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食事会・裏

ー/ー




「2時の方向・霊体反応・2体確認・距離およそ30m」
「了解」

 
 隣を並走するマリアの助言に従い、俺は山道を小走りに駆ける。多少、人の手が入ったとはいえ夜の山道を走るなんて危険極まりない。
 
 街灯なんてある筈もなく、月や星の光も生い茂る木々に阻まれるこの環境じゃ肉眼で周りを見渡すなんて不可能だろう。

 そよ風が吹くたび聞こえる木々の “ざわめき” と走るたびに鳴り響く、落ち葉や枯れ枝を踏みしめる音……唯一それのみが、ここが山中であると辛うじて主張しているに過ぎない。

 ただ、修業により身に付けた霊視により得られる僅かに確保された視界と、蓄積した実戦経験がそんな状況でも歩を進めさせる。


 …………俺にも、忍者の素質があるんだろうか?
 
 つい先日、勝負を挑んできた “くノ一忍者” の顔を思い浮かべながらそんなことを考える。

 あいつ、あの場で切腹なんかしてねぇだろうな……?多分、ニュースになってねぇからしてねぇとは思うけど。

 
 ここは埼玉県の山中で、時刻は夜の8時過ぎ………ここら一帯に現れる悪霊達の除霊に来てる。

 一体、一体は殆ど雑魚と言っていいレベルの低級霊だが、数がそれなりに多く、さっき言ったように広範囲に散らばってるもんだから、根絶困難として殆ど放置されかかっていた案件をわざわざ貰ってきたわけだ。


 …………まぁ、俺等がやるのって大体そんな案件ばっかなんだが……

 いずれはもっと一般的な案件が取れるようになんて思ってたけど、最近はこれ一本でもいい気がして来てる。他のGSと差別化も出来るしな。

 ただ、今回の案件は雪之丞と2人なら多分スルーしてたと思う……俺等索敵が苦手なんで、普通に日を跨ぐか下手したら朝になっても終わらなかった可能性が高い。


「反応に接近・距離・10m」


 目標に近づいてきたな。

 マリアはさっきと同じように俺の隣を着かず、離れず並走している。

 そう……森で障害物が多いのと俺の速度に合わせる為、ブースターは使わず普通に脚を動かして並走してる。

 視界や足場が悪いにも関わらず、足取りは軽やかかつ安定していて、とてもロボットには思えない。

 『ヨーロッパの魔王ドクター・カオス』が全盛期に作った “最高傑作” ………700年前に作られたのに、こいつは未だ現代のオーバーテクノロジー。

 今の爺さんはボケ掛かってるけど、当時は間違いなく天才……いや、 “化物” だったんだな。

 あの男は一体、人類の何年先を行ってたんだか……そして、人類は今から何年経てば奴に追いつくんだ?


 そんな感慨に耽っている間にも、悪霊との距離はどんどん縮まってくる。マリアの予測通りだ。

 両方とも1mにも満たない低級霊。向こうも俺達に気づき、その青白い輪郭の定まらない体をこっちに向けて襲い掛かってくる。


「好都合だよ……」


 逃げられる方が面倒だからな……俺は、既に展開していた霊手を真横に一閃!

 
 バ、バシュッ!


