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監視(刺客編)

ー/ー




「見られてる?」
「ああ、ここんとこずっとだ……」


 深夜2時………除霊から事務所に帰ってきて、1階の事務スペースで何となくまったりしてるタイミングで事の次第を雪之丞に打ち明けた。


「今もか?」
「いや、今日のところはない。大体、事務所以外で1人でいる時に視線を感じるんだ」


 事務処理用の椅子に “だらける” ように座っていた雪之丞だが、話しを聞く内に素早く姿勢を正しながら聞き返してきた。この辺の反応の速さは流石と言った所か……

 だが、俺は手を振りながら否定する。

 ここは建物の外に常に低級霊が溢れかえってるんで、相手からも監視には不向きなのかもしれない。
 ただ、さっき話したように1人でアパートにいる時や外出する時には “それ” を感じる。
 

「ふうん……ヤバそうか?」
「だな、かなり攻撃的だぞ」

  
 しかも、そいつは見てるだけの気配じゃない。

 今すぐに襲い掛かりたいのを、必死に抑えてる……そんな感情…………

 姿は全く見せないのに、気配は駄々漏れ……何というアンバランス、あるいは “わざ” とやってプレッシャー掛けてるのか?
 

「面白そうだな、必要なら手貸すぜ♪」
「心配しろよ……」


 …………この戦闘馬鹿が……何か頼みたいけど、頼みたくなくなってきた。だが、相手の正体が解らねぇ以上背に腹は代えられねぇか……


「…………もしもの時は頼む」


 何とか、そう絞り出した。


「おう、任しとけ!やっぱり、お前も色んな所で恨まれてんだな♪」
「ドウイウイミダ…………?」


 意味が解らん……やっぱりって何だ?やっぱりって……


「いやぁ、この前の霊能武道会の時みたいに色んな所に喧嘩吹っかけてんだろ?そいつ等の誰かが、リベンジマッチ狙ってんじゃねぇか?」
「お前と一緒にすんじゃねぇ……!」


 馬鹿野郎。

 あんなの、あん時が初めてに決まってんだろ(しかも、ただの誤解)。年中戦闘してねぇと欲求不満起こす、お前とは違うんだよ。


「お前、今は事務所開いてんだから道場破りなんて止めろよ」
「解ってる、開いたと同時に封印したよ」
「そうか……」


 結構、最近までしてたってことね…………いつか、事務所襲撃されんじゃねぇか?


 


    ◇◇◇


「……………………」


 またか…………感じるぞ “奴” の気配……


 今は午前11時。

 昨日(正確には今日だが)は事務所に泊まって、今は駅へ歩いてる最中だ。理由は、部屋に帰るため。

 そして、事務所を出て暫くすると例の “嫌な視線” が歩く俺に纏わりつき出した。

 
 敵の正体は、未だ解らない。

 ただ、魔族や妖怪の類じゃないな…………多分、人間だ。
 
 人間だって十分危険なの筈なんだが、それ以外の存在でないことに妙な安心感を抱く自分がいる。メドーサの一件から、まだ日が浅いせいだろうな。

 雪之丞には『攻撃的』と言ったけど、あの化物と同じ空間に居た緊張感を思えば、今の感じはハッキリ言って “ヌル” すぎる。

 もっとも、奴は監視するだけで本命は別に居るのかもしれないが…………
 




    ◇◇◇


「だとしても、やっぱ変だよな……」


 駅に着いたと同時に独り言ちる。あの気配は既に消えてる。

 監視だけが目的なら、もっと気づかれないようにやる。それがあんなバレバレなのは、殺意や恨みのような感情を殺しきれないからだ。

 俺を狙ってる張本人が、直接見てると思って間違いないだろう(まだ、1人とは決めきれない……)。監視なんかしてるのは、襲うタイミングを計るためか?

 たけど…………


「リベンジマッチねぇ……」


 俺は駅の構内を歩きながら、再び独り言ちた。

 雪之丞じゃねぇけど、俺の場合あのスキンヘッド集団の誰かが俺を狙ってるのか?

