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ダンジョンのモンスター

ー/ー



 ある冒険者がダンジョンの深部へ足を踏み入れた。



 ——カシャ……カシャ……



 鋭い脚が地面を這い回る音が闇の中に響き渡る。冒険者は息を呑み、手汗をぬぐいながら耳を澄ました。



「ゴクリ……」



 音の方向から、暗闇の中に黒いシルエットがゆっくりと浮かび上がる。それは異様に大きなモンスターで、冷たい光を放つ目がぽつりと冒険者を見下ろしていた。



「キエエエェエえ……」



 不気味な鳴き声が響く中、冒険者は慎重に剣を抜き、相手の出方を伺う。



(迂闊に飛び込むのは危険だ……。)



 相手の系統がわからなければ、無闇に飛び道具を使うのも危険だと判断する。もしかすると、耐性や反撃能力を持つ相手かもしれない。

 冒険者は慎重に一歩引きながら、冷静に状況を分析していた。



 モンスターは暗闇の中でじっと立ち止まり、奇妙な声を上げ続けていた。



「きええぇ……」



 その声はどこか不気味で、耳に残る音だったが、今のところモンスターは攻撃してくる様子がない。



「……」



 冒険者は剣を構えたまま、一歩も動かずに様子を見守っていた。



(これは……様子を伺っているのか?それとも何かを考えているのか……?)



 モンスターの冷たい目がこちらをじっと見つめている。その視線には確かな意図があるように思えるが、それが何を意味するのかは冒険者にはまだ分からない。



(下手に動けばこちらが先に仕掛けたと思われるかもしれない。いや、だが攻撃する準備をしている可能性も……。)



 冒険者の額には汗が滲み、握る剣の柄がわずかに震えていた。



 だが、そのモンスターは冒険者の予想を超える言葉を口にした。



「なんだ、この、モンスター。」

「は?」



 冒険者は一瞬、耳を疑った。

 自分がモンスター扱いされている……だと?



 モンスターは冷たく見下ろしたまま、興奮したように言葉を続けた。



「なんだこれ、なんだこれ、なんだなんだなんだ!」



 冒険者は完全に面食らい、剣を構えたまま動けない。



「……。」



 モンスターはさらに加速するように嫌悪感をあらわにした。



「まじキモいですわね。マジキモキモキもきも。ですわねですわねですわね!」



 その語気はどんどん強くなり、冒険者は呆然と立ち尽くす。



(俺が……キモいってか?おい、これどういうことだよ……?)



 頭の中が混乱しつつも、目の前の異様な状況にどう対処すべきか全くわからなかった。

 モンスターは続けて声を張り上げた。



「なんですのですのですの。この黒いやつ、黒いやつ。」



 冒険者は一瞬、目を見開いた。



(黒いやつ……って、俺のことか?)



 モンスターはじっと冒険者を見つめながら、突然奇妙な調子で言葉を繰り返し始めた。



「おもおも、おもしろおも……あぁこいつことば真似する、するするマネマネまね。面白いですわね。」



 その妙に楽しげなトーンに、冒険者は完全に混乱していた。



(……ことば真似?何を言ってるんだ、こいつ?俺の言葉を真似してる……?いや、待て、それってどういうことだ?)



 目の前のモンスターがただ攻撃するわけでもなく、むしろ興味深げに冒険者を観察しているような態度を見せ始める。冒険者は剣を構えたまま、ただその場に立ち尽くしていた。



 
「キエエエええぇきょええぇえ!」



 モンスターが再び奇声を上げると、冒険者が無意識に身構える。だが、その直後——



「やっぱり真似しますわね。くっそ面白えですわ。」



 モンスターはケラケラと笑いながら、再び声を張り上げた。



「キエエエええええ!」



 その姿はまるで目の前の冒険者をおちょくっているかのようだった。
 冒険者は剣を握りしめたまま、困惑の表情を浮かべる。



(おいおい……何なんだこの状況は?俺をからかって遊んでるってことか……?)



