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第3話:氷と火の共同戦線、そしてエルフの盗聴

ー/ー



 1. 破壊と修復の朝

 翌朝、佐倉亮太の2LDKは、フィギュア棚の前に立てられた「魔力炉心」から、時折「ピシッ……」と不吉な音を立てていた。

「マスター! フィギュアは既に元通り、どころか『魔力増幅カスタム』済みであります!昨日の絶叫は、我らへの感謝の咆哮と解釈しました!」

 ルルは満面の笑みで、前日亮太が絶叫した原因である、ピンクのネバネバ液体とリボンにまみれたフィギュアの残骸を指さした。

「元通りじゃない!即刻大急ぎでもとに戻せって言っただろ! もういい、触るな! あの、二度とコレクションに近づかないでくれ!」

 亮太は、ビニールシートをフィギュア棚全体に被せ、まるで災害現場のような光景を作り出した。

 その隣で、ヒヨリが厳しい視線をルルに向けた。

「魔法少女よ。我らの王の聖域を穢すとは不敬極まりない。貴様はやはり未熟だ」

「なんじゃと!? 私と貴様、どっちがマスターに愛されているか、魔力で勝負するでありますか!」

 一触即発の二人だったが、ヒヨリは静かに氷の扇子を閉じた。

「無益な争いはやめる。昨日、我らの最大の敵はあの邪なエルフ(エラシア)であると悟った。あの女が王に近づく限り、我らの世界は救われぬ。故に、一時的に手を組む」

「な、なんですって!?あの高慢ちきな雪女と…共同戦線!?」

 ルルは驚いたが、亮太の隣で悠然と剣の手入れをしているエラシアの姿を見て、すぐに賛同した。

「……よかろう。マスターをあの不埒な夫呼ばわりから救うため、ルルは『一時共闘条約』を締結するであります!」

 そうして、火と氷という最悪のコンビが、亮太の2LDKの隅で、現代の常識からかけ離れたおかしな作戦会議を始めた。

_____________________
 2. 氷と火の「亮太浄化作戦」

 作戦会議の結果、二人は「亮太がエルフの邪な誘惑に惑わされているのが問題」という結論に達した。

「王の精神が『清廉潔白』になれば、エルフの『熱を伴う誘惑』は効かぬ!」(ヒヨリ)

「清廉潔白なマスターは、私のようなピュアな魔法少女にしか興味を示さなくなるであります!」(ルル)

 作戦名は「亮太浄化作戦(ピュア・リョウタ・プロジェクト)」。

「まずはマスターの体内の『邪な魔力』を抽出し、清涼な霊水に入れ替える! ルル、異次元転送魔法で王を一瞬で氷雪郷へ送れ!」

「無理であります!氷雪郷の座標は遠すぎます! しかし、私の『瞬間移動魔法・リビング限定版』なら、このリビングからアパートの屋上に転送するくらいは可能です!」

「屋上? ふむ……屋上なら冷気が集中しやすい。よし、決まった!」

 その時、亮太は会社へ向かうため、玄関で靴を履きかけていた。

「王よ! 少々痛みを伴うが、我らの世界の存亡がかかっている! ご覚悟を!」

「マスター! ピュアになるであります!」

 ルルとヒヨリは同時に魔法を発動。ルルがステッキを振ると、亮太の足元にピンクの魔法陣が展開し、ヒヨリがその上から強烈なブリザードを放ち始めた。

「待て! 寒い!待っt……」

 亮太の体が光に包まれ、次の瞬間、彼はリビングから消えた。

_____________________
 3. エルフ剣士の優雅な反撃

 リビングの隅で、エラシアは悠然と紅茶を飲んでいたが、その長いエルフ耳はピクピクと動いていた。

(ふむ。やはりあの氷女と稚児が手を組んだか。精霊魔法の盗聴のおかげで、作戦は丸聞こえだ)

