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第77話 ゲート通信

ー/ー



 佐々木武史と山口吾郎は応接セットの椅子に向かい合って座った。

「お前は第二次特別攻撃作戦について、どのように聞いている?」と武史。

「特別攻撃艦『翆鶴(すいかく)』で敵の母星のある惑星系へ行き、恒星に突入し、超新星爆発を起こして惑星系ごと敵を殲滅する作戦です」と吾郎。

「そうだ。それでは、どのように敵の惑星系に行くか知っているか?」と武史。

「はい。火星の衛星フォボスの沖にあるゲートからです」と吾郎。

「だが今は閉じられている」と武史。

「エネルギーを与えると再び開くと聞いています」と吾郎。

「そうだ、ゲートを開くことは技術的に難しく、しかも膨大なエネルギーが必要になる。そして開いている時間は短い。だが、閉じたゲートにエネルギーを加えると比較的簡単に開くことが分かった」と武史。「この方法で、二年前に敵が太陽系侵入に使ったフォボス沖のゲートを開くのだ」

「われわれの最近の技術的な進歩ですね」と吾郎。

「われわれというか、フォックス重工が続けてきた長年の研究の成果だがな」と武史。

「それは知っています」と言って吾郎は不満そうな顔をした。

「それで、お前は義勇軍の通信艦、パープルキティについてどのように聞いている?」と武史。

「義勇軍が運用する通信用の船と聞いていますが」と吾郎。

「なぜ翆鶴(すいかく)に随伴するか知っているか?」と武史。

「ええ、地球側と通信するためだと」と吾郎。

「三百万光年離れた三角座銀河にある敵の恒星系から地球とどのように通信するのか知っているか?」と武史。

「いいえ」と吾郎。「軍令部ではそんな話は誰もしていませんでした」

「やはりか」
 武史は残念そうな顔をした。

「フォックス重工は開戦以来、半世紀以上にわたって、ゲート生成技術の研究を続けている」と武史。「最近それが実用化されつつあるのだ」

「それはすごいことですね」と吾郎。

「そうだな」と武史。「今の段階では、開けるゲートのサイズが小さいうえに短時間しか維持できない。しかし、この小型ゲートを介して通信できることが分かった。今回の作戦では、この技術で三角座宙域に進攻する攻撃隊との通信が行われる」

「その通信機が、パープルキティに積まれているということですか」と吾郎。

「そうだ」と武史。「彼らはゲート通信機と呼んでいる」

「巡洋艦『比叡』の任務はその通信機を積んだパープルキティの護衛ですね」と吾郎。

「軍令部でそう聞いたのか?」と武史。

「ええ、そうです」と吾郎。

「実は、比叡による護衛の件は義勇軍から一度断られているのだ」と武史。

「なぜですか?」と吾郎。

「必要ないからだ」と武史。

「どういう意味でしょうか」と吾郎。

「パープルキティは通信艦という艦種だが、十分な武装を積んでいる」と武史。「比叡より強力なくらいだ」

「ではなぜ、作戦に比叡が随伴するのでしょうか?」と吾郎。

「今回の第二次特別攻撃作戦は、この戦争の趨勢を決定づける重要な作戦になるはずだ」と武史。「その作戦に連合海軍が参加しないなんて悲しいことだろう」

「そうですね」と吾郎。「しかし断られてまで参加しなくてもよいのではないでしょうか?」

「この第三次防衛戦争がひと段落したら、混乱した軍組織の統廃合が予定されている。連合海軍の有用性を示さねば、わが海軍は義勇軍に吸収されるだろう」と武史。「これまでの戦争で連合海軍は多大な犠牲を払って幾多の任務を果たしてきた。その歴史ある連合海軍が名前も残さずに消えてしまったら、死んでいった戦友たちに合わせる顔がない」

