第138話 金持ちと、貴族

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 よもや、この屋敷の食堂がここまで賑やかになるとは思わなんだ。その場に揃っているのは学生という身分とはいえ、結構な淑女も混じっている。
 ぶっちゃけ見た目だけではそこまで年齢まで分からんしな。

 軽い交流会のつもりだったが、そのままパーティになってしまった感も否めない。どうせなら立食パーティにするべきだっただろうか。今さらではあるが。

 我のクラスメイトの女子たちは長いテーブルにつき、我の屋敷自慢のディナーを口にして驚きと賛辞の声をもらす。誇張なしに格の違いを痛感しているかのよう。
 実際のところ、まあ、我もパエデロスではトップクラスの富豪という立場ではあるし、その反応が正しいのかもしれない。

 我もミモザも爵位こそ持っていないが、冒険者の多いこの街で、金と技術と品質にものを言わせて荒稼ぎしてきている者の中でも筆頭。
 興味本位で移住してきた貴族とは違って、資産も現在進行形で蓄えているのだから差が開いてきて当然ともいえる。

 最近では、新規の商人も参入しづらくなっているくらい競争率も高くなっているらしいし、商業面においても他の追随を許さない状況だろう。

 もはや茫然自失を絵に描いたような光景。
 クラスメイトの面々は感情表現の手段を忘れてしまっているかのようだった。

「いやはや……、フィーさんには本当に驚かされることばかりですわ」
「ええ、なんだかお金持ちだと思っていた自分のことが恥ずかしくなってきました」
「こんなおもてなしされちゃったら、これから一体どうお返しすればいいのか」
「ふははははははははははっ!!!! 気にするなと言ったであろう。ともに肩を並べる学友同士。そこに隔たりなどありはしない!」

 と、言っても緊張がすぐにほぐれた様子もなく、笑みもぎこちなくなる。
 我の屋敷にしょっちゅう来ているミモザでも割と遠慮深いしな。
 やはり我も大盤振る舞いが過ぎるのだろうか。普段ミモザ以外の客人もおらんし。

「同じお金持ちでも、パエニアとは本当に大違いっすね」
「ん? あの小僧のことか?」

 女子の一人がフゥと息をついて、手元の水を飲み干す。

「フィー様も、実際絡まれてたから分かると思うんすけど、アイツ、家が資産家だからってことを鼻に掛けて威張り散らしてばかりなんです」
「堂々と我に喧嘩を吹っ掛けてきたしな。大した奴だよ、本当」

 パエニア・ラクトフロニア。我のことをパエデロスの富豪と知っていて尚もやけに目の敵にしてくるというか、目が合えば睨まれるし、ちょっと口を開いたかと思えば高圧的だし、困った奴だ。

「ああ、すみません、フィー様。不本意ながらパエニアとはちょっと付き合いが長かったもんで。他人に躊躇いなく施しができるフィー様が眩しく見えるっす」
「パエニアは昔からあんななのか?」
「まあ、そうっすね。自分が偉くないと気が済まないというか。相手にヘコヘコさせて優越感に浸る奴っていうか」

 まさに見たまんまだな。

「我としては、クラスメイトという同じ立場のつもりではあるが、向こうがあんな態度ではどうしようもないな」
「最近ではマシになってきたと思ったんすけどね。フィー様のことがよほど気に掛かって仕方ないのかと。ご存じかどうか分からないっすけど、ラクトフロニア家って学校へ多額の寄付金を出してるんすよ」
「……ああ、コリウス王子も言っていたな。なんか、我の寄付金の額の方が上回っていたらしいとか」

 やっぱりそれが要因になるのだろうか。他に考えられそうなこともないし。

「レッドアイズの王子様から直接聞いたんすか? 王子様とコネがあるなんてさすがっすね。さすがフィー様っすね。態度は大きいくせにひけらかさないとこ、好きっすよ。フィー様マジ推せるっす」
「う、ん? ああ、ありがとう?」

 今、褒められたのか? しれっと告白されなかったか?
 よくは分からないが、独特なノリを持っているようだ。

「パエニアさんには私も傍から見ていて呆れるばかりですわ」
「そうですよね。口を開けば嫌なことばっかですし」
「その点でいえばフィー様って素晴らしいって思っちゃいます」
「ふへへ、フィーしゃんは本当しゅごいんれふよ」

 一周回って、何故か我の方に口を揃えて称賛が飛んでくる。ついでとばかりにミモザもついてきた。ちょっとそこまで言われるとさすがに我も照れるぞ。

 ひけらかさないとか言われているが、別にそこまででもないと思うのだがな。
 あのパエニアが際立っているだけ、というのもあるし、我の方は一応建前上はロータスと組んでいることもあって、派手に動くのを控えているところもあるのでは。

 今回たまたま気まぐれで交流会なるものを突発的に開いてみたわけだが、この様子を見ると、パエデロスに移住してきている貴族は言うほど余裕はないのかもしれん。
 少なくともクラスメイト全員招待して存分にもてなせるような者はそう多くないとみた。そして、それができそうなのは我と、ラクトフロニア家くらいなのだろう。

