エディターは、隣の庭との境界線に立ち、刺々しい蔦の隙間から向こう側を覗き込んだ。
「……その整然とした『校閲』のやり方。相変わらずだな、エディター」
影の中から、掠れた声が響いた。
現れたのは、ボロボロのコートを羽織り、手に錆びついたペンを持った一人の男。
かつて、同じ編集社で切磋琢磨し、ある「大作」を巡って解釈をぶつけ合ったかつての同僚であり、最大のライバルだった男、マージン。
「……マージン、やはり君か。ずいぶんと荒れた『庭』に住んでいるんだね」
エディターの声は冷静だったが、万年筆を握る指先に少しだけ力がこもる。
男の庭は、かつての彼の完璧主義が裏目に出た成れの果てだった。彼は一つの誤字も、一つの妥協も許せなかった。
その結果、物語を完成させることができず、書けなかった言葉たちが「呪いの蔦」となって、自分自身と周囲を縛り付けていたのだ。
「俺の庭は死んだ。だから、お前の『希望に満ちた新章』なんて見たくもないのさ。この蔦は、俺の絶望の『脚注(フットノート)』だよ」
男がペンを振ると、蔦がさらに勢いを増し、エディターの庭にある若い芽を絞め殺そうと絡みつく。
「やめて! この子が苦しがってるじゃない!」
ルビが激昂し、毛を逆立てて蔦に飛びかかろうとした。しかし、その刺はあまりに鋭く、不用意に触れればルビの柔らかな前足が傷ついてしまう。
「ルビ、下がるんだ。……彼は、自分の原稿を燃やすこともできず、ただ『未完』のまま凍りついているだけなんだ」
エディターは、ポケットから「透明なジャム」の小瓶を取り出した。
男はそれを見て、嘲笑するように鼻で笑った。
「そんな甘いもので、俺の積年の後悔が溶けるとでも思うのか?」
「これは甘みじゃない。……君がずっと拒んできた、『本当の読後感』だよ」
エディターは瓶の蓋を開け、自らの万年筆の先を浸した。
そして、自分の庭の土にではなく、境界線を越えて、男の足元にある、真っ黒に腐った蔦の根元に、一滴の雫を落とした。