第121話 初めての授業へ

ー/ー



「やっっっっったぞっ!!!!!!」

 我の手元に届けられた一枚の羊皮紙と、そしてミモザの手元にある羊皮紙を見比べ、何度も読み返し、絶対的な確信を得た。

「同じクラスになりましらね」

 そう、早速あのクラス分け試験の結果が出たのだ。無事、我もミモザも同じクラスに振り分けられることになり、これで毎日楽しく通学ができるというものよ。

「ふみゅう……でも試験の中身の結果はないんれすね」
「そりゃあまあ、クラス分けが目的だしな。最終的に何点だったのかは気になるが、仕方ないだろう」

 これが入学試験とかだったらまた違う緊張感もあっただろう。しかし、こちらは大金を叩いて入学している身。不合格で落とされたら目も当てられないぞ。

 さしものロータスだって、そんな学校を望んでいるとも思えない。ネルムフィラ魔導士学院は言わば第二の矢。いつぞやのソレノス王子のプロポーズ作戦に次ぐ、レッドアイズ国の起死回生計画の一端なのだろう。

 だってそうでもなければ怪しすぎるではないか。
 誰でも魔法が学べるなんて分かりやすい餌をぶら下げて、わざわざこの我とミモザを入学させようなんてあからさますぎる。

 我らのようなパエデロスでも有名な者、ないしは貴族の面々を呼び込んだその魂胆は、レッドアイズの技術力を知らしめるためだ。

 だから、ホイホイと生徒を振り落とすような真似などできない。そう断定できる。

 まあ、そんな分かりやすい計画にまんまと乗せられてしまっている立場ではあるが、我にもミモザにもメリットしかないのも事実。
 ここは利用させてもらうだけだ。

「店長ぅ~、お店の準備ができましたよぉ~」
「ふぁい。今日もよろしくお願いしまふ!」

 ひょっこりとデニアが顔を見せてくる。相変わらずのおっとり口調だ。
 そろそろ我も準備しなくてはな。

「じゃあ、フィーしゃん、行きましゅか」
「うむ」
「いってらっしゃいませぇ~、店長~、お嬢様~」

 というわけで、我とミモザは颯爽と店の裏口から出ていき、今日も元気にネルムフィラ魔導士学院へ登校する。なんと健やかな朝だろう。ああ、清々しい。
 いつも見慣れたパエデロスの街並みも、違って見えるから不思議なものだ。

「お嬢様、出発なさいますか?」

 そこに待たせていたオキザリスと合流する。メイドという立場なのに相変わらず目つきが悪いが、よからぬ虫が寄ってこないから今は頼りになる。

「今日もよろしく頼むぞ、オキザリス」
「お願いしまふ!」
「御意」

 学校までの距離はそう遠くはない。徒歩で十分だろう。
 しかし、他の貴族の面々はいわゆる貴族街と呼ばれる区画に住居を構えているため、馬車通学するものもそこそこいる。
 距離的にはやや遠い程度なのだが、そこはやはり貴族。自前の足を汚したくないというプライドもあるようだ。

 先ほどからやたらと馬車がすれ違っているのも、そう思うと滑稽に感じてしまうな。この分だと事故が多発するんじゃないか?

 そんなくだらないことを考えていたら正門前まで直ぐに着いた。
 案の定と言うべきか、入学式の時と変わらず馬車が渋滞しており、学校側の職員がてんやわんやしている様子が見てとれた。

 相手はパエデロスの経済を回している貴族どものご子息様だしな。そこまで強く押し切れていないようだ。素直にその場で降りて歩いて入れば済むところを、何を意固地になっているのかグダグダ言っている。

