2.なにこれ?
ー/ー
昨日、枝を動かす練習を始めた。……暴発して悲惨なことになったけど。
練習を始めたのはいい、何事も挑戦は大事だからな。だが――
――動かし方が分からない。
これはかなり重大な問題だ。
考えてみろ。全身が木で、手足の感覚はおろか、どこが関節なのかも分からない。言うなれば、利き手を使わずに寒天を箸で掴むようなもの。そんな状態でどう動かせと?
『……成果なしか。ピクリとも動かんな』
『おや、枝を動かすことが出来なかったのですかい?』
しわがれた爺さんボイスが俺の頭に響く。
先に言っとくが、今のは俺の声ではない。スキル『森羅共鳴』による植物対話だ。『森羅共鳴』は草木や花、ログさんから聞いた話だと、植物系モンスターとも話せるらしいから、常時発動中にしてるんだけど……。
『あ、ああ。そうだな、全然動かない』
『そうですか。お茶の子さいさいだと思いましたが……依然として、我々と同じくらいということですな』
少し、いや、かなりうざったらしい。
そんなんじゃないと植物をやってられないんだろう。聞いた話だと、草花なんて常日頃から動物に踏まれ、食われてるわけだし。木だとしても伐採とか子供に枝折られたりで鬱憤がよく溜まるらしいし。
だからこのうざったらしい言い方は必然なのであって、いたずらに俺を怒らせようとしていないと思いたい。
『それで爺さんは何しに?』
この爺さんが話しかけてくるのは、必ず何かしらあったときだ。
前回は木が口論になったから、前々回はリスがずっと花に乗っているとかのしょうもない問題だったが……。
『ああそうでした、森の住人――我々と対話できる精人族がお供え物を持ってきているそうです。何やらエルフは長年の風習で、地元の森に敬意の念を表してお供えものをするそうで――』
お供え物か、変なものを押し付けられてなければいいが……。
◆◆◆◆◆◆
ちなみに、木の物の運び方は動物に頼んで運んでもらうってのが普通だ。無論、お供え物も森にいるリスや熊に頼んで、お供え物っぽそうなものを持ってこさせている。
『鑑定』スキルもあるらしいので、運んでくれる動物たちを鑑定してみたら、[飛翔栗鼠]とか[巨大な大熊]、[猛進猪豚]や[筋肉鼯鼠]という感じの種族表記だった。
多様性を感じられる種族表記だと思えたな。
図鑑でも作ってみようかな、めちゃくちゃ面白そうだし。
動物だけじゃなくて魔物や武器、アイテムや技体系とかも作りたいな。
……本音を言うと。
動物にも表記あるのかよまとめるの面倒くさいな。
マッチョムササビってなんなんだよ、筋肉の重さで飛べないだろ。
動物項目が一番難しい。リスが飛ぶんだぜ? あと大熊がジャイアントってどういうことだよ。
――というところだ。
そんな気持ちを抑え、鑑定結果を脳内メモしている間、爺さんは動物に持ってこさせたらそそくさと別の場所に行ってしまった。見送りつつ、お供え物を確認してみる。
『こ、これが……?』
持ってきてもらった〝それ〟は、なんというか……『ドス黒い木の棒』のようなものと……『謎の赤い宝石』だった。
『え、は……!? これなに?』
なにこれ?
眼の前にあるのは、ドス黒い木の棒? いや習字とかで使う固形の墨?
いや棒なのか? 炭にも見えなくはないし……呪具?
――それと、赤い宝石らしきもの。
いや血? 滲んでるの? いや、血が固まってるのかも……。
『……なんか不吉。怖……』
《排泄物ではありませんよ》
誰もそんなこと言ってねぇよ!! ……てか本当になんなの? これ、呪われてないよな?
ようわからんし供え物見たところで何も起こらない。
というわけで、情報量が多い見た目の整理をする。
まず、ドス黒い木の棒……いや辛うじて木の棒に見えるやつは、なんか漆黒のモヤみたいなのがモワモワ出てる。触っただけで呪いがかかりそうな物体だ。
次に、赤い宝石は一見するとルビーみたいなキレイな赤い宝石なんだけども、ところどころ透明な部分があるし、多分もとは水晶だったんだと思う。水晶が血でも被ったのかは知らんが、両方とも近寄りがたいオーラを放っていた。
――よし、困ったときは鑑定スキルだな。
『鑑定!』
[鑑定結果:失敗]
……は? まじで?
枝練習してた間に暇つぶしとしてやっても、なにかしている最中でやっても、色んな動植物や自分にやっても、必ず何かしらの情報はわかっていたのに…………!
『どうしよう、鑑定ですら何も情報が得られないとは……』
なんかあるか……? スキルとか使わずにこれらの情報を得る方法……。
『あ、ログさんおるやん!』
ログさんも検索能力があるんじゃないか? もしなかったとしても、今は危機的状況じゃないから特に損もないし。
『ログさん!』
《どうかしましたか?》
『この二物、正体暴ける?』
俺こういうのすっげぇモヤモヤする性質なんだ。助けて。
《……恐らく。試してみます》
『頼む!!』
《――Now Loading――》
よし、ログさんが頑張ってくれてる間、枝動かしの練習でもするか――やっとちょっと動くほど進歩したんだ。あとはソレを自由自在にするだけで……。
練習に取り掛かろうとしたところに、ログさんの報告が入る。
《報告。これは通常の魔力構造ではありません。高位の物体と断定。なお、本物体は“神樹”にのみ反応しています。データ照合を開始します――》
え? そんなヤバいもんなの? ていうか神樹……?
でもそんな状況でも俺ができるのは枝動かし練習のみ……。
これから一週間、俺が見たものの大半は木の枝であった……誰かコツ教えてください。動きはするんですが、なんか変な方向行っちゃうんです。
――ボンッ!!!
ちなみに、枝が暴発して明後日の方向に行っちゃうことで、森の動物たちがビビりにビビりまくってるのは知る由もない話であった――ごめんね?
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昨日、枝を動かす練習を始めた。……暴発して悲惨なことになったけど。
練習を始めたのはいい、何事も挑戦は大事だからな。だが――
――動かし方が分からない。
これはかなり重大な問題だ。
考えてみろ。全身が木で、手足の感覚はおろか、どこが関節なのかも分からない。言うなれば、利き手を使わずに寒天を箸で掴むようなもの。そんな状態でどう動かせと?
『……成果なしか。ピクリとも動かんな』
『おや、枝を動かすことが出来なかったのですかい?』
しわがれた爺さんボイスが俺の頭に響く。
先に言っとくが、今のは俺の声ではない。スキル『森羅共鳴』による植物対話だ。『森羅共鳴』は草木や花、ログさんから聞いた話だと、植物系モンスターとも話せるらしいから、常時発動中にしてるんだけど……。
『あ、ああ。そうだな、全然動かない』
『そうですか。お茶の子さいさいだと思いましたが……|依然《いぜん》として、我々と同じくらいということですな』
少し、いや、かなりうざったらしい。
そんなんじゃないと植物をやってられないんだろう。聞いた話だと、草花なんて常日頃から動物に踏まれ、食われてるわけだし。木だとしても伐採とか子供に枝折られたりで|鬱憤《うっぷん》がよく溜まるらしいし。
だからこのうざったらしい言い方は必然なのであって、いたずらに俺を怒らせようとしていないと思いたい。
『それで爺さんは何しに?』
この爺さんが話しかけてくるのは、必ず何かしらあったときだ。
前回は木が口論になったから、前々回はリスがずっと花に乗っているとかのしょうもない問題だったが……。
『ああそうでした、森の住人――我々と対話できる|精人族《エルフ》がお供え物を持ってきているそうです。何やらエルフは長年の風習で、地元の森に敬意の念を表してお供えものをするそうで――』
お供え物か、変なものを押し付けられてなければいいが……。
◆◆◆◆◆◆
ちなみに、木の物の運び方は動物に頼んで運んでもらうってのが普通だ。無論、お供え物も森にいるリスや熊に頼んで、お供え物っぽそうなものを持ってこさせている。
『鑑定』スキルもあるらしいので、運んでくれる動物たちを鑑定してみたら、[|飛翔栗鼠《フライリス》]とか[|巨大な大熊《ジャイアントグリズリー》]、[|猛進猪豚《ターボボア》]や[|筋肉鼯鼠《マッチョムササビ》]という感じの種族表記だった。
多様性を感じられる種族表記だと思えたな。
図鑑でも作ってみようかな、めちゃくちゃ面白そうだし。
動物だけじゃなくて魔物や武器、アイテムや技体系とかも作りたいな。
……本音を言うと。
動物にも表記あるのかよまとめるの面倒くさいな。
マッチョムササビってなんなんだよ、筋肉の重さで飛べないだろ。
動物項目が一番難しい。リスが飛ぶんだぜ? あと大熊がジャイアントってどういうことだよ。
――というところだ。
そんな気持ちを抑え、鑑定結果を脳内メモしている間、爺さんは動物に持ってこさせたらそそくさと別の場所に行ってしまった。見送りつつ、お供え物を確認してみる。
『こ、これが……?』
持ってきてもらった〝それ〟は、なんというか……『ドス黒い木の棒』のようなものと……『謎の赤い宝石』だった。
『え、は……!? これなに?』
なにこれ?
眼の前にあるのは、ドス黒い木の棒? いや習字とかで使う固形の墨?
いや棒なのか? 炭にも見えなくはないし……呪具?
――それと、赤い宝石らしきもの。
いや血? |滲《にじ》んでるの? いや、血が固まってるのかも……。
『……なんか不吉。怖……』
《排泄物ではありませんよ》
誰もそんなこと言ってねぇよ!! ……てか本当になんなの? これ、呪われてないよな?
ようわからんし供え物見たところで何も起こらない。
というわけで、情報量が多い見た目の整理をする。
まず、ドス黒い木の棒……いや辛うじて木の棒に見えるやつは、なんか漆黒のモヤみたいなのがモワモワ出てる。触っただけで呪いがかかりそうな物体だ。
次に、赤い宝石は一見するとルビーみたいなキレイな赤い宝石なんだけども、ところどころ透明な部分があるし、多分もとは水晶だったんだと思う。水晶が血でも被ったのかは知らんが、両方とも近寄りがたいオーラを放っていた。
――よし、困ったときは鑑定スキルだな。
『鑑定!』
[鑑定結果:失敗]
……は? まじで?
枝練習してた間に暇つぶしとしてやっても、なにかしている最中でやっても、色んな動植物や自分にやっても、必ず何かしらの情報はわかっていたのに…………!
『どうしよう、鑑定ですら何も情報が得られないとは……』
なんかあるか……? スキルとか使わずにこれらの情報を得る方法……。
『あ、ログさんおるやん!』
ログさんも検索能力があるんじゃないか? もしなかったとしても、今は危機的状況じゃないから特に損もないし。
『ログさん!』
《どうかしましたか?》
『この二物、正体暴ける?』
俺こういうのすっげぇモヤモヤする|性質《タチ》なんだ。助けて。
《……恐らく。試してみます》
『頼む!!』
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よし、ログさんが頑張ってくれてる間、枝動かしの練習でもするか――やっとちょっと動くほど進歩したんだ。あとはソレを自由自在にするだけで……。
練習に取り掛かろうとしたところに、ログさんの報告が入る。
《|報告《レポート》。これは通常の魔力構造ではありません。高位の物体と断定。なお、本物体は“神樹”にのみ反応しています。データ照合を開始します――》
え? そんなヤバいもんなの? ていうか神樹……?
でもそんな状況でも俺ができるのは枝動かし練習のみ……。
これから一週間、俺が見たものの大半は木の枝であった……誰かコツ教えてください。動きはするんですが、なんか変な方向行っちゃうんです。
――ボンッ!!!
ちなみに、枝が暴発して明後日の方向に行っちゃうことで、森の動物たちがビビりにビビりまくってるのは知る|由《よし》もない話であった――ごめんね?