第122話 教えて、ダリア先生!

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「はい、じゃあ簡単な自己紹介を終わったことだし、この学校の説明に入ろうとおもいま~す。よぉく聞いておいてね!」

 パンパンと手を叩き、ダリアが先生っぽく振る舞う。どちらかというと、幼児の世話をする保母のようだが。

「この学校に入る前にも説明があったと思うけど、ネルムフィラ魔導士学院はただの学校とは少し違っていて魔法学科に特化しているの。その点をよく理解しておくように。気軽に魔法を使われると色々なところに迷惑が掛かっちゃうしね」

 そんなあからさま、事前に練習しておきました感のある口調で定型文のような注意事項を述べられても、と思わないでもない。
 同じようなことを入学式でもロータスが延々と言っていたしな。

 少なくとも、このパエデロスでそんなバカなことをしたらロータスやら自警団の面々が飛んでくるのは目に見えているし、さらにはこの学園内ともなればレッドアイズから出張してきている兵士たちも黙っちゃいない。

 だが、ここにいる貴族の生徒たちがソレを理解しているかどうかまでは分からん。知っていても、自分なら特例で許してもらえると思っているかもしれん。
 教師の立場としては口を酸っぱくしてでも繰り返すしかないんだな。

「だから校則というものがあります。みんなちゃんと読んで理解して守ってね」

 と、ダリアは杖を取り出し、空中に文字を描いてソレを大きくしてみせる。
 やってみせていることは単純で簡単そうに見えるが、空中に魔法を放つだけならまだしも、文字や図形のような複雑な形状を固定化させるのは意外と面倒なんだぞ。

 水や煙を球体や四角形にするのとはワケが違う――などと言っても多分、この場にいる生徒どもの多くは分かっていないのだろうな。

【授業中、教師の見ていない場所では魔法を使用しないこと】
【特に指示もないときに他人に向けて魔法を使用しないこと】
【学校の外や日常生活でも、みだりに魔法を使用しないこと】

 そんな内容の文章が次々と浮かび上がっていく。どの文章でも語尾には大体【魔法を使用しないこと】の文言が添えられている。
 真面目な生徒は手元の羊皮紙に書き写している。逆にそうしていない生徒は、自分には関係ないことのようにただ眺めている。分かりやすいことで。
 ちなみにミモザは前者だ。汚い文字ながらしっかりと書き写していた。

「勿論だけど、校則を破るとオシオキだからね。おうちがお金持ちだからといって免除するのもなし! そこんとこ、お忘れなく!」

 なんだか本格的に子供向けな指導の仕方だ。

 ダリアの言うことを素直に聞くのも癪ではあったが、学び舎という場でツンツンと逆張りに反抗してみてもメリットはない。

 というか、下手に逆らって懲罰でもされようものなら魔法を会得するという目的からイタズラに遠ざかってしまう。それだけは勘弁だ。
 というわけで、我もペンを取り、渋々ながらも書き写すことにした。

「校則についてはもう覚えてもらったかな。じゃあ早速、みんなお待ちかねの魔法の授業を始めようと思います!」

 そういって空中に描かれた校則をパッパとかき消して、ダリアが合図を送ると、教室内にレッドアイズの兵士たちが箱を抱えてドカドカと入室してくる。

 なんだなんだと思っていると、兵士の連中は何やら生徒たちへ順番に本を配り始めていく。装丁のしっかりした高級そうな本だ。
 何か呪文でも書いてあるのかとページをめくってみると、どうやら歴史書のようで、教室内ではガッカリとした様子の生徒の溜め息が聞こえてきた。

 そして、一通り生徒に配り終えたのを確認すると、兵士たちは颯爽と教室の外へと退場していく。大した統率力だな、おい。

「ダリア先生ー、魔法を教えてくれるんじゃないんですか?」
「もちろんそのつもりよ。でもね、簡単にサクサクっとポンポン魔法が使えるような手段はないの。物事には順序があるからね。まずは魔法とは何か、根本的なところから学んでもらうわ」

 生徒の一人からダイレクトにツッコミも入れられる。
 そらまあその通りだ。そんな直ぐに使えるようになるならこんな学校なんて要らない。知識のある我でさえ、今の状態から魔法を使う方法など見当も付かない。

 とはいえ、魔法の使えないものでも魔法が使えるようになるという触れ込みを鵜呑みにした輩の大半は、お手軽に魔法を使える薬やら魔具やらを想定していたのだろう。釈然としない顔をしているのが見てとれた。

「おいおい、魔法の根本的なとこなんて誰でも知ってるだろうが」
「おっと、優等生くん。じゃあ折角だから答えてもらおうか。魔法ってなあに?」

 生意気な生徒の悪態も華麗に躱すようにダリアが切り返していく。

「え? だからさー、魔法ってのは身体の中から魔力を取り出して、そんでポンって放つんだろ?」
「うーん、その回答じゃあ正解はあげられないわね。ついでに言っちゃうと、キミにはその魔力がないから使えないことになっちゃうけど」

