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決着(月編)

ー/ー




 マリアの言葉に一筋の光明を見出した俺は、急いで『超加速』を再開する。


 そして、加速後に飛び込んで来たのは果敢にメドーサに突撃を仕掛ける雪之丞だった。

 鎧の形状がいつもと違う……加速の遅れを補う為に『縮地形態』に切り替えたか。一見理に適ったな選択だが、あれは小回りが効かない。メドーサ相手じゃ厳しいだろうな。現に最小限の動きで簡単に躱されちまってる。

 
 取り敢えず無事だったことに安心しつつも、このままじゃヤバそうなんで、どっかで止めようとタイミングを測ってたら、幸いにも転んで(転ばされて)勝手に止まった。

 その後、立ち上がった雪之丞にメドーサが攻撃しようとしてるのを、咄嗟に右手に作っていた霊盾で妨害して今に至る。
 


「なんだい、懲りないねぇ。大人しく絶望してりゃ、死ぬまで放っといてやったのに」


『超加速』を再開した俺にメドーサが “やれやれ” と言った感じで呟く。そこには怒りや嘲笑はなく、単に面倒くさいという感情しか感じられなかった。

 参ったな。

 さっきまで雪之丞をあしらい(・・・・)続けたせいで、余裕が生まれちまってる。


 …………いや、余裕を作るための時間が俺達が命を繋げたと考えれば “ツイてた” ってことだろうな。

 雪之丞にかまけて、『超加速』の解けた俺に何もしなかったのが良い証拠だ。


 
 マリアのくれた情報、雪之丞の奮戦、俺の撒いた罠…………ピース(・・・)が全部揃った。
 

 後は、順番さえ間違わなければ………… “勝てる” はずだ!!


 俺は逸る気持ちを抑えながら、右手に霊気を集中する。失敗は許されない。これが逆転への第一歩になるんだからな。

 そんな事を考える俺に、息を整えた雪之丞が話し掛けてきた。表情がいつになく切羽詰まってる。当たり前だ、こんな状況ならな……


「忠夫…………俺達はもう、死ぬ……それは避けられねぇ…………」
「……………………」

「だがな…………死ぬのは免れなくても、殺されるのは我慢出来ねぇ……!!アイツに良いようにされるのだけは、どうやったって我慢出来ねぇんだ!!それを避けるには奴を、俺達で殺すしかない!!!!」
「……………………」

「…………狂ってるか……?」


 そんな必死の形相で訴える奴に、俺は静かに答えた。
 

「…………いいや。お前らしくて、いいんじゃねぇか」


 こいつが諦めるようなこと言い出したら、どうしようかと思ったぜ。変に “マトモ” なこと言われるより、余程いい。

 そもそも、今回の件は無茶苦茶も良いとこなんだ。

「2人で月に行って地球を救え」だなんて、マトモな神経じゃやって(・・・)られねぇ。

 多少頭のネジが飛んでるくらいの方が、ちょうどいい。


「遺言は済んだかい?」


 それまで黙って俺達のやりとを聞いていたメドーサが、ニヤつきながら声を掛けてきた。

 わざわざ、終わるまで待つなんて完全に余裕を取り戻した感じだな。

 
 “好都合” だ…………余裕ブッこいてる所を突き落とす方が、上手くいく。


「お前、話を聞いてなかったのか?これから俺達は「お前を殺す」って、話してるんだけどな」


 そんな俺の挑発にも、メドーサは余裕の表情を崩さない。寧ろ憐れみすら、浮かべてくる。

 
「はぁ〜?帰る船が沈んで、血迷ったかい?本当に小竜姫も馬鹿だねぇ〜、美神令子の代わりにこんな連中を寄越すなんて……」


 あっ…………!??

  なんだと、婆婆!!…………いや、キレるな。顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、 “やれやれ” と言った感じで返してやる。
 

「お前を殺して、アンテナも破壊するって言ってんだよ!頭の悪い女だな…………アレの “弱点” も解ってる」


 そう言いながら、俺は右手に生成した霊盾をこれ見よがしに示してやる。

 バレーボール大に具現化した黄色い球体に『心眼』の目を模した紋様を刻んでる。形は完全に俺の趣味だ…………だが、長い時間を掛けて生成した分威力はそれなり。

 多分、文珠に『爆』と刻んで投げるのと同じくらいだ。


 俺の「弱点」と言う言葉に一瞬ピクリと表情を硬めたメドーサだったが、俺の出した物を見て、ますます呆れたように呟く。


「…………その程度の霊気で私を何とか出来ると思ってるのかい。馬鹿の相手をしても疲れるだけだ、もう死にな!」


 そう言って、手をこっちに向ける。あの手から竜気を放たれたら、俺は跡形もなく吹き飛ぶだらうな……

 
 絶対絶命………ただ、その状態でも俺は敢えて嗤ってやる。



「フッフッフッ……本当に頭が悪いなぁ〜…………誰が、“お前” に当てるなんて言ったよ!!」



 その言葉と共に、俺の右手から霊盾が消える。

 それを見て、訝しむ表情をするメドーサ…………そして、それは次の瞬間に起こる轟音と超光によって激しい驚愕に歪むことになる。



 ドォゴォオオオオオーーーーーーーン!!!!!!



「なっ!!?」


 奴の後ろ…………つまり、アンテナ(ヒドラとか言ったか?)の方から聞こえた、強烈な爆音に思わず振り向くメドーサ。

 激しい光を放ちながら、色んな箇所が爆散して崩壊していくアンテナ(すげぇな……ここまで派手に行くのは予想外だ)。さっきの宇宙船とは真逆だな。

 今度は、お前が絶望するといい………


(行くな……!)
「……………!!?」
 

 目を切ったメドーサを見て、飛び掛かろうとする雪之丞を俺は左手と目線で制す!
 