 しかし、モンスターはさらに声を荒げながら楽しげに続けている。



「キエエエええぇえ!これクセになりますわね!キエエエええええ!」



 冒険者は内心で頭を抱えつつも、どう反応するべきか全くわからないまま、その場に立ち尽くしていた。



 冒険者は目の前で騒ぐモンスターを観察しながら、ふとある可能性を思いついた。



(もしや……こいつ、人の言葉を覚えて油断させるタイプか?)



 過去に聞いたモンスターの噂が頭をよぎる。

 人間の言葉を真似るモンスターがいるという話を聞いたことがあった。それは、前の犠牲者や冒険者から言葉を学び、それを利用して相手を混乱させたり、油断させたりするタイプの存在だった。



 モンスターはひたすら喋り続け、その内容はさらに奇妙さを増していく。



「エリ、えり、えりエリシアエリシアシア!」



 モンスターは笑い声のような奇声を上げながら、突然せっつくような口調に変わった。

「いこーぜ早く早くいこーぜ日がくれちま日が暮れちまう!」



 冒険者は困惑しつつも、モンスターが繰り返す名前に引っかかりを覚えた。

(エリシア……?誰だよ……。)



 モンスターはさらに続ける。

「待て待って待って、メモメモ帳か何かに使えませんかね。」



 その唐突な発言に、冒険者は完全に困惑しながら一歩後退する。



「すすすスマホでじゅぶ十分!」

モンスターは何かの会話をそのまま真似しているかのように流暢な言葉を紡ぎ出している。



(やっぱりこいつ、前の犠牲者の言葉をコピーしてるんだ……。)



 冒険者は冷や汗をかきながら、モンスターの挙動を観察し続けた。明確な敵意はまだ見えないが、この不気味な状況に不安を感じずにはいられないのだった。



 「キエえええぇえええ!キエえええぇええ!」



 モンスターは再び奇声を上げながら、どこか楽しげに跳ねるような動きを見せた。



 そして急にトーンを落とし、何かを思い出したかのように口を開く。

「ヴァ、ヴァヴァヴァヴァ……ヴァイ。」



 冒険者は思わず剣を握る手に力を込めた。

(ヴァイ?また新しい名前か?それとも……誰か特定の人間の名前?)



 モンスターは何の関心も示さずに続ける。



「これ、私の叫び声を入れてムカつく奴の家に送りつけましょう。」



 その言葉に冒険者の表情は引きつった。



(おい、どういう状況なんだよこれ!?)



 モンスターは楽しげに跳ねながら何度も奇声を上げ、言葉の真似を繰り返していた。



 モンスターは喋り続ける。その内容は冒険者には意味不明なもので、まるで誰かの会話をそのまま再現しているかのようだった。



「こんなクッソキモいやつ送れねえよ。」



冒険者は一瞬ぎくりとした。

(俺のことか?いや、違うか……。)



「なんか使い道ありませんのキエエエェエええ!キエエエええ!」

 モンスターはまた奇声を交えながら話を続ける。



「知らねえよ早くいこうぜ。」



 そして突然、妙に興奮した様子で叫び声を上げる。

「ちょっと閃いた!」



 冒険者は剣を握りしめ、目を細めて警戒する。

(閃いた?何をだ……?)



 モンスターは突然、淡々とした口調で語り始めた。



「ここに、トイレがあります。向かって左側が男性用、右側が女性用です。」

 唐突な謎の音声案内。



「……ふっ、お前、駅のトイレじゃねえんだぞ。」

 ヴァイと思わしき人物のツッコミがモンスターの口から吐き出される。



 冒険者はその異様な光景に、戦うべきか、それとも逃げるべきか迷い始めた。

 モンスターは冒険者の存在などまるで気にせず、ひたすら誰かの会話を再現し続けている。



 どうやら「エリシア」という名前の人物が、モンスターが歌を真似られるかどうか試していたようだ。



「こいつ、歌とかもいけるんじゃありませんの?」
「試してみろよ。」



 その会話をそのまま再現した後、モンスターは突然声のトーンを変え、大きな声で歌い始めた。



「どおこデェ!こおぉわれたぁのオオオオオオウフレエエエエェンズ!」



 冒険者はその場で剣を構えたまま固まり、思わず心の中で呟く。



(まあまあうめえじゃねえかよ……。)



