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第106話 爽やかな朝の作戦タイム

ー/ー



「お嬢様、おはようございます」

 結局あれから夜通し見守っていたのだろうか。オキザリスがテントを開き、中を覗き込んできた。外からの眩しい光が入り込んでくる。

 いつの間にか我も朝まで眠りに就くことができたらしい。

 ふと横を見ればノイデスは身体を丸めるようにして眠っており、なんだか丁度良い枕になっていた。うっかりしたら絞め殺されそうな位置に寝てたな、我。

「少し前にヤスミ様がお戻りになりましたよ」
「何、それは本当か! それでヤスミは?」
「ヤスミ様はお休みになられております」

 と、テントの外を見てみると、そこにあった木によりかかるようにして寝息を立てていた。結局一晩中情報収集をしてきたのか。生きて帰ってきたことにも驚きではあるが、こいつもなかなか頑張ってきたのだな。

 すやすやとまあ、心地よさそうに眠るものだ。ご苦労であった。

「ふむ、ではヤスミが目を覚まし次第、作戦会議といこうではないか」

 昨晩のうちに我の心は決まった。ミモザをアレフヘイムの森から連れ出し、そしてパエデロスに帰るのだ。例えミモザ自身がそれを望んでいなくとも説得してみせる。

「ほわわぁ~、お嬢様ぁ、おはようございますぅ~」

 気の抜けそうなあくびをして現れたのは褐色肌エルフのデニアだった。その両手には何やら木の実やらキノコやらが山盛りだ。朝ご飯を調達してきてもらったらしい。

「縄張りを避けてどうにか採れそうなところから集めてきましたよぉ~」

 簡単そうには言ってくれるが、結構手間の掛かることをしているな。
 近辺にエルフの里があるとなれば、勝手に森のものを採っただけでもどんな争いごとになるか分かったものではない。

 今はただでさえアレフヘイムの森でいざこざになっているというのに、余計な気を遣わせてしまったような気もする。

「水に関しましては私が川から持ってまいりました」

 その横をちょこんと歩いてきたのはサンシだ。デニアと並ぶと尚小さく見える。
 しかしその手の掲げてきた瓶の大きさには驚く。
 ちゃぷんちゃぷんと水たっぷり入れてきたその瓶は、サンシの頭より大きい。

 あれはサンシのお手製の瓶だろうか。
 よくもまあこんな大きなものを頭の上にまで掲げて持ち運べるものだ。
 さすがは力持ちのドワーフ。我とそんな身長変わらないのに頼もしい。

「美味しいご飯を作るからねぇ~」
「では、わたくしめもお手伝いいたしましょう」

 簡易に作られたキッチンに、デニアとオキザリスが並ぶ。
 褐色肌エルフとメイド少女。この二人の並びは何とも物珍しさがある。

 昨晩の夕食に出たスープも実に美味だったし、この二人がいればこんな野原のまっただなかでも最上級の料理を味わえると思っていいだろう。

 空を見上げれば、まあ眩しく、風も実に心地よく吹いている。ここから少し先にある丘を越えていけばまたあのアレフヘイムの森が見えてくるだろう。
 あそこにミモザがいる。そう思うだけで、心がざわつき、はやる。

 できることなら今すぐにでも駆けだして森に飛び込んで、ミモザを探し出し、連れて帰りたいという衝動に駆られる。が、今の我にはそこまでできる力はない。
 よもや、トロールまで出てくるともなれば念入りな作戦を練らねばなるまい。

 溜め息をそっと風に流しつつ、我は己の平静さを保つことに徹する。

 そうこうしていたら、美味しそうな匂いが鼻腔を刺激する。
 それと同時くらいだろうか。

「うおおおおぉぉぉっ!! 美味そうな匂い!!」

 そこにあったテントが突如、バキバキという音ともに破裂する。
 否、ノイデスが起き上がったのだ。すっかり布と骨組みの残骸となってしまったテントを無造作に踏み荒らしていきながらも、のっしのっしと食卓に向かう。

