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第107話 アレフヘイムの里へ突入

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 切り立った崖ルートを突き進み、そこからアレフヘイムの森への侵入を試みた我らは、無事、ヤスミの見つけてきた絶妙に見つかりにくいルートに辿り着き、今まさに森の中を進行中であった。

 え? 途中の崖はどうやってクリアしたのかって? そりゃあもう、オキザリスに抱きかかえられながらよ。我の虚弱さで崖を上り下りできるわけがあるまい。

「息を潜めてください。この先に見張り台があります」

 全身に草っぱを付けて四つん這いで先導するヤスミに言われるがまま、極力呼吸を抑えるようにして、同じように匍匐前進で移動する。

 ノイデスの図体では少し無茶があったんじゃないかと思ったが、さすがのノイデスもトロールに敵わないことは理解できているので、必死だった。
 おそらくは、この中で一番ビビっていると言ってもいいくらいだ。

「――止まってください。見張りがこちらの方を向きました」

 ヤスミの目には一体何が見えているのだろう。お前、確か魔力を感知する能力とかなかったはずでは? そんな我の疑問を他所に、遠方の高い位置からこちらの方を見下ろしているであろうエルフに警戒する。

「――今です。ゆっくり進みましょう」

 そうやってかなりの鈍行ではあったが、慎重且つ安全に、異様なまでに緊迫感のあるアレフヘイムへの潜入は順調だった。これ、ヤスミがいなかったら詰みでは?

 どうにかこうにか、時間を掛けて里まで辿り着いた頃には皆、全身を泥まみれにしていた。正直この時点でもう体力の消耗が激しかったのだが、アレフヘイムの森の中は濃い魔素の霧に包まれていたこともあり、何とか回復に割り当てられた。

 忘れがちなのだが、我の肉体は魔力で構成されている面もあり、当初は人間たちの憎しみや怒りなどの負の感情を糧として命を紡ぐようになっていた。が、パエデロスでは治安も安定してきた結果、それが上手くいかなくなっていたのが実情だ。

 その点、アレフヘイムの森は都合が良い。負の感情とか関係なしにそこら辺を魔力の素が漂っているのだから。無論、これも無尽蔵というわけではないし、自身の魔力に変換するまでのラグもある。そこまでは都合よくいかぬものだ。

 可能であれば、全盛期の力を取り戻すまでこの森に留まりたいところだが、多分そんなことしても百年以上は掛かるだろうし、下手したら森が涸れる方が先のような気もする。

 魔素からその身に魔力を取り込むのと、自分の肉体の足しにするのでは、実を囓るか、種を囓るかくらいの違いはある。後者の場合、即ち命を食らうと同義だ。

 まあ、そんな無理難題な話は今は置いておいて……ミモザの救出だ。

 アレフヘイムのエルフの里は、とんでもなく大きな巨木に建築されたツリーハウスの集合住宅のようだった。さすがは森の民、エルフといったところか。
 苔むした石造りの家屋も多く、年季の入っている感じがある。

 ものの見事に巨木と一体化していて、どこからが建物との境界線か分からなくなるようなものもちらほらと。

 あの場所でミモザが生まれ育ったのだと思うと、心がくすぶられるようだ。
 もし機会があったのならミモザの家にも立ち寄りたいが、それどころではないんだよなぁ、今。

「予定通り、ここで分散しましょう」

 ヤスミが指示を出す。里への入り口はいくつかあるようだが、まさか全員で一つの入り口に突撃するわけにもいかない。恰好の的になってしまうからだ。

 だからここからは少しでも安全とってバラけることにしたわけだ。
 ヤスミの調べた限りでは、誰にも見つからない裏口のようなものもないらしいので、いずれにせよ入るには正面から強行突破するしかない。

 里の中ともなれば、トロールを召喚するわけにもいかないだろうし、そんなことをしたら里が丸ごと潰されてしまう。だからここまでこれたなら、ある程度は対処ができるだろう、と括っているところもある。