 モンスターは歌い終えると、一瞬だけ満足げに振る舞い、また別の会話の再現を始める。



 冒険者は呆然としながらも、目の前の光景が全く状況を理解できないまま、ただその場に立ち尽くしていた。



 冒険者はしばらくモンスターの様子を観察し続けたが、次第に結論を下すに至った。



(今のところ、攻撃する素振りはない……。これなら、下手に刺激する必要もないだろう。)



 目の前のモンスターは相変わらず、誰かの会話を再現しながら奇声を混ぜて騒いでいるだけだった。



「二度とぉ!もどれなぁいオオオオオオウフレエエエエェンズ!」



 冒険者は剣をゆっくりと鞘に収め、慎重に一歩後退する。



(ここは何もしないで先を急ぐのが正解だな。余計な戦いに巻き込まれるのはごめんだ。)



 冒険者が静かにその場を離れ、足音を消して先を急いでいると——



 ——ズズッ……



 背後から何かが這い寄る音が聞こえる。



「……っ!」



 冒険者が振り返った瞬間、モンスターが目にも止まらぬ速さで飛びかかってきた。



「キエエエええぇえ!」



 冒険者が剣を抜く間もなく、モンスターの鋭い牙が冒険者の頭をがぶりと捕らえた。



 ——バリッ!