 2体巻き込むような形で振るう右手に、複数の霊核が消滅した感覚が伝わってくる。


「霊体消滅・確認・周囲・霊体反応なし」
「……今のが最後ってことか?」
「イエス・合計37体・掃討完了です」


 …………37体、大体そんなもんか。


「予定より、随分早く終わったな……」
「イエス・予定より・137分・早いです」


 なら、40分くらいで終わったわけか……まぁ、3時間の予定なんて殆ど根拠のねぇ割り出しだからどうでもいいけど、それでも全体で40分は早すぎる。

 一直線に狩り続けた結果だろうけど、多分地形なんかも考慮に入れて、始めの段階で効率の良い経路を割り出してくれたんだな…………マリア様々だ。

「そうか……マリアの索敵で早く終わったぜ」
「ノー・マリアだけじゃありません・Dr.カオスの “作ったスーツ” ・横島さん・役立ててます」

「………………そうだな」
「横島さん・スーツ・良く似合ってます」






食事会・裏 鴉
「………………………………ドウモアリガトウ」


 褒められて、悪い気はしないが………何とも複雑な気分だ……


 そう…………今日の俺が身に着けてるのは、いつもの霊障スーツじゃない。爺さんが俺の為に作った特殊スーツだ。霊衣とも言うか………まぁ、どっちでもいい。

 居候させて貰ってる礼とか言って、いきなり渡された至極怪しい代物なんだが、着てみると案外快適で疑念は抱きつつもここまで来ちまった。

 まず、前のスーツよりも軽くてがさば(・・・)らない。向こうは、プロテクター着きでこっちは無いから当然と言えば当然なんだが、それでも防御力は変わらない……いや、寧ろ前より上がってるんだから不思議な話だ。理論を説明されたが、全く理解出来なかった。

 だけど、それだけじゃない。それだけだったら、まだ着てくるか迷った。

 このスーツは霊気の “伝導率” は半端ない。

 ピンと来ないかもしれないが、何が言いたいかと言うと着てる物まで自分の体の延長線上のように扱えるって事だ。

 服を着てるのに、まるで着てないと錯覚するまで感覚は鋭敏になるし、全く邪魔に感じなくなる。

 凄く動きやすい………ただ、見た目が……………


 黒の革製のコートに、同じく革製の黒い上着、そして……これまた同じく、黒い革製のズボン。

 全身真っ黒………これだけでも厨二臭さ満載なんだが、そこに加えてコートや上着に施されたシルバーの独特なデザインの装飾類……ゴシック系と言えばいいのか?

 完全に爺さんの趣味だよな……?


 今の俺は、一体何に(・・)見えるんだろうな。

 前のスーツは、除霊師には見えないが代わりに機動隊員や軍人には見えた。

 これは、何だ?何をしてる奴に見えるんだ?ステージ衣装?今流行りのビジュアル系ロックバンドみたいに、ギターぶら下げてステージに上がっても違和感なさそうだな。

 雪之丞に至っては、これを見て「鴉みてぇだ♪」とか言って、大笑いしやがった………何で鴉なんだよ?マスクが嘴に見えんの……??

 ま……まあ、いいかどうせ除霊現場なんて他に人居ねぇし………


 何とかそう思い直すと、話題を変えるようにマリアに語りかける。


「マリア……今日は、すまなかったな。俺の都合で連れ出したりして」


 今日はクリスマス……

 雪之丞達と寂しい人間同士で慰め合い(もっと言えば傷の舐め合い……)パーティーに参加しても良かったんだが、場所が場所だけにどうしてもその気になれなかった。

 かと言って、1人でアパートで寝てるのは余りに虚しいんで仕事で紛らわすことにしたわけだ。
 
 マリアがいればすぐ終わると踏んで、連れ出したわけだが俺の我儘でこんなことするのは、やっぱおかしいよな?

 俺1人じゃ数日掛けても終わらない可能性もあったが、それでも多少の罪悪感は拭えない。


「ノープロブレム・除霊の補助が・事務所に住む・条件です」
「でも、今日はクリスマスだせ……まぁ、いいや。帰ろう」


 そう言ってポケットから文珠を2個取り出す。

 別に出さなくても念じればいいんだが、こうした方が相手に意思が伝わりやすい。

 ちなみに、刻んだ文字は『転』『位』だ。


「マリア、事務所をイメージしてくれ」
「イエス・横島さん」


 マリアの返事に一拍置いて、俺も事務所をイメージして文珠を発動させる。

 それから霊気の光が発せられる瞬間、自分達の体が質量を失い軽くなる感覚を覚える。ただ、それも一瞬にも満たない極々短い時間……その次の瞬間には景色が一変して、真っ暗な山奥から悪霊の常駐する汚い建物の前に降り立っていた…………

 もっと綺麗な表現出来ねぇかな?いや、無理だ……





    ◇◇◇
 

「戻ったぜ、爺さん」 
「戻りました・ドクターカオス」
「何じゃ……早いな小僧、面倒(除霊)になって帰って来たのか?」


 中に入ると、爺さんは来る前と変わらずによく解らんもんを作ってた。んでもって、振り向き様に皮肉かよ。

 
「バッカ、マリアが居るんだ、早く終わったよ」
「当たり前じゃ。儂のマリアじゃぞ♪それより、そのスーツで動いてどうだった?」

「…………良かったよ」
「もっと、具体的に」

「防御は問題ねぇし、山奥でも動きに全く支障が無かった。いや、寧ろ動き安かった。厚着なのに、薄着の感覚で自由に動ける」
「そうか……第一段階(・・・・)はクリア出来たようじゃな」

