“ゴーーーン”
「明けたな……」
「ああ」
「反応薄いのぉ、もっと何かないのか?」
「皆さん・新年・明けまして・おめでとう・ございます」
TVから流れる除夜の鐘の音で年が明けたことを実感するが、正直それ以上には感じるものが無かった…………
今日は大晦日……さっき、年を越したから正確には昨日で今は元旦だな。
そんな時に汚ねぇアパートで1人で寝てるのもアレなんで(クリスマスも似たようなこと考えてたな凹)、事務所に押し掛けたわけだ。幸い(?)にも全員居て、今は “まったり” してる……
話は戻る。
伊達除霊事務所で越す初めての年なんだから、何かあってもいいとは自分でも思ってんだが、俺達は “そういう” のとは何か無縁な気がしてる。
周りが騒ごうが、祝おうが俺達は平常運転的な…………実際、事務所開く初日にしたのは建物と敷地の除霊……あとは、簡単な掃除くらいか。最後は疲れ果てて2人でカップラーメン食って、すぐ寝た気がする。
普通、それらを全部終わらせてから、開店祝いなんかして関係者や周りに事務所を周知させた上で開店するもんだろうけど、事務所なんか形だけと割り切ってる雪之丞が所長の俺達にそんなもんは無用だった。
それに当初は本当に金が無くて、毎日食う食わねぇの瀬戸際だったから気にする余裕も無かったんだけどな……
だから、年が明けたくらいで “いちいち” 何かしようとは思わなかった。
実際、所長であるあいつがあんな感じだしな……ただ…………
「……事務所の方向性は、決めたい」
爺さんの言葉に正直に答える。そんな俺に、爺さんは予想通り訝しげな顔をする……
「…………お主等、決めないでやってたのか?」
「あの時は先の話より、日々食うことが目一杯だったからな」
「………だから、いい加減決めたい」
今の、あぶれた案件を積極的に選んでやるやり方でもいい。取り敢えず、それでも食えるからな。
だけど、それだけだと本当にジリ貧になる。
何年、何十年やっても結局同じことの繰り返し……この前、月に行くなんて “大それた” 事やりきったけど、あんなのは万に一つ…………いや、億に一つと言ってもいいくらいだ。
何が言いたいかと言うと、次のステージに上がるには、それとは違う何かプラスアルファが欲しい。その “何か” が全く検討つかずにいるんだが……
「営業かけるとか、言ってなかったか?」
「一緒にやるか?」
「い……いや、そういうのはちょっと…………」
俺がそう返すと、やぶ蛇だったと後悔する雪之丞……まぁ、端から期待しちゃいなかったがな。
以前は建物も、もっと普通の所に引っ越して誰でも入りやすそうな事務所を目指そうとか考えてたんだが、それも少し違う気がしてる。
そもそも、一般受けなんてウチに合わない……と言うか出来ない。
雪之丞は暴れてりゃ満足だし、爺さん(こっちはいつまで居るかすら解らん……)は研究出来てりゃ満足な人間だ。要はアブノーマルな部類に入る。
そんな連中を無理に普通の人間の前に引き出したって、お互い疲れるだけだし、最悪虎の牙を抜くことになりかねない。アブノーマルは、アブノーマルな所に “ぶっ込んだ” 方が活きる。
俺等の強みは何だ…………?
どう考えても “戦闘力” (主に雪之丞)だよな…………
お祓いとか、場の浄化とか、そういった細々した依頼は “いっそ” 切って(全くしたことないけど)強力な悪霊なり、妖怪の殲滅に集中した方がいい。
だから、普段は今まで通りの依頼で凌ぎつつ、たまにイレギュラーな方面からデカい仕事をクリアしてけば自ずと道が開ける。
デカいと言っても、月の時のように神魔族みたいなとんでもねぇ連中じゃなく、ワンランクもツーランクも下の相手でも十分だ。
………………まぁ、甘い考えどけどな。
そもそも、 “イレギュラーな方面 ” って何だ?それが、はっきりしないんじゃ待つことも、アプローチも不可能だ………
「それも大事なんだけどよ〜」
そんな風に俺が事務所の展望について考えていると、雪之丞が話題を変えるように呟く。
おいおい、大事なことなら話逸らすなよ……
「絹に会う気にはならないか?」
「……………………」
糞が……変な方向にズラしやがって…………
先日のクリスマス。
雪之丞達は、魔鈴さんの店で偶然彼女達と鉢合わせしたらしい。
まさかと思ってた事態が、本当に起きちまうとはな…………話を聞いた時は普通に驚いた。そして、参加しなくて良かったと思ったもんだが、話はそんな単純には終わらない。
「お前、あいつに謝れなかったこと悪いと思ってるんだろ?絹もずっとお前のことを気にしてるぞ……」
「………………」
※『退職』参照
…………本当かよ?