 人間で限定すれば、彼奴等くらいしか思い浮かばねぇ……


 結局、電車に乗ってる間ずっと考えてたが、答えは出なかった。
 

 そして、駅から出て暫く歩くと同じように監視が再開する。そのままアパートは着くまで続き、果ては夕方の買い出しの時もそれは感じた。
 

 マジで鬱陶しぃ…………もぅ、早く仕掛けて来てくんねぇかな。

 
 警戒すべき状況で苛立ち紛れに、よく解らない期待を膨らましてみるが、結局何も起こらず夜が更けていく。
 

 これじゃ、“わざわざ” 1人になってる意味がねぇ…………
 

 本当にヤバいなら、俺は事務所から動かない。

 当たり前だ、誰かと居る方が安全に決まってる。それをしなかったのは、学校に行くだけじゃなくて、敵の襲撃を促す意味もあったんだが上手く行かねぇもんだな。

 もう1日、2日様子を見て駄目なら、雪之丞達にも頼んでこっちから探すか……その時には、俺も文珠を使うおう。

 今まで、使わなかったのは敵に手の内を晒したくなかったからだ。だが、こっちから動くとなりゃ遠慮はしねぇ。

 そう考えながら、俺は床に着いた。一応、文珠での警戒は忘れない。





    ◇◇◇


 …………そして翌朝。
 

 この日も、表向きは平穏だった。
 
 朝はいつも通り小鳩ちゃん(この娘とは、結構な頻度で朝一緒になるけど……ひょっとして時間合わせてくれてる?……んな、わけないか)と一緒に登校。  

 学校では退屈な授業で睡魔と真剣勝負して、休み時間はピート達と、どうでも良い話で時間を潰す。

 たまにステルスにぶっ飛ばされた、田嶋(本体)を労って失神したオマケは放置する一幕もあったけど、これはどうでもいいな……

 その後は、帰り(この時間一緒になるのは稀)が偶然同じになった小鳩ちゃんと一緒に帰って、現在に至る。


 この間、あの気配を感じることは無かった。誰かと居ると感じないと言うことは、やっぱり1人になる時を狙ってると見て間違いなさそうだな……


「どうか、しました?」
「うん?……ごめん、ごめんボウっとしてたよ」


 そんなことを考えてると、小鳩ちゃんに不思議そうな顔で尋ねられちまった……

 だけど、この娘と一緒の時に襲撃がないのは不幸中の幸いか。巻き込むわけに行かないしな、これが田嶋のオマケなら容赦なく盾に出来るのに…………いや、流石にそれは無いか(そもそも学校でしか会いたくない)。



 ただ、そんな風に何処か弛緩したような考えを持っていると、得てして状況は真逆の方向に突き進んでいく。

 2人で、アパートの近くまで帰って来た時だった……

 

 アパートの敷地の塀に、寄り掛かるようにして立つ “奴” が居た。

 
 …………完全に油断した。まさか、堂々と待ち伏せるなんて……

 
 そいつの格好は、初めて会った時と全く同じだった。

 黒の全身タイツを思わせるような、身体にピッチリとフィットする戦闘服に上半身だけ和服を着て、更にその上に外套を羽織る………一見ミスマッチだが、その姿は古い物と新しい物を上手く折半した現代風の『忍者』と呼べるかもしれない。

 多分、外套の下には刀を仕込んでんだろう………

 そして、唯一露出している頭は前髪が綺麗に整えられたショートボブ。その下にあるのは、知的で怜悧な印象を与える端正な顔立ち。切れ長で猫のような吊り上がった目が特徴的な美少女…………


 …………見た目は間違いなく美少女なんだが、その眼から溢れる感情が異様過ぎる…………怒り、恨み、殺意、屈辱……そういった “負” の感情がごちゃ混ぜになれば、あんな感じになるのか?


 俺が気づいたと同時に、奴も気付いたんだろう…………俺達が近付いて、立ち止まると同時にその異様な眼を向けてくる。







監視 氷雅
「お久しぶりですわね、横島忠夫さん……」
「……ええ、(しばら)く」


 目の感情とは裏腹に、冷静な口調でそいつは口を開く。それに合わせて、俺も口を開く……


 だが、俺は…………




 こいつ……誰だっけ…………?

