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屈辱(刺客編)

ー/ー




 “はじめまして____18歳です”


 “わたくし人を斬るの初めてなんですの……ああ、愉しみですわ”


 “のっっっ……ぴょ〜〜ん!!”
 

 パキン!!


 “お、折れた!?”


 “霊的格闘でお相手しますわ!!”


 ばっ!

 バイ〜〜ン❤❤❤


 “!!!!?”


 “煩悩ゔいぃぃ〜〜〜む!!!!!!”


 ヴゥウァアアーーーー!!!!!!


 “キャーーーー!!!”


 “お姉さん!!俺と一緒にくんずほぐれず!!!!”


 ヴァウヴァウヴァウーーーー!!!!!!
 (心眼から煩悩が駄々漏れ中)


 “いやあぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!”




    ◆◆◆


 ………………今でも鮮明に思い出せる……一生、穴で暮らしたくなるような “黒歴史” だなこりゃ…………


 …………まぁ、以前の俺を鑑みりゃ一生の殆ど……いや、存在そのものが黒歴史と言っても過言じゃないから、気にしてもどうにもならねぇんだが……

 

 つ……つまり、何が言いたいかと言うと…………


 出来事のインパクトが強すぎて、目の前の女の名前が全く思い出せん…………!!

 なんか、凄く “冷たそうな” 名前だった気がすっけど……


 ………………ただ、この状況で「名前何でしたっけ?」なんて聞くのは非常に不味い……


 見ただけで解る。今、この女の精神状況はかなり不安定だ……
 
 例えるなら、コップぎりぎりまで溜め込んだ水が “表面張力” で辛うじて溢れずにいる状態。

 ちょっとした刺激で簡単に崩れて、どう転ぶか予想が着かない。

 こいつは元から危ねぇ気質の持ち主だったから、何するか解らねぇぞ。1人ならともかく(・・・・)、小鳩ちゃんが一緒に居る今、奴を暴走させるのは絶対に避けないと……


「横し__」


 俺達の様子を不審に思った小鳩ちゃんが声を上げるのを咄嗟に右手で制す……


 どうする?

 頭の中で奴を刺激しないような言葉を慎重に選んでいると、怒気を含んだ声で奴が口を開く。


「用があるのは、あなただけですわ!!」
「……場所を変えましょう」


 俺が、そう答えると奴は俺達とは逆方向に歩き出す。ついて来いってことか…………危険だが、これで小鳩ちゃんは巻き込まずに済むな。


「横島さん……」
「大丈夫だよ、ちょっと話してくるだけだから。じゃあね、小鳩ちゃん」


 隣で心配そうな声を上げる小鳩ちゃんに、俺は努めて明るく返すと、奴を追って歩き出した。




   
    ◇◇◇


「どこまで行くんです?」


 奴に追いつき、若干の距離を置きながら隣を歩く。数分歩いて、アパートが見えなくなった頃合いで俺は聞いてみた。


「すぐに着きますわ」


 前を向いたまま、にべ(・・)もない返答が返ってくる。まぁ、端から期待しちゃいなかったが、仲良くする気はないってことか……
 
 こいつの目的は “復讐” ってことでほぼ間違いないだろうな。

 試験の時に “よく解らない奴” に “意味の解らない” 負け方をした。復讐の理由としちゃ十分だろう………何か凄くプライド高そうだし。

 後、解ったことと言えば居るのは、こいつ1人……行き先に誰か待ち構えてる可能性もあるが、少なくとも隠れて見てる奴は居ない(もっとも俺の霊感じゃ余りアテには出来ないが……)。

 そして、奴の霊気自体もさして高くない…………勿論弱いわけじゃないが、雪之丞なんかと比べると完全に見劣りする。警戒すべきは居合と忍術、あとは罠か……


 そう、俺なりに状況を分析していると今度は奴が向こうから口を開いた。

 
「私が来たことに、驚かれませんでしたね」
「堂々と待っていることには、驚きましたよ……ただ、ずっと見られてるのは、解ってましたからね」


 俺が正直に答えると、その瞬間奴の顔が不快そうに歪む……


「…………気付いたまま、放置してたわけですわね……本当に嫌味な男!」
「………………」


 ………………何言ってんだ? こいつ……


 あんなバレバレの監視、誰が相手でも気付くだろ……だが、そんな俺に構わず更に奴は続ける。


「さっきといい、今といい……その澄ました(・・・・)態度……!それが “素” のあなたと言うわけですわね」
「………………?」


 “素” のあなた……?