 骨が砕ける音が響き、モンスターは何事もなかったかのように冒険者の頭を食いちぎった。血飛沫が舞い、冒険者はその場で崩れ落ちた。



 冒険者の残骸が散らばる中、モンスターはその場に留まり、なおも誰かの会話を再現していた。



「うわ!襲ってきましたわこいつ!」



 モンスターは叫び声を模倣しながら、小さく跳ねてみせる。

 続いて、別のトーンで罵声を再現する。



「こんのタコやろう!」



 その奇妙な振る舞いに不気味さを感じる静寂が広がる中、モンスターはさらに冷静な声を真似して続けた。



「……まぁ面白いモンスターですし放っときますか。」



 モンスターはまるでその場を皮肉るように再現した言葉を繰り返していた。



 ——その背後には、冒険者の血痕が広がり、壊れた剣と荷物が静かに転がっているだけだった。



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 ある冒険者がダンジョンの深部へ足を踏み入れた。
 ——カシャ……カシャ……
 鋭い脚が地面を這い回る音が闇の中に響き渡る。冒険者は息を呑み、手汗をぬぐいながら耳を澄ました。
「ゴクリ……」
 音の方向から、暗闇の中に黒いシルエットがゆっくりと浮かび上がる。それは異様に大きなモンスターで、冷たい光を放つ目がぽつりと冒険者を見下ろしていた。
「キエエエェエえ……」
 不気味な鳴き声が響く中、冒険者は慎重に剣を抜き、相手の出方を伺う。
(迂闊に飛び込むのは危険だ……。)
 相手の系統がわからなければ、無闇に飛び道具を使うのも危険だと判断する。もしかすると、耐性や反撃能力を持つ相手かもしれない。
 冒険者は慎重に一歩引きながら、冷静に状況を分析していた。
 モンスターは暗闇の中でじっと立ち止まり、奇妙な声を上げ続けていた。
「きええぇ……」
 その声はどこか不気味で、耳に残る音だったが、今のところモンスターは攻撃してくる様子がない。
「……」
 冒険者は剣を構えたまま、一歩も動かずに様子を見守っていた。
(これは……様子を伺っているのか?それとも何かを考えているのか……?)
 モンスターの冷たい目がこちらをじっと見つめている。その視線には確かな意図があるように思えるが、それが何を意味するのかは冒険者にはまだ分からない。
(下手に動けばこちらが先に仕掛けたと思われるかもしれない。いや、だが攻撃する準備をしている可能性も……。)
 冒険者の額には汗が滲み、握る剣の柄がわずかに震えていた。
 だが、そのモンスターは冒険者の予想を超える言葉を口にした。
「なんだ、この、モンスター。」
「は?」
 冒険者は一瞬、耳を疑った。
 自分がモンスター扱いされている……だと?
 モンスターは冷たく見下ろしたまま、興奮したように言葉を続けた。
「なんだこれ、なんだこれ、なんだなんだなんだ!」
 冒険者は完全に面食らい、剣を構えたまま動けない。
「……。」
 モンスターはさらに加速するように嫌悪感をあらわにした。
「まじキモいですわね。マジキモキモキもきも。ですわねですわねですわね!」
 その語気はどんどん強くなり、冒険者は呆然と立ち尽くす。
(俺が……キモいってか?おい、これどういうことだよ……?)
 頭の中が混乱しつつも、目の前の異様な状況にどう対処すべきか全くわからなかった。
 モンスターは続けて声を張り上げた。
「なんですのですのですの。この黒いやつ、黒いやつ。」
 冒険者は一瞬、目を見開いた。
(黒いやつ……って、俺のことか?)
 モンスターはじっと冒険者を見つめながら、突然奇妙な調子で言葉を繰り返し始めた。
「おもおも、おもしろおも……あぁこいつことば真似する、するするマネマネまね。面白いですわね。」
 その妙に楽しげなトーンに、冒険者は完全に混乱していた。
(……ことば真似?何を言ってるんだ、こいつ?俺の言葉を真似してる……?いや、待て、それってどういうことだ?)
 目の前のモンスターがただ攻撃するわけでもなく、むしろ興味深げに冒険者を観察しているような態度を見せ始める。冒険者は剣を構えたまま、ただその場に立ち尽くしていた。
「キエエエええぇきょええぇえ!」
 モンスターが再び奇声を上げると、冒険者が無意識に身構える。だが、その直後——
「やっぱり真似しますわね。くっそ面白えですわ。」
 モンスターはケラケラと笑いながら、再び声を張り上げた。
「キエエエええええ!」
 その姿はまるで目の前の冒険者をおちょくっているかのようだった。
 冒険者は剣を握りしめたまま、困惑の表情を浮かべる。
(おいおい……何なんだこの状況は?俺をからかって遊んでるってことか……?)
 しかし、モンスターはさらに声を荒げながら楽しげに続けている。
「キエエエええぇえ!これクセになりますわね!キエエエええええ!」
 冒険者は内心で頭を抱えつつも、どう反応するべきか全くわからないまま、その場に立ち尽くしていた。
 冒険者は目の前で騒ぐモンスターを観察しながら、ふとある可能性を思いついた。
(もしや……こいつ、人の言葉を覚えて油断させるタイプか?)
 過去に聞いたモンスターの噂が頭をよぎる。
 人間の言葉を真似るモンスターがいるという話を聞いたことがあった。それは、前の犠牲者や冒険者から言葉を学び、それを利用して相手を混乱させたり、油断させたりするタイプの存在だった。