「そんなことはあり得ません。義勇軍が連合海軍に吸収されるべきです。そもそも義勇軍は正規の軍隊組織ではありません」と吾郎。

「そうはいっても、彼らは十分な技術力と人材を持っている」と武史。

「それは、第二次防衛戦争に参加しなかったからでしょう。第一次戦争で反逆罪を犯した彼らは、第二次戦争の間ずっとこそこそと隠れていたのですから。今さら出てきて大きな顔をするなんて卑怯ですよ」と吾郎。

「お前は最近発表された『瑠璃子白書』の第一部を読んでいないのか?」と武史。

「報道でおおよその内容は知っていますが、読んでいません」と吾郎。「あんなものはでたらめだとみんな言っていますよ」

「みんなとは誰だ?」と武史。

「海軍軍令部や部隊勤務の士官仲間ですよ」と吾郎。

「あの『瑠璃子白書』に書かれていることはすべて真実だ」と武史。

「冗談でしょう? 神様とか生まれ変わりとか冥界とか、おとぎ話の内容ですよ」と吾郎。

「だが、お前は魔女がいることを認めている」と武史。

「魔女は元義勇軍の反逆者たちの蔑称です」と吾郎。

「お前は魔女の血をひいている。適性検査を受けたのだろう?」と武史。

「フォックス社の武器体系との相性を調べただけですよ!」と吾郎。

「その結果を見たのだろう?」と武史。

「適正有でした」と吾郎。

「お前は魔女だよ」と武史。

「ふざけないでください!」
 吾郎は怒鳴った。

「ふざけてなどいない」と武史。「それにお前は第二次防衛戦争末期の奇跡の防衛戦で、ドラゴン級戦闘艦の放つ虹色の光を見たのだろう? 魔女であることは明白だよ」

 吾郎は立ち上がった。「ぼくはこれで失礼します」

「まあ待て、まだ話は終わっていない」と武史。

「もう話したくはありません」と吾郎。

「大切な話だ」と武史。

 吾郎は部屋を出ていこうとした。

「お前の本当の両親に関することだ」と武史。

 吾郎は立ち止った。しばらく武史と吾郎はじっと睨みあった。



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 佐々木武史と山口吾郎は応接セットの椅子に向かい合って座った。
「お前は第二次特別攻撃作戦について、どのように聞いている?」と武史。
「特別攻撃艦『|翆鶴《すいかく》』で敵の母星のある惑星系へ行き、恒星に突入し、超新星爆発を起こして惑星系ごと敵を殲滅する作戦です」と吾郎。
「そうだ。それでは、どのように敵の惑星系に行くか知っているか?」と武史。
「はい。火星の衛星フォボスの沖にあるゲートからです」と吾郎。
「だが今は閉じられている」と武史。
「エネルギーを与えると再び開くと聞いています」と吾郎。
「そうだ、ゲートを開くことは技術的に難しく、しかも膨大なエネルギーが必要になる。そして開いている時間は短い。だが、閉じたゲートにエネルギーを加えると比較的簡単に開くことが分かった」と武史。「この方法で、二年前に敵が太陽系侵入に使ったフォボス沖のゲートを開くのだ」
「われわれの最近の技術的な進歩ですね」と吾郎。
「われわれというか、フォックス重工が続けてきた長年の研究の成果だがな」と武史。
「それは知っています」と言って吾郎は不満そうな顔をした。
「それで、お前は義勇軍の通信艦、パープルキティについてどのように聞いている?」と武史。
「義勇軍が運用する通信用の船と聞いていますが」と吾郎。
「なぜ|翆鶴《すいかく》に随伴するか知っているか?」と武史。
「ええ、地球側と通信するためだと」と吾郎。
「三百万光年離れた三角座銀河にある敵の恒星系から地球とどのように通信するのか知っているか?」と武史。
「いいえ」と吾郎。「軍令部ではそんな話は誰もしていませんでした」
「やはりか」
