第18話 決戦前
ー/ー
靴音が高く響き、反響していく。
硬い床を踏みしめ、ぼくは闘技場のメインアリーナへと脚を進めていった。
通路の天井が消え、陽の光が飛び込んでくる。
眩しいっ——。
手をかざし、双陽の光を遮る。
と同時に、歓声が聞こえてきた。
いくつもの声が合わさり、押しよせてくる大音量にぼくの身体が震えた。
片目を閉ざして、指の隙間から、闘技場を見渡した。
観客席は、六割から七割程度、席が埋まっていた。
階段状に迫りあがった客席が、ぼくに圧迫感を与える。
どのくらいのアリアンフロッドたちが、ここに集まってきているのだろう。
これから、ギンゲツとの戦いを、アカネやチカたちにも見られるのだと思うと、ちょっと恥ずかしい。
無様な戦いはできないな、と思っちゃう。
ゆっくり息を吐き出し、アリーナの中心へと向かう。
闘技場——ってみんな呼んでいるんだけど、正確な名前は「戦技訓練場」っていうみたい。
アリアンフロッドの小隊同士で、仲間たちの連携をみたり、新任のアリアンフロッドに様々な戦闘テクニックを教えてあげるのが、本来の目的だ。
決闘に使われることは、ほとんどない。
アリアンフロッドの間では、今でも決闘裁判の風習が残っているらしいね。
戦士ならば、剣と剣で解決しろってことみたい。
いやはや……脳筋が過ぎるけどね。
今回のギンゲツとの決闘も、その延長ってことになるのかな。
決闘である以上、それがどんな結果をもたらすのか、わからない。
春水の塔で、ぼくはギンゲツの戦い方を見てきている。
前衛ではなく、後方から魔術で攻撃をしてくるタイプだ。
爆炎の呪文では、かなりの打撃を受けている。
しかし——ぼくは、負ける気はしなかった。
グリューンに何度も殺されながら、繰り返し、戦いの技を磨いてきたことが、ぼくに自信を与えている。
また、頭ではなく、身体が戦いの呼吸や反応、感覚などを覚えていた。
心配しているのは、ギンゲツを殺してしまうかもしれない、ということだ。
ぼくのなかで、まだギンゲツを許せない、という思いはくすぶっている。
アカネやチカを危険な目に合わせたのだから、それ相応の罰は与えなければ、とも思う。
けど、死んでしまえ、とまでは思わなかった。
それをぼくがしてしまうのは、誰であろうと死んでも構わない、と言い放ったギンゲツと同じになってしまう。
ぼくが出てきたゲートの反対側からも、誰かが歩いてきていた。
歩く——というよりは、早足で移動してくる。
まだ、遠くてわからないけど、たぶん、ギンゲツだろう。
メインアリーナは、ふたりで戦うには充分な広さがある。
集団戦でも余裕があるように、設計されているのだろう。
『本日は特別な戦技訓練となりました。挑戦者は、”初心者殺しの小迷宮”から無事、帰還し、新しい天賦を目覚めさせた若きアリアンフロッド、ジンライ! そして、それを受けて立つのは、そのジンライを賭け事の対象にして、罠にかけようとした主犯、元千秋の轍の小隊長、ギンゲツ!』
突然、大きな声が響いた。
ふたりを紹介する内容だが、ギンゲツの名前が呼ばれるのと同時に、口笛やブーイングが飛んだ。
一気に、ものものしい雰囲気へと変わる。
「ジンライ……」
やがて、見える範囲まで、ギンゲツがやって来た。
歩みがゆっくりとしたものになる。
表情はなく、ただ、目つきだけが鋭い。
「よく、逃げ出さずに来ましたね。負けるとわかっているのに」
「あぁ、来たよ。ぼくの——ぼくたちのため、だけでなく、”初心者殺しの小迷宮”で亡くなった、アリアンフロッド見習いの人たちのためにも、ね」
「……自分たちとまったく関係のない方たちのために? ずいぶんと、無駄なことをするものですね」
「無駄じゃないよ。アリアンフロッドなら、当然のことだ。彼らの思いも背負って、ぼくはここにいる。だから、負けない」
ギンゲツが、唇を噛んだ。
「口にするのは、簡単なことです。実力が伴わなければ、それは戯れ言です」
「そうだね。でも、力があればどんなことをしてもいいってわけじゃない。それは、わかるよね」
「力なき者に、そんなことを語られたくないですね。アカツキは、アリアンフロッドのトップとして君臨し、いくつもの逸話を残してきました。それは、力があったからです。弱き者はただ、忘れ去られるだけなんですよ」
