親父の告白
ー/ー
「お前さぁ……本当は俺の子じゃないって言ったら、どうする?」
妹二人が寝静まった後、テレビを見ながら夕食をつまんでいる親父が、不意にそんなことを言い出した。母さんはコンビニでアイス買ってくるといって出た切り、まだ戻らない。
「なんだよ、急に。そういう冗談やめろよな」
お前は川から流れてきたんだ、とか冗談交じりに言われたことはあったが、今の親父は視線こそテレビに向けられているものの、とてもふざけているような声色じゃない。それに、今気付いたが、今日の親父は珍しく飲酒していなかった。
「なんだ? 俺の子じゃないと、嫌か?」
「いやいや、血繋がってない方がありがたいぜ。だって、ハゲって遺伝するんだろ?」
なんて、親父の顔を見ていた視線をちらと上げる。
「おいおい、冗談言うなよ。俺はまだハゲてないだろ」
「まだってことは、これからハゲる予定はある、と」
「まあ、冗談はさておいてさ、お前が高校生になったら話そうと思ってたんだ。いや、本当はもっと先にしようかとも思ったんだけど」
さっきまで悪戯小僧のような笑みを浮かべていた親父は、いつになく真剣な顔つきで、テレビを消した。俺もその雰囲気に呑まれて、ついついソファの上に正座してしまう。
「静夜、お前は養子なんだ。俺と母さんから生まれた子じゃない。ずっと言えなくて、悪かった」
そう言って、俺に頭を下げる親父。
これは何のドッキリだ? 母さんの帰りもやけに遅い気がするし、どこかで待機してるんじゃないだろうか。それならもう充分騙されたから、さっさとネタばらししてほしい。
「それ、どれくらいマジな話?」
「本気も本気だ。なんなら戸籍謄本を見せてもいい」
ずっと頭を下げたままの親父の様子を見る限り、冗談と言うわけではないようだ。
俺が、養子……。その可能性を考えたことなんて、一度もなかった。だってそうだろう。普通はそんなこと、考えもしない。そんなこと、漫画やドラマの中の話だと思っていた。それがまさか、自分の身に起ころうとは。
「頭を上げてくれよ、親父。血の繋がりがあるかどうかって話だろ? 今まで育ててくれたのは変わらないじゃんか」
「そう言ってくれると、救われた気がするよ。俺も母さんも、ずっとお前のことは本当の息子だと思って育ててきたつもりだ。でも、お前に本物じゃないと思わせていないか、気が気でなかったのもたしかだった」
「そんなの、どれが本物かなんてわかんねぇって。だって、俺は親父と母さん以外に育ててもらった覚えはないんだから」
「それもそうだよな。考えすぎってのはわかってる。ありがとう」
なんだ、この辛気臭い雰囲気は。
怒る時だって、真剣に𠮟りつけてくれた。レジャー施設だって、それなりに連れてってもらった。俺が高校に受かった時だって、母さんが俺の好きな夕飯を作ってくれた。それは間違いなく、本物だったはずだ。だから、こんな雰囲気はふさわしくない。
「話してくれてありがとうな、親父。でも、大丈夫だ。親父は親父だし、母さんは母さんだ。それは、これからも変わらない」
「ありがとう……ありがとうな。後で母さんにも言ってやってくれよ」
「ええ……ヤだよ、恥ずかしい。親父から言えよ」
そこでふと、あることが気になって、親父に尋ねてみる。
「そうだ、あいつらは、親父と母さんの子なのか? 血が繋がってるって意味で」
「星羅と観月か。ああ、あの二人はそうだ。血ぃ繋がってないからって、いやらしいこと考えんなよ?」
「考えねぇよ。二人は知ってんのか? このこと」
「いや、まだ言ってない。言うならお前から伝えてくれ。お前のタイミングでな」
自分から言い出しづらくて俺に投げてるだけのような気もするが、まあいいだろう。あの二人の反応を拝むことができるなら、それくらい安いものだ。
やがて、母さんが買い物から帰ってきたが、買ってきたのは人数分のアイスが一つずつ。きっと気を遣って、席を外してくれたんだろう。
母さんにも一言 感謝を述べて、俺はそそくさと布団に入った。
卒業式の晩に言われたのは何か図ったような感じがあるが、それでも、知ったことに後悔はない。話してくれてよかったと思っている。
それを知ったって、俺たちは家族。今までと何ら変わりはないんだから。
そう、思っていた――。
