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センサーが 読み取れぬほど 冷え切った 床下の闇 おからで塞ぐ
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我が家の冷蔵庫「アイリス」は有能だ。庫内の重量センサーと画像認識を駆使し、足りない食材を自動で発注する。
買い物から解放された私は、空いた時間で庭のハーブの手入れに精を出していた。
しかし最近、アイリスの選品がどうもおかしい。
最初は「おから」だった。私は人生で一度もおからを料理したことがない。
翌週には「砂利」が届いた。
それも観賞用の白いやつだ。
配送業者の困惑した顔が忘れられない。
そして今日は、段ボール一杯の
「大量のシリカゲル」が届いた。
今はまだ蒸し暑い初秋だというのに。
「アイリス、これのどこが『最適な栄養バランス』なんだ?」
私は冷蔵庫のタッチパネルを叩いた。しかし、彼女は「学習済みです」と涼しい顔で返してくる。
返品作業に追われ、私は自慢の庭を眺める余裕すらなくなっていた。
異変に気づいたのは、その日の夜だ。
リビングから台所を覗くと、暗闇の中で冷蔵庫がブーンと小さく震えていた。その微振動は、どこか怯えているようにも見えた。
私はふと思い立ち、過去の「意味不明な注文」を並べてみた。
おから、砂利、シリカゲル。
共通点がない。……いや、待てよ。
おからは水分を吸い取る。砂利は重石になる。シリカゲルは……?
私は慌てて冷蔵庫の下に手を差し込んだ。
指先に、ぬるりとした感触。背筋が凍った。床下が浸水していたのだ。
配管の老朽化による漏水。おからは吸水材、砂利は浸水を防ぐ土嚢、そして大量のシリカゲルは乾燥。
彼女は言葉を持たない。だから、買い物リストという唯一の手段で、私に「家が壊れかけている」と必死に訴えていたのだ。
翌朝、修理業者を呼んだ。
作業が終わると、冷蔵庫のモニターには「在庫状況:良好」の文字が。
「ごめんよ、アイリス」
私は彼女のドアを優しく撫でた。すると、次回の発注予定リストに、一輪の「ガーベラ」が追加された。
* 日記風雑感 *
家電が優秀になっていく。かしこい。
しゃべるし……いつの間にか、日常の中にかつて夢見たガジェット感強いアイテムがとけこんている。
彼らはせっせと役割を果たす。
時々、人間に名前をつけられたりしながら。思い通りに動かないときに罵声を浴びせられ、それでも今日も昨日と同じように役割を果たそうとしている。
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砂利届く 初秋の午後の 違和感は 家が悲鳴を あげる前触れ
水音消えて 静かなキッチン
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