 


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「見られてる?」
「ああ、ここんとこずっとだ……」
 深夜2時………除霊から事務所に帰ってきて、1階の事務スペースで何となくまったりしてるタイミングで事の次第を雪之丞に打ち明けた。
「今もか?」
「いや、今日のところはない。大体、事務所以外で1人でいる時に視線を感じるんだ」
 事務処理用の椅子に “だらける” ように座っていた雪之丞だが、話しを聞く内に素早く姿勢を正しながら聞き返してきた。この辺の反応の速さは流石と言った所か……
 だが、俺は手を振りながら否定する。
 ここは建物の外に常に低級霊が溢れかえってるんで、相手からも監視には不向きなのかもしれない。
 ただ、さっき話したように1人でアパートにいる時や外出する時には “それ” を感じる。
「ふうん……ヤバそうか?」
「だな、かなり攻撃的だぞ」
 しかも、そいつは見てるだけの気配じゃない。
 今すぐに襲い掛かりたいのを、必死に抑えてる……そんな感情…………
 姿は全く見せないのに、気配は駄々漏れ……何というアンバランス、あるいは “わざ” とやってプレッシャー掛けてるのか?
「面白そうだな、必要なら手貸すぜ♪」
「心配しろよ……」
 …………この戦闘馬鹿が……何か頼みたいけど、頼みたくなくなってきた。だが、相手の正体が解らねぇ以上背に腹は代えられねぇか……
「…………もしもの時は頼む」
 何とか、そう絞り出した。
「おう、任しとけ!やっぱり、お前も色んな所で恨まれてんだな♪」
「ドウイウイミダ…………?」
 意味が解らん……やっぱりって何だ?やっぱりって……
「いやぁ、この前の霊能武道会の時みたいに色んな所に喧嘩吹っかけてんだろ?そいつ等の誰かが、リベンジマッチ狙ってんじゃねぇか?」
「お前と一緒にすんじゃねぇ……!」
 馬鹿野郎。
 あんなの、あん時が初めてに決まってんだろ(しかも、ただの誤解)。年中戦闘してねぇと欲求不満起こす、お前とは違うんだよ。
「お前、今は事務所開いてんだから道場破りなんて止めろよ」
「解ってる、開いたと同時に封印したよ」
「そうか……」
 結構、最近までしてたってことね…………いつか、事務所襲撃されんじゃねぇか?
    ◇◇◇
「……………………」
 またか…………感じるぞ “奴” の気配……
 今は午前11時。
 昨日(正確には今日だが)は事務所に泊まって、今は駅へ歩いてる最中だ。理由は、部屋に帰るため。
 そして、事務所を出て暫くすると例の “嫌な視線” が歩く俺に纏わりつき出した。
 敵の正体は、未だ解らない。
 ただ、魔族や妖怪の類じゃないな…………多分、人間だ。
 人間だって十分危険なの筈なんだが、それ以外の存在でないことに妙な安心感を抱く自分がいる。メドーサの一件から、まだ日が浅いせいだろうな。
 雪之丞には『攻撃的』と言ったけど、あの化物と同じ空間に居た緊張感を思えば、今の感じはハッキリ言って “ヌル” すぎる。
 もっとも、奴は監視するだけで本命は別に居るのかもしれないが…………
    ◇◇◇
「だとしても、やっぱ変だよな……」
 駅に着いたと同時に独り言ちる。あの気配は既に消えてる。
 監視だけが目的なら、もっと気づかれないようにやる。それがあんなバレバレなのは、殺意や恨みのような感情を殺しきれないからだ。
 俺を狙ってる張本人が、直接見てると思って間違いないだろう(まだ、1人とは決めきれない……)。監視なんかしてるのは、襲うタイミングを計るためか?
 たけど…………
「リベンジマッチねぇ……」
 俺は駅の構内を歩きながら、再び独り言ちた。
 雪之丞じゃねぇけど、俺の場合あのスキンヘッド集団の誰かが俺を狙ってるのか?
 人間で限定すれば、彼奴等くらいしか思い浮かばねぇ……