「なんなんですの!?馬鹿な “振り” をしたあなたに “騙されて油断” した私は、そんなに面白かったですか?」


 馬鹿な “振り” ってなんだ……?

 あん時は、色んな意味で本能丸だしなだけだったんだが…………


「忌々しいったら、ありゃしない!!次の試合からは、急に真剣にやりだして…………私は(からか)う程度にしか値しないと言いたいんでしょうけどね!」


 ………………ずっと真剣だったけどね……んな風に映ったのか?

 でも、これで解ったぞ雪之丞の言うリベンジマッチには違いないだろうが、コイツは完全に “拗らせてる” ………


「今度は、油断しませんわよ……わたくしを苔にしたことを、必ず後悔させてやりますわ!」


 自分からベラベラとよく喋る……黙ってられた方が、こっちとしては嫌だったのに完全に墓穴掘ってるぞ…………

 一度口を開いたことで、蓋をしてた感情の奔流が一気に流れ出したのか?これが演技だったとしたら相当なもんだが、なんか違う気がする……


「“負けた” ことより “騙された” ことが気に入らないと…………?」
「当然でしょう!!油断さえしなければ、負けなかった!」


 騙された……油断したか…………


理解(・・)しました……」
「ふんっ」


 こいつの言い分に思うことのあった俺は敢えて弁解はせず、そう答えた。





    ◇◇◇

 それっきり、お互いだまったまま歩くこと15分……人家から離れた神社の敷地内に俺達は相対していた。

 廃墟ではないが殆ど使われた形跡がない。 “やりあう” にはうってつけか。

 周りにも背の高い木が結構ある。森ほど深いわけじゃないが、季節は既に冬……夕方の5時頃を回った時点で、ここに太陽は届かずほぼ真っ暗だ。


 俺は鞄を脇に放り投げると、コートも脱いで同じようにした。ちなみに、学ランの下には除霊時に付けるプロテクターも着込んでるし、文珠だって持ってきた。


 正直、忍びであるこいつの指定した場所でやるのは避けたかったんだが、ここに至るまで丁度いい場所が無かった。

 罠が一番怖い……ただ、幸いにもここは視界が開けてる。足場も特に悪くない。深い森なんかでやるより、余程マシか。あと居るのは、本当にこいつ1人……少なくとも、集団で罠に掛けるつもりはないらしい。


 そう考えてる内に、相対してる奴も外套を脱ぎ捨てた。左手には以前と同じような刀(勿論以前折ったアレとは違うだろうが)を握り締めてる。
 
 そして、腰を落とすように抜刀する構えを取る。僅かな動作だが、素人の俺でもよく分かる………無駄の無い洗練された綺麗な動きだ。

 残念なのは、本人の精神が乱れ捲ってるとこ…………

 
 奴が構えたのに対して、俺も腰を落とすように構え右手の霊手を展開する。


「霊気の具現化……人狼族と同じような事が出来るのですわね」
「………………」


 何気ない呟きだったんだろう……だが、俺は違和感を覚えた…………

 俺が霊手を使えるのを知らない……!?

 確かに試験の時は覚醒前だったが、こいつは俺のことを調べて来たんじゃないのか?

 だと、するなら文珠の存在も知らない……?

