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第74話 指輪

ー/ー



 高規は酒で朦朧とする頭を振りながら、再び伊佐々姫に向き合った。

「あんたにオレの人生のすべてをかけたい」と高規。

「却下よ」と姫。「私を賭けの対象にする気なの? 迷惑だわ」

「全力であんたを幸せにする」と高規。

「私の幸せって何かしら?」と姫。「ちゃんと私のことを考えてちょうだい」

「あんたを危険から守る」と高規。

「わたしはすでに守られているわ」と姫。「もともとわたしは一人では生きられない人間よ」

「あんたは特別な人間だ」と高規。「きっと今迄とは違うトラブルに巻き込まれるだろう」

「用心棒なら足りてるわ」と姫。

「だが、これから先、何が起こるかわからないだろう?」と高規。

「何が起こってもいいわ」と姫。

「なぜだ?」と高規。

「もう私の仕事は終わったの」と姫。

「仕事?」と高規。「やはり何か特別な目的があったのだな」

「ええ」と姫。「用がなければこんな場所に来ないわ」

「だが、すぐにいなくなる必要はないだろう」と高規。「少しの間でいいからオレと一緒に過ごしてくれ」

「いやよ」と姫。「ここは退屈だから居たくないの」

「頼む」と高規。

「なぜ、そんなに私にこだわるのかしら?」と姫。

「あんたのことを、特別だと感じるからだ」と高規。

「どんな風に特別なの?」と姫。

「ずっとあんたの側にいたい」と高規。

「堂々巡りね」と姫。「あなたってやっぱりだめ。あなたのお姉さんの気持ちが分かるわ。あなた、もうちょっと気の利いたセリフを言えないの?」

「そうか」と高規。「だめなのか」

「そうやってあきらめるところが、何も分かってないのよ」と姫。

「オレに何ができる?」と高規。

「自分で考えなさい」と姫。

「あんたの側にいられる」と高規。

「本当に?」と姫がふっと笑った。「ずっと私のくだらない話に付き合うのよ。一緒に食事して、夜は私につぶされるまで酒を飲むのよ」

「かまわない」と高規。「お安い御用だ」

「うそね」と姫。「あなたはお姉さんと過ごすのを面倒くさがって、邪険にしていたのでしょ」

「とても反省している」と高規。「姉に謝りたい。もしできるならば」

「あなたのお姉さんのことなんて知らないわ。好きにしなさい。シスコン坊やさん」と姫。

「あんたと一緒の時間を過ごせるなら何でもする」と高規。

「毎日の生活での、あなたの仏頂面が目に浮かぶわ」と姫。

「頼む、側にいてくれ」と高規。

「絶対にいやよ」と姫は厳しい顔をした。「あなたの都合でこの世界にとどまるなんてお断りだわ」

「オレがついていく」と高規。「だから側にいてくれ」

「上から目線ね」と姫。

「頼むから、あんたの側にいさせてくれ」と高規。

「わたしは自分の世界に帰るわ」と姫。「一緒に来てくれるのかしら」

「もちろんだ」と高規。「どんな場所にでもついていく」

「そうね、そうまでいうなら考えてあげてもいいわ」と姫。「あなたの言いたいことを言わせてあげるわ」

「伊佐々姫、オレと結婚してくれ」と高規。

「ああ、やっぱりだめ」と姫はがっかりしたようにつぶやいた。

「あなたたち、こっちに来てちょうだい」
 姫は部屋の隅にいる二人の侍女に声をかけた。

「この二人を証人にするわ」と姫。「それから、もっと大げさにやって。さっきみたいな安酒を注文するようないい方をしたら、二度と口をきかないわよ」

「すまない」と言いながら高規は片膝をついた。

「ちょっと待ちなさい」と姫。「あなた、ひょっとして手ぶらで来たの?」

 高規は、はっと気がついたそぶりをして、上着のポケットに手を突っ込んで箱を取り出した。

 姫はやれやれという顔をした。
「あなた、その箱の中のものをどこで手に入れたの? まさか祭りの夜店で買ったんじゃないでしょうね」

「姉さんが用意してくれたんだ」と高規。

「どこまでもシスコンなのね」と姫。

「ああ、その通りだ」と高規。

「あなたってふざけてる」と姫。「笑っちゃうわ」

「なぜかこうなるんだ」と笹塚。

「分かったから始めなさい」と姫。

 高規は伊佐々姫の前で片膝をついた。
「伊佐々姫、あなたのことを愛しています。どうかぼくと結婚をして、ぼくをあなたの側にずっといさせてください」

 範経は箱のふたを開けた。

 姫は箱の中を覗くと、目を見開いて言葉を失った。箱の中には薄い黄色の光を放つ宝石の指輪が収められていた。

 姫は体を震わせながら、二人の侍女に目配せした。侍女が箱の中を目にすると直立の姿勢を取り、低く頭を下げた。

「その指輪を私の指にはめてもいいわよ」と姫。

 高規は指輪を手に取り、姫の左手の薬指にはめた。

 姫は小柄な高規の体を強く抱きしめ、耳元でささやいた。