 結局、電車に乗ってる間ずっと考えてたが、答えは出なかった。
 そして、駅から出て暫く歩くと同じように監視が再開する。そのままアパートは着くまで続き、果ては夕方の買い出しの時もそれは感じた。
 マジで鬱陶しぃ…………もぅ、早く仕掛けて来てくんねぇかな。
 警戒すべき状況で苛立ち紛れに、よく解らない期待を膨らましてみるが、結局何も起こらず夜が更けていく。
 これじゃ、“わざわざ” 1人になってる意味がねぇ…………
 本当にヤバいなら、俺は事務所から動かない。
 当たり前だ、誰かと居る方が安全に決まってる。それをしなかったのは、学校に行くだけじゃなくて、敵の襲撃を促す意味もあったんだが上手く行かねぇもんだな。
 もう1日、2日様子を見て駄目なら、雪之丞達にも頼んでこっちから探すか……その時には、俺も文珠を使うおう。
 今まで、使わなかったのは敵に手の内を晒したくなかったからだ。だが、こっちから動くとなりゃ遠慮はしねぇ。
 そう考えながら、俺は床に着いた。一応、文珠での警戒は忘れない。
    ◇◇◇
 …………そして翌朝。
 この日も、表向きは平穏だった。
 朝はいつも通り小鳩ちゃん(この娘とは、結構な頻度で朝一緒になるけど……ひょっとして時間合わせてくれてる?……んな、わけないか)と一緒に登校。  
 学校では退屈な授業で睡魔と真剣勝負して、休み時間はピート達と、どうでも良い話で時間を潰す。
 たまにステルスにぶっ飛ばされた、田嶋(本体)を労って失神したオマケは放置する一幕もあったけど、これはどうでもいいな……
 その後は、帰り(この時間一緒になるのは稀)が偶然同じになった小鳩ちゃんと一緒に帰って、現在に至る。
 この間、あの気配を感じることは無かった。誰かと居ると感じないと言うことは、やっぱり1人になる時を狙ってると見て間違いなさそうだな……
「どうか、しました?」
「うん?……ごめん、ごめんボウっとしてたよ」
 そんなことを考えてると、小鳩ちゃんに不思議そうな顔で尋ねられちまった……
 だけど、この娘と一緒の時に襲撃がないのは不幸中の幸いか。巻き込むわけに行かないしな、これが田嶋のオマケなら容赦なく盾に出来るのに…………いや、流石にそれは無いか(そもそも学校でしか会いたくない)。
 ただ、そんな風に何処か弛緩したような考えを持っていると、得てして状況は真逆の方向に突き進んでいく。
 2人で、アパートの近くまで帰って来た時だった……
 アパートの敷地の塀に、寄り掛かるようにして立つ “奴” が居た。
 …………完全に油断した。まさか、堂々と待ち伏せるなんて……
 そいつの格好は、初めて会った時と全く同じだった。
 黒の全身タイツを思わせるような、身体にピッチリとフィットする戦闘服に上半身だけ和服を着て、更にその上に外套を羽織る………一見ミスマッチだが、その姿は古い物と新しい物を上手く折半した現代風の『忍者』と呼べるかもしれない。
 多分、外套の下には刀を仕込んでんだろう………
 そして、唯一露出している頭は前髪が綺麗に整えられたショートボブ。その下にあるのは、知的で怜悧な印象を与える端正な顔立ち。切れ長で猫のような吊り上がった目が特徴的な美少女…………
 …………見た目は間違いなく美少女なんだが、その眼から溢れる感情が異様過ぎる…………怒り、恨み、殺意、屈辱……そういった “負” の感情がごちゃ混ぜになれば、あんな感じになるのか?
 俺が気づいたと同時に、奴も気付いたんだろう…………俺達が近付いて、立ち止まると同時にその異様な眼を向けてくる。
「お久しぶりですわね、横島忠夫さん……」
「……ええ、|暫《しばら》く」
 目の感情とは裏腹に、冷静な口調でそいつは口を開く。それに合わせて、俺も口を開く……
 だが、俺は…………
 こいつ……誰だっけ…………?