 武史は残念そうな顔をした。
「フォックス重工は開戦以来、半世紀以上にわたって、ゲート生成技術の研究を続けている」と武史。「最近それが実用化されつつあるのだ」
「それはすごいことですね」と吾郎。
「そうだな」と武史。「今の段階では、開けるゲートのサイズが小さいうえに短時間しか維持できない。しかし、この小型ゲートを介して通信できることが分かった。今回の作戦では、この技術で三角座宙域に進攻する攻撃隊との通信が行われる」
「その通信機が、パープルキティに積まれているということですか」と吾郎。
「そうだ」と武史。「彼らはゲート通信機と呼んでいる」
「巡洋艦『比叡』の任務はその通信機を積んだパープルキティの護衛ですね」と吾郎。
「軍令部でそう聞いたのか?」と武史。
「ええ、そうです」と吾郎。
「実は、比叡による護衛の件は義勇軍から一度断られているのだ」と武史。
「なぜですか?」と吾郎。
「必要ないからだ」と武史。
「どういう意味でしょうか」と吾郎。
「パープルキティは通信艦という艦種だが、十分な武装を積んでいる」と武史。「比叡より強力なくらいだ」
「ではなぜ、作戦に比叡が随伴するのでしょうか?」と吾郎。
「今回の第二次特別攻撃作戦は、この戦争の趨勢を決定づける重要な作戦になるはずだ」と武史。「その作戦に連合海軍が参加しないなんて悲しいことだろう」
「そうですね」と吾郎。「しかし断られてまで参加しなくてもよいのではないでしょうか?」
「この第三次防衛戦争がひと段落したら、混乱した軍組織の統廃合が予定されている。連合海軍の有用性を示さねば、わが海軍は義勇軍に吸収されるだろう」と武史。「これまでの戦争で連合海軍は多大な犠牲を払って幾多の任務を果たしてきた。その歴史ある連合海軍が名前も残さずに消えてしまったら、死んでいった戦友たちに合わせる顔がない」
「そんなことはあり得ません。義勇軍が連合海軍に吸収されるべきです。そもそも義勇軍は正規の軍隊組織ではありません」と吾郎。
「そうはいっても、彼らは十分な技術力と人材を持っている」と武史。
「それは、第二次防衛戦争に参加しなかったからでしょう。第一次戦争で反逆罪を犯した彼らは、第二次戦争の間ずっとこそこそと隠れていたのですから。今さら出てきて大きな顔をするなんて卑怯ですよ」と吾郎。
「お前は最近発表された『瑠璃子白書』の第一部を読んでいないのか?」と武史。
「報道でおおよその内容は知っていますが、読んでいません」と吾郎。「あんなものはでたらめだとみんな言っていますよ」
「みんなとは誰だ?」と武史。
「海軍軍令部や部隊勤務の士官仲間ですよ」と吾郎。
「あの『瑠璃子白書』に書かれていることはすべて真実だ」と武史。
「冗談でしょう? 神様とか生まれ変わりとか冥界とか、おとぎ話の内容ですよ」と吾郎。
「だが、お前は魔女がいることを認めている」と武史。
「魔女は元義勇軍の反逆者たちの蔑称です」と吾郎。
「お前は魔女の血をひいている。適性検査を受けたのだろう?」と武史。
「フォックス社の武器体系との相性を調べただけですよ!」と吾郎。
「その結果を見たのだろう?」と武史。
「適正有でした」と吾郎。
「お前は魔女だよ」と武史。
「ふざけないでください!」
 吾郎は怒鳴った。
「ふざけてなどいない」と武史。「それにお前は第二次防衛戦争末期の奇跡の防衛戦で、ドラゴン級戦闘艦の放つ虹色の光を見たのだろう? 魔女であることは明白だよ」
 吾郎は立ち上がった。「ぼくはこれで失礼します」
「まあ待て、まだ話は終わっていない」と武史。
「もう話したくはありません」と吾郎。
「大切な話だ」と武史。
 吾郎は部屋を出ていこうとした。
「お前の本当の両親に関することだ」と武史。
 吾郎は立ち止った。しばらく武史と吾郎はじっと睨みあった。