第73話 カルバドスの香り
ー/ー 伊佐々姫は、愛弟子の高規がのっぴきならない状況で自分に会いに来たことを察知していた。術で心を読もうとしたがうまくいかなかったため、酒を飲ませてゆっくりと話を聞きだすことにした。
「本題?」と姫。「無粋だわ。あなた、早く用事を終わらせて帰りたいのかしら?」
「そういうわけじゃない」と高規。
「なら飲みなさい」と姫。「そんな思いつめた顔で私を口説くつもりなの?」
「すまない」
高規はグラスを手に取った。
「そんなにひどい顔をしてるのか?」
「ええ、何か取り返しのつかないことをしでかしたって顔よ」
「ええ、何か取り返しのつかないことをしでかしたって顔よ」
姫は心配そうに高規を見た。
「そして、さっきまで一人で泣いてたでしょ」
「ああ、その通りだ」と笹塚。
「それで誰にいじめられたの?」と姫。
「いじめられたわけじゃない」と高規。「大切な人の機嫌を損ねたんだ」
「あなたに大切な人なんていたのね」
「ああ、その通りだ」と笹塚。
「それで誰にいじめられたの?」と姫。
「いじめられたわけじゃない」と高規。「大切な人の機嫌を損ねたんだ」
「あなたに大切な人なんていたのね」
姫は横目で高規を見た。
「だれなの?」
「個人的な相手というか、身内なんだ」と高規。
「言わないなら出ていきなさい」
「個人的な相手というか、身内なんだ」と高規。
「言わないなら出ていきなさい」
姫は怖い顔をした。
「ここで隠し事は許さないわよ」
「姉だ」と高規。
「あら」
「姉だ」と高規。
「あら」
姫はおかしそうに笑った。
「あなた、二百歳は越えてるわよね。お姉さんはお幾つなのかしら」
「知ってたのか?」と笹塚。
「当然よ」と姫。「オカルト科学者さん。私には魔術師とどう違うのか分からないけど」
「オカルトではない。意識を操る科学だ。そして高度に発達した意識は肉体を凌駕する」と高規。「だから年を取らない」
「話をそらさないで。そのお姉さんは誰!」
「知ってたのか?」と笹塚。
「当然よ」と姫。「オカルト科学者さん。私には魔術師とどう違うのか分からないけど」
「オカルトではない。意識を操る科学だ。そして高度に発達した意識は肉体を凌駕する」と高規。「だから年を取らない」
「話をそらさないで。そのお姉さんは誰!」
姫は怖い顔をした。
「姉の生まれ変わりだ」
「姉の生まれ変わりだ」
高規は少しうそをついた。
「ふうん」
「ふうん」
姫は少し意外そうな顔をした。
「どんな人なのかしら?」
「優しい性格だ。オレの世話を焼いてくれる。心配もしてくれる」と高規。
「あらそう」と姫。「あなたはその姉さんが好きなのね」
「ああ、大好きだ」と高規。「どんくさくて、頭が緩くて、お人好しな性格だ。そのくせオレには高圧的で、意固地で、いつも命令してくる」
「姉はそういうものよ」と姫。「イカズチに聞いてみなさい」
「ああ、分かってるんだ」と高規。
「それであなたは何をしでかしたの?」と姫。
「オレが少し思い詰めていて、姉に邪険にしたら機嫌を損ねた」と高規。
「もっと詳しく話しなさい」と姫。「いつから気まずかったの?」
「ずいぶん前からだ」と高規。「姉のおせっかいが疎ましくて」
「お姉さんがかわいそうよ」と姫。
「ああ、反省してる」と高規。
「どう反省してるのかしら」と姫。
「もっと素直になればよかったと思う」と高規。
「素直って、どういうこと」と姫。
「もっと甘えてもよかった」と高規。
「あなた、泣き虫で甘えん坊のくせに、妙に強がるわよね」と姫。
「ああ、その通りだ」と高規。
「それで、怒らせた原因は何だったの?」と姫。
「姉に逆らって愛想をつかされた」
「優しい性格だ。オレの世話を焼いてくれる。心配もしてくれる」と高規。
「あらそう」と姫。「あなたはその姉さんが好きなのね」
「ああ、大好きだ」と高規。「どんくさくて、頭が緩くて、お人好しな性格だ。そのくせオレには高圧的で、意固地で、いつも命令してくる」
「姉はそういうものよ」と姫。「イカズチに聞いてみなさい」