「まいりましょう、お嬢様、ミモザ様」

 何の文句も言わなければこれこのように平然と校門をくぐれるのにな。
 人間の若造どもの無駄なプライドは何と醜いことか。

 エルフや獣人の方がよっぽど素直で、スマートのように思わされる。
 学校の敷地内に一歩踏み込んだだけで違う世界にいるようだ。

「ええと、わたしたちの教室は……」
「こっちだ、ミモザ。掲示板が出ておる」

 ちゃんと生徒たちが迷わぬよう、それぞれのクラスへの案内図がそこに掲示されていた。通りがかりの生徒たちが立ち止まっては動き出していく。

 少し誤算だったというべきか、我もミモザもオキザリスも、背丈がやや足りていなかった。大きな掲示板の位置は分かるのだが、生徒たちの人だかりが邪魔で肝心の案内図がその場から見えない。

「むぅ、少し待つしかないか」
「お嬢様、ワタクシめにお任せを」

 そういうや否や、オキザリスは人だかりを優に超える跳躍を見せ、掲示板のもとへとたどり着き、そしてそのまままた跳んで帰ってきた。

「分かりました。お嬢様たちの教室はあちらになります」
「……あまり目立つ行動は控えてくれると助かる」

 もう大分遅いとは思うのだが、とりあえず言っておいた。
 なんかもう今のほんの一瞬で生徒の注目が集まってるし。

「……おい、あれってもしかして噂の?」
「ああ、そうだ……フィー様だ……」
「じゃあその隣にいるのってひょっとして……?」

 すんごいヒソヒソ話が聞こえてくるんだが。というか、既に我のこと注目されすぎなのでは? ま、まあ、元々パエデロスの令嬢として有名ではあったしな。
 とはいえ、これは悪目立ちがすぎる。

「いくぞ、ミモザ、オキザリス」
「あいっ」
「はい」

 そうして、我ら三人はそそくさとその場を離れて校舎の中へと逃げるように去っていくのだった。

 ※ ※ ※

 教室内に入るとそれはそれはなかなかにガヤガヤとしていた。
 見るからに若い連中ばかりのように見える。我はともかくとして、ミモザの半分にも満たないんじゃないのか?

 エルフも獣人もそんなには見当たらないし、入る教室を間違えたんじゃないかと思ったくらいだ。とりあえずミモザとは隣同士の席に座り、待機する。

 時間とともに次々と生徒たちが増えていき、席が埋まってきた頃合いでまるで見計らったかのように教室の扉が開く。入ってきたのは黒いローブに身を包んだ赤髪の魔女――ダリアだった。

「は~い、みんな、おはよう~。このクラスを受け持つことになったダリアよ。卒業まではどうぞよろしくね~」

 ……おいおい、ここアイツのクラスなのか。また急に帰りたくなってきた。
 ミモザの方はそうでもないようで、何やら安堵したような顔を見せる。
 そりゃあまあ、以前も結構お世話にはなっていたしな。

「早くも魔法を覚えたくてうずうずしちゃってる子もいるみたいだけど、まぁ、まずはクラスメイト同士、仲良くしてもらいたいし、自己紹介から始めましょ」

 そういって指揮を執るようにダリアは声を挙げる。まるで先生みたいだな。
 実際、今まさにアイツは魔法学校の先生の立場にいるわけだけど。

 そのままダリアに促されるまま、生徒たちは順番に思い思いの自己紹介を始めていく。殆どが人間で、初々しいものだ。世間知らずのガキどもめ。

「それじゃあ次の子~」

 眺めているうちに我の番が来たようだった。
 ここは一つ、年長者として威厳のある挨拶をしてやろうではないか。

「ふははははははははははっ!!!! 我こそはフィー! クラスメイトの諸君、今後とも我の足を引っ張ることのないようよろしく頼むぞ!!!!」

 ……何故か、教室がシンと静まりかえる。

「……ぇー、じゃあ次、どうぞ」
「あ、はい。わたしはミモザ・アレフヘイムっていいまふ。エルフれすけど、皆しゃんと仲良くできたらいいなって思いましゅ。どうぞよろしくお願いしますでふ」

 って、おい! 華麗に我の自己紹介をさらっと流すでないわ!
 なんか我が盛大に滑り倒したみたいではないか!
 拍手の一つでもよこさぬのか!

