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戸惑(忘却編)

ー/ー




「__んで、そっちの小僧の具合は、どうじゃったんじゃ?」
「脳波に異常はないらしい。暫くは安静にして様子を見てみろって言われたよ」

 
 ここは俺達の事務所の2階。

 ソファーに我が物顔で寛ぐカオス爺さんの質問に、俺は苦々しく答える。

 来いと言ったのは俺だけど、何故そんな偉そうなんだ……
 

 俺達は月からは問題なく、『星の街』まで帰って来れた。

 帰ってから、武神様を宥める……謝り倒すのに一苦労したが…………今度、妙神山に来る時はあの人がマンツーマンで『超加速』の修業を付けてくれるらしい(拒否権なし)。

 …………本当は問答無用で連行したかったみたいだが、雪之丞がこんな状態なので帰ることを許された。

 もう、満面の笑顔……後ろに見えるのはドス黒いオーラ。普段温厚な人が怒るとマジ恐ろしい……

 本当はヒャクメにずっと見張らせてて、雪之丞が回復したら速攻で拉致られるんじゃねぇか……?
 

 何故ですか?武神様……私は、貴女を本気で慕っているのに……

 

 …………まぁ、それは今考えることじゃない。肝心の雪之丞の記憶喪失だが、神族、魔族でもどうすることも出来ないらしい。

 もっとも、これは月神族のヒーリングでもどうにも出来なかった話だから無理なんじゃないかと言う予想は付いてた。

 原因はハッキリしてる。今回の戦闘で、霊気回路に過負荷を与え続けたからだ。目覚めた時は、本当に何も覚えちゃいなかった……

 治療をしてくれた朧さんの話だと、回路そのものは回復してるから。記憶もいずれ戻る可能性はあるらしい。

 ただ、回復を待つだけなのも余りに芸がないんで一縷の望みを掛けて『白井総合病院』……要はオカルトが駄目なら現代医療に頼ってみたんだが、結果はさっき爺さんに話した通り似たような事を言われただけ。


『星の街』から帰って数日経ったが、当の本人は自分の名前こそ受け入れたが、自分がGSであることは勿論、自分の生い立ちや俺達のことは全く思い出せない状態が続いている。

 霊能は辛うじて行使出来るようだが、魔装術は使えない。使い方を忘れてる……


「すみません……僕の為に…………」
「全くだよ、面倒くせぇから早く元に戻れ!」
「うっ……………」


 不安そうに俯向くなよ……
 

「…………すまん、言い過ぎた」


 ちっ……調子狂うな。

 いつもならお互い罵りあって、殴り合って、全部忘れて終わり(それは、それで不味いか……?)なのに、まどろっこしい(・・・・・・・)ったらありゃしねぇ。
 

「焦っても仕方なかろう、普段の生活に戻れば何かの拍子に全て思い出すかもしれん……気長にやることじゃな」


 気長ねぇ……流石に何百年も生きてる人間は、こういう時にどっしりしてると言えるのか?

 ………にしても、普段の生活って…………こいつとは実質数年間一緒にいるけど、思い出せることって言ったら除霊と修業しかねぇぞ。俺が学校で数日間居ない時は知らねぇけど……やっぱ修業だよな?

 どっちも、一般人から掛け離れたデンジャーな匂いしかしねぇんだが…………そんな所に、こんな自分を見失ってる男を放り込んでいいのか?


「普段の僕って、何をしてたんだい?」
「毎日、色んな物と “DEAD OR ALIVE” してた……」

「……な、何それ?」
「いや…………」


 いや、ふざけてる訳じゃないんだけどな……この男の日常を一言で表したら、さっきの言葉しか思い浮かばねぇ…………ある種、とんでもない珍獣……いや、こいつは猛獣だ。それ以外、あり得ない。
 
 
「…………それと今更なんだけど、僕は本当に今までこんな “危険” な場所に住んでいたのかい?」
「選んで来たのは、お前だよ「天井と壁がしっかりしてる」って言ってな」

