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痛えなこら

ー/ー



 あるシーフが大臣の悪事を暴くべく、彼の屋敷へ潜入しようとしていた。



 夜の帳が降りた大臣の屋敷。闇の中に浮かび上がる豪奢な建物は、シーフがこれまで潜り込んだどの屋敷よりも堅牢に見えた。

 警備兵たちが敷地内を巡回し、低く緊張感のある声で指示を交わしている。背後に光を背負った彼らの姿は、獣のように鋭敏に見える。



 ——ササッ



 シーフは壁際に体を寄せ、物陰から警備の動きを観察した。見張りの間隔、巡回のルート、そして盲点になり得る場所——すべてを把握するのは、この屋敷に潜入する最初の鍵だ。



「ふむ……隙間は……この時間帯なら北側の庭園だな。」



 屋敷の構造を頭に叩き込んだ地図を頼りに、北庭への侵入を決意する。

 だが、その時。



 ——カシャッ!



 不意に背後から物音が響いた。振り返ると、そこには警備兵の一人が立っていた。

「誰だ!?そこにいるのは!」



 シーフの心臓が一瞬跳ね上がる。が、すぐに冷静を取り戻す。

「……これだからアマチュアは困る。」



 彼は軽く地面を蹴り、一瞬で警備兵の懐へ飛び込んだ。そして、音もなくその意識を刈り取る。

「さて、これで静かになったな。」



 夜の静寂を裂くように、シーフの手刀が正確に警備兵の首元を捉えた。



 ——ガクン



 警備兵の体は崩れ落ち、その場に沈む。



「ふん、他愛もない。」



 シーフは眉一つ動かさず、次の警備兵に向かう。同じ手刀を繰り返し、次々と見張りを無力化していった。



 だが、廊下の向こうから現れたのは、警備兵とは明らかに違う存在だった。



 金髪の貴族風の女——



「……残業か?」



 エリシアの姿を見たシーフは心の中でつぶやいた。だが、相手が誰であろうと、このミッションでは目撃者を作るわけにはいかない。

 彼は音もなく背後へ忍び寄り、躊躇なく首元へ手刀を繰り出した。



 ——ドンッ!



「いってぇ!」



 想定外の声が響いた。シーフが振り向いた先で、エリシアが手刀を受けた首元を押さえ、苦々しい表情で詰め寄ってくる。



「おいコラァ!何してますの!?いやぁ〜いってぇ〜なー!」



 完全に想定外だ。シーフは一瞬硬直する。



「こっちは何もしてませんのに……まじ首の骨折れましたわ!どうしてくれるんですの!?治療費、治療費がまじでやばいですわよ!」



 エリシアは痛がりながらも、シーフにグイグイと詰め寄る。その勢いに圧倒され、シーフは思わず数歩後退した。




 結局、シーフはエリシアに摘み出された。



 その後、彼はもう一度任務に臨んだ



 シーフは廊下の暗がりで息を整えた。

 先ほどの失敗が頭をよぎる。手刀で無力化するという原始的な手段は、相手によっては通用しない。それを思い知らされた彼は、今回は新たな道具を用意していた。



 ——スタンガン。



「これなら間違いない。」



 彼は自信を取り戻し、再び任務に臨む。

 廊下に現れた警備兵にそっと近づき、電極を押し当てた。



 ——バチィ!



 電流が流れ、警備兵は一瞬で崩れ落ちた。



「やっぱ文明の利器だよな。」



 シーフは満足げに呟く。これなら力も技術も必要ない。ただの電気だ。

 彼は次々と警備兵にスタンガンを当て、順調に無力化していった。



 だが、運命の再会は避けられなかった。



 廊下の向こうから、金髪の貴族風の女——エリシアが現れたのだ。彼女はいつものように堂々と歩き、こちらを警戒する様子はない。



(今度こそ!)



 シーフは心の中で叫びながら、背後からエリシアに忍び寄った。そして、迷いなくスタンガンを押し当てる。



 ——バチィ!



