第79話 救うべき人々
ー/ー町へ戻ると、意味不明な状況になっていた。
人々が手錠のようなものをかけられ、町中の広場に座らされていたのである。
「…」
その光景には、俺だけでなくメリムや秀典も困惑した。
「えーと…これはどういう状況だ?」
「町の人達が…拘束されて?いったい何が…」
そこへ、煌汰がやってきた。
「ああ、戻ってきたか!」
「煌汰。これは…どういうことだ?」
「実はね、苺さんの調べで、この町の人達みんなに異形が取り憑いてることがわかったんだ。だから、全員から異形を祓い終わるまで町の人達を拘束しておく事にしたんだ」
「異形が…?でも、祓うって…そんな事できるのか?」
「苺さんたちが使う白魔法…あれを使えば、人やものに取り憑いてる異形を祓えるんだって。さすがに町の人みんなをお祓いするのは時間がかかるらしいけど」
「まあそうだよな。でも、なんで町の人達を拘束しておく必要があるんだ?」
「詳しくは知らないけど、町の人達が自殺してるのは異形のせいらしい。だから、安全のために拘束しておくことになったんだ」
煌汰がそう言ってるそばから、一人の男が突然狂ったように暴れ出した。
そいつはわめきながら手錠を外そうともがいている。
「まずい…![氷閉じ]!」
煌汰が術を唱えて男を氷に閉じ込め、動きを止めた。
「今のが、異形に操られてたのか…」
「そう。取り憑かれてる人は、定期的に発作を起こして自殺しようとする。そしてそれができないと暴れまわる。だから、僕が監視役を任されたんだ」
人に取りつき、自殺に向かわせる…まるで死神だ。
いや、ある意味死神みたいなものかもしれない。
「それで、苺たちの方はどうなんだ?」
「あっちにいるよ。何人かまとめてお祓いしてるみたいだけど、いつ終わるかはわかんないや」
煌汰は町の奥、ちょうど酒場の角を曲がるあたりを指さす。
「わかった」
そうして、俺達は煌汰の言っていた方へ向かった。
酒場の角を曲がるとすぐに苺達の姿が見えた。
それを見て気づいたが、町に戻ってきた後、キョウラの姿を見ていなかった。
いつの間に、あっちへ行っていたのだろう。
何人か一列に並んだ人達の前には、苺達3人の他に変な男も何人かいる。
「ん?なんか見たことない顔があるな…」
「この町の神父だな。神父も修道士系種族だから、白魔法を使えるんだろう」
秀典がそう言うということは、そうなのだろう。
というか、神父も修道士系の異人なのか…まあ、なんとなく見当はついてたが。
苺達は杖を出し、目の前に並んだ人達に何やら魔法を唱えていて、絶賛お祓い中だ。
声をかけるのはやめておこうと思ったのだが、キョウラはこちらに気づくと苺と吏廻流に何か伝え、抜け出してこちらへ歩いてきた。
「姜芽様、何も言わず離れてしまってごめんなさい」
「いや…それより、お祓いはいいのか?」
「私の役目は、あくまでもお母様達のサポートです。それに、私の他にもこの町の神父様方が協力して下さっているので、私がいなくても大した影響はありません」
「え?でもキョウラって修道士だろ?白魔法で異形を祓えるんじゃないのか?」
康介がそう言うと、キョウラは少し悲しげな顔をした。
「確かにそうです。ですが、私の魔力で祓う事が出来る異形は限られています。そして今回町の方々に憑依した異形は、私には祓えない強さのもののようで…せめてお母様達のサポートが出来ればと、傍らに立って魔力の援助をさせていただいているんです」
「そ、そうか。それは…ごめんな」
「いえ、いいのです。私は修道院を出たばかりの、まだまだ修行の足りない修道士です。救えない人がいるのは、仕方のないことです」
口ではそう言うが、本当はとても悔しいし悲しいだろう。
「姜芽?何してるんだ?」
キョウラが…いや、仲間が悲しむのは見たくない。
だから、俺は一か八か試してみる事にした。
「キョウラ。これを持って、異形を祓えるか試してみてくれ」
「…!」
「これを持てば、魔力が倍になるんだろ?試してみる価値はあると思うぜ」
俺は、先ほど手に入れたばかりの魔幻のオーブをキョウラに差し出したのだ。
「しかし…いいのですか?」
「ああ。これ、消耗品でもないだろ?それに、仮にこれで消費したとしても、キョウラが悔いなく活躍出来ればそれでいい」
「姜芽様…」
キョウラは少しの沈黙の後、オーブを受け取り、苺達の元へ戻った。
そして、苺達と同じように町の人の前に立ち、杖を出して魔法を唱えた。
すると、キョウラの魔法を受けた人の背中から黒いもやのようなものが出てきた。
それは数秒で体から完全に抜け出し、すぐに消滅した。
「おお…!」
「上手く行ったみたいだな。よかったよかった」
お祓いが終わった人がいなくなると、キョウラは笑顔で頭を下げてきた。だが、俺は感謝されるようなことをしたつもりはない。
仲間に未練が残らないよう、出来る限りの事をしたまでである。
広場へ戻った俺達は煌汰同様、まだお祓いの済んでいない人達を監視することにした。
時折暴れ出す人が現れるが、これは煌汰の氷術や柳助の地術などで拘束し、セルクやメニィの術で鎮静、あるいは眠らせた。
俺の「バーニングリング」で縛る手もあったが、それだと怪我をさせてしまいかねない。
罪のない一般人は、可能な限り傷つけずに助けたい。
それは、この場にいる皆が共通で思っていたことであった。
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