「そんな理由で!?」
「お前らしいと思ったよ……」


 危険か…………確かに一般人と大差ない、今のこいつなら危険だろうな。

 
 この事務所が建っている敷地は、風水的にとても悪くて定期的に除霊しないとすぐに悪霊、怨霊の溜まり場と化しちまう。

 永久結界でも貼れば完全に防げるが、それをすると設置費や維持費がとんでもないことになる。そして、そこまでする価値がここにあるかと問われれば、答えは「NO」

 だから、欠陥物件として長らく放置されてたのを雪之丞がタダ(・・)同然で借りてきて現在に至る。


「窓の外に悪霊がいると、本当に不安だよ……」
「結界貼ってあるから、中まで入って来れねぇよ」


 そう……初日は、中に居た雑霊達を2人で駆除したんだったな。外の方も当初はせっせと除霊してたんだが、途中から面倒くさくなって、今は完全放置してる。

 そして、出入りする時だけ邪魔な連中を適当に蹴散らすのが俺達の日常…………考え直した方がいいか?


「霊団には、発展せんのか?」
「一度試してみたんだけど、一定数溜まると飽和状態になって、それ以上増えなくなるんだよ」


 もし、そんな状況になる可能性があるならオカルトGメンが出張って今頃結界が張られてたろうな。

 浄化するほどの価値がない上に、放置するリスクもない。なんとも中途半端な安定感の上に俺達はいる。


「試すって……何する気じゃったんじゃ…………?」
「力試し…………いや、流石に反省してるよ」


 まぁ、生まれそうだったら、その前に手を打つつもりではいたよ。いらぬ心配だったけど……



 しかし、参ったな……こりゃ、長引きそうだぞ。

 窓の外を見て不安そうにしてる雪之丞を見ると余計にそう感じる。帰って来た時は、この光景にビビり散らかしてたからな…………普段のこいつなら考えられねぇ。


 月から帰ってバタバタしてたから、取り敢えず事務所に戻っては来たけど、この環境が奴にいい影響与えるとは、とても思えない。

 カオスの爺さんとマリア(現在掃除中)がここに居るのは、俺1人だと奴をフォローしきれないと思ったからだ。

 金塊を貰って、家賃問題から開放されて暇そうだったから引っ張ってきたんだが、いっそ妙神山で預かって貰った方が良かったか?

 でも、あそこはそう言う場でもないし…………武神様ならそんな事は気にしないか?いや、流石にそれは甘え過ぎか?
 
 ただ、経過によってはそれも視野に入れなきゃならないかもな…………もしくは俺の部屋?

 狭くて、汚ねぇけどここよか安全だろ。



「…………爺さん、ちょっと手伝ってくんねぇか?外の連中を一掃する」
「……こりゃ、また年寄りに無茶させるのぉ〜」
「そんな大変にはならねぇよ、細かい部分を手伝ってくれりゃいい」


 そう言って立ち上がると、いつもの霊障スーツの上だけをTシャツの上に羽織る。

 外にいるのは雑魚霊だけだから、必要ないだろうけど最近は着てないと何か不安になってくる。

 慎重になったんだか、臆病に拍車が掛かったんだか…………


「倒すの?あんな沢山いるのに……」
「そこから見てろ、何か思い出すかもしれない」
「やれやれ……」

 
 雪之丞にはそう伝えて、ぶつくさ言う爺さんと下の階へ出る。




     ◇◇◇

「………………」
「フム……入口周辺には居なさそうじゃな」


 慎重にドアの外の様子を覗ってると、爺さんが呟く。
 

「ここは、外にも張ってるからな……」


 それでも万が一の事態があるんで、慎重に確認するのが外に出る時のルーティーンだ。まだ、外の雑魚を蹴散らしながら中に入る時のが楽でいい。

 そんなこんなで外に出ると、建物を取り囲むように雑霊が居るわ、居るわ………


「ほぉ~!溜まっとる、溜まっとる♪」
「…………溜まり具合としちゃ、5割〜6割くらいだな」


 ………………何故、そんな嬉しそうなんだ?