 確かな感触。しかし——



「イッテェ!」



 振り返ったエリシアは、電極が押し当てられた首を押さえながら、鬼の形相でシーフを鷲掴みにした。



「あぁ〜イッテェですわね!おいコラァ!またお前ですの!?何回目ですの!?ぶち殺しますわよ!」



 シーフは言葉を失った。エリシアは首を傾けながら続ける。



「あぁ〜電気で……これ、首の骨が折れましたわね!あぁ〜これもう治療費がまじやばいですわよ〜!」



 激昂するエリシアに腕を締め上げられながら、シーフは改めて彼女の異常な耐久力に恐怖した。



(電気も効かないのかよ……)



 闇夜に包まれた大臣の屋敷。
 再び、シーフは敷地内に潜入していた。



 前回、手刀では無力化に失敗し、スタンガンでもエリシアを止められなかった。だが、今回は違う。



 ——吹き矢だ。



 シーフはニヤリと笑みを浮かべた。眠り薬を塗りたくったこの吹き矢は、ゾウですら丸一日眠らせる威力があるらしい。これなら、あの怪物のような女も……。



「ふふふ……今度こそ。」



 シーフは慎重に屋敷を進む。



 ——フッ



 音もなく矢が放たれ、警備兵の首元に命中。



 ——プスッ。



 警備兵は音もなくその場に崩れ落ちた。



「よし……これなら問題ない。」



 自信を取り戻したシーフは、次々と警備兵を無力化していく。物陰から一撃で仕留めるたびに、彼の心は軽くなった。



 だが、運命の再会は避けられなかった。



 廊下に現れた金髪の女、エリシア。堂々とした歩き方、背筋の伸びた姿勢……どう見てもこちらの存在には気付いていないようだ。



(今度こそ決める……)



 シーフは物陰に身を潜め、息を潜める。そして——



 ——フッ!



 吹き矢が放たれた。矢は正確にエリシアの背中へ命中!



(やった……!)



 だが——



「キエエエえぇえええええぇえ〜!」



 突如、奇声を発しながらエリシアが猛スピードで振り返った!



「な、なんだ!?効いてないのか!?」



 エリシアは背中から吹き矢を抜き取ると、それをポイッと投げ捨て、こちらへ一直線に突進してくる!



「いってええですわね!何回目ですの!ぶっ殺すぞ!あぁ〜痛えな〜!背中に棘が刺さって、これもう首の骨が折れましたわね!これ治療費がまじでやばいですわよ!キエエエェええええ〜!」



