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第11話:結び目の歪み、異世界の片鱗

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 1. 異変の始まり

 ルルとの切ない告白と、メイド服への「願望変換魔法」から一夜明け、佐倉亮太の2LDKは、表面上は穏やかだった。亮太は、転勤や結婚を諦め、このボロアパートに永遠に住むという絶望的な現実を受け入れ始めていた。

「マスター、おはようであります!」

 ルルはメイド服姿のまま、朝食に特製「魔力増幅オムライス」を出してきた。オムライスのケチャップは、ピンク色の魔法陣を描いている。

「ありがとう、ルル。その服、もう着替えなくていいのか?」

「はい!マスターの願望は、わたくしの魔力を最も安定させる『増幅機』。この服を着ていると、魔力が暴走しにくいんです!」

 その時、ヒヨリが氷のコップに入った冷水を亮太の前に置き、エラシアが「夫の健康管理」と称して、亮太のTシャツのサイズを測り始めた。テアは、リビングの隅で岩盤を掘り進めている。

 非日常が日常化した光景。しかし、この朝は、いつものカオスとは違う、不気味な静けさがあった。

「王よ。今朝からアパートの周囲の『大気の純度』が低下しています」

 ヒヨリが真剣な顔で言った。

「私の精霊たちも、普段より妙な『ノイズ』を聞き取っている。不吉だ、夫」

 エラシアも剣の手を止め、窓の外を見つめた。

_____________________
 2. 異世界の侵食

 亮太が会社に向かうためアパートの玄関を出た瞬間、異変は目に見える形となって現れた。

 アパートの植え込み。そこには、背丈ほどもある紫色の巨大なキノコが生えていた。そのキノコからは、甘ったるい、しかし腐敗したような異臭が立ち込めている。

「な、なんだこれ!? 巨大キノコ? まさか、これもルルの魔法の暴走か?」

「いえ、はい……わたくしの世界の魔物、『ポイズン・フォグ』の生息地であります! 結び目から漏れ出した……!?」

 ルルが青ざめて叫んだ。

 ヒヨリがキノコに触れると、キノコは一瞬で凍りついたが、すぐに氷を破り、毒々しい紫色の霧を噴出した。

「氷雪郷では、この種の魔物は『崩壊の予兆』とされます。王の魔力が不安定化した証拠です!」

 テアが持っていた特殊なセンサーを地面に突き刺した。

「佐倉タイスケ! 測定結果が出た! この地層の『次元の亀裂(クラック)』が急速に拡大している! このアパートの座標が、完全に異世界の影響下に入り始めているぞ!」

 四人のヒロインたちは、亮太を巡るバトルが、実は自分たちの世界の崩壊を加速させているという、最も恐れていた事態に直面した。

_____________________
 3. 山田さんの新特訓と被害

「待て! 僕のフィギュアは……いや、それより、これ以上異世界のものが漏れ出したら、どうなるんだ!?」