気にはしてても、会いたいと思ってるとは限らないだろ……?
「………あの娘は、「会いたい」とか言ったわけじゃないんだろ?」
「まぁ……そうだがよ」
正直、どうしていいか解らねぇ……
逃げてる自分を自覚しつつも、謝って終わりなんて単純な話はじゃ済まない気がする。かと言って、ずっと誤魔化すわけにも行かないし…………年明けから、暗雲漂ってねぇか?
「お蕎麦・上がりました」
「助かったぜ、マリア」
色んな意味で……
マリアが年越し蕎麦を用意してくれたのを幸いに俺は話を打ち切ると、食うことに専念した。
味は……悪くなかったけど、余り味わうことが出来なかったな。
◇◇◇
今は昼の10時過ぎ。
結局蕎麦食ったあとは、話しが変な方向に戻る前に寝た。
そして、さっき起きたんだが別段やることもないんで夜の続きのごとくTVの前でダラダラしてる。
正月と言えば初詣。
ただ、ここにいる面子は蕎麦は食っても、わざわざお参りしたいとまでは思わないようだ。
俺自身、本当どうでもいい……
“___今、専用機のドアが開きました!国王です!ザンス王国国王の姿が__”
“ザンス王室は、これまで厳しい戒律によって外国の報道の前に姿を現すことはありませんでした。主要先進国を訪問するのもこれが初めてです”
「ほう……こやつが」
TVに映る、初老の男に爺さんが感慨深げに呟く。
褐色の肌で、髪も髭も真っ白だ。ただ、体躯は立派で背筋もしっかり伸びていて、年齢を感じさせない。
着てるものは普通のスーツだが、頭にターバンを巻いて、更にその上には宝石をふんだんに使った立派な王冠を被っている。
「ザンス王国って、確か……」
「オカルト技術(アイテム)で有名な国だった筈だ…………」
…………まぁ、最近知ったんだけどな。もっと言や、殆ど縁がない。
「その通りじゃ……!大西洋に浮かぶ小さな島国__ところが世界中の精霊石の80%が、この国から産出されとる。いわば、精霊石の上にある国じゃな、GS達の使う霊能グッズには精霊石振動子(クォーツ)が欠かせんが、それの9割以上がザンス製じゃ……神通棍や見鬼にも使われとるぞ」
「なるほど……でも、俺等は…………」
「ほぼ、使わねぇよな……」
そうなんだよ……
霊気を具現化出来る俺等には、そういったグッズの世話になることが殆ど無い。
唯一使ってたのが、最近まで着てた『対霊障用スーツ』だけど、これはザンス関係ねぇしな…………実入りが少ないから、グッズに金を掛ける余裕が無いってのもある。
「まぁ、お主等は特殊じゃな……話は戻るが、あの国はオカルト経済の正に中心。じゃが、政治的には宗教上的理由からほぼ鎖国状態じゃった。国王が日本に来るなんて、歴史的事件じゃの」
なるほどねぇ〜……さっき爺さんが感じ入ってたのは、それが理由か。
“SPに付き添われ、国王はタラップを___”
ドゴォォン!!!!
“な、なんだぁ!!?”
「「「「!?」」」」
TVにから流れた突然の爆音で俺達の目は、画面に釘付けになる!
一瞬、タラップが爆発したように見えた…………だが、爆発したんじゃなかった。下に潜む何者かの腕によって、タラップが吹き飛ばされたんだ!
画面からは後ろ向きで良く解らなかったが、そいつは人の数倍はあるライオンの獣人に見えた……
そして、その厳つい腕を振り上げて国王達に襲い掛かろうとする。
………………が、そうはならなかった。
国王が身構えたと思った瞬間、あの王冠……正確には填められた宝石が光ったと同時に、さっきのライオンと同じような奴が現れた。こっちは、ターバンを巻いた筋骨隆々とした魔神と言った感じか?
「『精霊獣』……!!精霊石のパワーを鬼神の姿に凝縮して意のままに操る技じゃ!!噂には聞いてたが、この目で拝めるとは…………」
横で驚いたように呟く爺さんを尻目に、俺達は画面に見入っていたが、勝負は一瞬で着いた。
あのライオンとターバンでは、ターバンのが明らかに格上のようだった。簡単にねじ伏せて、そこに護衛の連中(こっちは指輪から)が出した精霊獣だっけか?とにかく、それらが加勢してライオンはあっけなく爆散しちまった…
“な、何かが起きたようです…………!!現場は騒然となりました!国王は__”
「……偉いことになってんな…………」
「ああ…………」
「フム……」
…………オカルト技術を使ったテロか?
とにかく録画じゃなくて、生でテロの現場を見たのは初めてだ。
ただ、この時俺はまだ呑気だった……確かにとんでもない出来事かもしれないが、所詮は画面越しの出来事。
自分達には、関わりないことだと…………