「しかし、本当にやるのか?雑魚しかおらんようだが、あの数全部やるとなると日が暮れてしまいそうじゃわい……」
「だから、そんな掛かんねぇって……連中がこっちに来ないように、適当にあしらっててくれ」


 そう言うと俺は、両手を胸の前に翳し意識を集中する。

 体内の霊気を集めて固着化すること…………1分……2分……


「出来た」


 両手の中にはサッカーボール大の球体、真ん中に刻まれてるのは、いつも通り『心眼の目』……今回は文珠1個より少し霊気が多いか。
 

「なんじゃ、その目玉は……!?お主の趣味か?」


 胸の『五芒星』から怪光線を放ちながら、振り向いた爺さんが顔を顰める。
 

「うっせぇ、放っとけ……」


 悪態をつくと同時に意識を球体に向けて、両手を開く!すると、それは瞬く間に分裂して俺の周りを漂う。
 
 始めはサッカーボール大だったのが、今はゴルフボール程度………雑魚にはこれで十分だ。


「行け」


 俺が呟くと、それらの球体は一斉に悪霊達に向かって動き出した。


 ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!


 一体、また一体と、俺の作り出したソレは次々と悪霊を爆散して、霧散させる。


「ほぅっ……ホーミング性能があるのか。小僧、随分と器用になったもんじゃな」
「追跡爆弾……『追尾眼』、複数の雑魚を散らすには丁度いい」


※幽遊白書の『鴉』の声を目一杯イメージして、脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい! 


 今回は霊盾に『分』と刻んで分裂させた。

 そう………文珠で付与したのは、その一つだけだ。


 前にも言ったが霊盾爆弾は、霊盾と文珠の中間まで具現化した物体。

 文珠の様に他人の記憶や、時空に干渉したりするような高度な事は出来ないが、動くものを追尾すると言った単純な “概念付与” なら、あの状態でも可能だ。

 出来る様になったのは、最近だけどな………

 後は余談だが、雑魚を1箇所に集めてドカンっと爆殺した方が一発で済む。ただ、それをすると建物まで巻き込みそうなんで今回の形に落ち着いたわけだ。


 ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!


 そんなことを考えてる間にも、霊盾によって悪霊達はどんどん数を減らしていく。全ての霊盾が消滅する頃には、悪霊も殆ど居なくなっていた。


「これなら、直ぐに済むだろ?とっととヤッちまおう」
「なるほどのぅ〜」


 そうして、2人で残った雑魚を狩り尽くす。ここまでに要した時間、10分少々……っても、一週間くらい放置すりゃ元通りだけど。





    ◇◇◇

 
「どうだ、何か思い出したか?」


 事務所の2階に戻って開口一番、呆然としている雪之丞に聞いてみる。

 まぁ、十中八九ないだろうけど、それでも一応期待する。

 
「…………何なんだ……何なんだよ!?あんなに居たのに皆、爆発しちゃったよ!!」
「スッキリしたろ♪」

「除霊って、もうちょっと神聖なものなんじゃないのかい!?お経とか、御札も使わないし……」
「人それぞれだよ。俺達はどっちも使わないし、神聖でもないぞ」

「じゃあ、僕もあんな感じで……」
「お前が、一番激しいからな」

「信じられない…………」
「今だけだよ、思い出しゃそれが全部が日常になる」

「これが日常……!?まるで怪物じゃないか」
「モンスターだよ、お前は」

「君は、僕の部下で年下なんだろ?何で、そんな偉そうなんだよ!!?」
「余計な、お世話だ……!!」


 気持ち悪い言葉使いしやがって、何が「僕」だ。これでも、心配してんだぞ……


「止めんか!喧嘩したって何も解決せんぞ」
「2人共・喧嘩・良くない」

「「…………………………」」


 爺さんと、いつの間に戻って来たマリアに諭されて、取り敢えずは黙る。

 

