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未完の庭と、越境する影 Episode 2

ー/ー






​エディターは、隣の庭との境界線に立ち、刺々しい蔦の隙間から向こう側を覗き込んだ。



​「……その整然とした『校閲』のやり方。相変わらずだな、エディター」


​影の中から、掠れた声が響いた。


現れたのは、ボロボロのコートを羽織り、手に錆びついたペンを持った一人の男。


かつて、同じ編集社で切磋琢磨し、ある「大作」を巡って解釈をぶつけ合ったかつての同僚であり、最大のライバルだった男、マージン。



​「……マージン、やはり君か。ずいぶんと荒れた『庭』に住んでいるんだね」



​エディターの声は冷静だったが、万年筆を握る指先に少しだけ力がこもる。


男の庭は、かつての彼の完璧主義が裏目に出た成れの果てだった。彼は一つの誤字も、一つの妥協も許せなかった。


その結果、物語を完成させることができず、書けなかった言葉たちが「呪いの蔦」となって、自分自身と周囲を縛り付けていたのだ。



​「俺の庭は死んだ。だから、お前の『希望に満ちた新章』なんて見たくもないのさ。この蔦は、俺の絶望の『脚注(フットノート)』だよ」



​男がペンを振ると、蔦がさらに勢いを増し、エディターの庭にある若い芽を絞め殺そうと絡みつく。



​「やめて! この子が苦しがってるじゃない!」


​ルビが激昂し、毛を逆立てて蔦に飛びかかろうとした。しかし、その刺はあまりに鋭く、不用意に触れればルビの柔らかな前足が傷ついてしまう。



​「ルビ、下がるんだ。……彼は、自分の原稿を燃やすこともできず、ただ『未完』のまま凍りついているだけなんだ」



​エディターは、ポケットから「透明なジャム」の小瓶を取り出した。


男はそれを見て、嘲笑するように鼻で笑った。


​「そんな甘いもので、俺の積年の後悔が溶けるとでも思うのか?」


​「これは甘みじゃない。……君がずっと拒んできた、『本当の読後感』だよ」



​エディターは瓶の蓋を開け、自らの万年筆の先を浸した。



そして、自分の庭の土にではなく、境界線を越えて、男の足元にある、真っ黒に腐った蔦の根元に、一滴の雫を落とした。








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​エディターは、隣の庭との境界線に立ち、刺々しい蔦の隙間から向こう側を覗き込んだ。
​「……その整然とした『校閲』のやり方。相変わらずだな、エディター」
​影の中から、掠れた声が響いた。
現れたのは、ボロボロのコートを羽織り、手に錆びついたペンを持った一人の男。
かつて、同じ編集社で切磋琢磨し、ある「大作」を巡って解釈をぶつけ合ったかつての同僚であり、最大のライバルだった男、マージン。
​「……マージン、やはり君か。ずいぶんと荒れた『庭』に住んでいるんだね」
​エディターの声は冷静だったが、万年筆を握る指先に少しだけ力がこもる。
男の庭は、かつての彼の完璧主義が裏目に出た成れの果てだった。彼は一つの誤字も、一つの妥協も許せなかった。
その結果、物語を完成させることができず、書けなかった言葉たちが「呪いの蔦」となって、自分自身と周囲を縛り付けていたのだ。
​「俺の庭は死んだ。だから、お前の『希望に満ちた新章』なんて見たくもないのさ。この蔦は、俺の絶望の『脚注(フットノート)』だよ」
​男がペンを振ると、蔦がさらに勢いを増し、エディターの庭にある若い芽を絞め殺そうと絡みつく。
​「やめて! この子が苦しがってるじゃない!」
​ルビが激昂し、毛を逆立てて蔦に飛びかかろうとした。しかし、その刺はあまりに鋭く、不用意に触れればルビの柔らかな前足が傷ついてしまう。
​「ルビ、下がるんだ。……彼は、自分の原稿を燃やすこともできず、ただ『未完』のまま凍りついているだけなんだ」
​エディターは、ポケットから「透明なジャム」の小瓶を取り出した。
男はそれを見て、嘲笑するように鼻で笑った。
​「そんな甘いもので、俺の積年の後悔が溶けるとでも思うのか?」
​「これは甘みじゃない。……君がずっと拒んできた、『本当の読後感』だよ」
​エディターは瓶の蓋を開け、自らの万年筆の先を浸した。
そして、自分の庭の土にではなく、境界線を越えて、男の足元にある、真っ黒に腐った蔦の根元に、一滴の雫を落とした。