「ああ、分かってるんだ」と高規。
「それであなたは何をしでかしたの?」と姫。
「オレが少し思い詰めていて、姉に邪険にしたら機嫌を損ねた」と高規。
「もっと詳しく話しなさい」と姫。「いつから気まずかったの?」
「ずいぶん前からだ」と高規。「姉のおせっかいが疎ましくて」
「お姉さんがかわいそうよ」と姫。
「ああ、反省してる」と高規。
「どう反省してるのかしら」と姫。
「もっと素直になればよかったと思う」と高規。
「素直って、どういうこと」と姫。
「もっと甘えてもよかった」と高規。
「あなた、泣き虫で甘えん坊のくせに、妙に強がるわよね」と姫。
「ああ、その通りだ」と高規。
「それで、怒らせた原因は何だったの?」と姫。
「姉に逆らって愛想をつかされた」
高規は泣きだしそうな顔をした。
「それに、いつもオレが不機嫌だったから」
「答えなさい。どんなことに逆らったの?」と姫。
「戦場でオレと死にたいと言い出したから断った」と高規。
「答えなさい。どんなことに逆らったの?」と姫。
「戦場でオレと死にたいと言い出したから断った」と高規。
「あなたはもうすぐ死ぬのかしら」と姫。
「分からない。だが将来のことだと思う」と高規。
「一緒に連れていってあげればいいじゃない」と姫。
「姉はオレだけのものじゃない。周りにいる人たちにとっても大切な存在なんだ」と高規。「だから死なせるわけにはいかない」
「それで追い出されたの?」と姫。
「そうではなくて、一緒に死ねないなら、戦場に出るまで姉が用意した身分で生活しろというんだ」と高規。
「お姉さんは上級国民なのね」と姫。
「そんな感じだ」と高規。
「それは誰?」と姫。「私の知り合いのはずよ」
「それは言えない」と高規。
「そうなの。でも大体見当がついたわ」と姫。「それで、あなたは上級国民になることを拒否したのね」
「そうだ」と高規。
「それって、婚約して私の側にいなさいって言うことじゃないの?」と姫。「断ったりしたら、もちろんお姉さんは怒るわよ」
「オレは公人になんてなりたくない」と高規。「自由に生きていたいんだ」
「やっとわかったわ」と姫。「それで、あなたはお姉さんに関係を切られて追い出されたのね」
「姉は関係を清算すると言っていた」と高規。「もう姉弟ではないと」
「それはご愁傷様」
姫はからからと笑った。
高規は涙をぬぐった。
「すまない。こんな話をするつもりじゃなかった」
「確認するけど、一緒に死にたいって文字通りの意味なの?」と姫。「遊園地のアトラクションや仮想現実ゲームの話じゃなくって」
「そうだ」と高規
「ありえない」と姫。「上級国民の女が、平民のあなたと死にたいなんて言うはずないわ」
「嘘じゃない」と高規。
一呼吸、間があいた。
「あなた、神に愛されたのね」と姫。
高規は一瞬、胸に矢を射られた獣のような目をした。
「清算は、下手をすれば大災害を引き起こすわよ」と姫。
「失礼した」
「失礼した」
動揺した高規は、あわてて膝に手をあてて立ち上がろうとした。
姫はすばやく高規の手首を握って引き留め、グラスに酒を注いだ。
「帰さないわよ」と姫。「シスコンはいただけないけど、あなたかわいいわ」
高規は無言だった。
「私の酒が飲めないのかしら」と姫。
高規は再び手の甲で涙をぬぐい、グラスを握った。
「あなた、ちゃんと自分のことが分かってるのね。私に甘えてもいいのよ」
姫はすばやく高規の手首を握って引き留め、グラスに酒を注いだ。
「帰さないわよ」と姫。「シスコンはいただけないけど、あなたかわいいわ」
高規は無言だった。
「私の酒が飲めないのかしら」と姫。
高規は再び手の甲で涙をぬぐい、グラスを握った。
「あなた、ちゃんと自分のことが分かってるのね。私に甘えてもいいのよ」
姫は高規の首に手をあてて自分のほうに引き寄せた。
「そのお酒をぐっと飲みなさい」と姫。
高規は一気に飲み干した。
姫はさらに酒を注ぎながら、高規に顔を近づけた。
「そのお酒をぐっと飲みなさい」と姫。
