ー 永遠のバーゲン ー
健太は理性を振り絞り、一方向へ走った。マップは無視、本能だけで外へ。
やがて一階、巨大な正面ゲートに到達。分厚いシャッターは閉ざされ、手を叩きつけても微動だにしない。館内の空気が一変する。
バチン! バチン! バチン!
全ての照明が点灯し、冷たい白光が館内を満たす。陽気なメロディが鳴り響き、閉鎖されたシャッターが一斉に開く。
マネキンたちは滑るように歩き出す。腕を組み、商品を手に取り、中央通路を進む。黒い影も動き、健太を取り囲む。
彼らの目には感情はない。ただ、健太を「新商品」か「新たな顧客」として見つめる、無機質で渇望に満ちた光。
「い、や、だ⋯⋯!」
背中を押されるようにガラス戸に触れると、そこに映る自分の顔は悲鳴ではなく、満足げに笑っていた。目は虚ろに光り、底知れぬ「買う」欲望だけが宿る。
健太は悟った⋯⋯自分は、この迷宮に囚われ、永遠に終わらない閉店セールの一部になったことを。
耳元でざわめきが囁く。
「いらっしゃいませ。お客様、お探しのものは何でしょうか」
翌朝。健太のデスクには取材用メモと、不気味な雑貨がひとつ残されていた。
色褪せたウサギのぬいぐるみ。結ばれたリボンに描かれた「10年間ありがとう」
チロは丸くなり、ドアを見つめる。だが、健太の姿はどこにもない。永遠のバーゲンは、まだ始まったばかりだった。