「何を考えてる……?」
「それは、まだ試作段階じゃからな。徐々に新しい機能を追加して行くぞ」

「礼で、くれたんじゃなかったのか?」
「礼じゃよ♪お主は、それで除霊がしやすくなる。儂は、そこからデータが取れる。ウィン・ウィンじゃろ?」


 何がウィン・ウィンだよ。

 大方、厄珍と金儲けする為の実験台だろ?俺達は……解っちゃあいたけど………


「……まぁ、いいや。とにかく助かったよ」


 そう言うと、俺は奥でいつもの服に着替える。

 
「じゃあな、余り遅くなんなよ」
「なんじゃ、小僧帰るのか?折角ケーキでも、食おうかと買っといたのに」


 言われて見ると、マリアが食器やら何やら準備していた。やっぱ、それなりに準備してたんだな……


「だからだよ。折角の夜に、俺がいちゃ邪魔だろ」


 そう言って、2人に別れを告げて事務所を出る。雪こそ降ってないが、今日は冷える。


「早く帰って寝るか」






    ◇◇◇


 夜道を歩き、駅に着いたら電車に揺られて、それを降りたら、また家まで夜道を歩く。

 その間に、何となくあの娘のことを考えてた。

 事務所でクリスマスパーティーでもしてるんだろうか?それとも、友達と街に繰り出してんのかな?
 
 まさか、魔鈴さんの店で雪之丞達と鉢合わせに……流石にそれはないか?

 そう考えると、今日は少し頑なだった気もする。行って、いつも通り馬鹿話繰り広げるんだって大切な想い出になるよな。
 
 ただ、もし低い確率であの娘と鉢合わせしたら……?


 
 俺はどんな顔して会えばいいんだ?


 全部無かったかのように、振る舞うか?
 喧嘩したことを、ひたすら謝るか?
 それとも場を嫌って、そのまま逃げるか?


 どれを選んでも、最低最悪の気分にしかならねぇよ…………


 謝りたくないんじゃない、寧ろ謝るべきだ。謝れたら、どれだけ楽になるか……?

 ただ、あくまで俺が楽になるだけで、あの娘はどうなんだ?
 
 今更、自己満足的に謝られて嫌な記憶を掘り返される…… “たまった” もんじゃねぇよな?

 …………いや、そう思おうとして俺は逃げてるのか?


 …………………………間違いないな……俺は逃げてる。


 そう思えば、何もしない自分を正当化出来る。だけど、さっきの憶測があながち間違ってるとも思わない。


 …………結局、何回考えても記憶と一緒にあの娘の前から消える、消え続ける………そんな選択肢しか、取れずにいる。



「横島さん……!」
「!?小鳩ちゃん……?」


 物思いに耽ってる間にアパートに着いたらしい……そして、丁度向かい側から帰ってきた、彼女と鉢合わせした感じだ。時刻は既に夜の10時を回ろうとしてる。

 バイト帰りか?いつもの制服姿じゃなくて、茶色のダッフルコートにベージュのパンツと言う出で立ちだ。


「今バイト帰り?クリスマスなのに大変だね」
「そんなことは……横島さんは?」
「まぁ、俺も同じだね…………」


 病弱な母のいる家計を必死に支える彼女と、やること無いから気分を紛らわす為に仕事と入れた俺じゃ、動機に雲泥の差があるけどな……

 
「じゃあ、お疲れ」
「…………よ、横島さん!!」


 挨拶もそこそこ、部屋に戻ろうとした所で彼女に呼び止められた。


「ん?」
「あの……バイト先で売れ残ったケーキを貰ったんです、もし、良かったら…………その、一緒にどうですか?いや、あの食べきれないし…………今日食べないと、もう捨てるしかなくて勿体無いし……!!」


 バイト先……小鳩ちゃんは確か、商店街のスーパーでバイトしてたんだったな。

 ケーキか……


「だ、大丈夫?お母さんだっているのに?」
「だ、大丈夫です!!お母さん、そんなことで嫌がる人じゃありませんから!!」


 …………なんでそんな慌ててるんだ?