 参ったな……解決の糸口すら解らん…………







 戸惑 横島


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「脳波に異常はないらしい。暫くは安静にして様子を見てみろって言われたよ」
 ここは俺達の事務所の2階。
 ソファーに我が物顔で寛ぐカオス爺さんの質問に、俺は苦々しく答える。
 来いと言ったのは俺だけど、何故そんな偉そうなんだ……
 俺達は月からは問題なく、『星の街』まで帰って来れた。
 帰ってから、武神様を宥める……謝り倒すのに一苦労したが…………今度、妙神山に来る時はあの人がマンツーマンで『超加速』の修業を付けてくれるらしい(拒否権なし)。
 …………本当は問答無用で連行したかったみたいだが、雪之丞がこんな状態なので帰ることを許された。
 もう、満面の笑顔……後ろに見えるのはドス黒いオーラ。普段温厚な人が怒るとマジ恐ろしい……
 本当はヒャクメにずっと見張らせてて、雪之丞が回復したら速攻で拉致られるんじゃねぇか……?
 何故ですか?武神様……私は、貴女を本気で慕っているのに……
 …………まぁ、それは今考えることじゃない。肝心の雪之丞の記憶喪失だが、神族、魔族でもどうすることも出来ないらしい。
 もっとも、これは月神族のヒーリングでもどうにも出来なかった話だから無理なんじゃないかと言う予想は付いてた。
 原因はハッキリしてる。今回の戦闘で、霊気回路に過負荷を与え続けたからだ。目覚めた時は、本当に何も覚えちゃいなかった……
 治療をしてくれた朧さんの話だと、回路そのものは回復してるから。記憶もいずれ戻る可能性はあるらしい。
 ただ、回復を待つだけなのも余りに芸がないんで一縷の望みを掛けて『白井総合病院』……要はオカルトが駄目なら現代医療に頼ってみたんだが、結果はさっき爺さんに話した通り似たような事を言われただけ。
『星の街』から帰って数日経ったが、当の本人は自分の名前こそ受け入れたが、自分がGSであることは勿論、自分の生い立ちや俺達のことは全く思い出せない状態が続いている。
 霊能は辛うじて行使出来るようだが、魔装術は使えない。使い方を忘れてる……
「すみません……僕の為に…………」
「全くだよ、面倒くせぇから早く元に戻れ!」
「うっ……………」
 不安そうに俯向くなよ……
「…………すまん、言い過ぎた」
 ちっ……調子狂うな。
 いつもならお互い罵りあって、殴り合って、全部忘れて終わり(それは、それで不味いか……?)なのに、|まどろっこしい《・・・・・・・》ったらありゃしねぇ。
「焦っても仕方なかろう、普段の生活に戻れば何かの拍子に全て思い出すかもしれん……気長にやることじゃな」
 気長ねぇ……流石に何百年も生きてる人間は、こういう時にどっしりしてると言えるのか?
 ………にしても、普段の生活って…………こいつとは実質数年間一緒にいるけど、思い出せることって言ったら除霊と修業しかねぇぞ。俺が学校で数日間居ない時は知らねぇけど……やっぱ修業だよな?
 どっちも、一般人から掛け離れたデンジャーな匂いしかしねぇんだが…………そんな所に、こんな自分を見失ってる男を放り込んでいいのか?
「普段の僕って、何をしてたんだい?」
「毎日、色んな物と “DEAD OR ALIVE” してた……」
「……な、何それ?」
「いや…………」
 いや、ふざけてる訳じゃないんだけどな……この男の日常を一言で表したら、さっきの言葉しか思い浮かばねぇ…………ある種、とんでもない珍獣……いや、こいつは猛獣だ。それ以外、あり得ない。
「…………それと今更なんだけど、僕は本当に今までこんな “危険” な場所に住んでいたのかい?」
「選んで来たのは、お前だよ「天井と壁がしっかりしてる」って言ってな」
「そんな理由で!?」
「お前らしいと思ったよ……」