「おいおい、肉はねぇのか、肉はっ!」

 起きた途端にうるさいな、コイツは。もう少し寝ててもらえればまだ我も安息の一時を過ごせていたというのに。

「ノイデスさん、朝の一時くらいは静かにしていてもらいたいですよ」

 と、サンシが我の言いたいことを代弁してくれる。全く以てその通り。

 しかし、そんなことがノイデスに通じるわけもなく、キレイに盛り付けてあったサラダをボウルごとむんずと掴み取り、そのまま口に放り込むようにしてムシャムシャと食べ始める。せめて食器を使え、食器を。

「肉食わねぇと力出ねぇよぉ~」

 とか何とか言いながら口いっぱいにサラダを頬張り、咀嚼する。
 お前という奴は本当に……本当に……。

 ノイデスのあまりのがさつさ、無神経さにがっくりと脱力してしまい、なんだか我の中にあった強ばるほどの緊張感も一緒に何処かへと抜けていった。

 ※ ※ ※

 しばし遅れてヤスミが目を覚まし、粗方ノイデスに食い荒らされた食卓に入ってきたところで、ようやく作戦会議が進められた。
 ヤスミはかなり広い範囲で森の中を探索していたようで、なんとアレフヘイムのエルフの里の位置まで特定してきたのだという。

 墨で書き綴られたヤスミの地図は実に細かいところまでがまとめられており、隠密と情報収集が本業だと言っていた言葉の信憑性がグッと上がる。
 よくぞ一晩でここまでやってくれたものだな。

「拙者が見てきた限りでは、この先の丘からでは警戒が強く、正面突破は難しいですね。もう少し南側の方に迂回した辺りだと崖も近く、見張り台も少なかったです。ですからここを中心にして――」

 いつものヤスミじゃないな、これは。なんだこれは。
 お前、ミモザの店の従業員で、ムードメーカーな明るい小娘じゃなかったのか。
 なんでこんなにもテキパキと動けるのだ。

「ふむ、ここのルートは通れぬのか? 我の見たところ里まで近道に見えるが」
「不自然に広い空間があったんですよ。拙者が推測するにトロールの住処かなって」
 もうヤスミ一人だけでいいのでは? そう思えてくる。

「なあなあ、肝心の師匠は何処にいんだよ」
 ここでまたノイデスが茶々を入れてくる。

「おそらくお嬢はここ、里の中央の深部。民家でも宿でもない収容施設のような場所がありました。警備もすっごく厳しかったんで中に入ることもできなかったんですけど、もしお嬢がいるとしたらここしかないと思いました」

 なんか一部分空白が大きいなとは思ったが、さすがに入り込みきれていない場所もいくつかあるわけか。そうであったとしてもヤスミは十分すぎるくらいに優秀なわけだが。

「じゃあ、ここを俺らで攻め込んでいくわけだな!」
 ノイデス、お前はもう黙っててくれ。

「しかし、大したものです。あのエルフの里の内部をここまで……」
 サンシが感心したように褒める。

「そうですねぇ……よく見つからずに済みましたねぇ……」
 デニアも同意見のようだ。

 そんなこんなと、ヤスミの持ち帰った情報は大いに役に立ち、アレフヘイムのエルフの里へのルート、そしてミモザを連れて帰るための算段がスムーズに整えることができた。……途中途中でノイデスが口を挟んできたことはなかったこととして。

「よし! これで作戦は決まったな!」

 我の声に活力がみなぎってくるのを感じる。ミモザを連れて帰ることができる、そんな確信が得られたからだ。そんな我に同意するように、皆の注目が集まる。

「ま、なんだかよく分からなかったけど、テキトーに暴れておけばいいんだろ?」

 ……不安が残るところは色々、そりゃあ色々とあるのだが、今さらここで引いてミモザとの縁を切る気など毛頭ない。ここにいる連中は皆、同じことを思っているだろうしな。それだけは確実に聞かなくても分かることだ。


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次のエピソードへ進む 第107話 アレフヘイムの里へ突入


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「お嬢様、おはようございます」
 結局あれから夜通し見守っていたのだろうか。オキザリスがテントを開き、中を覗き込んできた。外からの眩しい光が入り込んでくる。
 いつの間にか我も朝まで眠りに就くことができたらしい。
 ふと横を見ればノイデスは身体を丸めるようにして眠っており、なんだか丁度良い枕になっていた。うっかりしたら絞め殺されそうな位置に寝てたな、我。
「少し前にヤスミ様がお戻りになりましたよ」
「何、それは本当か! それでヤスミは?」
「ヤスミ様はお休みになられております」
 と、テントの外を見てみると、そこにあった木によりかかるようにして寝息を立てていた。結局一晩中情報収集をしてきたのか。生きて帰ってきたことにも驚きではあるが、こいつもなかなか頑張ってきたのだな。
 すやすやとまあ、心地よさそうに眠るものだ。ご苦労であった。
「ふむ、ではヤスミが目を覚まし次第、作戦会議といこうではないか」
 昨晩のうちに我の心は決まった。ミモザをアレフヘイムの森から連れ出し、そしてパエデロスに帰るのだ。例えミモザ自身がそれを望んでいなくとも説得してみせる。
「ほわわぁ~、お嬢様ぁ、おはようございますぅ~」
 気の抜けそうなあくびをして現れたのは褐色肌エルフのデニアだった。その両手には何やら木の実やらキノコやらが山盛りだ。朝ご飯を調達してきてもらったらしい。
「縄張りを避けてどうにか採れそうなところから集めてきましたよぉ~」
 簡単そうには言ってくれるが、結構手間の掛かることをしているな。
 近辺にエルフの里があるとなれば、勝手に森のものを採っただけでもどんな争いごとになるか分かったものではない。
 今はただでさえアレフヘイムの森でいざこざになっているというのに、余計な気を遣わせてしまったような気もする。
「水に関しましては私が川から持ってまいりました」
 その横をちょこんと歩いてきたのはサンシだ。デニアと並ぶと尚小さく見える。
 しかしその手の掲げてきた瓶の大きさには驚く。
 ちゃぷんちゃぷんと水たっぷり入れてきたその瓶は、サンシの頭より大きい。
 あれはサンシのお手製の瓶だろうか。
 よくもまあこんな大きなものを頭の上にまで掲げて持ち運べるものだ。
 さすがは力持ちのドワーフ。我とそんな身長変わらないのに頼もしい。
「美味しいご飯を作るからねぇ~」
「では、わたくしめもお手伝いいたしましょう」
 簡易に作られたキッチンに、デニアとオキザリスが並ぶ。
 褐色肌エルフとメイド少女。この二人の並びは何とも物珍しさがある。
 昨晩の夕食に出たスープも実に美味だったし、この二人がいればこんな野原のまっただなかでも最上級の料理を味わえると思っていいだろう。
 空を見上げれば、まあ眩しく、風も実に心地よく吹いている。ここから少し先にある丘を越えていけばまたあのアレフヘイムの森が見えてくるだろう。
 あそこにミモザがいる。そう思うだけで、心がざわつき、はやる。
 できることなら今すぐにでも駆けだして森に飛び込んで、ミモザを探し出し、連れて帰りたいという衝動に駆られる。が、今の我にはそこまでできる力はない。
 よもや、トロールまで出てくるともなれば念入りな作戦を練らねばなるまい。
 溜め息をそっと風に流しつつ、我は己の平静さを保つことに徹する。
 そうこうしていたら、美味しそうな匂いが鼻腔を刺激する。
 それと同時くらいだろうか。
「うおおおおぉぉぉっ!! 美味そうな匂い!!」
 そこにあったテントが突如、バキバキという音ともに破裂する。