 流石はダリア。潜在魔力を見抜く能力はズバ抜けているのだろう。
 間の抜けた無知の生徒の発言もバッサリだ。
 というか、あんなものでは説明にすらなってないしな。

「ここは魔力がなくても魔法が使えるようになる学校じゃねーのかよ」

 間違いを指摘されたというのに厚顔無恥を地でいくようだ。
 そもそも自分の言葉の何が間違っているのかを理解できていない様子だ。

「それじゃあ、ミモザちゃん。代わりに答えられる?」

 そこで何故か急に振ってくるものだからミモザがビクリと肩を跳ねさせた。

「えっとぉ、魔法というものは……魔力の脈を把握してぇ、掌握することによって術式を構築。それを利用することを言いまふ。その行程はいくつかありましゅので、例えば自分の身体の中だけれなくて……魔力のこもった道具から抽出して還元構築といった手段もあったりしますれす」

 ミモザが分からないはずがない。優秀すぎるくらい超高度な術式を構築した魔具を生産しているエルフだぞ。潜在魔力がないから自力で魔法を使うことこそできないが、魔具に魔力を込めることに関してはこのパエデロスで並ぶ者はいない。

「うん、素晴らしい。その答えなら合格ね」

 そう言いながらダリアは軽く拍手する。
 他の生徒たちも感銘を受けたようで声をあげる。
 一方で、適当な回答をした生徒はバツの悪そうな顔でそっぽ向いていた。

「それではダリア先生。魔力の構築法を知れば魔法を使えるのですか?」

 比較的大人しそうな女生徒が素直な疑問を投げかける。
 それを聞いてダリアは少し嬉しそうな表情を浮かべる。

「いい質問ね。結論から言えばそう。でもね、知ることが難しいの」

 訊いた方の生徒はきょとんとしている。
 まあ、いきなりそう言われても分かるまい。

「さっきミモザちゃんが言った、魔力を把握して、掌握して、構築するという行程はそれぞれ全く異なることをしているのよ。そしてそれらは違う器官でこなさなければならない。目がなければ物を見れない。手がなければ物を触れられない。魔法を使うにはそれらの器官を理解しなければいけないってわけ」