 
 精神面には、さっきから不安定さが滲み出てたが作戦面に関しても綻びが既に見えだしてる。


 大丈夫か……?こいつ…………









屈辱 氷雅
「九能市氷雅……参る!!」



 ………………あ、そんな名前だったね。やっと思い出した。
 

 雅な氷か……本人の精神性とは、逆に綺麗な名前だな。

 


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 “はじめまして____18歳です”
 “わたくし人を斬るの初めてなんですの……ああ、愉しみですわ”
 “のっっっ……ぴょ〜〜ん!!”
 パキン!!
 “お、折れた!?”
 “霊的格闘でお相手しますわ!!”
 ばっ!
 バイ〜〜ン❤❤❤
 “!!!!?”
 “煩悩ゔいぃぃ〜〜〜む!!!!!!”
 ヴゥウァアアーーーー!!!!!!
 “キャーーーー!!!”
 “お姉さん!!俺と一緒にくんずほぐれず!!!!”
 ヴァウヴァウヴァウーーーー!!!!!!
 (心眼から煩悩が駄々漏れ中)
 “いやあぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!!”
    ◆◆◆
 ………………今でも鮮明に思い出せる……一生、穴で暮らしたくなるような “黒歴史” だなこりゃ…………
 …………まぁ、以前の俺を鑑みりゃ一生の殆ど……いや、存在そのものが黒歴史と言っても過言じゃないから、気にしてもどうにもならねぇんだが……
 つ……つまり、何が言いたいかと言うと…………
 出来事のインパクトが強すぎて、目の前の女の名前が全く思い出せん…………!!
 なんか、凄く “冷たそうな” 名前だった気がすっけど……
 ………………ただ、この状況で「名前何でしたっけ?」なんて聞くのは非常に不味い……
 見ただけで解る。今、この女の精神状況はかなり不安定だ……
 例えるなら、コップぎりぎりまで溜め込んだ水が “表面張力” で辛うじて溢れずにいる状態。
 ちょっとした刺激で簡単に崩れて、どう転ぶか予想が着かない。
 こいつは元から危ねぇ気質の持ち主だったから、何するか解らねぇぞ。1人なら|ともかく《・・・・》、小鳩ちゃんが一緒に居る今、奴を暴走させるのは絶対に避けないと……
「横し__」
 俺達の様子を不審に思った小鳩ちゃんが声を上げるのを咄嗟に右手で制す……
 どうする?
 頭の中で奴を刺激しないような言葉を慎重に選んでいると、怒気を含んだ声で奴が口を開く。
「用があるのは、あなただけですわ!!」
「……場所を変えましょう」
 俺が、そう答えると奴は俺達とは逆方向に歩き出す。ついて来いってことか…………危険だが、これで小鳩ちゃんは巻き込まずに済むな。
「横島さん……」
「大丈夫だよ、ちょっと話してくるだけだから。じゃあね、小鳩ちゃん」
 隣で心配そうな声を上げる小鳩ちゃんに、俺は努めて明るく返すと、奴を追って歩き出した。
    ◇◇◇
「どこまで行くんです?」
 奴に追いつき、若干の距離を置きながら隣を歩く。数分歩いて、アパートが見えなくなった頃合いで俺は聞いてみた。
「すぐに着きますわ」
 前を向いたまま、|にべ《・・》もない返答が返ってくる。まぁ、端から期待しちゃいなかったが、仲良くする気はないってことか……
 こいつの目的は “復讐” ってことでほぼ間違いないだろうな。
 試験の時に “よく解らない奴” に “意味の解らない” 負け方をした。復讐の理由としちゃ十分だろう………何か凄くプライド高そうだし。
 後、解ったことと言えば居るのは、こいつ1人……行き先に誰か待ち構えてる可能性もあるが、少なくとも隠れて見てる奴は居ない(もっとも俺の霊感じゃ余りアテには出来ないが……)。
 そして、奴の霊気自体もさして高くない…………勿論弱いわけじゃないが、雪之丞なんかと比べると完全に見劣りする。警戒すべきは居合と忍術、あとは罠か……
 そう、俺なりに状況を分析していると今度は奴が向こうから口を開いた。
