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言いたいことがあるってよ

ー/ー



 とある中小企業。



 食品や日用品を幅広く取り扱うその会社は、普段は静かに業務が進んでいる。



 ——バン!



 突然、事務所のドアが勢いよく開け放たれた。



「きゃっ!」



 事務員が驚いて立ち上がり、ドアの方を見ると——



 そこには全身がメタリックシルバーの異様な男が立っていた。



 その男はサングラス越しに鋭い視線を放ち、恐ろしい笑みを浮かべている。



「あ、あの……ど、どちら様……?」

 事務員はおそるおそる尋ねた。



 男はゆっくりと歩み寄りながら、低く響く声で答えた。

「客だぜ。ここのなぁ!」



 その不気味な声と笑みが、事務所内の空気を一気に凍りつかせた。



 謎の男、ヴァイは手に持っていた包みを見せつけた。

「これだよ。」



 包みの中から取り出されたのは、この会社が製造販売したおせちのパッケージだった。



 事務員の心臓がドクンと鳴る。

(まさか……おせちでクレームが……!?)



「あ、あの……その商品について、な、なにか……?」

 震える声で尋ねる事務員。



 ヴァイは不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと答えた。

「言いてえことがあるんだよ。」



 彼は指で箱を軽く叩きながら続ける。

「……責任者、呼んでこいよ。」



 その笑みは、何かを企んでいるかのように不気味で、得体の知れない威圧感を放っていた。事務員は慌てて責任者のいる部屋へ駆け出した。



「し、少々お待ちください!」



(やばい、絶対まともな用件じゃない……!)



 企画部の部長は、事務員から状況を聞かされても、顔を青ざめたまま行くのを嫌がった。



「あんなの絶対ヤクザかなんかだろ……。」



「け、警察を呼んで……。」



 部長が呟いた瞬間、遠くから怒号と机を叩く音が響いてきた。



「……早くしろよぉ!頼むヨオオオォ!」



 その声に社員たちは一斉に凍りつき、静まり返る。事務室全体に恐怖がじわじわと広がっていた。



 事務員と部長が押し問答を始める。



「でも警察なんか呼んで逆恨みされたらどうするんですか!」

「絶対、反社かなんかだよ!やべえって!」



 部長は逃げ腰のまま考え込んでいたが、ふと若手社員の谷口と目が合うと、急に指をさして指示を飛ばした。



「そ、そうだ!谷口くん!話を聞きに行ってこい!」



 谷口は目を丸くして抵抗する。

「いや……あの人、責任者を出せって言ってましたけど……。」



「おせちの品質チェックはアンタが担当だっただろ!?」

 部長は必死に理由を作り上げ、押し付けようとする。



 部長と谷口が押し問答をしている最中、突然、背後から低い声が響いた。



「これを作ったのは誰だよ?」



 振り向くと、そこにはヴァイが立っていた。



 彼は誰にも制止されることなく、まるで普通に会社の中を歩いてきたようだった。いや、止められる人間など誰もいなかったのだ。

 サングラス越しの不気味な笑みと、その異様な存在感。



「ひ……。」



 部長は目を逸らしながら、肘で谷口を軽く突いた。



(頼む!ここはお前がなんとかしてくれ!)



 その無言の圧力に、谷口は崖から飛び降りるような気分で一歩前に出た。そして覚悟を決めて叫ぶ。



「わ、私です!た、たた……確かにこれを作ったのは!」



 部屋の空気が一瞬にして静まり返る。



 ——サングラス越しに谷口を見下ろすヴァイ。



 その視線には、何か底知れないものが宿っていた。

 谷口は冷や汗を流しながら次の言葉を待つが、ヴァイは何も言わず、じっとその場に立ち尽くしている。
 


(……何が起こるんだ……!?)



 その場にいる全員が、息を飲んで成り行きを見守っていた。



 ——ニカァ!



