昼休みの校庭のコートで六年生と五年生がドッジボールをしていた。最初は男子だけで遊んでいたが、
藤城皐月の提案で女子も一緒に遊ぼうということになった。そんな時、三人の少女が遅れてやって来た。
背の高い子は
月映冴子で、外国人はステファニー、もう一人は皐月のガールフレンドの
入屋千智だ。皐月は千智たちを見て驚いたが、五年生の男子たちはそれ以上に驚いていた。
「私たちも入れて」
「月映さん、入ってくれるの? ありがとう!」
冴子が
月花直紀に頼んでチームに入れてもらうと、他の女子たちは何も言われなくても冴子に追従するようにチームに加わった。
皐月は冴子と少しだけ話したことがあるが、その時は冴子にこんなカリスマ性を感じなかった。後で千智から聞いて知ったが、ドッジに参加した女の子の中にはかつて千智に意地悪をした
鈴木彩羽たちもいたという。
「月映さんがみんなとドッジボールするのって初めてだよね。入屋もステファニーも。うわっ! 今日ってめっちゃ楽しいな。六年なんかに負けないよう、頑張ろうぜ!」
直紀たちがはしゃいでいるのを見て、皐月は自分の目論見が上手くいったことに満足した。男子と女子が一緒に遊べば場の波動が軽くなる。皐月は真剣勝負の重い空気より、女子と仲良く遊ぶ楽しい雰囲気の方が好きだ。
皐月が好奇の眼差しで五年生たちを見ていると、盛り上がっている五年生の中心にいた千智と目が合った。千智が笑って手を振ってくれたので、皐月も笑顔で手を振って応えた。千智の隣で冴子とステファニーが微笑んでいて、そんな皐月と千智を他の女子が興味深げに見ていた。
「晴香、あの子が藤城君の彼女って噂の子だよ。めっちゃかわいいね」
恋愛話の好きな
惣田由香里が千智を指さし、
松井晴香にそっと耳打ちした。
「へぇ、あの子が……」
「ちょっと由香里ちゃん! 美耶ちゃんに聞こえちゃうから、この話はやめようよ」
小川美緒は皐月と
筒井美耶がくっつくことを期待しているので、こんなところで恋愛話を持ち出す由香里のことをたしなめた。
美緒は皐月のことをキッと睨んだが、皐月は全く気付いていない。ちょうどその時、美耶が晴香たちのところにやって来た。美耶に話を聞かれなかったことに美緒はホッとした。
6年4組のエース、
村中茂之が普段よりもハイテンションで皐月に話し掛けてきた。
「お前、入屋さんと友達なんだってな」
「まあな。
茂之は彼女と同じ通学班らしいじゃん。あの子、お前のこといい人だって言ってたぞ」
「本当か?」
皐月は適当なことを言って茂之をおだてた。皐月の言ったことを茂之が千智に確認をすることがないと踏んで、茂之が喜びそうな話を作って聞かせてやった。
「ああ。だからお前さ、張り切り過ぎてあの子にはキチガイみたいな
球、投げんなよ」
「なんだ、藤城。お前、もしかして手を抜こうとしているのか? あいつら五年生に失礼じゃないのか?」
「違うって。俺はただ楽しいゲームにしたいだけだ。別に5年生とは星取表をつけていないだろ? だったら、少しくらい五年生男子に花を持たせてやってもんじゃないか? せっかく女子も一緒に遊んでくれるんだからさ」
六年生はどのクラスの男子も昼休みの球技の勝敗表をつけている。お互いのクラスをライバル視していて、六年生男子は誰もが勝敗にこだわっている。皐月はこういう真剣勝負は面白くもあるが、ギスギスして鬱陶しくもあると感じている。
「ああ、そういうことか。五年とは勝敗なんて関係ないもんな。わかった。月花には俺から伝えておく」
「あいつは弟の手前、手を抜きたくないみたいだ」
「じゃあ男子には手を抜かずに全力でやるってことでいいんじゃね。俺だって筒井さんや入屋さんにカッコいいところを見せたいし」
直紀たち5年3組の男子はアイドル的存在の千智が入ることで色めき立っている。直紀たちも千智にいいところを見せたいんだろう。前のゲームで一方的にやられて意気消沈していたが、元気が復活したようだ。皐月はこういう熱い展開を望んでいた。