「じゃ、じゃあ迷惑でないならご馳走になろうかな……」
 

 少し、気圧されながらそう答えた…………

 


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「了解」
 隣を並走するマリアの助言に従い、俺は山道を小走りに駆ける。多少、人の手が入ったとはいえ夜の山道を走るなんて危険極まりない。
 街灯なんてある筈もなく、月や星の光も生い茂る木々に阻まれるこの環境じゃ肉眼で周りを見渡すなんて不可能だろう。
 そよ風が吹くたび聞こえる木々の “ざわめき” と走るたびに鳴り響く、落ち葉や枯れ枝を踏みしめる音……唯一それのみが、ここが山中であると辛うじて主張しているに過ぎない。
 ただ、修業により身に付けた霊視により得られる僅かに確保された視界と、蓄積した実戦経験がそんな状況でも歩を進めさせる。
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 つい先日、勝負を挑んできた “くノ一忍者” の顔を思い浮かべながらそんなことを考える。
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 ここは埼玉県の山中で、時刻は夜の8時過ぎ………ここら一帯に現れる悪霊達の除霊に来てる。
 一体、一体は殆ど雑魚と言っていいレベルの低級霊だが、数がそれなりに多く、さっき言ったように広範囲に散らばってるもんだから、根絶困難として殆ど放置されかかっていた案件をわざわざ貰ってきたわけだ。
 …………まぁ、俺等がやるのって大体そんな案件ばっかなんだが……
 いずれはもっと一般的な案件が取れるようになんて思ってたけど、最近はこれ一本でもいい気がして来てる。他のGSと差別化も出来るしな。
 ただ、今回の案件は雪之丞と2人なら多分スルーしてたと思う……俺等索敵が苦手なんで、普通に日を跨ぐか下手したら朝になっても終わらなかった可能性が高い。
「反応に接近・距離・10m」
 目標に近づいてきたな。
 マリアはさっきと同じように俺の隣を着かず、離れず並走している。
 そう……森で障害物が多いのと俺の速度に合わせる為、ブースターは使わず普通に脚を動かして並走してる。
 視界や足場が悪いにも関わらず、足取りは軽やかかつ安定していて、とてもロボットには思えない。
 『ヨーロッパの魔王ドクター・カオス』が全盛期に作った “最高傑作” ………700年前に作られたのに、こいつは未だ現代のオーバーテクノロジー。
 今の爺さんはボケ掛かってるけど、当時は間違いなく天才……いや、 “化物” だったんだな。
 あの男は一体、人類の何年先を行ってたんだか……そして、人類は今から何年経てば奴に追いつくんだ?
 そんな感慨に耽っている間にも、悪霊との距離はどんどん縮まってくる。マリアの予測通りだ。
 両方とも1mにも満たない低級霊。向こうも俺達に気づき、その青白い輪郭の定まらない体をこっちに向けて襲い掛かってくる。
「好都合だよ……」
 逃げられる方が面倒だからな……俺は、既に展開していた霊手を真横に一閃!
 バ、バシュッ!
 2体巻き込むような形で振るう右手に、複数の霊核が消滅した感覚が伝わってくる。
「霊体消滅・確認・周囲・霊体反応なし」
「……今のが最後ってことか?」
「イエス・合計37体・掃討完了です」
 …………37体、大体そんなもんか。
「予定より、随分早く終わったな……」
「イエス・予定より・137分・早いです」
 なら、40分くらいで終わったわけか……まぁ、3時間の予定なんて殆ど根拠のねぇ割り出しだからどうでもいいけど、それでも全体で40分は早すぎる。
 一直線に狩り続けた結果だろうけど、多分地形なんかも考慮に入れて、始めの段階で効率の良い経路を割り出してくれたんだな…………マリア様々だ。
「そうか……マリアの索敵で早く終わったぜ」
「ノー・マリアだけじゃありません・Dr.カオスの “作ったスーツ” ・横島さん・役立ててます」
「………………そうだな」
