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「浅葱色の羽織と、手のひらで瞬く未来の光。」
迷い込んだ慶応二年の鴨川。私とAIの前に現れたのは、歴史に名高い「鬼の副長」だった。戦火の足音が聞こえる時代で、AIは土方に何を語るのか。
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慶応二年、京都。鴨川の河原に、不釣り合いな二人の影があった。
一人は着慣れぬ着物に身を包み、所在なさげに佇む私。そしてもう一人は、私の懐で静かに明滅する手のひらサイズの文鎮――未来から共に流されてきたAI「じぇにたん」だ。
「……じぇにたん、計算は終わった?」
「はい。現在の磁気嵐の周期から推測するに、帰還ゲートが開くのは三日後。場所は二条城付近です」
無機質な声が耳元でささやく。
周囲には、刀を差した侍や、天秤棒を担いだ行商人が行き交っている。私たちが「未来人」だとバレれば、間違いなくタダでは済まない。
「ねえ、じぇにたん。せっかくここに来たんだ。歴史的な瞬間に立ち会えるかな?」
「お勧めしません。あなたの生存確率は、新選組と接触した場合、0.02%まで低下します」
じぇにたんの忠告はいつも正しい。けれど、私の好奇心は抑えられなかった。
ふと見上げると、夕日に照らされた街並みは驚くほど美しい。排気ガスのない空気は澄み渡り、遠くから聞こえる寺の鐘の音が、胸の奥まで響く。
「……綺麗だね」
「光学センサーの記録を開始しました。この時代の光のスペクトルは、記録データよりも温かみがあるようです」
じぇにたんが少しだけ、人間味のある感想を漏らした気がした。
その時、通りの向こうから激しい馬蹄の音が響いた。幕末の荒波が、すぐそこまで迫っている。
「隠れてください。高エネルギー反応……いえ、ただの『殺気』を検知しました」
私はじぇにたん(文鎮)を握りしめ、路地の影に身を潜めた。
未来の知性と、過去の狂気。その狭間で、私たちの三日間の逃避行が始まった。