 ヴァイが地獄のような笑みを浮かべた。



「うんめええじゃねえかよおぉん!」

「え!?」



 谷口も部長も、そして周囲の社員たちもポカンとした顔になる。



 ヴァイは手に持ったおせちの箱を掲げながら続けた。

「いや、これよくできてるぜ?アシの早い食材はちゃんと真空パックしてるしよぉ。」



 彼はパッケージを指差しながら得意げに語る。

「それにチキンとか、温めたいじゃん?ほら、これ。」



 ヴァイの手元には電子レンジに入れた場合の調理時間が書かれた説明書が握られていた。



「ちゃんと電子レンジの時間まで書いてやがる。すげえゼェ?気が利いてるじゃねえかよ!」

「え!?」



 褒められるとは夢にも思っていなかった谷口は、完全に動揺している。部長も口を開けたまま固まっている。



 ヴァイはニヤリと笑いながら、財布から札束を鷲掴みにした。



「チップやるよ。」



 そう言うと、谷口のポケットに無理やり札束を押し込んだ。



「え、えええ……。」



 谷口は目を丸くしながらその重みを感じ取る。



 だがヴァイはそんな彼を気にすることなく話を続けた。



「それから売り方なんだけどよ——」



 その瞬間、横から部長が谷口を押し除けるように前に出てきた。



「ええ!売り方はもう、私が考えましてねぇ……!」



 部長の声はどこか上擦っていて、妙に焦ったような調子だった。

 周囲の社員たちは、その光景を恐ろしいものを見るような目でじっと見つめている。



(何やってんだ、あの人……。)



 谷口も呆然としながら、ポケットに突っ込まれた札束を手で押さえていた。



 部長が前に出て、得意げに売り方を語ろうとした瞬間——

 ヴァイの表情がクワッと変わった。



「——売り方がクソなんだよ!ボケェ!」

「へっ!?」



 部長の声が裏返る。

 ヴァイは机をドンと叩きながらまくし立てた。



「おめえよ……おせちが1月6日に届いてどうするんだよ!?あん?」

「そ、それは……。」



 部長が後ずさりしながら言い訳を考えようとするが、ヴァイは容赦なく追撃する。



「普通よぉ……おせちってのは元旦とかヨォ……年末とかに届くもんだろぉ?」

「ひっ……。」



 部長の額からは冷や汗が滴り落ちる。



「てか、そもそもおせちってそういう文化だろぉ!?正月に食べるもんなんだよ!」



 ヴァイの怒声が事務室内に響き渡り、社員たちは全員息を潜めて様子を伺っていた。



 そう、このおせちは三が日をとっくに過ぎた1月6日に届いていたのだ。
 お客様に正月の食卓を提供するどころか、完全にタイミングを外してしまっていた。



 ヴァイの視線は今度こそ部長に完全に向けられていた。



「どう落とし前つけんだよ、あぁ!?」



 ヴァイの怒りは完全に部長に向けられていた。

「てか、このおせちヨォ!」



 ヴァイが手に持ったパッケージを振り回しながら吠える。

「お前んとこの『ポイント』引換のみってどういうことだよゴルラアアァ!」



 ——バコォン!