 何より、ここに集まったメンツは基本的に能力が高い連中ばかりだし。

 試しに、大賢者の眼鏡(ライブミラー)を取り出してみる。これの便利なところはある程度、望遠ができることだろう。少し遠くまで伸ばして、丁度視界に入った入り口に立っている見張りのエルフを覗き込んでみた。

【アレフヘイム】(エルフ)
 ≪LV:28≫
 ≪HP:812/812≫
 ≪MP:1612/1612≫
 ≪状態:健康≫

 なるほどな、という数字が浮かび上がってくる。決して低い数値ではなく、束になって掛かられると困るくらいの戦力はあるが、我を除いた他の連中誰よりも一回り、二回りも能力は低いのは明白だ。

 そういえば、昨日なんかも不意打ちではあったけど、ノイデスの強力なタックルでエルフたちがまとめてぶっ飛ばされてたりしてたな。
 魔法を使われる前にどうにかできるのならノイデスでも対処可なのは立証済みか。

 ちなみに、分かれるチームについてだが。
 我とオキザリスが北側。デニアとサンシが南側。
 そして、ヤスミとノイデスでそれぞれ西と東に分かれる。

 ヤスミが単独なのは分かりやすい。彼女よりも速く動けるものがいないから、現状チームを組むとヤスミの足手まといになってしまう。
 ノイデスまでも単独なのは端的に言って陽動だ。

 話し合った結果、一番大騒ぎしてもらって、注意を惹きつける役割をしてもらうことにした。まあ多分、まともに里に入ってこれても結局大暴れしまくって敵を呼んでしまうことは目に見えていたしな。

「お嬢様、まいりましょう」

 オキザリスが我の手を引いて先導する。
 なんともはや頼りになるメイドなのだが、実のところ、一緒にこのミモザ奪還の旅についてきてからというもの、過保護に拍車が掛かってきている。

 当然のことながら、今回の旅は危険が多い。多すぎる。そのせいもあってだろう、いつも以上にオキザリスの我に対するガチガチのボディガード感がヤバい。

 まあオキザリスからしてみれば、我がここにくること自体も何としてでも引き留めたかったというのが本音だろう。それが絶対的に無理だと判断したからこそ、自分も同行し、徹底して我の身を守る決意を固めたに違いない。

「よし、配備に付けたな……あとはノイデスを待つだけだが」

 まずは作戦その1。ノイデスが暴れ出して、エルフたちの注目がそちらの方に向いた隙を狙って突入する。勿論、それで完全に気を惹けるとも思っていないが、少しでも分散してくれたなら儲けものだろう。

 ノイデスがどれだけ持つかは分からないが、危険を感じたら一目散に逃げるようには言ってある。アイツだってさすがに逃げるときは逃げるだろう。トロールのときもそうだったわけだし。

「ノイデス様は本当に大丈夫なのでしょうか?」
「普通にエルフからの集中攻撃を受けることにはなるだろうが、仮にもオーガ。筋肉の鎧で矢も刺さらんし、半端な毒も効かないはずだ」

 相手を見誤っていたらこの時点で全てが破綻する。
 強力な矢を打ち込まれたり、強力な猛毒を漏られたり、強力な魔法で一瞬で葬られたらおしまいだ。時間稼ぎする猶予もなく、下手したら死ぬかもしれん。

 それでも、アイツはミモザのために身体を張ると言ってくれた。
 なら、我はそれを引き留めたりはしない。

「おらおらおらおらおらあああぁぁぁぁあああっ!!!!」

 どうやら手筈通り、ノイデスが飛び込んでいったようだ。
 遠目から見ているのだが、物凄い数の矢が雨のようにノイデスに向かって降り注いでいっているのが見えた。が、そのどれもノイデスは弾き返していく。