「アカツキは強かった。それは、わかるよ。でも、自分が困っている時に、平気で他人を見棄てるような人じゃなかった」
「それも、力あってのことでしょう。力の追求は、誰しもが心に持っているもの。わたしはそれに従っているだけです」
今度、唇を噛むのは、ぼくのほうだった。
話がまったく、噛み合わない。
「じゃ、ギンゲツ。あなたがその力でしたことは、なんなの?」
「これから、それをするところでした。おまえがそれを、邪魔したのですよ」
「ねぇ、ギンゲツ。周りをしっかりと見なよ。みんな、あなたを批判している。間違っているんだよ。わからない?」
「では、あなたに勝利して、本当に正しいのはどちらか、証明してあげましょう」
ギンゲツが拳を固めると、それで胸を叩いた。
「レイドアーマー、展開。ブラッド・ジャケット、スプレッドアウト!」
口のなかで唱えるのと同時に、右の中指に嵌めていた指輪が光った。
そして、指輪を中心にして、真紅の色が広がっていく。
泡立つものに全身が覆われ、そして、赤い色が消えていくと、ギンゲツは赤と黒でカラーリングされた革のジャケット、それに笏杖で武装していた。
アクチュエイトは、ストレージに収納していた防具を直接、身につけるスキルだ。
ギンゲツの防具と武器は、この闘技場でしか使えないように、制限がつけられているが、それ以外は春水の塔で使っていたものと、性能的には変わりがない。
「レイドアーマー、展開。フェザー・ジャケット、スプレッド・アウト!」
ぼくも、遅れることなく、防具を展開させた。
フェザー・ジャケットは、試練の間でグリューンとの戦いで破損してしまったので、別のものだ。
軽量で、回避と防御力が呪工されているが、ギンゲツのブラッド・ジャケットと比べると、かなり劣っている。
ブラッド・ジャケットは、呪文の数値を強化し、さらに打撃を与える度に、その数値をさらに伸ばしていく、という機能を持っている。
『よう、ジンライ。いよいよ、おれさまの出番だな』
”屠るもの”を構えると、あのふてぶてしい声が聞こえてきた。
『ははっ! 血が滾るような戦い、期待しているぜぇ』
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靴音が高く響き、反響していく。
硬い床を踏みしめ、ぼくは闘技場のメインアリーナへと脚を進めていった。
通路の天井が消え、陽の光が飛び込んでくる。
眩しいっ——。
手をかざし、双陽の光を遮る。
と同時に、歓声が聞こえてきた。
いくつもの声が合わさり、押しよせてくる大音量にぼくの身体が震えた。
片目を閉ざして、指の隙間から、闘技場を見渡した。
観客席は、六割から七割程度、席が埋まっていた。
階段状に迫りあがった客席が、ぼくに圧迫感を与える。
どのくらいのアリアンフロッドたちが、ここに集まってきているのだろう。
これから、ギンゲツとの戦いを、アカネやチカたちにも見られるのだと思うと、ちょっと恥ずかしい。
無様な戦いはできないな、と思っちゃう。
ゆっくり息を吐き出し、アリーナの中心へと向かう。
闘技場——ってみんな呼んでいるんだけど、正確な名前は「戦技訓練場」っていうみたい。
アリアンフロッドの|小隊《ランス》同士で、仲間たちの連携をみたり、新任のアリアンフロッドに様々な戦闘テクニックを教えてあげるのが、本来の目的だ。
決闘に使われることは、ほとんどない。
アリアンフロッドの間では、今でも決闘裁判の風習が残っているらしいね。
戦士ならば、剣と剣で解決しろってことみたい。
いやはや……脳筋が過ぎるけどね。
今回のギンゲツとの決闘も、その延長ってことになるのかな。
決闘である以上、それがどんな結果をもたらすのか、わからない。
春水の塔で、ぼくはギンゲツの戦い方を見てきている。
前衛ではなく、後方から魔術で攻撃をしてくるタイプだ。
爆炎の呪文では、かなりの打撃を受けている。
しかし——ぼくは、負ける気はしなかった。
グリューンに何度も殺されながら、繰り返し、戦いの技を磨いてきたことが、ぼくに自信を与えている。
また、頭ではなく、身体が戦いの呼吸や反応、感覚などを覚えていた。
心配しているのは、ギンゲツを殺してしまうかもしれない、ということだ。
ぼくのなかで、まだギンゲツを許せない、という思いはくすぶっている。
アカネやチカを危険な目に合わせたのだから、それ相応の罰は与えなければ、とも思う。
けど、死んでしまえ、とまでは思わなかった。
それをぼくがしてしまうのは、誰であろうと死んでも構わない、と言い放ったギンゲツと同じになってしまう。
ぼくが出てきたゲートの反対側からも、誰かが歩いてきていた。
歩く——というよりは、早足で移動してくる。
まだ、遠くてわからないけど、たぶん、ギンゲツだろう。
メインアリーナは、ふたりで戦うには充分な広さがある。
集団戦でも余裕があるように、設計されているのだろう。
『本日は特別な戦技訓練となりました。挑戦者は、”初心者殺しの小迷宮”から無事、帰還し、新しい天賦を目覚めさせた若きアリアンフロッド、ジンライ! そして、それを受けて立つのは、そのジンライを賭け事の対象にして、罠にかけようとした主犯、元|千秋の轍《デイ・バイ・デイ》の小隊長、ギンゲツ!』
突然、大きな声が響いた。
ふたりを紹介する内容だが、ギンゲツの名前が呼ばれるのと同時に、口笛やブーイングが飛んだ。
一気に、ものものしい雰囲気へと変わる。
「ジンライ……」
やがて、見える範囲まで、ギンゲツがやって来た。
歩みがゆっくりとしたものになる。
表情はなく、ただ、目つきだけが鋭い。
「よく、逃げ出さずに来ましたね。負けるとわかっているのに」
「あぁ、来たよ。ぼくの——ぼくたちのため、だけでなく、”初心者殺しの小迷宮”で亡くなった、アリアンフロッド見習いの人たちのためにも、ね」
「……自分たちとまったく関係のない方たちのために? ずいぶんと、無駄なことをするものですね」
「無駄じゃないよ。アリアンフロッドなら、当然のことだ。彼らの思いも背負って、ぼくはここにいる。だから、負けない」
ギンゲツが、唇を噛んだ。
「口にするのは、簡単なことです。実力が伴わなければ、それは戯れ言です」
「そうだね。でも、力があればどんなことをしてもいいってわけじゃない。それは、わかるよね」
「力なき者に、そんなことを語られたくないですね。アカツキは、アリアンフロッドのトップとして君臨し、いくつもの逸話を残してきました。それは、力があったからです。弱き者はただ、忘れ去られるだけなんですよ」
「アカツキは強かった。それは、わかるよ。でも、自分が困っている時に、平気で他人を見棄てるような人じゃなかった」
「それも、力あってのことでしょう。力の追求は、誰しもが心に持っているもの。わたしはそれに従っているだけです」
今度、唇を噛むのは、ぼくのほうだった。
話がまったく、噛み合わない。
「じゃ、ギンゲツ。あなたがその力でしたことは、なんなの?」
「これから、それをするところでした。おまえがそれを、邪魔したのですよ」
「ねぇ、ギンゲツ。周りをしっかりと見なよ。みんな、あなたを批判している。間違っているんだよ。わからない?」
「では、あなたに勝利して、本当に正しいのはどちらか、証明してあげましょう」
ギンゲツが拳を固めると、それで胸を叩いた。
「レイドアーマー、|展開《アクチュエイト》。ブラッド・ジャケット、スプレッドアウト!」
口のなかで唱えるのと同時に、右の中指に嵌めていた指輪が光った。
そして、指輪を中心にして、真紅の色が広がっていく。
泡立つものに全身が覆われ、そして、赤い色が消えていくと、ギンゲツは赤と黒でカラーリングされた革のジャケット、それに笏杖で武装していた。
アクチュエイトは、ストレージに収納していた防具を直接、身につけるスキルだ。
ギンゲツの防具と武器は、この闘技場でしか使えないように、制限がつけられているが、それ以外は春水の塔で使っていたものと、性能的には変わりがない。
「レイドアーマー、展開。フェザー・ジャケット、スプレッド・アウト!」
ぼくも、遅れることなく、防具を展開させた。
フェザー・ジャケットは、試練の間でグリューンとの戦いで破損してしまったので、別のものだ。
軽量で、回避と防御力が呪工されているが、ギンゲツのブラッド・ジャケットと比べると、かなり劣っている。
ブラッド・ジャケットは、呪文の数値を強化し、さらに打撃を与える度に、その数値をさらに伸ばしていく、という機能を持っている。
『よう、ジンライ。いよいよ、おれさまの出番だな』
”屠るもの”を構えると、あのふてぶてしい声が聞こえてきた。
『ははっ! 血が滾るような戦い、期待しているぜぇ』