ドアノブを回せば、そこは異彩。
ー/ー ー*ー*ー*ー
朝摘みの 森の吐息を 飲み干して
胸に芽吹いた 見知らぬ季節
ー*ー*ー*ー
目的はトイレと、冷蔵庫のお茶。だが、一歩踏み出した足裏が感じたのは、自宅のくたびれたフローリングではなく、鏡面仕上げの冷たいタイルだった。
「いらっしゃいまほーい」
気の抜けた挨拶に顔を上げると、そこはいつもの廊下ではなく、暴力的なまでの白光に満ちたコンビニエンスストアだった。
といっても、棚に並んでいるのはお馴染みの鮭おにぎりではない。
「……またか」
この部屋に越して三ヶ月。
週に一度、ドアの向こう側が気まぐれにこの店へ繋がることがある。戻るには一度入店し、自動ドアから出ればいい。
寝ぼけ眼のまま、俺は飲料コーナーへ向かった。喉が猛烈に乾いている。
「微炭酸・重力水」と書かれた青いボトルを手に取る。ラベルには「浮遊感をお楽しみください」という不穏な注意書き。
その隣には、中身が虹色に明滅している「液体概念:郷愁」という謎の瓶が並んでいる。
流石に朝から概念を飲む勇気はない。俺は無難そうな、エメラルドグリーンの缶を手に取った。
商品名は「森の吐息(朝摘み)」
レジに行くと、三本の手を持つ店員が手際よくスキャンしてくれた。
支払いはスマホのキャッシュレス決済がなぜか通る。レートは不明だが、いつも数百円程度だ。
「ありがとほいー」
缶を開け、一口飲む。鼻に抜けるのは、濡れた土と若葉の、強烈なまでに「森」の香りだ。胸の奥まで洗われるような清涼感に、ようやく意識がはっきりとしてきた。
自動ドアを出ると、そこはいつものアパートの廊下だった。手元には、飲み干したばかりの、地球には存在しないはずの空き缶が一つ。
俺は大きく伸びをして、今日という一日を始めることにした。
ーーまずはこの缶を、資源ごみの日のいつ出すべきか、自治体のパンフレットと相談するところからだ。
* 日記風雑感 *
コンビニの光が眩しい夜もあり。
夏の日の誘蛾灯のように吸い込まれることも。近所にあるとちょっと嬉しいコンビニ。
ー*ー*ー*ー
資源ゴミ 出せぬ異界の空き缶を
そっと置いた 食器棚の片隅
ー*ー*ー*ー
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。