「横島さん・スーツ・良く似合ってます」
「………………………………ドウモアリガトウ」
 褒められて、悪い気はしないが………何とも複雑な気分だ……
 そう…………今日の俺が身に着けてるのは、いつもの霊障スーツじゃない。爺さんが俺の為に作った特殊スーツだ。霊衣とも言うか………まぁ、どっちでもいい。
 居候させて貰ってる礼とか言って、いきなり渡された至極怪しい代物なんだが、着てみると案外快適で疑念は抱きつつもここまで来ちまった。
 まず、前のスーツよりも軽くて|がさば《・・・》らない。向こうは、プロテクター着きでこっちは無いから当然と言えば当然なんだが、それでも防御力は変わらない……いや、寧ろ前より上がってるんだから不思議な話だ。理論を説明されたが、全く理解出来なかった。
 だけど、それだけじゃない。それだけだったら、まだ着てくるか迷った。
 このスーツは霊気の “伝導率” は半端ない。
 ピンと来ないかもしれないが、何が言いたいかと言うと着てる物まで自分の体の延長線上のように扱えるって事だ。
 服を着てるのに、まるで着てないと錯覚するまで感覚は鋭敏になるし、全く邪魔に感じなくなる。
 凄く動きやすい………ただ、見た目が……………
 黒の革製のコートに、同じく革製の黒い上着、そして……これまた同じく、黒い革製のズボン。
 全身真っ黒………これだけでも厨二臭さ満載なんだが、そこに加えてコートや上着に施されたシルバーの独特なデザインの装飾類……ゴシック系と言えばいいのか?
 完全に爺さんの趣味だよな……?
 今の俺は、一体|何に《・・》見えるんだろうな。
 前のスーツは、除霊師には見えないが代わりに機動隊員や軍人には見えた。
 これは、何だ?何をしてる奴に見えるんだ?ステージ衣装?今流行りのビジュアル系ロックバンドみたいに、ギターぶら下げてステージに上がっても違和感なさそうだな。
 雪之丞に至っては、これを見て「鴉みてぇだ♪」とか言って、大笑いしやがった………何で鴉なんだよ?マスクが嘴に見えんの……??
 ま……まあ、いいかどうせ除霊現場なんて他に人居ねぇし………
 何とかそう思い直すと、話題を変えるようにマリアに語りかける。
「マリア……今日は、すまなかったな。俺の都合で連れ出したりして」
 今日はクリスマス……
 雪之丞達と寂しい人間同士で慰め合い(もっと言えば傷の舐め合い……)パーティーに参加しても良かったんだが、場所が場所だけにどうしてもその気になれなかった。
 かと言って、1人でアパートで寝てるのは余りに虚しいんで仕事で紛らわすことにしたわけだ。
 マリアがいればすぐ終わると踏んで、連れ出したわけだが俺の我儘でこんなことするのは、やっぱおかしいよな?
 俺1人じゃ数日掛けても終わらない可能性もあったが、それでも多少の罪悪感は拭えない。
「ノープロブレム・除霊の補助が・事務所に住む・条件です」
「でも、今日はクリスマスだせ……まぁ、いいや。帰ろう」
 そう言ってポケットから文珠を2個取り出す。
 別に出さなくても念じればいいんだが、こうした方が相手に意思が伝わりやすい。
 ちなみに、刻んだ文字は『転』『位』だ。
「マリア、事務所をイメージしてくれ」
「イエス・横島さん」
 マリアの返事に一拍置いて、俺も事務所をイメージして文珠を発動させる。
 それから霊気の光が発せられる瞬間、自分達の体が質量を失い軽くなる感覚を覚える。ただ、それも一瞬にも満たない極々短い時間……その次の瞬間には景色が一変して、真っ暗な山奥から悪霊の常駐する汚い建物の前に降り立っていた…………
 もっと綺麗な表現出来ねぇかな?いや、無理だ……
    ◇◇◇
「戻ったぜ、爺さん」 
「戻りました・ドクターカオス」
「何じゃ……早いな小僧、面倒(除霊)になって帰って来たのか?」
 中に入ると、爺さんは来る前と変わらずによく解らんもんを作ってた。んでもって、振り向き様に皮肉かよ。
「バッカ、マリアが居るんだ、早く終わったよ」
「当たり前じゃ。儂のマリアじゃぞ♪それより、そのスーツで動いてどうだった?」