「ふん……、褒められるのは悪い気はしない。ただ、勘違いするでないぞ。我は他者に媚びないだけに過ぎん。そこのところを履き違えてもらっては困る」

 そもそも、ラクトフロニア家の資産って別にパエニアがどうこうしたってわけでもないだろうし、ただただ親が金を持っていることを威張り散らしているだけ。
 特別な実力があるわけでも実績を持っているわけでもないし、魔法だってろくに使えないような身でありながらもひたすらに身の程知らずの世間知らずだ。

 その点でいうと、我の方はその実、パエデロスに来た頃は魔王軍から持ってきた宝石を資産にして地位を築き上げたが、それ以降はミモザとともに積み上げてきたようなものだ。我が威張れる道理がない。
 なんか世間では芋令嬢と呼ばれてたりするが、あれも運が良かっただけだし。

「フィーしゃん、照れてるんれふか?」
「そ、そんなわけあるまいっ!」

 思えば、ミモザの店で日頃から客どもにちやほやされることは多々あったものだが、こうも面を切られて、より近しい者に褒めちぎられるのも久しい気がした。

「パエニアの奴と比べてしまったのはすまないっす。でも、そんなのは無しにしてもフィー様って魔法の知識が豊富じゃないっすか。教えるのも上手っしたし」
「そうね。私もフィーさんのおかげで魔法のコツを覚えられた気がしましたわ。そういった意味でも感謝しておりますのよ」
「私も私も! フィーちゃんってお金持ちなだけじゃなくて、なんかこう、全部すごいって感じがします! 同じ学校にフィーちゃんがいてくれてありがとうです!」

 昔はこれでも魔王城でブイブイ言わせておったものなのだがな……。
 まさか令嬢という立場、クラスメイトという立場で、こうも言われるとは。

「フィーしゃん、大人気れふね」
「う、うぅ……」

 なんだか顔が熱くなってきた気がするぞ。耳まで熱を持ってる気さえする。
 そんな感謝されるほどのことをしただろうか。

「ま、まあ、どうとでも解釈するがいい。今後も同じネルムフィラ魔導士学院に通う仲間として、よろしく頼むぞ」

 そんな我の言葉を合図にか、クラスメイトの女子たちは揃って笑顔を見せながらも水の入ったグラスを手にとり、大きく掲げる。
 そしてごく自然な流れのまま、乾杯の声が食堂内に響き渡っていった。

 色々とアレではあったが、今日の交流会は成功だったと言えるだろう。
 少しでも親睦が深められればと思って開いた気まぐれのパーティが、こうも賑わえば上々というものだ。