 危険か…………確かに一般人と大差ない、今のこいつなら危険だろうな。
 この事務所が建っている敷地は、風水的にとても悪くて定期的に除霊しないとすぐに悪霊、怨霊の溜まり場と化しちまう。
 永久結界でも貼れば完全に防げるが、それをすると設置費や維持費がとんでもないことになる。そして、そこまでする価値がここにあるかと問われれば、答えは「NO」
 だから、欠陥物件として長らく放置されてたのを雪之丞が|タダ《・・》同然で借りてきて現在に至る。
「窓の外に悪霊がいると、本当に不安だよ……」
「結界貼ってあるから、中まで入って来れねぇよ」
 そう……初日は、中に居た雑霊達を2人で駆除したんだったな。外の方も当初はせっせと除霊してたんだが、途中から面倒くさくなって、今は完全放置してる。
 そして、出入りする時だけ邪魔な連中を適当に蹴散らすのが俺達の日常…………考え直した方がいいか?
「霊団には、発展せんのか?」
「一度試してみたんだけど、一定数溜まると飽和状態になって、それ以上増えなくなるんだよ」
 もし、そんな状況になる可能性があるならオカルトGメンが出張って今頃結界が張られてたろうな。
 浄化するほどの価値がない上に、放置するリスクもない。なんとも中途半端な安定感の上に俺達はいる。
「試すって……何する気じゃったんじゃ…………?」
「力試し…………いや、流石に反省してるよ」
 まぁ、生まれそうだったら、その前に手を打つつもりではいたよ。いらぬ心配だったけど……
 しかし、参ったな……こりゃ、長引きそうだぞ。
 窓の外を見て不安そうにしてる雪之丞を見ると余計にそう感じる。帰って来た時は、この光景にビビり散らかしてたからな…………普段のこいつなら考えられねぇ。
 月から帰ってバタバタしてたから、取り敢えず事務所に戻っては来たけど、この環境が奴にいい影響与えるとは、とても思えない。
 カオスの爺さんとマリア(現在掃除中)がここに居るのは、俺1人だと奴をフォローしきれないと思ったからだ。
 金塊を貰って、家賃問題から開放されて暇そうだったから引っ張ってきたんだが、いっそ妙神山で預かって貰った方が良かったか?
 でも、あそこはそう言う場でもないし…………武神様ならそんな事は気にしないか?いや、流石にそれは甘え過ぎか?
 ただ、経過によってはそれも視野に入れなきゃならないかもな…………もしくは俺の部屋?
 狭くて、汚ねぇけどここよか安全だろ。
「…………爺さん、ちょっと手伝ってくんねぇか?外の連中を一掃する」
「……こりゃ、また年寄りに無茶させるのぉ〜」
「そんな大変にはならねぇよ、細かい部分を手伝ってくれりゃいい」
 そう言って立ち上がると、いつもの霊障スーツの上だけをTシャツの上に羽織る。
 外にいるのは雑魚霊だけだから、必要ないだろうけど最近は着てないと何か不安になってくる。
 慎重になったんだか、臆病に拍車が掛かったんだか…………
「倒すの?あんな沢山いるのに……」
「そこから見てろ、何か思い出すかもしれない」
「やれやれ……」
 雪之丞にはそう伝えて、ぶつくさ言う爺さんと下の階へ出る。
     ◇◇◇
「………………」
「フム……入口周辺には居なさそうじゃな」
 慎重にドアの外の様子を覗ってると、爺さんが呟く。
「ここは、外にも張ってるからな……」
 それでも万が一の事態があるんで、慎重に確認するのが外に出る時のルーティーンだ。まだ、外の雑魚を蹴散らしながら中に入る時のが楽でいい。
 そんなこんなで外に出ると、建物を取り囲むように雑霊が居るわ、居るわ………
「ほぉ~!溜まっとる、溜まっとる♪」
「…………溜まり具合としちゃ、5割〜6割くらいだな」
 ………………何故、そんな嬉しそうなんだ?
「しかし、本当にやるのか?雑魚しかおらんようだが、あの数全部やるとなると日が暮れてしまいそうじゃわい……」
「だから、そんな掛かんねぇって……連中がこっちに来ないように、適当にあしらっててくれ」