 モンスターはひたすら喋り続け、その内容はさらに奇妙さを増していく。
「エリ、えり、えりエリシアエリシアシア!」
 モンスターは笑い声のような奇声を上げながら、突然せっつくような口調に変わった。
「いこーぜ早く早くいこーぜ日がくれちま日が暮れちまう!」
 冒険者は困惑しつつも、モンスターが繰り返す名前に引っかかりを覚えた。
(エリシア……?誰だよ……。)
 モンスターはさらに続ける。
「待て待って待って、メモメモ帳か何かに使えませんかね。」
 その唐突な発言に、冒険者は完全に困惑しながら一歩後退する。
「すすすスマホでじゅぶ十分!」
モンスターは何かの会話をそのまま真似しているかのように流暢な言葉を紡ぎ出している。
(やっぱりこいつ、前の犠牲者の言葉をコピーしてるんだ……。)
 冒険者は冷や汗をかきながら、モンスターの挙動を観察し続けた。明確な敵意はまだ見えないが、この不気味な状況に不安を感じずにはいられないのだった。
 「キエえええぇえええ!キエえええぇええ!」
 モンスターは再び奇声を上げながら、どこか楽しげに跳ねるような動きを見せた。
 そして急にトーンを落とし、何かを思い出したかのように口を開く。
「ヴァ、ヴァヴァヴァヴァ……ヴァイ。」
 冒険者は思わず剣を握る手に力を込めた。
(ヴァイ?また新しい名前か?それとも……誰か特定の人間の名前?)
 モンスターは何の関心も示さずに続ける。
「これ、私の叫び声を入れてムカつく奴の家に送りつけましょう。」
 その言葉に冒険者の表情は引きつった。
(おい、どういう状況なんだよこれ!?)
 モンスターは楽しげに跳ねながら何度も奇声を上げ、言葉の真似を繰り返していた。
 モンスターは喋り続ける。その内容は冒険者には意味不明なもので、まるで誰かの会話をそのまま再現しているかのようだった。
「こんなクッソキモいやつ送れねえよ。」
冒険者は一瞬ぎくりとした。
(俺のことか?いや、違うか……。)
「なんか使い道ありませんのキエエエェエええ!キエエエええ!」
 モンスターはまた奇声を交えながら話を続ける。
「知らねえよ早くいこうぜ。」
 そして突然、妙に興奮した様子で叫び声を上げる。
「ちょっと閃いた!」
 冒険者は剣を握りしめ、目を細めて警戒する。
(閃いた?何をだ……?)
 モンスターは突然、淡々とした口調で語り始めた。
「ここに、トイレがあります。向かって左側が男性用、右側が女性用です。」
 唐突な謎の音声案内。
「……ふっ、お前、駅のトイレじゃねえんだぞ。」
 ヴァイと思わしき人物のツッコミがモンスターの口から吐き出される。
 冒険者はその異様な光景に、戦うべきか、それとも逃げるべきか迷い始めた。
 モンスターは冒険者の存在などまるで気にせず、ひたすら誰かの会話を再現し続けている。
 どうやら「エリシア」という名前の人物が、モンスターが歌を真似られるかどうか試していたようだ。
「こいつ、歌とかもいけるんじゃありませんの?」
「試してみろよ。」
 その会話をそのまま再現した後、モンスターは突然声のトーンを変え、大きな声で歌い始めた。
「どおこデェ!こおぉわれたぁのオオオオオオウフレエエエエェンズ!」
 冒険者はその場で剣を構えたまま固まり、思わず心の中で呟く。
(まあまあうめえじゃねえかよ……。)
 モンスターは歌い終えると、一瞬だけ満足げに振る舞い、また別の会話の再現を始める。
 冒険者は呆然としながらも、目の前の光景が全く状況を理解できないまま、ただその場に立ち尽くしていた。
 冒険者はしばらくモンスターの様子を観察し続けたが、次第に結論を下すに至った。
(今のところ、攻撃する素振りはない……。これなら、下手に刺激する必要もないだろう。)
 目の前のモンスターは相変わらず、誰かの会話を再現しながら奇声を混ぜて騒いでいるだけだった。
「二度とぉ!もどれなぁいオオオオオオウフレエエエエェンズ!」
 冒険者は剣をゆっくりと鞘に収め、慎重に一歩後退する。
(ここは何もしないで先を急ぐのが正解だな。余計な戦いに巻き込まれるのはごめんだ。)
 冒険者が静かにその場を離れ、足音を消して先を急いでいると——
 ——ズズッ……
 背後から何かが這い寄る音が聞こえる。
「……っ!」
 冒険者が振り返った瞬間、モンスターが目にも止まらぬ速さで飛びかかってきた。
「キエエエええぇえ!」
 冒険者が剣を抜く間もなく、モンスターの鋭い牙が冒険者の頭をがぶりと捕らえた。
 ——バリッ!
 骨が砕ける音が響き、モンスターは何事もなかったかのように冒険者の頭を食いちぎった。血飛沫が舞い、冒険者はその場で崩れ落ちた。
 冒険者の残骸が散らばる中、モンスターはその場に留まり、なおも誰かの会話を再現していた。
「うわ!襲ってきましたわこいつ!」
 モンスターは叫び声を模倣しながら、小さく跳ねてみせる。
 続いて、別のトーンで罵声を再現する。
「こんのタコやろう!」
 その奇妙な振る舞いに不気味さを感じる静寂が広がる中、モンスターはさらに冷静な声を真似して続けた。
「……まぁ面白いモンスターですし放っときますか。」
 モンスターはまるでその場を皮肉るように再現した言葉を繰り返していた。
 ——その背後には、冒険者の血痕が広がり、壊れた剣と荷物が静かに転がっているだけだった。