塾のビルから出た瞬間、
夜気がひやりと頬をかすめた。
スマホが震える。
画面に──「連休さあ、どっか行く?」
その他愛なさに、胸の奥で固まっていたものが少しだけゆるむ。
宿題、部活、家の空気。
今日一日、息を詰めたまま走ってきたみたいで、
はぁ、と漏れた息が白く散った。
その足元を、一匹のネコが音もなく横切る。
影より軽く、でも確かに温度を持った存在だった。
自然と歩みを緩めてしまう。
スマホがもう一度震える。
「駅前でもいいしー」「なんなら何もせずしゃべるだけでもさあ」
そんな気楽さに、またひとつ肩の力が抜ける。
息を抜いていいんだ、と身体が思い出す。
ためらいながらも返信を打つ。
ネコは電柱のそばで立ち止まり、
彼らの小さな日常のほころびを、静かに見届けていた。
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《自由詩》
ひとの言葉は
夜の隙間をぬけて
そっと灯る
風に揺れる
かすかな光
ひとの胸をあたためていた