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第65話 契約

ー/ー



「あなた、女王の夫だったのでしょ」と瞳。「正体について何か聞かなかったの?」

「いや、何も?」と悠木。

「変な夫婦ね」と瞳。

「夫婦って感じじゃなかったよ」と悠木。「女王の家族や関係者はオレのことを嫌ってたからな」

「王だったのでしょ?」と瞳。

「それは現世に戻って異星生物と戦う準備をすることになった後の話だ」と悠木。「それまでは女王の非公式な愛人って感じだったよ」

「いつも女王と一緒にいたの?」と瞳。

「女王はオレに気を使ってできるだけ一緒にいてくれた」と悠木。「だけど当時のオレは龍穴回廊の変の後、魔力を失ってただの人間に戻っていた。宮中では役立たずの居候だから気まずかったよ」

「あなたは何もしてなかったの?」と瞳。

「一応オレは、犬之首城と鱗山城近辺の領主ってことになってて、一帯の豪族や軍閥を統括してた。だけど辺境領の管理なんて、冥界の貴族どもにとっては下々の仕事だからな」

「内乱が深刻だったって聞いたけど」と瞳。

「ああ、貴族がそんなだから内乱が起こるんだ」と悠木。「それはともかく内乱が激しくなり始めて、オレはトカゲどもとの戦いに明け暮れてた。おかげでオレは宮殿から出られる名目ができてうれしかったよ」

「あんた、魔力なしで戦えたの?」と瞳。

「ああ、ゲート戦争期の仲間がたくさんいて助けてくれた。だから前線に出る必要はなかったんだ」と悠木。

「女王はあんたが辺境で戦争ごっこしていて、何も言わなかったの?」と瞳。

「領地に近い眺めのいい場所に離宮を作ってくれた」と悠木。「女王とオレはそこで暮らした。あのころが一番幸せだった」

「内乱は収まったの?」と瞳。

「トカゲどもとの戦いは終息した」と悠木。「だが宮殿でクーデター騒ぎが起こった」

「クーデター?」と瞳。「何があったの?」

「女王が離宮でオレとしけこんでるのが気に食わない連中がいて、女王を君主の座から追い落とそうとしたんだ」と悠木。

「だれなの?」と瞳。

「オレにはよくわからない。宮中に親しい友達なんていなかったからな」と悠木。「クーデターの首謀者は、女王の娘のククかタタを君主にするつもりだったらしい」

「女王はどうだったの?」と瞳。

「いつもの調子だったよ」と悠木。「君主の座などもとから望んでおらぬ。そなたらの好きにせよって」

「らしいわね」と瞳。「それでどうなったの?」

「ククとタタが離宮に飛んできたよ」と悠木。「帰ってきてほしいって」

「どういうこと?」と瞳。

「クーデターはもとから狂言だったんだ」と悠木。「女王を宮殿に取り戻すための」

「馬鹿げてるわ」と瞳。

「なんていうか、女王はずっと寂しそうだったよ」と悠木。「もともと冥界は女王の居場所じゃないからだろうと思ってたよ」

「そう」と瞳。「それで女王に何かしてあげたの?」

「いや、特に何も。そういえば、オレは女王と一緒にいられればどこでもいいって言ったかな。だからどこにでも付いて行くって」と悠木。「それとも、こんな身分捨てて地上のどこかで一緒に暮らそうって気休めを言ったっけな」

「女王はなんて言ったの?」と瞳。

「かわいそうなくらい喜んでたよ」と悠木。「今の地上の暮らしの様子を教えろってうるさかったな。オレも半分本気にして、部下どもに地上に続くゲートの情報を集めさせたよ」