 ヴァイは手近にあった机を強烈に叩き、部屋中に轟音が響き渡る。



「ヒイイイィ……!」



 部長は腰が抜けそうになり、壁際に追い詰められた。



 その間に谷口は、どさくさに紛れて素早くその場から逃げ出していた。気配を消し、身を低くして事務所の隅へと消えていく。

 部長だけがヴァイの標的として残される形に。



「会員登録してよぉ、ポイントを買ってよぉ……それでお前……三が日過ぎてから配達って、ぶち殺すぞお前!」



 ヴァイの声が低く響き、怒りが冷酷な威圧感へと変わる。



 ——ジャキ



 次の瞬間、ヴァイの手元から「それ」が部長に突きつけられた。
 明らかにプラスチックではない、本物の銃口が部長の額を指していた。



「さぁ、どうしてくれるんだよ?」



 その静かな声に、部長の全身から冷や汗が吹き出す。社員たちは誰一人声を発せず、恐怖に震えているだけだった。



 ヴァイは無言で部長の襟を掴むと、そのままずるずると引きずり始めた。



「ちょっ、まっ、待ってください!どこへ……!?助け……!」



 部長の必死の叫びも虚しく、ヴァイは一切振り返らず、淡々と事務所の出口へ向かう。

 社員たちはその様子を誰一人止めることができず、ただ凍りついたように見送るしかなかった。



 そして——



 ヴァイと部長は、そのままどこかへと消えていった。



 事務所には静寂だけが残され、誰も口を開くことができないまま時間が過ぎていった。



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 食品や日用品を幅広く取り扱うその会社は、普段は静かに業務が進んでいる。
 ——バン!
 突然、事務所のドアが勢いよく開け放たれた。
「きゃっ!」
 事務員が驚いて立ち上がり、ドアの方を見ると——
 そこには全身がメタリックシルバーの異様な男が立っていた。
 その男はサングラス越しに鋭い視線を放ち、恐ろしい笑みを浮かべている。
「あ、あの……ど、どちら様……?」
 事務員はおそるおそる尋ねた。
 男はゆっくりと歩み寄りながら、低く響く声で答えた。
「客だぜ。ここのなぁ!」
 その不気味な声と笑みが、事務所内の空気を一気に凍りつかせた。
 謎の男、ヴァイは手に持っていた包みを見せつけた。
「これだよ。」
 包みの中から取り出されたのは、この会社が製造販売したおせちのパッケージだった。
 事務員の心臓がドクンと鳴る。
(まさか……おせちでクレームが……!?)
「あ、あの……その商品について、な、なにか……?」
 震える声で尋ねる事務員。
 ヴァイは不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと答えた。
「言いてえことがあるんだよ。」
 彼は指で箱を軽く叩きながら続ける。
「……責任者、呼んでこいよ。」
 その笑みは、何かを企んでいるかのように不気味で、得体の知れない威圧感を放っていた。事務員は慌てて責任者のいる部屋へ駆け出した。
「し、少々お待ちください!」
(やばい、絶対まともな用件じゃない……!)
 企画部の部長は、事務員から状況を聞かされても、顔を青ざめたまま行くのを嫌がった。
「あんなの絶対ヤクザかなんかだろ……。」
「け、警察を呼んで……。」
 部長が呟いた瞬間、遠くから怒号と机を叩く音が響いてきた。
「……早くしろよぉ!頼むヨオオオォ!」
 その声に社員たちは一斉に凍りつき、静まり返る。事務室全体に恐怖がじわじわと広がっていた。
 事務員と部長が押し問答を始める。
「でも警察なんか呼んで逆恨みされたらどうするんですか!」
「絶対、反社かなんかだよ!やべえって!」
 部長は逃げ腰のまま考え込んでいたが、ふと若手社員の谷口と目が合うと、急に指をさして指示を飛ばした。
「そ、そうだ!谷口くん!話を聞きに行ってこい!」
 谷口は目を丸くして抵抗する。
「いや……あの人、責任者を出せって言ってましたけど……。」
「おせちの品質チェックはアンタが担当だっただろ!?」
 部長は必死に理由を作り上げ、押し付けようとする。
 部長と谷口が押し問答をしている最中、突然、背後から低い声が響いた。
「これを作ったのは誰だよ?」
 振り向くと、そこにはヴァイが立っていた。
 彼は誰にも制止されることなく、まるで普通に会社の中を歩いてきたようだった。いや、止められる人間など誰もいなかったのだ。
 サングラス越しの不気味な笑みと、その異様な存在感。
「ひ……。」
 部長は目を逸らしながら、肘で谷口を軽く突いた。
(頼む!ここはお前がなんとかしてくれ!)
 その無言の圧力に、谷口は崖から飛び降りるような気分で一歩前に出た。そして覚悟を決めて叫ぶ。
