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第三話 肝試し

ー/ー



学校の昼休み、教室の後ろがやけに騒がしかった。

「昨日の動画、もう一万回いったぞ」

「マジかよ、タカシすげーな」

心霊ユーチューバー。
そう呼ばれている同級生のタカシは、最近、妙に調子に乗っていた。

俺の後ろの席で、タカシはスマホを掲げながら言った。

「次はさ、禁足地。
ガチでヤバいとこ行ってくる」

その言葉を聞いた瞬間、
俺はシャーペンを止めた。

禁足地。
昔から、近づくなと言われている山の奥。
肝試しにはちょうどいいが、
あそこは“怖い”場所じゃない。

隔てられている場所だ。

放課後、境内の掃き掃除をしていると、
アヤメがふわりと現れた。

「ワカ、さっきの話ね」

箒を動かしたまま、俺は黙って続きを待つ。

「あの場所、魂の世界ではね。
神聖な祀り場所なんだよ」

アヤメは、楽しそうでもなく、怖がる様子もなく言った。

「だから現世界とは隔離されてる。
人が簡単に入っちゃいけない場所」

……やっぱりか。

「行くのは、タカシだけか?」

「撮影で一人みたい。
面白半分だね」

俺はため息をついた。

「イズナ」

肩にいた管狐が、ぴょんと跳ねる。

「様子見、頼めるか」

「まかせて!」

イズナはそう言うと、
風みたいに境内の外へ消えた。

肝試し当日の夜。

禁足地の空気は、異様なほど静かだった。
虫の声も、風の音もない。

タカシはカメラを回しながら、奥へ進んでいく。

「いや〜、マジで何もねぇな」

「これじゃ〜再生数稼げね〜よ」

その一歩が、
境界を越えた。

景色が、わずかに歪む。
夜なのに、影が逆に伸びる。

「あれ……?」

その瞬間、
こちら側に戻ろうとする足が、動かなくなった。

気づけば、
周囲に“人の形をした何か”が集まり始めている。

連れて行こうとする魂達。

だが、次の瞬間。

「ダメだよ、そこは違う」

エリカとトウヤが現れ、
魂達を力任せに引き離した。

「帰る場所、間違ってるだろ」

「こっち来んなっての」

魂達は抵抗することなく、
霧のように散っていく。

その時だった。

「おやおや……こんなところで何をしている」

背後から、しわがれた声。

振り向くと、
そこには杖をついた老人が立っていた。

イズナだ。

「若いの。
夜道は危ない。戻りなさい」

タカシは、なぜか素直に頷いた。

「……そうっすね」

そのまま、ふらふらと引き返そうとした瞬間。

空気が、揺れた。

遅れて、俺が駆けつけた。

境界が乱れている。
ここは、もう“肝試し”の場所じゃない。

俺は深く息を吸い、
静かに口を開いた。

カタカムナウタヒを唱える。

音というより神名、周波数、
場に染み込ませるように。

歪んでいた空間が、
ゆっくりと元に戻っていく。

隔ては隔てのまま、
在るべき形に。

やがて、夜の虫の声が戻った。

「……あれ?
俺、何してたんだっけ」

タカシは首をかしげている。

「撮影、やめとけ」

俺はそれだけ言った。

理由は説明しない。

アヤメが、俺の隣で小さく呟いた。

「人が集まるとね。
境界、薄くなるんだよ」

俺は何も答えず、夜空を見上げた。

肝試しは、
怖がるためにあるんじゃない。

越えちゃいけない線を、知るためにある。



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学校の昼休み、教室の後ろがやけに騒がしかった。
「昨日の動画、もう一万回いったぞ」
「マジかよ、タカシすげーな」
心霊ユーチューバー。
そう呼ばれている同級生のタカシは、最近、妙に調子に乗っていた。
俺の後ろの席で、タカシはスマホを掲げながら言った。
「次はさ、禁足地。
ガチでヤバいとこ行ってくる」
その言葉を聞いた瞬間、
俺はシャーペンを止めた。
禁足地。
昔から、近づくなと言われている山の奥。
肝試しにはちょうどいいが、
あそこは“怖い”場所じゃない。
隔てられている場所だ。
放課後、境内の掃き掃除をしていると、
アヤメがふわりと現れた。
「ワカ、さっきの話ね」
箒を動かしたまま、俺は黙って続きを待つ。
「あの場所、魂の世界ではね。
神聖な祀り場所なんだよ」
アヤメは、楽しそうでもなく、怖がる様子もなく言った。
「だから現世界とは隔離されてる。
人が簡単に入っちゃいけない場所」
……やっぱりか。
「行くのは、タカシだけか?」
「撮影で一人みたい。
面白半分だね」
俺はため息をついた。
「イズナ」
肩にいた管狐が、ぴょんと跳ねる。
「様子見、頼めるか」
「まかせて!」
イズナはそう言うと、
風みたいに境内の外へ消えた。
肝試し当日の夜。
禁足地の空気は、異様なほど静かだった。
虫の声も、風の音もない。
タカシはカメラを回しながら、奥へ進んでいく。
「いや〜、マジで何もねぇな」
「これじゃ〜再生数稼げね〜よ」
その一歩が、
境界を越えた。
景色が、わずかに歪む。
夜なのに、影が逆に伸びる。
「あれ……?」
その瞬間、
こちら側に戻ろうとする足が、動かなくなった。
気づけば、
周囲に“人の形をした何か”が集まり始めている。
連れて行こうとする魂達。
だが、次の瞬間。
「ダメだよ、そこは違う」
エリカとトウヤが現れ、
魂達を力任せに引き離した。
「帰る場所、間違ってるだろ」
「こっち来んなっての」
魂達は抵抗することなく、
霧のように散っていく。
その時だった。
「おやおや……こんなところで何をしている」
背後から、しわがれた声。
振り向くと、
そこには杖をついた老人が立っていた。
イズナだ。
「若いの。
夜道は危ない。戻りなさい」
タカシは、なぜか素直に頷いた。
「……そうっすね」
そのまま、ふらふらと引き返そうとした瞬間。
空気が、揺れた。
遅れて、俺が駆けつけた。
境界が乱れている。
ここは、もう“肝試し”の場所じゃない。
俺は深く息を吸い、
静かに口を開いた。
カタカムナウタヒを唱える。
音というより神名、周波数、
場に染み込ませるように。
歪んでいた空間が、
ゆっくりと元に戻っていく。
隔ては隔てのまま、
在るべき形に。
やがて、夜の虫の声が戻った。
「……あれ?
俺、何してたんだっけ」
タカシは首をかしげている。
「撮影、やめとけ」
俺はそれだけ言った。
理由は説明しない。
アヤメが、俺の隣で小さく呟いた。
「人が集まるとね。
境界、薄くなるんだよ」
俺は何も答えず、夜空を見上げた。
肝試しは、
怖がるためにあるんじゃない。
越えちゃいけない線を、知るためにある。