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回復祝

ー/ー



「面白い店じゃねぇか♪」
「ああ」


 店内を見渡しながら興味深そうに喋る雪之丞へ、俺も感嘆混じりの同意を返す。

 入っていきなり黒猫に案内されたと思ったら、客の料理を運ぶのが複数の箒。店の中は大勢の客で賑わってるが、店側の人間の姿は全く見えない。

 危険ではないが、十分に異様で摩訶不思議な空間と言えるだろう。


「今は、忙しい時間帯じゃからのぉ。店主は、厨房に引っ込んどるんじゃ。会計の時には、顔を出すと思うぞ」
「厨房ね……流石に、飯まで箒が作ったりはしねぇか」
「でも、あり得そうだな………」


 あの箒達、ただ飯を運ぶだけじゃなくて客から注文まで受けてる。流石に喋るまでは出来ねぇが、意思の疎通は十分に出来るって事だ。

 そこまで知能が高けりゃ、料理が作れても何ら不思議じゃない。


「…………フフフッ……かもしれんの。じゃが、安心せい。例え箒が作っていたとしても、出てくる物の味は保証するぞ」
「ノープロブレム・魔鈴さんの料理・とても・美味しいです」


 そうやって訝しむ俺達を、テーブルの向かい側に座る爺さんは自信満々に、その隣に居るマリアは淡々と告げて来る。


 ………………ジジィは胡散臭さMAXだが、マリアの言う事なら信じてもいいかな。


「………また(・・)、何か失礼な事考えとるな」
「気の所為だろ?」


 顔に出てたのか?

 こう言う時は、しっかり(?)ボケてろよ……


 んな事を考えながら、改めて周りを見渡す。

 出てくる西洋風の料理は皆美味しそうで、それを食べる客達にも特に不満そうな様子は無く、普通に食べてる。

 店内は異様だが、出て来る料理は何も問題無いって事だろう。


 そう思ってると、さっきマリアの言った言葉が、再び頭に浮かび上がって来る。


 “魔鈴さんの料理” か………


 複数の使い魔を使役して、自分は奥に引っ込み料理に専念する店主 “魔鈴”


 …………一体、どんな人物なんだ?





    ◇◇◇


 『魔法料理店・魔鈴』………爺さんとマリアが最近ちょくちょく通い出した店で、味も料金も申し分ないと言う。

 料理がまだ来てないから味に関しては解らないが、メニュー表にあった値段はその辺のファミレスなんなに比べれば確かに安かった。


 ただ、それ以上に目を引いたのは、さっき言った “使い魔” 達……

 爺さんが言うには、あれは古代ヨーロッパに栄えた技術で中世には殆ど廃れた『魔法』らしい。爺さんも昔は、使ってたそうだ。

 何故、今は使わないかと言うと……それは、忘れた(・・・)から………


 ………………話を戻す。

 なら、その廃れた筈の技術が何でここにあるのかって話になるんだが、それもここ(・・)の店主である魔鈴と言う人物が僅かに残った資料を元に復元させたかららしい。

 使い魔に衝撃を受けた爺さんが、本人に直撃して得た情報だから(マリアからも裏を取った)信憑性は高そうだ。

 レストランを経営しながら、古代の技術を現代に蘇らす……中々に凄い人間のようだな………


 そして、俺達がどうしてこの店に居るのかと言うと、別に難しいことじゃない。単に、爺さんが俺達をこの店に誘ったからだ。

 雪之丞の記憶喪失が回復して、1週間程した週末………もっと簡単に言うと、つい数時間前に……


 元々は、月の戦勝と雪之丞の全快(記憶喪失)を祝う為にどっかに食いに行こうと言う話になったんだが、その時に爺さんが「それなら、丁度いい所がある」と言い出してここに連れて来られて現在に至る。