 そんな我の心の叫びも虚しくクラスメイトたちの自己紹介は続くのだった。


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「やっっっっったぞっ!!!!!!」
 我の手元に届けられた一枚の羊皮紙と、そしてミモザの手元にある羊皮紙を見比べ、何度も読み返し、絶対的な確信を得た。
「同じクラスになりましらね」
 そう、早速あのクラス分け試験の結果が出たのだ。無事、我もミモザも同じクラスに振り分けられることになり、これで毎日楽しく通学ができるというものよ。
「ふみゅう……でも試験の中身の結果はないんれすね」
「そりゃあまあ、クラス分けが目的だしな。最終的に何点だったのかは気になるが、仕方ないだろう」
 これが入学試験とかだったらまた違う緊張感もあっただろう。しかし、こちらは大金を叩いて入学している身。不合格で落とされたら目も当てられないぞ。
 さしものロータスだって、そんな学校を望んでいるとも思えない。ネルムフィラ魔導士学院は言わば第二の矢。いつぞやのソレノス王子のプロポーズ作戦に次ぐ、レッドアイズ国の起死回生計画の一端なのだろう。
 だってそうでもなければ怪しすぎるではないか。
 誰でも魔法が学べるなんて分かりやすい餌をぶら下げて、わざわざこの我とミモザを入学させようなんてあからさますぎる。
 我らのようなパエデロスでも有名な者、ないしは貴族の面々を呼び込んだその魂胆は、レッドアイズの技術力を知らしめるためだ。
 だから、ホイホイと生徒を振り落とすような真似などできない。そう断定できる。
 まあ、そんな分かりやすい計画にまんまと乗せられてしまっている立場ではあるが、我にもミモザにもメリットしかないのも事実。
 ここは利用させてもらうだけだ。
「店長ぅ~、お店の準備ができましたよぉ~」
「ふぁい。今日もよろしくお願いしまふ!」
 ひょっこりとデニアが顔を見せてくる。相変わらずのおっとり口調だ。
 そろそろ我も準備しなくてはな。
「じゃあ、フィーしゃん、行きましゅか」
「うむ」
「いってらっしゃいませぇ~、店長~、お嬢様~」
 というわけで、我とミモザは颯爽と店の裏口から出ていき、今日も元気にネルムフィラ魔導士学院へ登校する。なんと健やかな朝だろう。ああ、清々しい。
 いつも見慣れたパエデロスの街並みも、違って見えるから不思議なものだ。
「お嬢様、出発なさいますか?」
 そこに待たせていたオキザリスと合流する。メイドという立場なのに相変わらず目つきが悪いが、よからぬ虫が寄ってこないから今は頼りになる。
「今日もよろしく頼むぞ、オキザリス」
「お願いしまふ!」
「御意」
 学校までの距離はそう遠くはない。徒歩で十分だろう。
 しかし、他の貴族の面々はいわゆる貴族街と呼ばれる区画に住居を構えているため、馬車通学するものもそこそこいる。
 距離的にはやや遠い程度なのだが、そこはやはり貴族。自前の足を汚したくないというプライドもあるようだ。
 先ほどからやたらと馬車がすれ違っているのも、そう思うと滑稽に感じてしまうな。この分だと事故が多発するんじゃないか?
 そんなくだらないことを考えていたら正門前まで直ぐに着いた。
 案の定と言うべきか、入学式の時と変わらず馬車が渋滞しており、学校側の職員がてんやわんやしている様子が見てとれた。
 相手はパエデロスの経済を回している貴族どものご子息様だしな。そこまで強く押し切れていないようだ。素直にその場で降りて歩いて入れば済むところを、何を意固地になっているのかグダグダ言っている。
「まいりましょう、お嬢様、ミモザ様」
 何の文句も言わなければこれこのように平然と校門をくぐれるのにな。
 人間の若造どもの無駄なプライドは何と醜いことか。
 エルフや獣人の方がよっぽど素直で、スマートのように思わされる。