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「お前さぁ……本当は俺の子じゃないって言ったら、どうする?」
妹二人が寝静まった後、テレビを見ながら夕食をつまんでいる親父が、不意にそんなことを言い出した。母さんはコンビニでアイス買ってくるといって出た切り、まだ戻らない。
「なんだよ、急に。そういう冗談やめろよな」
お前は川から流れてきたんだ、とか冗談交じりに言われたことはあったが、今の親父は視線こそテレビに向けられているものの、とてもふざけているような声色じゃない。それに、今気付いたが、今日の親父は珍しく飲酒していなかった。
「なんだ? 俺の子じゃないと、嫌か?」
「いやいや、血繋がってない方がありがたいぜ。だって、ハゲって遺伝するんだろ?」
なんて、親父の顔を見ていた視線をちらと上げる。
「おいおい、冗談言うなよ。俺はまだハゲてないだろ」
「まだってことは、これからハゲる予定はある、と」
「まあ、冗談はさておいてさ、お前が高校生になったら話そうと思ってたんだ。いや、本当はもっと先にしようかとも思ったんだけど」
さっきまで悪戯小僧のような笑みを浮かべていた親父は、いつになく真剣な顔つきで、テレビを消した。俺もその雰囲気に呑まれて、ついついソファの上に正座してしまう。
「|静夜《しずや》、お前は養子なんだ。俺と母さんから生まれた子じゃない。ずっと言えなくて、悪かった」
そう言って、俺に頭を下げる親父。
これは何のドッキリだ? 母さんの帰りもやけに遅い気がするし、どこかで待機してるんじゃないだろうか。それならもう充分騙されたから、さっさとネタばらししてほしい。
「それ、どれくらいマジな話?」
「本気も本気だ。なんなら戸籍謄本を見せてもいい」
ずっと頭を下げたままの親父の様子を見る限り、冗談と言うわけではないようだ。
俺が、養子……。その可能性を考えたことなんて、一度もなかった。だってそうだろう。普通はそんなこと、考えもしない。そんなこと、漫画やドラマの中の話だと思っていた。それがまさか、自分の身に起ころうとは。
「頭を上げてくれよ、親父。血の繋がりがあるかどうかって話だろ? 今まで育ててくれたのは変わらないじゃんか」
「そう言ってくれると、救われた気がするよ。俺も母さんも、ずっとお前のことは本当の息子だと思って育ててきたつもりだ。でも、お前に本物じゃないと思わせていないか、気が気でなかったのもたしかだった」
「そんなの、どれが本物かなんてわかんねぇって。だって、俺は親父と母さん以外に育ててもらった覚えはないんだから」
「それもそうだよな。考えすぎってのはわかってる。ありがとう」
なんだ、この辛気臭い雰囲気は。
怒る時だって、真剣に𠮟りつけてくれた。レジャー施設だって、それなりに連れてってもらった。俺が高校に受かった時だって、母さんが俺の好きな夕飯を作ってくれた。それは間違いなく、本物だったはずだ。だから、こんな雰囲気はふさわしくない。
「話してくれてありがとうな、親父。でも、大丈夫だ。親父は親父だし、母さんは母さんだ。それは、これからも変わらない」
「ありがとう……ありがとうな。後で母さんにも言ってやってくれよ」
「ええ……ヤだよ、恥ずかしい。親父から言えよ」
そこでふと、あることが気になって、親父に尋ねてみる。
「そうだ、あいつらは、親父と母さんの子なのか? 血が繋がってるって意味で」
「|星羅《せいら》と|観月《みづき》か。ああ、あの二人はそうだ。血ぃ繋がってないからって、いやらしいこと考えんなよ?」
「考えねぇよ。二人は知ってんのか? このこと」
「いや、まだ言ってない。言うならお前から伝えてくれ。お前のタイミングでな」
自分から言い出しづらくて俺に投げてるだけのような気もするが、まあいいだろう。あの二人の反応を拝むことができるなら、それくらい安いものだ。
やがて、母さんが買い物から帰ってきたが、買ってきたのは人数分のアイスが一つずつ。きっと気を遣って、席を外してくれたんだろう。
母さんにも一言 感謝を述べて、俺はそそくさと布団に入った。
卒業式の晩に言われたのは何か図ったような感じがあるが、それでも、知ったことに後悔はない。話してくれてよかったと思っている。
それを知ったって、俺たちは家族。今までと何ら変わりはないんだから。
そう、思っていた――。