「よし……我らも行くぞ」
「はい、お嬢様」


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 切り立った崖ルートを突き進み、そこからアレフヘイムの森への侵入を試みた我らは、無事、ヤスミの見つけてきた絶妙に見つかりにくいルートに辿り着き、今まさに森の中を進行中であった。
 え? 途中の崖はどうやってクリアしたのかって? そりゃあもう、オキザリスに抱きかかえられながらよ。我の虚弱さで崖を上り下りできるわけがあるまい。
「息を潜めてください。この先に見張り台があります」
 全身に草っぱを付けて四つん這いで先導するヤスミに言われるがまま、極力呼吸を抑えるようにして、同じように匍匐前進で移動する。
 ノイデスの図体では少し無茶があったんじゃないかと思ったが、さすがのノイデスもトロールに敵わないことは理解できているので、必死だった。
 おそらくは、この中で一番ビビっていると言ってもいいくらいだ。
「――止まってください。見張りがこちらの方を向きました」
 ヤスミの目には一体何が見えているのだろう。お前、確か魔力を感知する能力とかなかったはずでは? そんな我の疑問を他所に、遠方の高い位置からこちらの方を見下ろしているであろうエルフに警戒する。
「――今です。ゆっくり進みましょう」
 そうやってかなりの鈍行ではあったが、慎重且つ安全に、異様なまでに緊迫感のあるアレフヘイムへの潜入は順調だった。これ、ヤスミがいなかったら詰みでは?
 どうにかこうにか、時間を掛けて里まで辿り着いた頃には皆、全身を泥まみれにしていた。正直この時点でもう体力の消耗が激しかったのだが、アレフヘイムの森の中は濃い魔素の霧に包まれていたこともあり、何とか回復に割り当てられた。
 忘れがちなのだが、我の肉体は魔力で構成されている面もあり、当初は人間たちの憎しみや怒りなどの負の感情を糧として命を紡ぐようになっていた。が、パエデロスでは治安も安定してきた結果、それが上手くいかなくなっていたのが実情だ。
 その点、アレフヘイムの森は都合が良い。負の感情とか関係なしにそこら辺を魔力の素が漂っているのだから。無論、これも無尽蔵というわけではないし、自身の魔力に変換するまでのラグもある。そこまでは都合よくいかぬものだ。
 可能であれば、全盛期の力を取り戻すまでこの森に留まりたいところだが、多分そんなことしても百年以上は掛かるだろうし、下手したら森が涸れる方が先のような気もする。
 魔素からその身に魔力を取り込むのと、自分の肉体の足しにするのでは、実を囓るか、種を囓るかくらいの違いはある。後者の場合、即ち命を食らうと同義だ。
 まあ、そんな無理難題な話は今は置いておいて……ミモザの救出だ。
 アレフヘイムのエルフの里は、とんでもなく大きな巨木に建築されたツリーハウスの集合住宅のようだった。さすがは森の民、エルフといったところか。
 苔むした石造りの家屋も多く、年季の入っている感じがある。
 ものの見事に巨木と一体化していて、どこからが建物との境界線か分からなくなるようなものもちらほらと。
 あの場所でミモザが生まれ育ったのだと思うと、心がくすぶられるようだ。
 もし機会があったのならミモザの家にも立ち寄りたいが、それどころではないんだよなぁ、今。
「予定通り、ここで分散しましょう」
 ヤスミが指示を出す。里への入り口はいくつかあるようだが、まさか全員で一つの入り口に突撃するわけにもいかない。恰好の的になってしまうからだ。
 だからここからは少しでも安全とってバラけることにしたわけだ。
 ヤスミの調べた限りでは、誰にも見つからない裏口のようなものもないらしいので、いずれにせよ入るには正面から強行突破するしかない。