「女王と駆け落ちって、ロマンチックね」と瞳。

「だろ」と悠木。「オレは女王が愛おしくて、命がけで地上に落ちのびるつもりだった」

「なぜ逃げなかったの?」と瞳。

「女王の娘のククとタタが泣いて取りすがったんだ」と悠木。「何でもするから宮殿に戻ってくれって」

「女王はなんて言ったの?」と瞳。

「宮殿には戻らぬ。余は夫と地上で暮らすって」と悠木。

「それで、ククとタタはどうしたの?」と瞳。

「私たちを置いていかないでくれって」と悠木。「お母さまが地上に出るのなら、私たちも付いていきます、と言ってたかな」

「おかしいわね」と瞳。

「不肖の娘などいらぬ、ここで縁を切るって女王は言ったよ」と悠木。「愛する心を持たぬそなたたちなど、もう娘ではないわってね」

「それでどうなったの?」と瞳。

「その後、貴族だの重臣だの関係者が詰めかけてきて泣き落としで女王を引き留めたよ」と悠木。

「女王はなんて?」と瞳。

「連れ子と廷臣を連れてでは駆け落ちにならぬわって」と悠木。

「それであなたも宮殿に戻ったの?」と瞳。

「そうだよ」と悠木。「伯爵にされてね。犬之首辺境伯なんてふざけた名前だったかな」

「あなたと女王って面白いわ」と瞳。「あなた、今でも女王のことが好きなの?」

「ああ、もちろん好きだよ」と悠木。「女王といる分身がうらやましいよ」

「そう」と瞳が少し怖い顔をした。「ところで、女王の正体はナミ神よ」

「だとしても、もうオレには関係ないことだよ」と悠木。

「関係あるわよ」と瞳が悠木に顔を近づけた。「あなた、私の正体も知ってるでしょ」

 悠木はびくっと体を震わせて瞳の顔を見た。
「そういえばあんた、伊佐々之ナギ神と伊佐々之ナミ神の娘だったな」

「そうよ」と瞳。「あなたはこの世では私の従弟だけど、あの世では私の義理の父親なのよ」

「ああ、そういうことか」と悠木。「もっと気を使って話すべき話題だったな。すまなかったよ」

「そういうことじゃないわ」と瞳。「少し謝りたかったのよ」

「何をだ?」と悠木。

「私もあなたのことを、間男みたいに思ってたから」と瞳。

「実際そんな感じだろ」と悠木。「誰にも歓迎されていない」

「そうじゃないわ」と瞳。「あなたは母を支えてくれていた、私たちの恩人だったのよ」

「そうかね?」と悠木。

「そうよ」と瞳。「彼女が神としての存在を保ち続けたのは、愛人として側にいたあなたのおかげだもの」

「どういうことだ?」と悠木。

「母は神ではなくなりかけていたの。冥界に長くいすぎたから」と瞳。「だけどあなたに出会えて母はよみがえったわ。娘のククとタタはほとんど魔物になっていたけど」

「そうだったな」と悠木。

「ところで、クーミとタリイは私の妹のククリ姫とタタリ姫、つまり冥界のククとタタよ」と瞳。

「なぜここにいる?」と悠木。

「以前、母に会う機会があって、そのときに引き取ったの」と瞳。「さっき約束した通り、これからあなたの世話をさせるから」

「約束?」と悠木。「そうだったのか?」

「そうよ、あなたは分かったと言ったでしょ」と瞳。

「あれは約束になるのか?」と悠木。

「あなたは、ククリ姫とタタリ姫の神饌であるお茶と菓子を食べた」と瞳。「そしてあなたは、この二人があなたの世話をすることに同意した。これで神界の契約が成立したわ」

「そうか、契約の二柱だったか」と悠木。

 クーミとタリイは深く頭を下げた。



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「あなた、女王の夫だったのでしょ」と瞳。「正体について何か聞かなかったの?」
「いや、何も?」と悠木。
「変な夫婦ね」と瞳。
「夫婦って感じじゃなかったよ」と悠木。「女王の家族や関係者はオレのことを嫌ってたからな」
「王だったのでしょ?」と瞳。
「それは現世に戻って異星生物と戦う準備をすることになった後の話だ」と悠木。「それまでは女王の非公式な愛人って感じだったよ」
「いつも女王と一緒にいたの?」と瞳。
「女王はオレに気を使ってできるだけ一緒にいてくれた」と悠木。「だけど当時のオレは龍穴回廊の変の後、魔力を失ってただの人間に戻っていた。宮中では役立たずの居候だから気まずかったよ」
「あなたは何もしてなかったの?」と瞳。
「一応オレは、犬之首城と鱗山城近辺の領主ってことになってて、一帯の豪族や軍閥を統括してた。だけど辺境領の管理なんて、冥界の貴族どもにとっては下々の仕事だからな」
「内乱が深刻だったって聞いたけど」と瞳。
「ああ、貴族がそんなだから内乱が起こるんだ」と悠木。「それはともかく内乱が激しくなり始めて、オレはトカゲどもとの戦いに明け暮れてた。おかげでオレは宮殿から出られる名目ができてうれしかったよ」
「あんた、魔力なしで戦えたの?」と瞳。
「ああ、ゲート戦争期の仲間がたくさんいて助けてくれた。だから前線に出る必要はなかったんだ」と悠木。
「女王はあんたが辺境で戦争ごっこしていて、何も言わなかったの?」と瞳。