    ◇◇◇


 しばらくして運ばれてきた料理を口に運び、俺たちは顔を見合わせた。


「へぇ♪味も普通に美味いな」
「そうだな」


 出て来た料理を勢い良く頬張る雪之丞に、俺もお世辞じゃない返答を返す。

 正直『魔法料理店』なんて言うから、もっと気を奇をてらったもんが出て来るのかと身構えてたんだが、蓋を開けてみたら多少スパイスが本場寄りなのが気になったくらいで、雪之丞の言うように「普通に美味い」料理だった。

 その気になった(・・・・・)と言うのも、単に珍しかっただけで決して不味い訳じゃない。


「そうじゃろ♪そうじゃろ♪珍しい物が見れて、料理も美味い。祝いの席にはぴったりなんじゃないか?」
「マリア・この店・大好きです」


 俺達の反応を見て、上機嫌そうにする爺さんとマリア。

 もう解ってる事だが、今回の食事会に参加してるのは俺達2人と爺さんにマリアの4人。

 全員が月の一件……引いては、雪之丞の記憶喪失に関与してるから、妥当な組み合わせだろう。

 ちなみにだが、雪之丞は記憶喪失だった()の記憶は忘れたまま(忘れてくれて良かった)で、新たに記憶を失った爺さんはマリアが頭をシェイク(・・・・)したら直ぐに正気に戻った(何故!?)。

 …………戻ったが、前の数日分くらいの記憶を失った。

 何が言いたいかと言うと、俺の “黒歴史” はマリアのメモリーだけに残ってるって事で、これは普通に朗報だった(マリアには、喋らないでくれと懇願した)。


 そして、ついでに言うと、爺さんとマリアは未だ事務所に居る。何故だかは解らないが、家主が文句を言わないんだから別に良いか………




    ◇◇◇

「しっかし……俺達、月に行ったんだな………」
「ああ………その筈だ……」


 食う合間に思い出したようにボソッと呟く雪之丞に、俺もボソッと同意する。


 月に行った筈なんだが、未だにその実感が湧かない。

 とにかく色んな事が短期間に起こり過ぎて、感覚の追い付く気配がまるで見えなかったからだ。


「やり遂げたんだな……」
「ああ、とんでもない事をな………」


 毎日毎日、血反吐を吐くような鍛錬を積み重ねて、以前の自分より強くなったと言う実感は出来てたんだが、それで前に進めてるのかと言われれば、正直自信が無かった。

 ただ、今回の一件で俺達は2人だけで魔族を倒した。繰り返すが、とんでもない戦果だ。

 世間は、誰も俺達を認めちゃくれない。周りから見れば、俺達は得たいの知れないアウト・ローってとこだろう。

 それでも、誇りにすると言うにはこそばゆい(・・・・・)が、その事は事実としてしっかり認識するべきなのかもしれない。


「何を2人して、呆けとるんじゃ?」





回復祝 マリア
「邪魔をしては駄目です・Dr.カオス」

「そうだぜ……祝いの席なんだから浸らせろ」
「あんたと違って、俺達には歴史が無いんだよ」


 俺達がそうに言うと、爺さんは一言………


「歴史か……確かにそうじゃな………」



 そんなこんなで、食事会は進む。

 皆で食って、飲んで色々な話をした。互いのこれまでの事、これからの事、その他どうでも良いような近況話など、とにかく色々話してる内に時間はどんどん過ぎて行く。


 ………ここは、良い店かもな。

 使い魔達には、度肝を抜かれたがそれ以外は至って普通………いや、店の都会的なセンスの溢れる店内。リーズナブルな割に、味もボリュームも申し分ないメニュー。どれも標準以上だ。