 そう言うと俺は、両手を胸の前に翳し意識を集中する。
 体内の霊気を集めて固着化すること…………1分……2分……
「出来た」
 両手の中にはサッカーボール大の球体、真ん中に刻まれてるのは、いつも通り『心眼の目』……今回は文珠1個より少し霊気が多いか。
「なんじゃ、その目玉は……!?お主の趣味か?」
 胸の『五芒星』から怪光線を放ちながら、振り向いた爺さんが顔を顰める。
「うっせぇ、放っとけ……」
 悪態をつくと同時に意識を球体に向けて、両手を開く!すると、それは瞬く間に分裂して俺の周りを漂う。
 始めはサッカーボール大だったのが、今はゴルフボール程度………雑魚にはこれで十分だ。
「行け」
 俺が呟くと、それらの球体は一斉に悪霊達に向かって動き出した。
 ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!
 一体、また一体と、俺の作り出したソレは次々と悪霊を爆散して、霧散させる。
「ほぅっ……ホーミング性能があるのか。小僧、随分と器用になったもんじゃな」
「追跡爆弾……『追尾眼』、複数の雑魚を散らすには丁度いい」
※幽遊白書の『鴉』の声を目一杯イメージして、脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい! 
 今回は霊盾に『分』と刻んで分裂させた。
 そう………文珠で付与したのは、その一つだけだ。
 前にも言ったが霊盾爆弾は、霊盾と文珠の中間まで具現化した物体。
 文珠の様に他人の記憶や、時空に干渉したりするような高度な事は出来ないが、動くものを追尾すると言った単純な “概念付与” なら、あの状態でも可能だ。
 出来る様になったのは、最近だけどな………
 後は余談だが、雑魚を1箇所に集めてドカンっと爆殺した方が一発で済む。ただ、それをすると建物まで巻き込みそうなんで今回の形に落ち着いたわけだ。
 ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ! ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!ヴァンッ! ボォグォン! ヴァウッ! ドゴォンッ!
 そんなことを考えてる間にも、霊盾によって悪霊達はどんどん数を減らしていく。全ての霊盾が消滅する頃には、悪霊も殆ど居なくなっていた。
「これなら、直ぐに済むだろ?とっととヤッちまおう」
「なるほどのぅ〜」
 そうして、2人で残った雑魚を狩り尽くす。ここまでに要した時間、10分少々……っても、一週間くらい放置すりゃ元通りだけど。
    ◇◇◇
「どうだ、何か思い出したか?」
 事務所の2階に戻って開口一番、呆然としている雪之丞に聞いてみる。
 まぁ、十中八九ないだろうけど、それでも一応期待する。
「…………何なんだ……何なんだよ!?あんなに居たのに皆、爆発しちゃったよ!!」
「スッキリしたろ♪」
「除霊って、もうちょっと神聖なものなんじゃないのかい!?お経とか、御札も使わないし……」
「人それぞれだよ。俺達はどっちも使わないし、神聖でもないぞ」
「じゃあ、僕もあんな感じで……」
「お前が、一番激しいからな」
「信じられない…………」
「今だけだよ、思い出しゃそれが全部が日常になる」
「これが日常……!?まるで怪物じゃないか」
「モンスターだよ、お前は」
「君は、僕の部下で年下なんだろ?何で、そんな偉そうなんだよ!!?」
「余計な、お世話だ……!!」
 気持ち悪い言葉使いしやがって、何が「僕」だ。これでも、心配してんだぞ……
「止めんか!喧嘩したって何も解決せんぞ」
「2人共・喧嘩・良くない」
「「…………………………」」
 爺さんと、いつの間に戻って来たマリアに諭されて、取り敢えずは黙る。
 参ったな……解決の糸口すら解らん…………