「私が来たことに、驚かれませんでしたね」
「堂々と待っていることには、驚きましたよ……ただ、ずっと見られてるのは、解ってましたからね」
 俺が正直に答えると、その瞬間奴の顔が不快そうに歪む……
「…………気付いたまま、放置してたわけですわね……本当に嫌味な男!」
「………………」
 ………………何言ってんだ? こいつ……
 あんなバレバレの監視、誰が相手でも気付くだろ……だが、そんな俺に構わず更に奴は続ける。
「さっきといい、今といい……その|澄ました《・・・・》態度……!それが “素” のあなたと言うわけですわね」
「………………?」
 “素” のあなた……?
「なんなんですの!?馬鹿な “振り” をしたあなたに “騙されて油断” した私は、そんなに面白かったですか?」
 馬鹿な “振り” ってなんだ……?
 あん時は、色んな意味で本能丸だしなだけだったんだが…………
「忌々しいったら、ありゃしない!!次の試合からは、急に真剣にやりだして…………私は|誂《からか》う程度にしか値しないと言いたいんでしょうけどね!」
 ………………ずっと真剣だったけどね……んな風に映ったのか?
 でも、これで解ったぞ雪之丞の言うリベンジマッチには違いないだろうが、コイツは完全に “拗らせてる” ………
「今度は、油断しませんわよ……わたくしを苔にしたことを、必ず後悔させてやりますわ!」
 自分からベラベラとよく喋る……黙ってられた方が、こっちとしては嫌だったのに完全に墓穴掘ってるぞ…………
 一度口を開いたことで、蓋をしてた感情の奔流が一気に流れ出したのか?これが演技だったとしたら相当なもんだが、なんか違う気がする……
「“負けた” ことより “騙された” ことが気に入らないと…………?」
「当然でしょう!!油断さえしなければ、負けなかった!」
 騙された……油断したか…………
「|理解《・・》しました……」
「ふんっ」
 こいつの言い分に思うことのあった俺は敢えて弁解はせず、そう答えた。
    ◇◇◇
 それっきり、お互いだまったまま歩くこと15分……人家から離れた神社の敷地内に俺達は相対していた。
 廃墟ではないが殆ど使われた形跡がない。 “やりあう” にはうってつけか。
 周りにも背の高い木が結構ある。森ほど深いわけじゃないが、季節は既に冬……夕方の5時頃を回った時点で、ここに太陽は届かずほぼ真っ暗だ。
 俺は鞄を脇に放り投げると、コートも脱いで同じようにした。ちなみに、学ランの下には除霊時に付けるプロテクターも着込んでるし、文珠だって持ってきた。
 正直、忍びであるこいつの指定した場所でやるのは避けたかったんだが、ここに至るまで丁度いい場所が無かった。
 罠が一番怖い……ただ、幸いにもここは視界が開けてる。足場も特に悪くない。深い森なんかでやるより、余程マシか。あと居るのは、本当にこいつ1人……少なくとも、集団で罠に掛けるつもりはないらしい。
 そう考えてる内に、相対してる奴も外套を脱ぎ捨てた。左手には以前と同じような刀(勿論以前折ったアレとは違うだろうが)を握り締めてる。
 そして、腰を落とすように抜刀する構えを取る。僅かな動作だが、素人の俺でもよく分かる………無駄の無い洗練された綺麗な動きだ。
 残念なのは、本人の精神が乱れ捲ってるとこ…………
 奴が構えたのに対して、俺も腰を落とすように構え右手の霊手を展開する。
「霊気の具現化……人狼族と同じような事が出来るのですわね」
「………………」
 何気ない呟きだったんだろう……だが、俺は違和感を覚えた…………
 俺が霊手を使えるのを知らない……!?
 確かに試験の時は覚醒前だったが、こいつは俺のことを調べて来たんじゃないのか?
 だと、するなら文珠の存在も知らない……?
 精神面には、さっきから不安定さが滲み出てたが作戦面に関しても綻びが既に見えだしてる。
 大丈夫か……?こいつ…………
「九能市氷雅……参る!!」
 ………………あ、そんな名前だったね。やっと思い出した。
 雅な氷か……本人の精神性とは、逆に綺麗な名前だな。