 学校の敷地内に一歩踏み込んだだけで違う世界にいるようだ。
「ええと、わたしたちの教室は……」
「こっちだ、ミモザ。掲示板が出ておる」
 ちゃんと生徒たちが迷わぬよう、それぞれのクラスへの案内図がそこに掲示されていた。通りがかりの生徒たちが立ち止まっては動き出していく。
 少し誤算だったというべきか、我もミモザもオキザリスも、背丈がやや足りていなかった。大きな掲示板の位置は分かるのだが、生徒たちの人だかりが邪魔で肝心の案内図がその場から見えない。
「むぅ、少し待つしかないか」
「お嬢様、ワタクシめにお任せを」
 そういうや否や、オキザリスは人だかりを優に超える跳躍を見せ、掲示板のもとへとたどり着き、そしてそのまままた跳んで帰ってきた。
「分かりました。お嬢様たちの教室はあちらになります」
「……あまり目立つ行動は控えてくれると助かる」
 もう大分遅いとは思うのだが、とりあえず言っておいた。
 なんかもう今のほんの一瞬で生徒の注目が集まってるし。
「……おい、あれってもしかして噂の?」
「ああ、そうだ……フィー様だ……」
「じゃあその隣にいるのってひょっとして……?」
 すんごいヒソヒソ話が聞こえてくるんだが。というか、既に我のこと注目されすぎなのでは? ま、まあ、元々パエデロスの令嬢として有名ではあったしな。
 とはいえ、これは悪目立ちがすぎる。
「いくぞ、ミモザ、オキザリス」
「あいっ」
「はい」
 そうして、我ら三人はそそくさとその場を離れて校舎の中へと逃げるように去っていくのだった。
 ※ ※ ※
 教室内に入るとそれはそれはなかなかにガヤガヤとしていた。
 見るからに若い連中ばかりのように見える。我はともかくとして、ミモザの半分にも満たないんじゃないのか?
 エルフも獣人もそんなには見当たらないし、入る教室を間違えたんじゃないかと思ったくらいだ。とりあえずミモザとは隣同士の席に座り、待機する。
 時間とともに次々と生徒たちが増えていき、席が埋まってきた頃合いでまるで見計らったかのように教室の扉が開く。入ってきたのは黒いローブに身を包んだ赤髪の魔女――ダリアだった。
「は~い、みんな、おはよう~。このクラスを受け持つことになったダリアよ。卒業まではどうぞよろしくね~」
 ……おいおい、ここアイツのクラスなのか。また急に帰りたくなってきた。
 ミモザの方はそうでもないようで、何やら安堵したような顔を見せる。
 そりゃあまあ、以前も結構お世話にはなっていたしな。
「早くも魔法を覚えたくてうずうずしちゃってる子もいるみたいだけど、まぁ、まずはクラスメイト同士、仲良くしてもらいたいし、自己紹介から始めましょ」
 そういって指揮を執るようにダリアは声を挙げる。まるで先生みたいだな。
 実際、今まさにアイツは魔法学校の先生の立場にいるわけだけど。
 そのままダリアに促されるまま、生徒たちは順番に思い思いの自己紹介を始めていく。殆どが人間で、初々しいものだ。世間知らずのガキどもめ。
「それじゃあ次の子~」
 眺めているうちに我の番が来たようだった。
 ここは一つ、年長者として威厳のある挨拶をしてやろうではないか。
「ふははははははははははっ!!!! 我こそはフィー! クラスメイトの諸君、今後とも我の足を引っ張ることのないようよろしく頼むぞ!!!!」
 ……何故か、教室がシンと静まりかえる。
「……ぇー、じゃあ次、どうぞ」
「あ、はい。わたしはミモザ・アレフヘイムっていいまふ。エルフれすけど、皆しゃんと仲良くできたらいいなって思いましゅ。どうぞよろしくお願いしますでふ」
 って、おい! 華麗に我の自己紹介をさらっと流すでないわ!
 なんか我が盛大に滑り倒したみたいではないか!
 拍手の一つでもよこさぬのか!
 そんな我の心の叫びも虚しくクラスメイトたちの自己紹介は続くのだった。