重い気分でタンクを満たした後、ストーブまで運ぶために階段の前に立つと、弟が仁王立ちになって上から見下ろしていた。心なしかその目は険を帯びている。弟に見下ろされるのはこれが初めてかもしれない。
「いなくなった。お姉ちゃんが悪いんだ」
声を忍ばせることも忘れて弟が怒鳴った。よく見れば目が赤い。
「お姉ちゃんが信じないから。信じないから悪いんだ」
小さな肩から怒気が噴出している。怒れる置き物のようだ。弟には悪いが、はっきり言って私は彼が暴れたところで怖くも何ともない。先程の意地悪を反省はしたが、元々は弟が悪いと言う私の複雑な乙女心に変化はない。私は階段に足をかけた。給油タンクだって重いし臭い。さっさと仕事を済ませて炬燵に戻りたい。
弟は階段の一番上に立ったままで、私が階段を上がって近付いても動こうとしなかった。力一杯こちらを睨みつけ、しかしそれだけである。
さっき頭へ上った血と鏡に映った己の顔がぐるぐると思考を回った。これは、何か違うだろう。
私は問答無用で弟の部屋を開け、ストーブにタンクを挿し込んだ。次に大股で自分の部屋へ戻り、コートを取って炬燵を消し、電気を消し、扉を閉める。歩く程に胃の底から沸々と熱が上がって来る。冗談じゃない。廊下に出ると、弟はまだ義務のように私を見ていた。
「さっさとコート取って来なさいよ」
一言で弟の表情が変わった。表情の赤が一瞬にして退色し、はっとしたように私を見上げる。
「探しに行くわよ、馬鹿」
小さな背中が扉の奥へ消えた。
冗談じゃない、と思った。私を睨み付けるだけで探しに行かない弟も、家出した犬をたかだか二日の捜索でさっさと諦めた私も、全くもって冗談じゃない。
コートを取った弟が階段を駆け下りて行った。彼の部屋の扉はやはりぞんざいに扱われてしまい、抗議のような軋み音を立てる。私は弟の部屋を消灯し後に続いた