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本章

ー/ー



忘れたい過去、思い出したくない過去はありますか?
 
よく「黒歴史」なんて言いますが、誰だって忘れてしまいたい出来事の一つや二つあると思うのです。

「泣きたい」

嫌な過去を思い出す度にそう思ってしまう。

「もう一度やり直したい」と思った時期もあったけれど、今はもう思い出したくもない。

「うわぁああああ!」

花鈴(かりん)、どうした!?」

「嫌なこと思い出して、急に叫びたくなった!」

「変人か!」

友達の奈留(なる)が私の変な行動を見て、笑っている。

「だってさ、本当に嫌な思い出ほど忘れられないんだよ。もう戻ることも出来ないのに、思い出して『うわぁああ』ってなって泣きたくなる」

「黒歴史ってやつ? どんなだったの?」

「言いたくない……というか、思い出したくない」

奈留が私の顔をじっと見ている。

「ねぇねぇ、花鈴さ。その思い出って、起きた翌日が一番後悔しなかった?」

「そりゃあ、まぁ……そんな気がするけど」

「じゃあ、記憶は薄くなっているね」

「え?」

奈留が私を励ますように明るい声で言うのだ。

「泣かなくても、どうせ10年後には今より記憶は薄くなっているよ」

「絶対覚えているもん!」

「でも、一語一句とかその出来事の前後までは覚えてないでしょ?」

「それは……」

「じゃあ、それが全てだよ。その黒歴史に関わっていた他の人の記憶も段々薄れていく。だから……解決策は一つだけ!!」

奈留が立ち上がって、ピッと人差し指を伸ばして誇らしげに話す。



「生きてるだけで良いんだよ。そしたら、勝手に忘れていく。無理に忘れようとか、ましてや泣きたいなんて思わなくて良い!」

「泣いてもその出来事は消えない。悪い意味じゃなくて、消えてなんてくれないんだから、涙が勿体なくない!?」

「その黒歴史はきっと10年後には今よりも鮮明に思い出せなくなっている。例え、覚えようと思っていたって無理だよ。毎日生きているんだから」



奈留の言葉を私はただぼーっと聞いていた。喉に何かが詰まって、目の奥が熱くなっていく。

今度は温かくて泣きそうになる。



「花鈴、過去は所詮過去なんだよ。当たり前だけど、それ以上でもそれ以下でもないの。黒歴史と思う出来事は、忘れたいと思う出来事は……生きている内に記憶から薄れていく。だから、今日も一緒に生きよう? 今日を一緒に楽しもう?」



格好つけてそう言った奈留は恥ずかしそうだったけれど、私は奈留に抱きついた。


その過去があっても、今日を楽しまないで過ごして良いという言い訳にはならないんだ。

少なくともその言い訳は奈留には通じない。

なら……



「奈留!」

「何?」

「お菓子食べたい!」

「あはは、いいね。放課後、買いに行こ!」



今日を精一杯楽しんでやるんだ。


fin.



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忘れたい過去、思い出したくない過去はありますか?
よく「黒歴史」なんて言いますが、誰だって忘れてしまいたい出来事の一つや二つあると思うのです。
「泣きたい」
嫌な過去を思い出す度にそう思ってしまう。
「もう一度やり直したい」と思った時期もあったけれど、今はもう思い出したくもない。
「うわぁああああ!」
「|花鈴《かりん》、どうした!?」
「嫌なこと思い出して、急に叫びたくなった!」
「変人か!」
友達の|奈留《なる》が私の変な行動を見て、笑っている。
「だってさ、本当に嫌な思い出ほど忘れられないんだよ。もう戻ることも出来ないのに、思い出して『うわぁああ』ってなって泣きたくなる」
「黒歴史ってやつ? どんなだったの?」
「言いたくない……というか、思い出したくない」
奈留が私の顔をじっと見ている。
「ねぇねぇ、花鈴さ。その思い出って、起きた翌日が一番後悔しなかった?」
「そりゃあ、まぁ……そんな気がするけど」
「じゃあ、記憶は薄くなっているね」
「え?」
奈留が私を励ますように明るい声で言うのだ。
「泣かなくても、どうせ10年後には今より記憶は薄くなっているよ」
「絶対覚えているもん!」
「でも、一語一句とかその出来事の前後までは覚えてないでしょ?」
「それは……」
「じゃあ、それが全てだよ。その黒歴史に関わっていた他の人の記憶も段々薄れていく。だから……解決策は一つだけ!!」
奈留が立ち上がって、ピッと人差し指を伸ばして誇らしげに話す。
「生きてるだけで良いんだよ。そしたら、勝手に忘れていく。無理に忘れようとか、ましてや泣きたいなんて思わなくて良い!」
「泣いてもその出来事は消えない。悪い意味じゃなくて、消えてなんてくれないんだから、涙が勿体なくない!?」
「その黒歴史はきっと10年後には今よりも鮮明に思い出せなくなっている。例え、覚えようと思っていたって無理だよ。毎日生きているんだから」
奈留の言葉を私はただぼーっと聞いていた。喉に何かが詰まって、目の奥が熱くなっていく。
今度は温かくて泣きそうになる。
「花鈴、過去は所詮過去なんだよ。当たり前だけど、それ以上でもそれ以下でもないの。黒歴史と思う出来事は、忘れたいと思う出来事は……生きている内に記憶から薄れていく。だから、今日も一緒に生きよう? 今日を一緒に楽しもう?」
格好つけてそう言った奈留は恥ずかしそうだったけれど、私は奈留に抱きついた。
その過去があっても、今日を楽しまないで過ごして良いという言い訳にはならないんだ。
少なくともその言い訳は奈留には通じない。
なら……
「奈留!」
「何?」
「お菓子食べたい!」
「あはは、いいね。放課後、買いに行こ!」
今日を精一杯楽しんでやるんだ。
fin.