
グッと足に力を入れ
今なら神父も難なくいただけるだろう
勢いよく飛び出した
神父へ一直線に向かっていく
違和感を覚えたのは
神父まであと数歩というところ
ニヤッと嫌らしい笑みを浮かべ
大きな十字架を影から取り出した時だった
気が付くと彼の腹には
十字架の根元が刺さっていた
あまりにも速く走ったせいで
痛みは感じなかった
驚いたまま神父に目をやると
木の隙間から差し込んだ月明かりで
奴の眼がロイヤルブルーに輝いた
自分より上位のヴァンパイアだった
神父に化けているとは考えても見なかったぞ
耳元で
「教会に難なく侵入するから
どれほどのやつかと思ったが
大したことはないな…
精霊なんぞに絆されおって
雑魚が…」
信者たちが神父にかけより
喜びの声をあげる
「では、みなさん帰りましょう
そのヴァンパイアは直、死ぬでしょう」
とニッコリと笑い、森から去っていく
奴らが去るのを確かめ、ウンディーネは
ゆっくりと湖から顔を出す
彼女の目に飛び込んできたのは
ヴァンパイアが串刺しになり息絶えそうな姿だった
(そんな!!)
ウンディーネは慌てて湖から飛び出し
彼の元へ流れ寄る
彼の腹を貫いた大きな十字架を抜くことはできない
引き抜いたら、血や臓物が溢れ出し
すぐに死んでしまうだろう
皮肉なことに彼の命を留めているのは
十字架なのだ
(ねぇ、なんで逃げなかったの)
ヴァンパイアの頭に語りかける
「お前に会いたくて……
どうやら私はお前を好いていたようだ」
ヴァンパイアは血を吐きながら応える
「私の命はもう尽きるだろう
奴らの手でなど我慢ならん…
どうかお前の手で終わらせてはくれないか?」
ウンディーネは光を零す
(ばかね……逃げてからまた会いに来てくれたら
よかったのに……)
彼女は彼に静かにキスをして
ゆっくりと彼の身体を包み込む
ヴァンパイアは微笑み、息絶えた
ウンディーネに包まれた彼の身体は溶けて
跡形もなく消えた