「…………良かったよ」
「もっと、具体的に」
「防御は問題ねぇし、山奥でも動きに全く支障が無かった。いや、寧ろ動き安かった。厚着なのに、薄着の感覚で自由に動ける」
「そうか……|第一段階《・・・・》はクリア出来たようじゃな」
「何を考えてる……?」
「それは、まだ試作段階じゃからな。徐々に新しい機能を追加して行くぞ」
「礼で、くれたんじゃなかったのか?」
「礼じゃよ♪お主は、それで除霊がしやすくなる。儂は、そこからデータが取れる。ウィン・ウィンじゃろ?」
 何がウィン・ウィンだよ。
 大方、厄珍と金儲けする為の実験台だろ?俺達は……解っちゃあいたけど………
「……まぁ、いいや。とにかく助かったよ」
 そう言うと、俺は奥でいつもの服に着替える。
「じゃあな、余り遅くなんなよ」
「なんじゃ、小僧帰るのか?折角ケーキでも、食おうかと買っといたのに」
 言われて見ると、マリアが食器やら何やら準備していた。やっぱ、それなりに準備してたんだな……
「だからだよ。折角の夜に、俺がいちゃ邪魔だろ」
 そう言って、2人に別れを告げて事務所を出る。雪こそ降ってないが、今日は冷える。
「早く帰って寝るか」
    ◇◇◇
 夜道を歩き、駅に着いたら電車に揺られて、それを降りたら、また家まで夜道を歩く。
 その間に、何となくあの娘のことを考えてた。
 事務所でクリスマスパーティーでもしてるんだろうか?それとも、友達と街に繰り出してんのかな?
 まさか、魔鈴さんの店で雪之丞達と鉢合わせに……流石にそれはないか?
 そう考えると、今日は少し頑なだった気もする。行って、いつも通り馬鹿話繰り広げるんだって大切な想い出になるよな。
 ただ、もし低い確率であの娘と鉢合わせしたら……?
 俺はどんな顔して会えばいいんだ?
 全部無かったかのように、振る舞うか?
 喧嘩したことを、ひたすら謝るか?
 それとも場を嫌って、そのまま逃げるか?
 どれを選んでも、最低最悪の気分にしかならねぇよ…………
 謝りたくないんじゃない、寧ろ謝るべきだ。謝れたら、どれだけ楽になるか……?
 ただ、あくまで俺が楽になるだけで、あの娘はどうなんだ?
 今更、自己満足的に謝られて嫌な記憶を掘り返される…… “たまった” もんじゃねぇよな?
 …………いや、そう思おうとして俺は逃げてるのか?
 …………………………間違いないな……俺は逃げてる。
 そう思えば、何もしない自分を正当化出来る。だけど、さっきの憶測があながち間違ってるとも思わない。
 …………結局、何回考えても記憶と一緒にあの娘の前から消える、消え続ける………そんな選択肢しか、取れずにいる。
「横島さん……!」
「!?小鳩ちゃん……?」
 物思いに耽ってる間にアパートに着いたらしい……そして、丁度向かい側から帰ってきた、彼女と鉢合わせした感じだ。時刻は既に夜の10時を回ろうとしてる。
 バイト帰りか?いつもの制服姿じゃなくて、茶色のダッフルコートにベージュのパンツと言う出で立ちだ。
「今バイト帰り?クリスマスなのに大変だね」
「そんなことは……横島さんは?」
「まぁ、俺も同じだね…………」
 病弱な母のいる家計を必死に支える彼女と、やること無いから気分を紛らわす為に仕事と入れた俺じゃ、動機に雲泥の差があるけどな……
「じゃあ、お疲れ」
「…………よ、横島さん!!」
 挨拶もそこそこ、部屋に戻ろうとした所で彼女に呼び止められた。
「ん?」
「あの……バイト先で売れ残ったケーキを貰ったんです、もし、良かったら…………その、一緒にどうですか?いや、あの食べきれないし…………今日食べないと、もう捨てるしかなくて勿体無いし……!!」
 バイト先……小鳩ちゃんは確か、商店街のスーパーでバイトしてたんだったな。
 ケーキか……
「だ、大丈夫?お母さんだっているのに?」
「だ、大丈夫です!!お母さん、そんなことで嫌がる人じゃありませんから!!」
 …………なんでそんな慌ててるんだ?
「じゃ、じゃあ迷惑でないならご馳走になろうかな……」
 少し、気圧されながらそう答えた…………