 大分答えを言っているのだが、核心すぎて上手く伝わっていないようだ。

「うーん、私の言葉の意味がどういうことなのか。それを知るためにも順を追って歴史から辿っていきましょう。遠回りかもしれないけどね」

 そういってダリアはあの歴史書を携えて、ページを開く。
 ようやくと、魔法の授業が始められるようだ。
 生徒たちも一斉にページをめくり、ダリアの言葉に耳を傾けた。


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「はい、じゃあ簡単な自己紹介を終わったことだし、この学校の説明に入ろうとおもいま~す。よぉく聞いておいてね!」
 パンパンと手を叩き、ダリアが先生っぽく振る舞う。どちらかというと、幼児の世話をする保母のようだが。
「この学校に入る前にも説明があったと思うけど、ネルムフィラ魔導士学院はただの学校とは少し違っていて魔法学科に特化しているの。その点をよく理解しておくように。気軽に魔法を使われると色々なところに迷惑が掛かっちゃうしね」
 そんなあからさま、事前に練習しておきました感のある口調で定型文のような注意事項を述べられても、と思わないでもない。
 同じようなことを入学式でもロータスが延々と言っていたしな。
 少なくとも、このパエデロスでそんなバカなことをしたらロータスやら自警団の面々が飛んでくるのは目に見えているし、さらにはこの学園内ともなればレッドアイズから出張してきている兵士たちも黙っちゃいない。
 だが、ここにいる貴族の生徒たちがソレを理解しているかどうかまでは分からん。知っていても、自分なら特例で許してもらえると思っているかもしれん。
 教師の立場としては口を酸っぱくしてでも繰り返すしかないんだな。
「だから校則というものがあります。みんなちゃんと読んで理解して守ってね」
 と、ダリアは杖を取り出し、空中に文字を描いてソレを大きくしてみせる。
 やってみせていることは単純で簡単そうに見えるが、空中に魔法を放つだけならまだしも、文字や図形のような複雑な形状を固定化させるのは意外と面倒なんだぞ。
 水や煙を球体や四角形にするのとはワケが違う――などと言っても多分、この場にいる生徒どもの多くは分かっていないのだろうな。
【授業中、教師の見ていない場所では魔法を使用しないこと】
【特に指示もないときに他人に向けて魔法を使用しないこと】
【学校の外や日常生活でも、みだりに魔法を使用しないこと】
 そんな内容の文章が次々と浮かび上がっていく。どの文章でも語尾には大体【魔法を使用しないこと】の文言が添えられている。
 真面目な生徒は手元の羊皮紙に書き写している。逆にそうしていない生徒は、自分には関係ないことのようにただ眺めている。分かりやすいことで。
 ちなみにミモザは前者だ。汚い文字ながらしっかりと書き写していた。
「勿論だけど、校則を破るとオシオキだからね。おうちがお金持ちだからといって免除するのもなし! そこんとこ、お忘れなく!」
 なんだか本格的に子供向けな指導の仕方だ。
 ダリアの言うことを素直に聞くのも癪ではあったが、学び舎という場でツンツンと逆張りに反抗してみてもメリットはない。
 というか、下手に逆らって懲罰でもされようものなら魔法を会得するという目的からイタズラに遠ざかってしまう。それだけは勘弁だ。
 というわけで、我もペンを取り、渋々ながらも書き写すことにした。
「校則についてはもう覚えてもらったかな。じゃあ早速、みんなお待ちかねの魔法の授業を始めようと思います!」
 そういって空中に描かれた校則をパッパとかき消して、ダリアが合図を送ると、教室内にレッドアイズの兵士たちが箱を抱えてドカドカと入室してくる。
 なんだなんだと思っていると、兵士の連中は何やら生徒たちへ順番に本を配り始めていく。装丁のしっかりした高級そうな本だ。
 何か呪文でも書いてあるのかとページをめくってみると、どうやら歴史書のようで、教室内ではガッカリとした様子の生徒の溜め息が聞こえてきた。
 そして、一通り生徒に配り終えたのを確認すると、兵士たちは颯爽と教室の外へと退場していく。大した統率力だな、おい。
「ダリア先生ー、魔法を教えてくれるんじゃないんですか?」
「もちろんそのつもりよ。でもね、簡単にサクサクっとポンポン魔法が使えるような手段はないの。物事には順序があるからね。まずは魔法とは何か、根本的なところから学んでもらうわ」
 生徒の一人からダイレクトにツッコミも入れられる。
 そらまあその通りだ。そんな直ぐに使えるようになるならこんな学校なんて要らない。知識のある我でさえ、今の状態から魔法を使う方法など見当も付かない。
 とはいえ、魔法の使えないものでも魔法が使えるようになるという触れ込みを鵜呑みにした輩の大半は、お手軽に魔法を使える薬やら魔具やらを想定していたのだろう。釈然としない顔をしているのが見てとれた。
「おいおい、魔法の根本的なとこなんて誰でも知ってるだろうが」
「おっと、優等生くん。じゃあ折角だから答えてもらおうか。魔法ってなあに?」
 生意気な生徒の悪態も華麗に躱すようにダリアが切り返していく。
「え? だからさー、魔法ってのは身体の中から魔力を取り出して、そんでポンって放つんだろ?」
「うーん、その回答じゃあ正解はあげられないわね。ついでに言っちゃうと、キミにはその魔力がないから使えないことになっちゃうけど」
 流石はダリア。潜在魔力を見抜く能力はズバ抜けているのだろう。
 間の抜けた無知の生徒の発言もバッサリだ。
 というか、あんなものでは説明にすらなってないしな。
「ここは魔力がなくても魔法が使えるようになる学校じゃねーのかよ」
 間違いを指摘されたというのに厚顔無恥を地でいくようだ。
 そもそも自分の言葉の何が間違っているのかを理解できていない様子だ。
「それじゃあ、ミモザちゃん。代わりに答えられる?」
 そこで何故か急に振ってくるものだからミモザがビクリと肩を跳ねさせた。
「えっとぉ、魔法というものは……魔力の脈を把握してぇ、掌握することによって術式を構築。それを利用することを言いまふ。その行程はいくつかありましゅので、例えば自分の身体の中だけれなくて……魔力のこもった道具から抽出して還元構築といった手段もあったりしますれす」
 ミモザが分からないはずがない。優秀すぎるくらい超高度な術式を構築した魔具を生産しているエルフだぞ。潜在魔力がないから自力で魔法を使うことこそできないが、魔具に魔力を込めることに関してはこのパエデロスで並ぶ者はいない。
「うん、素晴らしい。その答えなら合格ね」
 そう言いながらダリアは軽く拍手する。
 他の生徒たちも感銘を受けたようで声をあげる。
 一方で、適当な回答をした生徒はバツの悪そうな顔でそっぽ向いていた。
「それではダリア先生。魔力の構築法を知れば魔法を使えるのですか?」
 比較的大人しそうな女生徒が素直な疑問を投げかける。
 それを聞いてダリアは少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「いい質問ね。結論から言えばそう。でもね、知ることが難しいの」
 訊いた方の生徒はきょとんとしている。
 まあ、いきなりそう言われても分かるまい。
「さっきミモザちゃんが言った、魔力を把握して、掌握して、構築するという行程はそれぞれ全く異なることをしているのよ。そしてそれらは違う器官でこなさなければならない。目がなければ物を見れない。手がなければ物を触れられない。魔法を使うにはそれらの器官を理解しなければいけないってわけ」
 大分答えを言っているのだが、核心すぎて上手く伝わっていないようだ。
「うーん、私の言葉の意味がどういうことなのか。それを知るためにも順を追って歴史から辿っていきましょう。遠回りかもしれないけどね」
 そういってダリアはあの歴史書を携えて、ページを開く。
 ようやくと、魔法の授業が始められるようだ。
 生徒たちも一斉にページをめくり、ダリアの言葉に耳を傾けた。