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デジタル・ドッペルゲンガー 2

ー/ー



 カナからの連絡が途絶えて三日が過ぎた。

最後に送られてきた写真――クローゼットの中にまで「彼」が入り込んでいたあの一枚を最後に、彼女のSNSは更新されていない。


​心配になって電話をかけようとしたその時、スマートフォンの通知が鳴った。

カナからではない。高校時代の同級生で、今は海外に住んでいるタカシからだ。


​『なあ、これ見てくれよ。変なものが写ってるんだ』

​送られてきたのは、彼が旅先の北欧で撮ったというオーロラの写真だった。

幻想的な光のカーテンの下、凍てつく雪原の真ん中に、不自然な黒いシルエットがある。



 ピンチアウトするまでもなかった。
見覚えのある、あのトレンチコートの男だ。


​カナの写真にいた時よりも、男の輪郭はさらに鮮明になっている。表情までは読み取れないが、以前よりも「実体」に近い密度を感じさせた。


​「……移動した?」

​私は震える指で検索をかけた。 

SNSで「心霊写真」「トレンチコート」「バグ」といった単語を組み合わせ、最新の投稿を洗う。


結果はすぐに現れた。

​昨日の夜、誰かがアップした誕生日のケーキの写真。


今朝、誰かが載せた通勤電車の窓。

そこには必ず、あの男がいた。

​彼は一人ではない。特定の誰かに執着するのをやめ、世界中のデジタルデータの間を、凄まじい速度でホッピングし始めているのだ。


​私は気づいた。

彼は出口を探していたのではない。

ネットワークという巨大な血管を流れる「ウイルス」のように、自分という情報を増殖させるためのパス(経路)を求めていたのだ。


​カナのスマホからタカシのスマホへ、そして見知らぬ誰かのサーバーへ。


男が写り込むたびに、その写真の解像度はわずかに下がり、代わりに男の解像度が上がっていく。

まるで、写真に写った人々の「現実味」を吸い取って、自分の肉体に変換しているかのように。


​ ふと、自分のスマホの画面が暗転し、インカメラが勝手に起動した。


真っ暗な画面に、ぼんやりと自分の顔が映る。


その私の背後に、見覚えのあるコートの影が、今までで一番はっきりと、そこに「在った」


​シャッター音が、静かな部屋に響いた。






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 カナからの連絡が途絶えて三日が過ぎた。
最後に送られてきた写真――クローゼットの中にまで「彼」が入り込んでいたあの一枚を最後に、彼女のSNSは更新されていない。
​心配になって電話をかけようとしたその時、スマートフォンの通知が鳴った。
カナからではない。高校時代の同級生で、今は海外に住んでいるタカシからだ。
​『なあ、これ見てくれよ。変なものが写ってるんだ』
​送られてきたのは、彼が旅先の北欧で撮ったというオーロラの写真だった。
幻想的な光のカーテンの下、凍てつく雪原の真ん中に、不自然な黒いシルエットがある。
 ピンチアウトするまでもなかった。
見覚えのある、あのトレンチコートの男だ。
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​「……移動した?」
​私は震える指で検索をかけた。 
SNSで「心霊写真」「トレンチコート」「バグ」といった単語を組み合わせ、最新の投稿を洗う。
結果はすぐに現れた。
​昨日の夜、誰かがアップした誕生日のケーキの写真。
今朝、誰かが載せた通勤電車の窓。
そこには必ず、あの男がいた。
​彼は一人ではない。特定の誰かに執着するのをやめ、世界中のデジタルデータの間を、凄まじい速度でホッピングし始めているのだ。
​私は気づいた。
彼は出口を探していたのではない。
ネットワークという巨大な血管を流れる「ウイルス」のように、自分という情報を増殖させるためのパス(経路)を求めていたのだ。
​カナのスマホからタカシのスマホへ、そして見知らぬ誰かのサーバーへ。
男が写り込むたびに、その写真の解像度はわずかに下がり、代わりに男の解像度が上がっていく。
まるで、写真に写った人々の「現実味」を吸い取って、自分の肉体に変換しているかのように。
​ ふと、自分のスマホの画面が暗転し、インカメラが勝手に起動した。
真っ暗な画面に、ぼんやりと自分の顔が映る。
その私の背後に、見覚えのあるコートの影が、今までで一番はっきりと、そこに「在った」
​シャッター音が、静かな部屋に響いた。