 ここは、常連になるかもしれない。

 そんな風に思ってる時だった。


「そういや、爺さんは何でこの店を知ったんだ?」


 何気ない雪之丞の言葉だった。

 至極当然の疑問で別に俺も気に留めて無かったんだが、次に爺さんの放った言葉に俺は内心凍り付く(・・・・)事になる。


「絹が教えてくれたんじゃよ。安くて、美味しい店があるとな」



 …………………………やっぱり、駄目だ。この店には近付けねぇ………





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「面白い店じゃねぇか♪」「ああ」
 店内を見渡しながら興味深そうに喋る雪之丞へ、俺も感嘆混じりの同意を返す。
 入っていきなり黒猫に案内されたと思ったら、客の料理を運ぶのが複数の箒。店の中は大勢の客で賑わってるが、店側の人間の姿は全く見えない。
 危険ではないが、十分に異様で摩訶不思議な空間と言えるだろう。
「今は、忙しい時間帯じゃからのぉ。店主は、厨房に引っ込んどるんじゃ。会計の時には、顔を出すと思うぞ」
「厨房ね……流石に、飯まで箒が作ったりはしねぇか」
「でも、あり得そうだな………」
 あの箒達、ただ飯を運ぶだけじゃなくて客から注文まで受けてる。流石に喋るまでは出来ねぇが、意思の疎通は十分に出来るって事だ。
 そこまで知能が高けりゃ、料理が作れても何ら不思議じゃない。
「…………フフフッ……かもしれんの。じゃが、安心せい。例え箒が作っていたとしても、出てくる物の味は保証するぞ」
「ノープロブレム・魔鈴さんの料理・とても・美味しいです」
 そうやって訝しむ俺達を、テーブルの向かい側に座る爺さんは自信満々に、その隣に居るマリアは淡々と告げて来る。
 ………………ジジィは胡散臭さMAXだが、マリアの言う事なら信じてもいいかな。
「………|また《・・》、何か失礼な事考えとるな」
「気の所為だろ?」
 顔に出てたのか?
 こう言う時は、しっかり(?)ボケてろよ……
 んな事を考えながら、改めて周りを見渡す。
 出てくる西洋風の料理は皆美味しそうで、それを食べる客達にも特に不満そうな様子は無く、普通に食べてる。
 店内は異様だが、出て来る料理は何も問題無いって事だろう。
 そう思ってると、さっきマリアの言った言葉が、再び頭に浮かび上がって来る。
 “魔鈴さんの料理” か………
 複数の使い魔を使役して、自分は奥に引っ込み料理に専念する店主 “魔鈴”
 …………一体、どんな人物なんだ?
    ◇◇◇
 『魔法料理店・魔鈴』………爺さんとマリアが最近ちょくちょく通い出した店で、味も料金も申し分ないと言う。
 料理がまだ来てないから味に関しては解らないが、メニュー表にあった値段はその辺のファミレスなんなに比べれば確かに安かった。
 ただ、それ以上に目を引いたのは、さっき言った “使い魔” 達……
 爺さんが言うには、あれは古代ヨーロッパに栄えた技術で中世には殆ど廃れた『魔法』らしい。爺さんも昔は、使ってたそうだ。
 何故、今は使わないかと言うと……それは、|忘れた《・・・》から………
 ………………話を戻す。
 なら、その廃れた筈の技術が何でここにあるのかって話になるんだが、それも|ここ《・・》の店主である魔鈴と言う人物が僅かに残った資料を元に復元させたかららしい。
 使い魔に衝撃を受けた爺さんが、本人に直撃して得た情報だから(マリアからも裏を取った)信憑性は高そうだ。
 レストランを経営しながら、古代の技術を現代に蘇らす……中々に凄い人間のようだな………
 そして、俺達がどうしてこの店に居るのかと言うと、別に難しいことじゃない。単に、爺さんが俺達をこの店に誘ったからだ。
 雪之丞の記憶喪失が回復して、1週間程した週末………もっと簡単に言うと、つい数時間前に……
 元々は、月の戦勝と雪之丞の全快(記憶喪失)を祝う為にどっかに食いに行こうと言う話になったんだが、その時に爺さんが「それなら、丁度いい所がある」と言い出してここに連れて来られて現在に至る。