 信じられない速度で迫りくるエリシア。まるで猛獣のごとき迫力。



「うわあああああ!」



 シーフは全力で逃げたが、行き止まりの廊下で追い詰められた。



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 あるシーフが大臣の悪事を暴くべく、彼の屋敷へ潜入しようとしていた。
 夜の帳が降りた大臣の屋敷。闇の中に浮かび上がる豪奢な建物は、シーフがこれまで潜り込んだどの屋敷よりも堅牢に見えた。
 警備兵たちが敷地内を巡回し、低く緊張感のある声で指示を交わしている。背後に光を背負った彼らの姿は、獣のように鋭敏に見える。
 ——ササッ
 シーフは壁際に体を寄せ、物陰から警備の動きを観察した。見張りの間隔、巡回のルート、そして盲点になり得る場所——すべてを把握するのは、この屋敷に潜入する最初の鍵だ。
「ふむ……隙間は……この時間帯なら北側の庭園だな。」
 屋敷の構造を頭に叩き込んだ地図を頼りに、北庭への侵入を決意する。
 だが、その時。
 ——カシャッ!
 不意に背後から物音が響いた。振り返ると、そこには警備兵の一人が立っていた。
「誰だ!?そこにいるのは!」
 シーフの心臓が一瞬跳ね上がる。が、すぐに冷静を取り戻す。
「……これだからアマチュアは困る。」
 彼は軽く地面を蹴り、一瞬で警備兵の懐へ飛び込んだ。そして、音もなくその意識を刈り取る。
「さて、これで静かになったな。」
 夜の静寂を裂くように、シーフの手刀が正確に警備兵の首元を捉えた。
 ——ガクン
 警備兵の体は崩れ落ち、その場に沈む。
「ふん、他愛もない。」
 シーフは眉一つ動かさず、次の警備兵に向かう。同じ手刀を繰り返し、次々と見張りを無力化していった。
 だが、廊下の向こうから現れたのは、警備兵とは明らかに違う存在だった。
 金髪の貴族風の女——
「……残業か?」
 エリシアの姿を見たシーフは心の中でつぶやいた。だが、相手が誰であろうと、このミッションでは目撃者を作るわけにはいかない。
 彼は音もなく背後へ忍び寄り、躊躇なく首元へ手刀を繰り出した。
 ——ドンッ!
「いってぇ!」
 想定外の声が響いた。シーフが振り向いた先で、エリシアが手刀を受けた首元を押さえ、苦々しい表情で詰め寄ってくる。
「おいコラァ!何してますの!?いやぁ〜いってぇ〜なー!」
 完全に想定外だ。シーフは一瞬硬直する。
「こっちは何もしてませんのに……まじ首の骨折れましたわ!どうしてくれるんですの!?治療費、治療費がまじでやばいですわよ!」
 エリシアは痛がりながらも、シーフにグイグイと詰め寄る。その勢いに圧倒され、シーフは思わず数歩後退した。
 結局、シーフはエリシアに摘み出された。
 その後、彼はもう一度任務に臨んだ
 シーフは廊下の暗がりで息を整えた。
 先ほどの失敗が頭をよぎる。手刀で無力化するという原始的な手段は、相手によっては通用しない。それを思い知らされた彼は、今回は新たな道具を用意していた。
 ——スタンガン。
「これなら間違いない。」
 彼は自信を取り戻し、再び任務に臨む。
 廊下に現れた警備兵にそっと近づき、電極を押し当てた。
 ——バチィ!
 電流が流れ、警備兵は一瞬で崩れ落ちた。
「やっぱ文明の利器だよな。」
 シーフは満足げに呟く。これなら力も技術も必要ない。ただの電気だ。
 彼は次々と警備兵にスタンガンを当て、順調に無力化していった。
 だが、運命の再会は避けられなかった。
 廊下の向こうから、金髪の貴族風の女——エリシアが現れたのだ。彼女はいつものように堂々と歩き、こちらを警戒する様子はない。
(今度こそ!)
 シーフは心の中で叫びながら、背後からエリシアに忍び寄った。そして、迷いなくスタンガンを押し当てる。
 ——バチィ!
 確かな感触。しかし——
「イッテェ!」
 振り返ったエリシアは、電極が押し当てられた首を押さえながら、鬼の形相でシーフを鷲掴みにした。
「あぁ〜イッテェですわね!おいコラァ!またお前ですの!?何回目ですの!?ぶち殺しますわよ!」
 シーフは言葉を失った。エリシアは首を傾けながら続ける。
「あぁ〜電気で……これ、首の骨が折れましたわね!あぁ〜これもう治療費がまじやばいですわよ〜!」
 激昂するエリシアに腕を締め上げられながら、シーフは改めて彼女の異常な耐久力に恐怖した。
(電気も効かないのかよ……)
 闇夜に包まれた大臣の屋敷。
 再び、シーフは敷地内に潜入していた。
 前回、手刀では無力化に失敗し、スタンガンでもエリシアを止められなかった。だが、今回は違う。
 ——吹き矢だ。
 シーフはニヤリと笑みを浮かべた。眠り薬を塗りたくったこの吹き矢は、ゾウですら丸一日眠らせる威力があるらしい。これなら、あの怪物のような女も……。
「ふふふ……今度こそ。」
 シーフは慎重に屋敷を進む。
 ——フッ
 音もなく矢が放たれ、警備兵の首元に命中。
 ——プスッ。
 警備兵は音もなくその場に崩れ落ちた。
「よし……これなら問題ない。」
 自信を取り戻したシーフは、次々と警備兵を無力化していく。物陰から一撃で仕留めるたびに、彼の心は軽くなった。
 だが、運命の再会は避けられなかった。
 廊下に現れた金髪の女、エリシア。堂々とした歩き方、背筋の伸びた姿勢……どう見てもこちらの存在には気付いていないようだ。
(今度こそ決める……)
 シーフは物陰に身を潜め、息を潜める。そして——
 ——フッ!
 吹き矢が放たれた。矢は正確にエリシアの背中へ命中!
(やった……!)
 だが——
「キエエエえぇえええええぇえ〜!」
 突如、奇声を発しながらエリシアが猛スピードで振り返った!
「な、なんだ!?効いてないのか!?」
 エリシアは背中から吹き矢を抜き取ると、それをポイッと投げ捨て、こちらへ一直線に突進してくる!
「いってええですわね!何回目ですの!ぶっ殺すぞ!あぁ〜痛えな〜!背中に棘が刺さって、これもう首の骨が折れましたわね!これ治療費がまじでやばいですわよ!キエエエェええええ〜!」
 信じられない速度で迫りくるエリシア。まるで猛獣のごとき迫力。
「うわあああああ!」
 シーフは全力で逃げたが、行き止まりの廊下で追い詰められた。