「領地に近い眺めのいい場所に離宮を作ってくれた」と悠木。「女王とオレはそこで暮らした。あのころが一番幸せだった」
「内乱は収まったの?」と瞳。
「トカゲどもとの戦いは終息した」と悠木。「だが宮殿でクーデター騒ぎが起こった」
「クーデター?」と瞳。「何があったの?」
「女王が離宮でオレとしけこんでるのが気に食わない連中がいて、女王を君主の座から追い落とそうとしたんだ」と悠木。
「だれなの?」と瞳。
「オレにはよくわからない。宮中に親しい友達なんていなかったからな」と悠木。「クーデターの首謀者は、女王の娘のククかタタを君主にするつもりだったらしい」
「女王はどうだったの?」と瞳。
「いつもの調子だったよ」と悠木。「君主の座などもとから望んでおらぬ。そなたらの好きにせよって」
「らしいわね」と瞳。「それでどうなったの?」
「ククとタタが離宮に飛んできたよ」と悠木。「帰ってきてほしいって」
「どういうこと?」と瞳。
「クーデターはもとから狂言だったんだ」と悠木。「女王を宮殿に取り戻すための」
「馬鹿げてるわ」と瞳。
「なんていうか、女王はずっと寂しそうだったよ」と悠木。「もともと冥界は女王の居場所じゃないからだろうと思ってたよ」
「そう」と瞳。「それで女王に何かしてあげたの?」
「いや、特に何も。そういえば、オレは女王と一緒にいられればどこでもいいって言ったかな。だからどこにでも付いて行くって」と悠木。「それとも、こんな身分捨てて地上のどこかで一緒に暮らそうって気休めを言ったっけな」
「女王はなんて言ったの?」と瞳。
「かわいそうなくらい喜んでたよ」と悠木。「今の地上の暮らしの様子を教えろってうるさかったな。オレも半分本気にして、部下どもに地上に続くゲートの情報を集めさせたよ」
「女王と駆け落ちって、ロマンチックね」と瞳。
「だろ」と悠木。「オレは女王が愛おしくて、命がけで地上に落ちのびるつもりだった」
「なぜ逃げなかったの?」と瞳。
「女王の娘のククとタタが泣いて取りすがったんだ」と悠木。「何でもするから宮殿に戻ってくれって」
「女王はなんて言ったの?」と瞳。
「宮殿には戻らぬ。余は夫と地上で暮らすって」と悠木。
「それで、ククとタタはどうしたの?」と瞳。
「私たちを置いていかないでくれって」と悠木。「お母さまが地上に出るのなら、私たちも付いていきます、と言ってたかな」
「おかしいわね」と瞳。
「不肖の娘などいらぬ、ここで縁を切るって女王は言ったよ」と悠木。「愛する心を持たぬそなたたちなど、もう娘ではないわってね」
「それでどうなったの?」と瞳。
「その後、貴族だの重臣だの関係者が詰めかけてきて泣き落としで女王を引き留めたよ」と悠木。
「女王はなんて?」と瞳。
「連れ子と廷臣を連れてでは駆け落ちにならぬわって」と悠木。
「それであなたも宮殿に戻ったの?」と瞳。
「そうだよ」と悠木。「伯爵にされてね。犬之首辺境伯なんてふざけた名前だったかな」
「あなたと女王って面白いわ」と瞳。「あなた、今でも女王のことが好きなの?」
「ああ、もちろん好きだよ」と悠木。「女王といる分身がうらやましいよ」
「そう」と瞳が少し怖い顔をした。「ところで、女王の正体はナミ神よ」
「だとしても、もうオレには関係ないことだよ」と悠木。
「関係あるわよ」と瞳が悠木に顔を近づけた。「あなた、私の正体も知ってるでしょ」
 悠木はびくっと体を震わせて瞳の顔を見た。
「そういえばあんた、伊佐々之ナギ神と伊佐々之ナミ神の娘だったな」
「そうよ」と瞳。「あなたはこの世では私の従弟だけど、あの世では私の義理の父親なのよ」
「ああ、そういうことか」と悠木。「もっと気を使って話すべき話題だったな。すまなかったよ」
「そういうことじゃないわ」と瞳。「少し謝りたかったのよ」
「何をだ?」と悠木。
「私もあなたのことを、間男みたいに思ってたから」と瞳。
「実際そんな感じだろ」と悠木。「誰にも歓迎されていない」
「そうじゃないわ」と瞳。「あなたは母を支えてくれていた、私たちの恩人だったのよ」
「そうかね?」と悠木。
「そうよ」と瞳。「彼女が神としての存在を保ち続けたのは、愛人として側にいたあなたのおかげだもの」
「どういうことだ?」と悠木。
「母は神ではなくなりかけていたの。冥界に長くいすぎたから」と瞳。「だけどあなたに出会えて母はよみがえったわ。娘のククとタタはほとんど魔物になっていたけど」
「そうだったな」と悠木。
「ところで、クーミとタリイは私の妹のククリ姫とタタリ姫、つまり冥界のククとタタよ」と瞳。
「なぜここにいる?」と悠木。
「以前、母に会う機会があって、そのときに引き取ったの」と瞳。「さっき約束した通り、これからあなたの世話をさせるから」
「約束?」と悠木。「そうだったのか?」
「そうよ、あなたは分かったと言ったでしょ」と瞳。
「あれは約束になるのか?」と悠木。
「あなたは、ククリ姫とタタリ姫の神饌であるお茶と菓子を食べた」と瞳。「そしてあなたは、この二人があなたの世話をすることに同意した。これで神界の契約が成立したわ」
「そうか、契約の二柱だったか」と悠木。
 クーミとタリイは深く頭を下げた。