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 よもや、この屋敷の食堂がここまで賑やかになるとは思わなんだ。その場に揃っているのは学生という身分とはいえ、結構な淑女も混じっている。
 ぶっちゃけ見た目だけではそこまで年齢まで分からんしな。
 軽い交流会のつもりだったが、そのままパーティになってしまった感も否めない。どうせなら立食パーティにするべきだっただろうか。今さらではあるが。
 我のクラスメイトの女子たちは長いテーブルにつき、我の屋敷自慢のディナーを口にして驚きと賛辞の声をもらす。誇張なしに格の違いを痛感しているかのよう。
 実際のところ、まあ、我もパエデロスではトップクラスの富豪という立場ではあるし、その反応が正しいのかもしれない。
 我もミモザも爵位こそ持っていないが、冒険者の多いこの街で、金と技術と品質にものを言わせて荒稼ぎしてきている者の中でも筆頭。
 興味本位で移住してきた貴族とは違って、資産も現在進行形で蓄えているのだから差が開いてきて当然ともいえる。
 最近では、新規の商人も参入しづらくなっているくらい競争率も高くなっているらしいし、商業面においても他の追随を許さない状況だろう。
 もはや茫然自失を絵に描いたような光景。
 クラスメイトの面々は感情表現の手段を忘れてしまっているかのようだった。
「いやはや……、フィーさんには本当に驚かされることばかりですわ」
「ええ、なんだかお金持ちだと思っていた自分のことが恥ずかしくなってきました」
「こんなおもてなしされちゃったら、これから一体どうお返しすればいいのか」
「ふははははははははははっ!!!! 気にするなと言ったであろう。ともに肩を並べる学友同士。そこに隔たりなどありはしない!」
 と、言っても緊張がすぐにほぐれた様子もなく、笑みもぎこちなくなる。
 我の屋敷にしょっちゅう来ているミモザでも割と遠慮深いしな。
 やはり我も大盤振る舞いが過ぎるのだろうか。普段ミモザ以外の客人もおらんし。
「同じお金持ちでも、パエニアとは本当に大違いっすね」
「ん? あの小僧のことか?」
 女子の一人がフゥと息をついて、手元の水を飲み干す。
「フィー様も、実際絡まれてたから分かると思うんすけど、アイツ、家が資産家だからってことを鼻に掛けて威張り散らしてばかりなんです」
「堂々と我に喧嘩を吹っ掛けてきたしな。大した奴だよ、本当」
 パエニア・ラクトフロニア。我のことをパエデロスの富豪と知っていて尚もやけに目の敵にしてくるというか、目が合えば睨まれるし、ちょっと口を開いたかと思えば高圧的だし、困った奴だ。
「ああ、すみません、フィー様。不本意ながらパエニアとはちょっと付き合いが長かったもんで。他人に躊躇いなく施しができるフィー様が眩しく見えるっす」
「パエニアは昔からあんななのか?」
「まあ、そうっすね。自分が偉くないと気が済まないというか。相手にヘコヘコさせて優越感に浸る奴っていうか」
 まさに見たまんまだな。
「我としては、クラスメイトという同じ立場のつもりではあるが、向こうがあんな態度ではどうしようもないな」
「最近ではマシになってきたと思ったんすけどね。フィー様のことがよほど気に掛かって仕方ないのかと。ご存じかどうか分からないっすけど、ラクトフロニア家って学校へ多額の寄付金を出してるんすよ」
「……ああ、コリウス王子も言っていたな。なんか、我の寄付金の額の方が上回っていたらしいとか」
 やっぱりそれが要因になるのだろうか。他に考えられそうなこともないし。
「レッドアイズの王子様から直接聞いたんすか? 王子様とコネがあるなんてさすがっすね。さすがフィー様っすね。態度は大きいくせにひけらかさないとこ、好きっすよ。フィー様マジ推せるっす」
「う、ん? ああ、ありがとう?」
 今、褒められたのか? しれっと告白されなかったか?
 よくは分からないが、独特なノリを持っているようだ。
「パエニアさんには私も傍から見ていて呆れるばかりですわ」
「そうですよね。口を開けば嫌なことばっかですし」
「その点でいえばフィー様って素晴らしいって思っちゃいます」
「ふへへ、フィーしゃんは本当しゅごいんれふよ」
 一周回って、何故か我の方に口を揃えて称賛が飛んでくる。ついでとばかりにミモザもついてきた。ちょっとそこまで言われるとさすがに我も照れるぞ。
 ひけらかさないとか言われているが、別にそこまででもないと思うのだがな。
 あのパエニアが際立っているだけ、というのもあるし、我の方は一応建前上はロータスと組んでいることもあって、派手に動くのを控えているところもあるのでは。
 今回たまたま気まぐれで交流会なるものを突発的に開いてみたわけだが、この様子を見ると、パエデロスに移住してきている貴族は言うほど余裕はないのかもしれん。
 少なくともクラスメイト全員招待して存分にもてなせるような者はそう多くないとみた。そして、それができそうなのは我と、ラクトフロニア家くらいなのだろう。
「ふん……、褒められるのは悪い気はしない。ただ、勘違いするでないぞ。我は他者に媚びないだけに過ぎん。そこのところを履き違えてもらっては困る」
 そもそも、ラクトフロニア家の資産って別にパエニアがどうこうしたってわけでもないだろうし、ただただ親が金を持っていることを威張り散らしているだけ。
 特別な実力があるわけでも実績を持っているわけでもないし、魔法だってろくに使えないような身でありながらもひたすらに身の程知らずの世間知らずだ。
 その点でいうと、我の方はその実、パエデロスに来た頃は魔王軍から持ってきた宝石を資産にして地位を築き上げたが、それ以降はミモザとともに積み上げてきたようなものだ。我が威張れる道理がない。
 なんか世間では芋令嬢と呼ばれてたりするが、あれも運が良かっただけだし。
「フィーしゃん、照れてるんれふか?」
「そ、そんなわけあるまいっ!」
 思えば、ミモザの店で日頃から客どもにちやほやされることは多々あったものだが、こうも面を切られて、より近しい者に褒めちぎられるのも久しい気がした。
「パエニアの奴と比べてしまったのはすまないっす。でも、そんなのは無しにしてもフィー様って魔法の知識が豊富じゃないっすか。教えるのも上手っしたし」
「そうね。私もフィーさんのおかげで魔法のコツを覚えられた気がしましたわ。そういった意味でも感謝しておりますのよ」
「私も私も! フィーちゃんってお金持ちなだけじゃなくて、なんかこう、全部すごいって感じがします! 同じ学校にフィーちゃんがいてくれてありがとうです!」
 昔はこれでも魔王城でブイブイ言わせておったものなのだがな……。
 まさか令嬢という立場、クラスメイトという立場で、こうも言われるとは。
「フィーしゃん、大人気れふね」
「う、うぅ……」
 なんだか顔が熱くなってきた気がするぞ。耳まで熱を持ってる気さえする。
 そんな感謝されるほどのことをしただろうか。
「ま、まあ、どうとでも解釈するがいい。今後も同じネルムフィラ魔導士学院に通う仲間として、よろしく頼むぞ」
 そんな我の言葉を合図にか、クラスメイトの女子たちは揃って笑顔を見せながらも水の入ったグラスを手にとり、大きく掲げる。
 そしてごく自然な流れのまま、乾杯の声が食堂内に響き渡っていった。
 色々とアレではあったが、今日の交流会は成功だったと言えるだろう。
 少しでも親睦が深められればと思って開いた気まぐれのパーティが、こうも賑わえば上々というものだ。