「また増えてる」
カフェのテーブルに置かれたスマホを覗き込み、親友のカナが溜息をついた。
画面には、昨日彼女が公園で撮ったという自撮り写真。背景の並木道の陰に、一人の男が立っている。
男はぼんやりとした輪郭で、トレンチコートを着ていた。だが、カナがその写真を撮った時、周囲には誰もいなかったはずなのだ。
「最初はバグかと思ったんだけど」とカナはコーヒーを啜る。
「最近、私が送る写真全部に、この『彼』が写り込むの。少しずつ、カメラに近づきながら」
私は画像をピンチアウトした。男の顔はノイズが走ったように不鮮明だが、確かにこちらを直視している。
今の時代、写真は単なる光の記録ではない。AIが解像度を補完し、クラウドが最適化し、サーバーが「最も美しく見える形」に再構成する。
私たちの思い出は、巨大な演算処理の果てに生成される「もっともらしい虚構」だ。
「これ、画像生成エンジンの『迷子』じゃない?」
私の推測に、カナは眉をひそめた。
ネットワーク上には、毎日数兆枚の画像がアップロードされる。その膨大なデータの中で、行き場を失った視覚情報の断片が、特定のアルゴリズムに惹かれ、他人の写真に「受肉」してしまうという都市伝説があった。
「でも、どうして私の写真ばかり?」
「さあ。あなたの撮る構図が、彼がいた『元の風景』に近いのかもね」
その夜、カナから一通のメッセージとともに、家の中で撮ったという写真が送られてきた。
鏡の前に立つ彼女の背後、開いたクローゼットの隙間に、あのトレンチコートの裾が見えた。
私は返信を打とうとして、指を止めた。
ふと、自分のスマホのレンズを覗き込む。
もし、彼が「写り込む場所」を探しているのではなく、こちら側の世界へ「出力」されるための出口を探しているのだとしたら。
カナの最新の写真は、昨日よりも少しだけ、解像度が上がっていた。