    ◇◇◇
 しばらくして運ばれてきた料理を口に運び、俺たちは顔を見合わせた。
「へぇ♪味も普通に美味いな」
「そうだな」
 出て来た料理を勢い良く頬張る雪之丞に、俺もお世辞じゃない返答を返す。
 正直『魔法料理店』なんて言うから、もっと気を奇をてらったもんが出て来るのかと身構えてたんだが、蓋を開けてみたら多少スパイスが本場寄りなのが気になったくらいで、雪之丞の言うように「普通に美味い」料理だった。
 その|気になった《・・・・・》と言うのも、単に珍しかっただけで決して不味い訳じゃない。
「そうじゃろ♪そうじゃろ♪珍しい物が見れて、料理も美味い。祝いの席にはぴったりなんじゃないか?」
「マリア・この店・大好きです」
 俺達の反応を見て、上機嫌そうにする爺さんとマリア。
 もう解ってる事だが、今回の食事会に参加してるのは俺達2人と爺さんにマリアの4人。
 全員が月の一件……引いては、雪之丞の記憶喪失に関与してるから、妥当な組み合わせだろう。
 ちなみにだが、雪之丞は記憶喪失だった|頃《・》の記憶は忘れたまま(忘れてくれて良かった)で、新たに記憶を失った爺さんはマリアが頭を|シェイク《・・・・》したら直ぐに正気に戻った(何故!?)。
 …………戻ったが、前の数日分くらいの記憶を失った。
 何が言いたいかと言うと、俺の “黒歴史” はマリアのメモリーだけに残ってるって事で、これは普通に朗報だった(マリアには、喋らないでくれと懇願した)。
 そして、ついでに言うと、爺さんとマリアは未だ事務所に居る。何故だかは解らないが、家主が文句を言わないんだから別に良いか………
    ◇◇◇
「しっかし……俺達、月に行ったんだな………」
「ああ………その筈だ……」
 食う合間に思い出したようにボソッと呟く雪之丞に、俺もボソッと同意する。
 月に行った筈なんだが、未だにその実感が湧かない。
 とにかく色んな事が短期間に起こり過ぎて、感覚の追い付く気配がまるで見えなかったからだ。
「やり遂げたんだな……」
「ああ、とんでもない事をな………」
 毎日毎日、血反吐を吐くような鍛錬を積み重ねて、以前の自分より強くなったと言う実感は出来てたんだが、それで前に進めてるのかと言われれば、正直自信が無かった。
 ただ、今回の一件で俺達は2人だけで魔族を倒した。繰り返すが、とんでもない戦果だ。
 世間は、誰も俺達を認めちゃくれない。周りから見れば、俺達は得たいの知れないアウト・ローってとこだろう。
 それでも、誇りにすると言うには|こそばゆい《・・・・・》が、その事は事実としてしっかり認識するべきなのかもしれない。
「何を2人して、呆けとるんじゃ?」
「邪魔をしては駄目です・Dr.カオス」
「そうだぜ……祝いの席なんだから浸らせろ」
「あんたと違って、俺達には歴史が無いんだよ」
 俺達がそうに言うと、爺さんは一言………
「歴史か……確かにそうじゃな………」
 そんなこんなで、食事会は進む。
 皆で食って、飲んで色々な話をした。互いのこれまでの事、これからの事、その他どうでも良いような近況話など、とにかく色々話してる内に時間はどんどん過ぎて行く。
 ………ここは、良い店かもな。
 使い魔達には、度肝を抜かれたがそれ以外は至って普通………いや、店の都会的なセンスの溢れる店内。リーズナブルな割に、味もボリュームも申し分ないメニュー。どれも標準以上だ。
 ここは、常連になるかもしれない。
 そんな風に思ってる時だった。
「そういや、爺さんは何でこの店を知ったんだ?」
 何気ない雪之丞の言葉だった。
 至極当然の疑問で別に俺も気に留めて無かったんだが、次に爺さんの放った言葉に俺は内心|凍り付く《・・・・》事になる。
「絹が教えてくれたんじゃよ。安くて、美味しい店があるとな」
 …………………………やっぱり、駄目だ。この店には近付けねぇ………