 亮太が絶望していると、上階の窓がガチャリと開いた。

 山田さんが、昨日の七輪の煤で汚れたタンクトップ姿で、窓から身を乗り出してきた。

「ハッハッハ! やはりこの力は本物だった! 昨日の四股と火の特訓で、ついに俺は『生命の奔流』を呼び込んだのだ!」

 山田さんは、植え込みの巨大キノコを見て、歓喜した。

「見ろ、佐倉! 俺が呼び出した『生命の使い』だ! このキノコは、俺の異能の『進化の証明』なのだ!」

「ち、違う! あれは毒キノコだ! 近づくな、山田さん!」

 亮太の忠告も聞かず、山田さんはキノコに向かって、七輪の燃えかすを勢いよく投げつけた。

「フン! 進化の証に、さらなる火の洗礼を与えてやる!」

 燃えかすがキノコに当たった瞬間、キノコは一瞬で炎上し、紫色の毒霧を大量に噴出させた。

「ぐはあっ!?」

 山田さんは毒霧を吸い込み、咳き込みながら窓を閉めた。

「こ、これは『毒への耐性』特訓! 俺の進化は止まらない!」

 亮太は頭を抱えた。山田さんがいる限り、この異世界の災厄は「現実の事象」として処理されず、カオスは増幅する一方だ。

_____________________
 4. 楓さんの絶望と、迫る危機

 なんとか出社し、オフィスで仕事をしていた亮太のもとに、昼過ぎ、憔悴しきった様子の楓さんがやってきた。あ、ちなみに、オフィスはいつの間にか、何事もなかったかのように元通りになっていた。おそらくこれもルルの仕業だろう。

「佐倉先輩……アパートの、玄関前のキノコ……あれ、なんですか?」

「あ、あれは……隣人が趣味で栽培しているキノコで、今日撤去する予定で……」

「嘘です」

 楓の瞳は、これまでにないほど冷たい。

「私は今朝、出社するときに、そのキノコから出てきた奇妙な色の虫を見ました。あれは、この世界に存在しないものです」

 楓は、亮太の隣に立っている見えないヒロインたち(ルルはメイド服姿でデスクに張り付いている)を睨みつけながら言った。

「佐倉先輩、あなたは今、人類の常識の外にいます。もう、あの女たちから逃げるべきです。今日の夜、必ず私の部屋に来てください。私と一緒にいれば、少なくともこの世界だけは、あなたを守れる」

 その時、亮太のスマートフォンのニュース速報が鳴り響いた。

【速報】都内某所で局地的な異常低温現象が発生。同時刻に、原因不明の落雷による火災も。

 亮太は悟った。これはヒヨリとルルの魔法ではない。結び目が歪み始めたことで、異世界の天候や現象が、現実に漏れ出し始めたのだ。

「もう……逃げられない」

 亮太は、自分の命だけでなく、この世界までもが、自分のアパートの2LDKという座標に依存し始めたことを悟り、絶望した。




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次のエピソードへ進む 第12話:鍵としての覚醒、亮太の決意


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 1. 異変の始まり
 ルルとの切ない告白と、メイド服への「願望変換魔法」から一夜明け、佐倉亮太の2LDKは、表面上は穏やかだった。亮太は、転勤や結婚を諦め、このボロアパートに永遠に住むという絶望的な現実を受け入れ始めていた。
「マスター、おはようであります!」
 ルルはメイド服姿のまま、朝食に特製「魔力増幅オムライス」を出してきた。オムライスのケチャップは、ピンク色の魔法陣を描いている。
「ありがとう、ルル。その服、もう着替えなくていいのか?」
「はい!マスターの願望は、わたくしの魔力を最も安定させる『増幅機』。この服を着ていると、魔力が暴走しにくいんです!」
 その時、ヒヨリが氷のコップに入った冷水を亮太の前に置き、エラシアが「夫の健康管理」と称して、亮太のTシャツのサイズを測り始めた。テアは、リビングの隅で岩盤を掘り進めている。
 非日常が日常化した光景。しかし、この朝は、いつものカオスとは違う、不気味な静けさがあった。
「王よ。今朝からアパートの周囲の『大気の純度』が低下しています」
 ヒヨリが真剣な顔で言った。
「私の精霊たちも、普段より妙な『ノイズ』を聞き取っている。不吉だ、夫」
 エラシアも剣の手を止め、窓の外を見つめた。
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 2. 異世界の侵食
 亮太が会社に向かうためアパートの玄関を出た瞬間、異変は目に見える形となって現れた。
 アパートの植え込み。そこには、背丈ほどもある紫色の巨大なキノコが生えていた。そのキノコからは、甘ったるい、しかし腐敗したような異臭が立ち込めている。
「な、なんだこれ!? 巨大キノコ? まさか、これもルルの魔法の暴走か?」
「いえ、はい……わたくしの世界の魔物、『ポイズン・フォグ』の生息地であります! 結び目から漏れ出した……!?」
 ルルが青ざめて叫んだ。
 ヒヨリがキノコに触れると、キノコは一瞬で凍りついたが、すぐに氷を破り、毒々しい紫色の霧を噴出した。
「氷雪郷では、この種の魔物は『崩壊の予兆』とされます。王の魔力が不安定化した証拠です!」
 テアが持っていた特殊なセンサーを地面に突き刺した。
「佐倉タイスケ! 測定結果が出た! この地層の『次元の亀裂(クラック)』が急速に拡大している! このアパートの座標が、完全に異世界の影響下に入り始めているぞ!」
 四人のヒロインたちは、亮太を巡るバトルが、実は自分たちの世界の崩壊を加速させているという、最も恐れていた事態に直面した。
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 3. 山田さんの新特訓と被害
「待て! 僕のフィギュアは……いや、それより、これ以上異世界のものが漏れ出したら、どうなるんだ!?」
 亮太が絶望していると、上階の窓がガチャリと開いた。
 山田さんが、昨日の七輪の煤で汚れたタンクトップ姿で、窓から身を乗り出してきた。
「ハッハッハ! やはりこの力は本物だった! 昨日の四股と火の特訓で、ついに俺は『生命の奔流』を呼び込んだのだ!」
 山田さんは、植え込みの巨大キノコを見て、歓喜した。
「見ろ、佐倉! 俺が呼び出した『生命の使い』だ! このキノコは、俺の異能の『進化の証明』なのだ!」
「ち、違う! あれは毒キノコだ! 近づくな、山田さん!」
 亮太の忠告も聞かず、山田さんはキノコに向かって、七輪の燃えかすを勢いよく投げつけた。
「フン! 進化の証に、さらなる火の洗礼を与えてやる!」
 燃えかすがキノコに当たった瞬間、キノコは一瞬で炎上し、紫色の毒霧を大量に噴出させた。
「ぐはあっ!?」
 山田さんは毒霧を吸い込み、咳き込みながら窓を閉めた。
「こ、これは『毒への耐性』特訓! 俺の進化は止まらない!」
 亮太は頭を抱えた。山田さんがいる限り、この異世界の災厄は「現実の事象」として処理されず、カオスは増幅する一方だ。
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 4. 楓さんの絶望と、迫る危機
 なんとか出社し、オフィスで仕事をしていた亮太のもとに、昼過ぎ、憔悴しきった様子の楓さんがやってきた。あ、ちなみに、オフィスはいつの間にか、何事もなかったかのように元通りになっていた。おそらくこれもルルの仕業だろう。
「佐倉先輩……アパートの、玄関前のキノコ……あれ、なんですか?」
「あ、あれは……隣人が趣味で栽培しているキノコで、今日撤去する予定で……」
「嘘です」
 楓の瞳は、これまでにないほど冷たい。
「私は今朝、出社するときに、そのキノコから出てきた奇妙な色の虫を見ました。あれは、この世界に存在しないものです」
 楓は、亮太の隣に立っている見えないヒロインたち(ルルはメイド服姿でデスクに張り付いている)を睨みつけながら言った。
「佐倉先輩、あなたは今、人類の常識の外にいます。もう、あの女たちから逃げるべきです。今日の夜、必ず私の部屋に来てください。私と一緒にいれば、少なくともこの世界だけは、あなたを守れる」
 その時、亮太のスマートフォンのニュース速報が鳴り響いた。
【速報】都内某所で局地的な異常低温現象が発生。同時刻に、原因不明の落雷による火災も。
 亮太は悟った。これはヒヨリとルルの魔法ではない。結び目が歪み始めたことで、異世界の天候や現象が、現実に漏れ出し始めたのだ。
「もう……逃げられない」
 亮太は、自分の命だけでなく、この世界までもが、自分のアパートの2LDKという座標に依存し始めたことを悟り、絶望した。