「わ、私です!た、たた……確かにこれを作ったのは!」
 部屋の空気が一瞬にして静まり返る。
 ——サングラス越しに谷口を見下ろすヴァイ。
 その視線には、何か底知れないものが宿っていた。
 谷口は冷や汗を流しながら次の言葉を待つが、ヴァイは何も言わず、じっとその場に立ち尽くしている。
(……何が起こるんだ……!?)
 その場にいる全員が、息を飲んで成り行きを見守っていた。
 ——ニカァ!
 ヴァイが地獄のような笑みを浮かべた。
「うんめええじゃねえかよおぉん!」
「え!?」
 谷口も部長も、そして周囲の社員たちもポカンとした顔になる。
 ヴァイは手に持ったおせちの箱を掲げながら続けた。
「いや、これよくできてるぜ?アシの早い食材はちゃんと真空パックしてるしよぉ。」
 彼はパッケージを指差しながら得意げに語る。
「それにチキンとか、温めたいじゃん?ほら、これ。」
 ヴァイの手元には電子レンジに入れた場合の調理時間が書かれた説明書が握られていた。
「ちゃんと電子レンジの時間まで書いてやがる。すげえゼェ?気が利いてるじゃねえかよ!」
「え!?」
 褒められるとは夢にも思っていなかった谷口は、完全に動揺している。部長も口を開けたまま固まっている。
 ヴァイはニヤリと笑いながら、財布から札束を鷲掴みにした。
「チップやるよ。」
 そう言うと、谷口のポケットに無理やり札束を押し込んだ。
「え、えええ……。」
 谷口は目を丸くしながらその重みを感じ取る。
 だがヴァイはそんな彼を気にすることなく話を続けた。
「それから売り方なんだけどよ——」
 その瞬間、横から部長が谷口を押し除けるように前に出てきた。
「ええ!売り方はもう、私が考えましてねぇ……!」
 部長の声はどこか上擦っていて、妙に焦ったような調子だった。
 周囲の社員たちは、その光景を恐ろしいものを見るような目でじっと見つめている。
(何やってんだ、あの人……。)
 谷口も呆然としながら、ポケットに突っ込まれた札束を手で押さえていた。
 部長が前に出て、得意げに売り方を語ろうとした瞬間——
 ヴァイの表情がクワッと変わった。
「——売り方がクソなんだよ!ボケェ!」
「へっ!?」
 部長の声が裏返る。
 ヴァイは机をドンと叩きながらまくし立てた。
「おめえよ……おせちが1月6日に届いてどうするんだよ!?あん?」
「そ、それは……。」
 部長が後ずさりしながら言い訳を考えようとするが、ヴァイは容赦なく追撃する。
「普通よぉ……おせちってのは元旦とかヨォ……年末とかに届くもんだろぉ?」
「ひっ……。」
 部長の額からは冷や汗が滴り落ちる。
「てか、そもそもおせちってそういう文化だろぉ!?正月に食べるもんなんだよ!」
 ヴァイの怒声が事務室内に響き渡り、社員たちは全員息を潜めて様子を伺っていた。
 そう、このおせちは三が日をとっくに過ぎた1月6日に届いていたのだ。
 お客様に正月の食卓を提供するどころか、完全にタイミングを外してしまっていた。
 ヴァイの視線は今度こそ部長に完全に向けられていた。
「どう落とし前つけんだよ、あぁ!?」
 ヴァイの怒りは完全に部長に向けられていた。
「てか、このおせちヨォ!」
 ヴァイが手に持ったパッケージを振り回しながら吠える。
「お前んとこの『ポイント』引換のみってどういうことだよゴルラアアァ!」
 ——バコォン!
 ヴァイは手近にあった机を強烈に叩き、部屋中に轟音が響き渡る。
「ヒイイイィ……!」
 部長は腰が抜けそうになり、壁際に追い詰められた。
 その間に谷口は、どさくさに紛れて素早くその場から逃げ出していた。気配を消し、身を低くして事務所の隅へと消えていく。
 部長だけがヴァイの標的として残される形に。
「会員登録してよぉ、ポイントを買ってよぉ……それでお前……三が日過ぎてから配達って、ぶち殺すぞお前!」
 ヴァイの声が低く響き、怒りが冷酷な威圧感へと変わる。
 ——ジャキ
 次の瞬間、ヴァイの手元から「それ」が部長に突きつけられた。
 明らかにプラスチックではない、本物の銃口が部長の額を指していた。
「さぁ、どうしてくれるんだよ?」
 その静かな声に、部長の全身から冷や汗が吹き出す。社員たちは誰一人声を発せず、恐怖に震えているだけだった。
 ヴァイは無言で部長の襟を掴むと、そのままずるずると引きずり始めた。
「ちょっ、まっ、待ってください!どこへ……!?助け……!」
 部長の必死の叫びも虚しく、ヴァイは一切振り返らず、淡々と事務所の出口へ向かう。
 社員たちはその様子を誰一人止めることができず、ただ凍りついたように見送るしかなかった。
 そして——
 ヴァイと部長は、そのままどこかへと消えていった。
 事務所には静寂だけが残され、誰も口を開くことができないまま時間が過ぎていった。