「もう離さないわ」

 高規は姫の体の弾力につぶされそうになりながら意識が遠のくのを感じた。



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「あんたにオレの人生のすべてをかけたい」と高規。
「却下よ」と姫。「私を賭けの対象にする気なの? 迷惑だわ」
「全力であんたを幸せにする」と高規。
「私の幸せって何かしら?」と姫。「ちゃんと私のことを考えてちょうだい」
「あんたを危険から守る」と高規。
「わたしはすでに守られているわ」と姫。「もともとわたしは一人では生きられない人間よ」
「あんたは特別な人間だ」と高規。「きっと今迄とは違うトラブルに巻き込まれるだろう」
「用心棒なら足りてるわ」と姫。
「だが、これから先、何が起こるかわからないだろう?」と高規。
「何が起こってもいいわ」と姫。
「なぜだ?」と高規。
「もう私の仕事は終わったの」と姫。
「仕事?」と高規。「やはり何か特別な目的があったのだな」
「ええ」と姫。「用がなければこんな場所に来ないわ」
「だが、すぐにいなくなる必要はないだろう」と高規。「少しの間でいいからオレと一緒に過ごしてくれ」
「いやよ」と姫。「ここは退屈だから居たくないの」
「頼む」と高規。
「なぜ、そんなに私にこだわるのかしら?」と姫。
「あんたのことを、特別だと感じるからだ」と高規。
「どんな風に特別なの?」と姫。
「ずっとあんたの側にいたい」と高規。
「堂々巡りね」と姫。「あなたってやっぱりだめ。あなたのお姉さんの気持ちが分かるわ。あなた、もうちょっと気の利いたセリフを言えないの?」
「そうか」と高規。「だめなのか」
「そうやってあきらめるところが、何も分かってないのよ」と姫。
「オレに何ができる?」と高規。
「自分で考えなさい」と姫。
「あんたの側にいられる」と高規。
「本当に?」と姫がふっと笑った。「ずっと私のくだらない話に付き合うのよ。一緒に食事して、夜は私につぶされるまで酒を飲むのよ」
「かまわない」と高規。「お安い御用だ」
「うそね」と姫。「あなたはお姉さんと過ごすのを面倒くさがって、邪険にしていたのでしょ」
「とても反省している」と高規。「姉に謝りたい。もしできるならば」
「あなたのお姉さんのことなんて知らないわ。好きにしなさい。シスコン坊やさん」と姫。
「あんたと一緒の時間を過ごせるなら何でもする」と高規。
「毎日の生活での、あなたの仏頂面が目に浮かぶわ」と姫。
「頼む、側にいてくれ」と高規。
「絶対にいやよ」と姫は厳しい顔をした。「あなたの都合でこの世界にとどまるなんてお断りだわ」
「オレがついていく」と高規。「だから側にいてくれ」
「上から目線ね」と姫。
「頼むから、あんたの側にいさせてくれ」と高規。
「わたしは自分の世界に帰るわ」と姫。「一緒に来てくれるのかしら」
「もちろんだ」と高規。「どんな場所にでもついていく」
「そうね、そうまでいうなら考えてあげてもいいわ」と姫。「あなたの言いたいことを言わせてあげるわ」
「伊佐々姫、オレと結婚してくれ」と高規。
「ああ、やっぱりだめ」と姫はがっかりしたようにつぶやいた。
「あなたたち、こっちに来てちょうだい」
 姫は部屋の隅にいる二人の侍女に声をかけた。
「この二人を証人にするわ」と姫。「それから、もっと大げさにやって。さっきみたいな安酒を注文するようないい方をしたら、二度と口をきかないわよ」
「すまない」と言いながら高規は片膝をついた。
「ちょっと待ちなさい」と姫。「あなた、ひょっとして手ぶらで来たの?」
 高規は、はっと気がついたそぶりをして、上着のポケットに手を突っ込んで箱を取り出した。
 姫はやれやれという顔をした。
「あなた、その箱の中のものをどこで手に入れたの? まさか祭りの夜店で買ったんじゃないでしょうね」
「姉さんが用意してくれたんだ」と高規。
「どこまでもシスコンなのね」と姫。
「ああ、その通りだ」と高規。
「あなたってふざけてる」と姫。「笑っちゃうわ」
「なぜかこうなるんだ」と笹塚。
「分かったから始めなさい」と姫。
 高規は伊佐々姫の前で片膝をついた。
「伊佐々姫、あなたのことを愛しています。どうかぼくと結婚をして、ぼくをあなたの側にずっといさせてください」
 範経は箱のふたを開けた。
 姫は箱の中を覗くと、目を見開いて言葉を失った。箱の中には薄い黄色の光を放つ宝石の指輪が収められていた。
 姫は体を震わせながら、二人の侍女に目配せした。侍女が箱の中を目にすると直立の姿勢を取り、低く頭を下げた。
「その指輪を私の指にはめてもいいわよ」と姫。
 高規は指輪を手に取り、姫の左手の薬指にはめた。
 姫は小柄な高規の体を強く抱きしめ、耳元でささやいた。
「もう離さないわ」
 高規は姫の体の弾力につぶされそうになりながら意識が遠のくのを感じた。