 エラシアは紅茶を飲み干すと、優雅に立ち上がった。

「屋上か。寒さは私の精霊魔法には効かぬ。しかし、夫に余計な冷気を浴びせるのは教育上よろしくない」

 エラシアは窓を開け、抜き身の剣を空に向けた。

「風の精霊よ、我が命を聞け。屋上に集中した冷気と、それを押し上げる熱の渦を生み出せ。そして、全ての氷を、夫に迷惑がかからぬよう『上階の部屋』へ誘導せよ」

 エラシアが精霊魔法を発動した瞬間、ルルが転送した亮太が居るはずのアパートの屋上に、凄まじい熱風が巻き起こった。

 その熱風は屋上に溜まり始めていたブリザードの冷気を一気に加熱し、冷気は熱気と圧縮されて巨大な水蒸気の塊となり、それがエラシアの誘導した風に乗って、アパートの真上、山田さんの部屋の窓へと向かった。

 屋上に転送された亮太は、一瞬で熱風と水蒸気で全身を包まれた。

「あっっつ! なんだこれ!? サウナ!? いや、暑すぎる!」

 亮太は慌てて屋上のドアを開け、階段を駆け下りた。

_____________________
 4. 上階からの緊急事態

 同時刻、上階の山田さんは、部屋で「大地を揺らす」特訓として猛烈な四股を踏んでいた。

『フハハ!この振動こそ、目覚めの証!大地が俺の力を求めている!』

 その瞬間、山田さんの窓ガラスに、圧縮された水蒸気と、ヒヨリの冷気が作り出した微細な氷の結晶が、まるで小さな爆弾のように激突した。

「ズボッッ!!」

 窓は爆発的な衝撃を受け、ガラスは水蒸気の力で一気に吹き飛び、冷気と熱気、そして氷の破片が山田さんの部屋全体に降り注いだ。

「ぐわあああ!? な、なんだこの熱風と冷気の波は!? 火と氷を同時に操る能力だと!? しかも、窓が割れた……! これは試練! 俺の能力を試す神からの試練だ!」

 窓ガラスが吹き飛んだ衝撃音は、当然ながらアパート全体に響き渡った。

 そして、リビングに戻ってきた亮太の耳に、隣室の楓さんからの尋常ではない激しい壁ドンが鳴り響いた。

 ドォン! ドォン! ドォン!

 亮太は絶望に顔を覆った。

「また大家さんに電話しなきゃいけないのか……そして、楓さん、今夜こそ連れ込まれそうだ……!」

 その夜、アパートの周りには、謎の熱風と氷の結晶のせいで、パトカーと消防車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎていくのだった。