 里の中ともなれば、トロールを召喚するわけにもいかないだろうし、そんなことをしたら里が丸ごと潰されてしまう。だからここまでこれたなら、ある程度は対処ができるだろう、と括っているところもある。
 何より、ここに集まったメンツは基本的に能力が高い連中ばかりだし。
 試しに、|大賢者の眼鏡《ライブミラー》を取り出してみる。これの便利なところはある程度、望遠ができることだろう。少し遠くまで伸ばして、丁度視界に入った入り口に立っている見張りのエルフを覗き込んでみた。
【アレフヘイム】(エルフ)
 ≪LV:28≫
 ≪HP:812/812≫
 ≪MP:1612/1612≫
 ≪状態:健康≫
 なるほどな、という数字が浮かび上がってくる。決して低い数値ではなく、束になって掛かられると困るくらいの戦力はあるが、我を除いた他の連中誰よりも一回り、二回りも能力は低いのは明白だ。
 そういえば、昨日なんかも不意打ちではあったけど、ノイデスの強力なタックルでエルフたちがまとめてぶっ飛ばされてたりしてたな。
 魔法を使われる前にどうにかできるのならノイデスでも対処可なのは立証済みか。
 ちなみに、分かれるチームについてだが。
 我とオキザリスが北側。デニアとサンシが南側。
 そして、ヤスミとノイデスでそれぞれ西と東に分かれる。
 ヤスミが単独なのは分かりやすい。彼女よりも速く動けるものがいないから、現状チームを組むとヤスミの足手まといになってしまう。
 ノイデスまでも単独なのは端的に言って陽動だ。
 話し合った結果、一番大騒ぎしてもらって、注意を惹きつける役割をしてもらうことにした。まあ多分、まともに里に入ってこれても結局大暴れしまくって敵を呼んでしまうことは目に見えていたしな。
「お嬢様、まいりましょう」
 オキザリスが我の手を引いて先導する。
 なんともはや頼りになるメイドなのだが、実のところ、一緒にこのミモザ奪還の旅についてきてからというもの、過保護に拍車が掛かってきている。
 当然のことながら、今回の旅は危険が多い。多すぎる。そのせいもあってだろう、いつも以上にオキザリスの我に対するガチガチのボディガード感がヤバい。
 まあオキザリスからしてみれば、我がここにくること自体も何としてでも引き留めたかったというのが本音だろう。それが絶対的に無理だと判断したからこそ、自分も同行し、徹底して我の身を守る決意を固めたに違いない。
「よし、配備に付けたな……あとはノイデスを待つだけだが」
 まずは作戦その1。ノイデスが暴れ出して、エルフたちの注目がそちらの方に向いた隙を狙って突入する。勿論、それで完全に気を惹けるとも思っていないが、少しでも分散してくれたなら儲けものだろう。
 ノイデスがどれだけ持つかは分からないが、危険を感じたら一目散に逃げるようには言ってある。アイツだってさすがに逃げるときは逃げるだろう。トロールのときもそうだったわけだし。
「ノイデス様は本当に大丈夫なのでしょうか?」
「普通にエルフからの集中攻撃を受けることにはなるだろうが、仮にもオーガ。筋肉の鎧で矢も刺さらんし、半端な毒も効かないはずだ」
 相手を見誤っていたらこの時点で全てが破綻する。
 強力な矢を打ち込まれたり、強力な猛毒を漏られたり、強力な魔法で一瞬で葬られたらおしまいだ。時間稼ぎする猶予もなく、下手したら死ぬかもしれん。
 それでも、アイツはミモザのために身体を張ると言ってくれた。
 なら、我はそれを引き留めたりはしない。
「おらおらおらおらおらあああぁぁぁぁあああっ!!!!」
 どうやら手筈通り、ノイデスが飛び込んでいったようだ。
 遠目から見ているのだが、物凄い数の矢が雨のようにノイデスに向かって降り注いでいっているのが見えた。が、そのどれもノイデスは弾き返していく。
「よし……我らも行くぞ」
「はい、お嬢様」