高規は一気に飲み干した。
姫はさらに酒を注ぎながら、高規に顔を近づけた。
「あなたのことが、ますます好きになったわ」
「それで、お姉さんに追い出されて、私に会いに来たのかしら?」と姫。
「それは違う」と高規。
「では、なぜなのかしら」と姫は笑顔を見せた。
「あんたがいなくなってしまう気がしたからだ」と高規。
「どんな根拠があるのかしら、泣き虫魔術師さん」と姫。
「なんとなくだ。だが確信がある」と高規。
「言葉が変よ。あなた、酔ってるのね」と姫。
「酔ってはいるが、間違ってはいない」と高規。
「やっぱりおかしいわ」と姫。「あなた、酔うと面白いわね」
「あんたも酔ってるだろ。聞いてくれないのか?」と笹塚。
「聞くわ」と姫。「それで、私が死ぬ前にやりに来たのかしら」
「違う。あんたにオレの気持ちを伝えに来た」と高規。
「なぜかしら」と姫。
「後悔したくないからだ」と高規。
「あらそう」と姫。「あなたが帰ってきて、私が生きていたらどうするの?」
「それなら構わない」と笹塚。「むしろあんたと長くいられるなら、オレはうれしい」
「それなら言わせてあげるわ」と姫。「その前に言っておくけど、私はあばずれ女よ。あなたも知ってるでしょ。愛の告白なんて聞き飽きてるから」
「まったく構わない」と高規。「オレの気持ちを分かってもらえれば十分だ」
「あなたって自己中心的ね」と姫。「そんなことだからお姉さんにも嫌われたのよ」
「ああ、分かっている」と高規。「もう、そんなことはどうでもいいんだ。オレはもう、最後に残った自分の気持ちにすがって生きるしかない」
「ずいぶん追い詰められているのね」と姫。「だけど、女がそんな捨て鉢な男を好きになると思ってるの?」
「そうか。やっぱりだめなのか」と高規。
「やりなおしよ」と言いながら姫は高規と自分のグラスに酒を注いだ。
高規は食虫植物の粘液の上でもがく虫のような気分だった。カルバドスの香りの中に沈んでいくような、甘い無力感に包まれていった。
「それで、お姉さんに追い出されて、私に会いに来たのかしら?」と姫。
「それは違う」と高規。
「では、なぜなのかしら」と姫は笑顔を見せた。
「あんたがいなくなってしまう気がしたからだ」と高規。
「どんな根拠があるのかしら、泣き虫魔術師さん」と姫。
「なんとなくだ。だが確信がある」と高規。
「言葉が変よ。あなた、酔ってるのね」と姫。
「酔ってはいるが、間違ってはいない」と高規。
「やっぱりおかしいわ」と姫。「あなた、酔うと面白いわね」
「あんたも酔ってるだろ。聞いてくれないのか?」と笹塚。
「聞くわ」と姫。「それで、私が死ぬ前にやりに来たのかしら」
「違う。あんたにオレの気持ちを伝えに来た」と高規。
「なぜかしら」と姫。
「後悔したくないからだ」と高規。
「あらそう」と姫。「あなたが帰ってきて、私が生きていたらどうするの?」
「それなら構わない」と笹塚。「むしろあんたと長くいられるなら、オレはうれしい」
「それなら言わせてあげるわ」と姫。「その前に言っておくけど、私はあばずれ女よ。あなたも知ってるでしょ。愛の告白なんて聞き飽きてるから」
「まったく構わない」と高規。「オレの気持ちを分かってもらえれば十分だ」
「あなたって自己中心的ね」と姫。「そんなことだからお姉さんにも嫌われたのよ」
「ああ、分かっている」と高規。「もう、そんなことはどうでもいいんだ。オレはもう、最後に残った自分の気持ちにすがって生きるしかない」
「ずいぶん追い詰められているのね」と姫。「だけど、女がそんな捨て鉢な男を好きになると思ってるの?」
「そうか。やっぱりだめなのか」と高規。
「やりなおしよ」と言いながら姫は高規と自分のグラスに酒を注いだ。
高規は食虫植物の粘液の上でもがく虫のような気分だった。カルバドスの香りの中に沈んでいくような、甘い無力感に包まれていった。
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