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 1. 破壊と修復の朝
 翌朝、佐倉亮太の2LDKは、フィギュア棚の前に立てられた「魔力炉心」から、時折「ピシッ……」と不吉な音を立てていた。
「マスター! フィギュアは既に元通り、どころか『魔力増幅カスタム』済みであります!昨日の絶叫は、我らへの感謝の咆哮と解釈しました!」
 ルルは満面の笑みで、前日亮太が絶叫した原因である、ピンクのネバネバ液体とリボンにまみれたフィギュアの残骸を指さした。
「元通りじゃない!即刻大急ぎでもとに戻せって言っただろ! もういい、触るな! あの、二度とコレクションに近づかないでくれ!」
 亮太は、ビニールシートをフィギュア棚全体に被せ、まるで災害現場のような光景を作り出した。
 その隣で、ヒヨリが厳しい視線をルルに向けた。
「魔法少女よ。我らの王の聖域を穢すとは不敬極まりない。貴様はやはり未熟だ」
「なんじゃと!? 私と貴様、どっちがマスターに愛されているか、魔力で勝負するでありますか!」
 一触即発の二人だったが、ヒヨリは静かに氷の扇子を閉じた。
「無益な争いはやめる。昨日、我らの最大の敵はあの邪なエルフ(エラシア)であると悟った。あの女が王に近づく限り、我らの世界は救われぬ。故に、一時的に手を組む」
「な、なんですって!?あの高慢ちきな雪女と…共同戦線!?」
 ルルは驚いたが、亮太の隣で悠然と剣の手入れをしているエラシアの姿を見て、すぐに賛同した。
「……よかろう。マスターをあの不埒な夫呼ばわりから救うため、ルルは『一時共闘条約』を締結するであります!」
 そうして、火と氷という最悪のコンビが、亮太の2LDKの隅で、現代の常識からかけ離れたおかしな作戦会議を始めた。
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 2. 氷と火の「亮太浄化作戦」
 作戦会議の結果、二人は「亮太がエルフの邪な誘惑に惑わされているのが問題」という結論に達した。
「王の精神が『清廉潔白』になれば、エルフの『熱を伴う誘惑』は効かぬ!」(ヒヨリ)
「清廉潔白なマスターは、私のようなピュアな魔法少女にしか興味を示さなくなるであります!」(ルル)
 作戦名は「亮太浄化作戦(ピュア・リョウタ・プロジェクト)」。
「まずはマスターの体内の『邪な魔力』を抽出し、清涼な霊水に入れ替える! ルル、異次元転送魔法で王を一瞬で氷雪郷へ送れ!」
「無理であります!氷雪郷の座標は遠すぎます! しかし、私の『瞬間移動魔法・リビング限定版』なら、このリビングからアパートの屋上に転送するくらいは可能です!」
「屋上? ふむ……屋上なら冷気が集中しやすい。よし、決まった!」
 その時、亮太は会社へ向かうため、玄関で靴を履きかけていた。
「王よ! 少々痛みを伴うが、我らの世界の存亡がかかっている! ご覚悟を!」
「マスター! ピュアになるであります!」
 ルルとヒヨリは同時に魔法を発動。ルルがステッキを振ると、亮太の足元にピンクの魔法陣が展開し、ヒヨリがその上から強烈なブリザードを放ち始めた。
「待て! 寒い!待っt……」
 亮太の体が光に包まれ、次の瞬間、彼はリビングから消えた。
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 3. エルフ剣士の優雅な反撃
 リビングの隅で、エラシアは悠然と紅茶を飲んでいたが、その長いエルフ耳はピクピクと動いていた。
(ふむ。やはりあの氷女と稚児が手を組んだか。精霊魔法の盗聴のおかげで、作戦は丸聞こえだ)
 エラシアは紅茶を飲み干すと、優雅に立ち上がった。
「屋上か。寒さは私の精霊魔法には効かぬ。しかし、夫に余計な冷気を浴びせるのは教育上よろしくない」
 エラシアは窓を開け、抜き身の剣を空に向けた。
「風の精霊よ、我が命を聞け。屋上に集中した冷気と、それを押し上げる熱の渦を生み出せ。そして、全ての氷を、夫に迷惑がかからぬよう『上階の部屋』へ誘導せよ」
 エラシアが精霊魔法を発動した瞬間、ルルが転送した亮太が居るはずのアパートの屋上に、凄まじい熱風が巻き起こった。
 その熱風は屋上に溜まり始めていたブリザードの冷気を一気に加熱し、冷気は熱気と圧縮されて巨大な水蒸気の塊となり、それがエラシアの誘導した風に乗って、アパートの真上、山田さんの部屋の窓へと向かった。
 屋上に転送された亮太は、一瞬で熱風と水蒸気で全身を包まれた。
「あっっつ! なんだこれ!? サウナ!? いや、暑すぎる!」
 亮太は慌てて屋上のドアを開け、階段を駆け下りた。
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 4. 上階からの緊急事態
 同時刻、上階の山田さんは、部屋で「大地を揺らす」特訓として猛烈な四股を踏んでいた。
『フハハ!この振動こそ、目覚めの証!大地が俺の力を求めている!』
 その瞬間、山田さんの窓ガラスに、圧縮された水蒸気と、ヒヨリの冷気が作り出した微細な氷の結晶が、まるで小さな爆弾のように激突した。
「ズボッッ!!」
 窓は爆発的な衝撃を受け、ガラスは水蒸気の力で一気に吹き飛び、冷気と熱気、そして氷の破片が山田さんの部屋全体に降り注いだ。
「ぐわあああ!? な、なんだこの熱風と冷気の波は!? 火と氷を同時に操る能力だと!? しかも、窓が割れた……! これは試練! 俺の能力を試す神からの試練だ!」
 窓ガラスが吹き飛んだ衝撃音は、当然ながらアパート全体に響き渡った。
 そして、リビングに戻ってきた亮太の耳に、隣室の楓さんからの尋常ではない激しい壁ドンが鳴り響いた。
 ドォン! ドォン! ドォン!
 亮太は絶望に顔を覆った。
「また大家さんに電話しなきゃいけないのか……そして、楓さん、今夜こそ連れ込まれそうだ……!」
 その夜、アパートの周りには、謎の熱風と氷の結晶のせいで、パトカーと消防車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎていくのだった。