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「あなたの庭は、誰の影に怯えていますか?」
エディターの庭に芽吹いた「未来の種」が、成長を止めてしまいました。
その原因は、隣の庭から音もなく這い寄る、刺々しい蔦
そこは、かつてのライバル、マージンが、完璧を求めるあまり放置してしまった「後悔の墓標」でした。
自分の庭を守るために、他人の孤独とどう向き合うのか。
一滴のジャムが、凍りついた二人の時間を溶かし、新しい余白を描き出す再生の物語。
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エディターの書斎の窓の外、かつて風が運んできた種は、小さな芽のまま震えていた。
どれだけ良質なインク(水)を注いでも、この芽は「次のページ」に進もうとしない。
「おかしいわね、エディター。ここの土は柔らかいし、日当たりも悪くない。なのに、この子ったら怯えてるみたい」
ルビが長いしっぽの先で、ひょろりと伸びた芽の頭を優しく撫でた。
エディターは眼鏡の縁を指で押し上げ、庭を囲む低い生垣に目を向けた。
「……原因は、中じゃない。外にあるようだね」
エディターが指し示したのは、隣の家との境界線だった。
そこには、こちら側の瑞々しい土壌とは対照的な、刺々しい「鉄条網のような蔦|」が、音もなく這い寄ってきていた。
隣の庭――そこは、『いつかやるはずだった後悔』が放置され、荒れ放題になった「放棄された原稿」のような場所だった。
隣から伸びてくる影が、エディターの庭の光を奪い、若い芽が未来へ伸びようとする意志を、冷たい刺で封じ込めていたのだ。
「他人の未完の物語が、こちらのプロットを邪魔しているというわけか。……これは、少し厄介な『もらい事故』だね」
「あら、だったら簡単じゃない。その刺、私が全部切り刻んであげるわ」
ルビは鋭い爪を光らせ、長いしっぽを戦闘態勢のS字に曲げた。
だが、エディターはそれを制し、第三話の戦利品である「透明なジャム」の小瓶をそっとポケットから取り出した。
「待つんだ、ルビ。力任せに切り捨てても、隣の庭の主(作者)が納得しなければ、この刺はまたすぐに伸びてくる」
エディターは生垣の向こう側、深く暗い影が沈む「隣の庭」を見据えた。
そこには、自分の物語を書き進めることを諦め、他人の庭(未来)を羨むあまりに、無意識に影を伸ばしてしまっている「誰か」が潜んでいた。