 否、ノイデスが起き上がったのだ。すっかり布と骨組みの残骸となってしまったテントを無造作に踏み荒らしていきながらも、のっしのっしと食卓に向かう。
「おいおい、肉はねぇのか、肉はっ!」
 起きた途端にうるさいな、コイツは。もう少し寝ててもらえればまだ我も安息の一時を過ごせていたというのに。
「ノイデスさん、朝の一時くらいは静かにしていてもらいたいですよ」
 と、サンシが我の言いたいことを代弁してくれる。全く以てその通り。
 しかし、そんなことがノイデスに通じるわけもなく、キレイに盛り付けてあったサラダをボウルごとむんずと掴み取り、そのまま口に放り込むようにしてムシャムシャと食べ始める。せめて食器を使え、食器を。
「肉食わねぇと力出ねぇよぉ~」
 とか何とか言いながら口いっぱいにサラダを頬張り、咀嚼する。
 お前という奴は本当に……本当に……。
 ノイデスのあまりのがさつさ、無神経さにがっくりと脱力してしまい、なんだか我の中にあった強ばるほどの緊張感も一緒に何処かへと抜けていった。
 ※ ※ ※
 しばし遅れてヤスミが目を覚まし、粗方ノイデスに食い荒らされた食卓に入ってきたところで、ようやく作戦会議が進められた。
 ヤスミはかなり広い範囲で森の中を探索していたようで、なんとアレフヘイムのエルフの里の位置まで特定してきたのだという。
 墨で書き綴られたヤスミの地図は実に細かいところまでがまとめられており、隠密と情報収集が本業だと言っていた言葉の信憑性がグッと上がる。
 よくぞ一晩でここまでやってくれたものだな。
「拙者が見てきた限りでは、この先の丘からでは警戒が強く、正面突破は難しいですね。もう少し南側の方に迂回した辺りだと崖も近く、見張り台も少なかったです。ですからここを中心にして――」
 いつものヤスミじゃないな、これは。なんだこれは。
 お前、ミモザの店の従業員で、ムードメーカーな明るい小娘じゃなかったのか。
 なんでこんなにもテキパキと動けるのだ。
「ふむ、ここのルートは通れぬのか? 我の見たところ里まで近道に見えるが」
「不自然に広い空間があったんですよ。拙者が推測するにトロールの住処かなって」
 もうヤスミ一人だけでいいのでは? そう思えてくる。
「なあなあ、肝心の師匠は何処にいんだよ」
 ここでまたノイデスが茶々を入れてくる。
「おそらくお嬢はここ、里の中央の深部。民家でも宿でもない収容施設のような場所がありました。警備もすっごく厳しかったんで中に入ることもできなかったんですけど、もしお嬢がいるとしたらここしかないと思いました」
 なんか一部分空白が大きいなとは思ったが、さすがに入り込みきれていない場所もいくつかあるわけか。そうであったとしてもヤスミは十分すぎるくらいに優秀なわけだが。
「じゃあ、ここを俺らで攻め込んでいくわけだな!」
 ノイデス、お前はもう黙っててくれ。
「しかし、大したものです。あのエルフの里の内部をここまで……」
 サンシが感心したように褒める。
「そうですねぇ……よく見つからずに済みましたねぇ……」
 デニアも同意見のようだ。
 そんなこんなと、ヤスミの持ち帰った情報は大いに役に立ち、アレフヘイムのエルフの里へのルート、そしてミモザを連れて帰るための算段がスムーズに整えることができた。……途中途中でノイデスが口を挟んできたことはなかったこととして。
「よし! これで作戦は決まったな!」
 我の声に活力がみなぎってくるのを感じる。ミモザを連れて帰ることができる、そんな確信が得られたからだ。そんな我に同意するように、皆の注目が集まる。
「ま、なんだかよく分からなかったけど、テキトーに暴れておけばいいんだろ?」
 ……不安が残るところは色々、そりゃあ色々とあるのだが、今さらここで引いてミモザとの縁を切る気など毛頭ない。ここにいる連中は皆、同じことを思っているだろうしな。それだけは確実に聞かなくても分かることだ。