 まだだ……まだ、そのタイミングじゃない。


 呆然とするメドーサに、今度は俺がゆっくりと告げてやる。

 
「時空連結爆弾……『転移眼』俺はイメージさえ出来れば、どこからでもピンポイント爆撃が出来る。弱点を知られた時点で、あの装置の破壊は決まってたんだよ」


※幽遊白書の『鴉』の声を目一杯イメージして、脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい! 


 な〜んてな………

 本当は、文珠で霊盾をアンテナの弱点(アンテナの皿の中心)まで転移させただけなんだけどな…………マリアに月へ落として貰う時に、アンテナを上から見たのが活きた。
 

 ……っと、技の実態はどうでもいい。今は、少しでもマウント取れればOKだ。


「さて…………どんな気分だ? “馬鹿” な武神様が送り込んだ “ムシケラ” に計画を “台無し” にされた気分は?」
「……………………」



 メドーサは、振り向かない。崩壊するアンテナに向かって、固まったままだ。


「慎重に行くぞ雪之丞。こいつは、都合が悪くなるとすぐ “逃げる” からな」


 メドーサが、「逃げる」と言う言葉にピクッと体を震わせたような気がした。

 いいぞ、この調子だ……


「残念だが、俺達はお前逃がす積りはない。お前は “害虫” だ。ここで死ね………!ただ、“遺言” くらいあるななら聞いてやってもいいぞ!」



 そこまで言った所で、ようやくメドーサがゆっくり俺達の方を振り向く…………


 どんな激しい表情をしてるかと思ったが、そこには表情は無かった。目は虚ろで焦点が定まってないように見える。だが、ショックで感情を失ってるのとは違う。

 体の底から湧き上がる感情の激流が強すぎて、表情で表しきることが出来ないんだ。その証拠に体全体が小刻みに震えて、顔面の筋肉が痙攣しまくってる。何か刺激を与えてやれば一気に爆発しそうだ。

 

「………………おっ……おまっ……よ、よくも……よくも…………!!」


 かろうじて口を開くが、憤怒……?絶望……?悔恨……?とにかく、溢れる感情が強すぎて言葉にならない。同時に奴の体の中で、竜気がどんどん膨れ上がってるのが解る。


 正直に言う………恐ろしくて、仕方ない。


 今は空回ってるが、あの感情が、パワーが爆発したらどんなことになるのか馬鹿でも簡単想像つく。ただ、ここで引けば全て水の泡だ。

 だから、俺は着けていた『虚級の面』を投げ捨てて更に煽る!!
 


「なっ…………!!?」
 

 俺の顔を見て、新たな驚愕に染まるメドーサ…………やっぱり “俺” と気づいてなかったが、覚えてはいたようだな。

 先生のおまけ程度……もっと言やぁ “ゴミ程度” にしか見てなかった俺が、ここまで仕出かしたとなりゃあそのショックはどれ程のもんなんだ?

 

「どうした?この顔が珍しいか?お前の大切なアンテナを壊したボンクラ野郎の顔だよ♪ちゃんと、よく見ろ!ホレ、ホレ、ホレ、ホレ、ホレ___」



 そう言って顎をシャクるように煽りまくってやった所で、遂にメドーサが “キレた” 。



「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」



 もう、何を言ってんだか解らなかった…………

 怒りを通り越した烈情の塊となったメドーサは、俺に一直線に襲い掛かる!

 その距離大体7、8m……そいつを一瞬……いや、それよりも更に短い刹那の時間で俺に迫る。それは最早、 “音速” と表現して良かったかもしれない。


 そして、感情の赴くままに槍で俺を貫く………………ことは無かった。


 バリバリバリバリッ!!!


「な、何ぃっ!?」


 メドーサに何重と巻き付く霊気の縄…………突如、奴の下から現れたそれによって完全に動きを封じられる。突然の出来事に戸惑いながら下を向いた奴は、すぐにその正体に気づいた。


「こ、これは文珠……!?」
「ずっと、待ってたよ!怒り狂って、突っ込んでくるのをなぁ!」


 そうだ……奴の下に光るのは、2個の文珠。それぞれに刻んだ文字は、『束』『縛』!


 ずっと、この時を待っていた…………奴が、文珠の上を通過する瞬間を……


 メドーサじゃ、普通に投げても避けられる。だから、乱戦を繰り広げていたドサクサで罠を張るしかなかった。

 今、発動してるのはその内の一組だ。貴重な文珠を2個一組で複数箇所設置なんてかなりの大盤振る舞いだったが、やっと実を結んだ。

 やってることは単純だが、これは一つの “賭け” でもあった。

 メドーサが、もし飛び道具を使って来たら奴は罠にも嵌らず、俺が消し飛んでたろう。例え、躱すことが出来ても同じ状況を作れる保証なんてない。結局、時間切れで俺達が死ぬだけだ。だが、激昂した奴は俺を直接刺す事を選んで突っ込んできた………



 ………………“賭け” に勝ったぞ………


  
「準備しろ!!」


 言うやいなや、俺は雪之丞の持ってる文珠の2つに意識を飛ばす!







決着 雪之丞
「うおおぉぉぉぉーーーーーっ!!!!」


 俺の掛け声に応えるように、雪之丞が身体中の霊圧を限界まで引き上げる!

 雪之丞の身体から激しく迸る霊気……これは、ただの全力じゃない。あいつに予め渡して置いた文珠に『三』『倍』と刻んで発動したんだ。

 それによってあいつの霊気回路はブーストされて、普段の三倍の出力まで上がる。当然だが、回路に掛かる負担も三倍……あいつの回路が焼き切れる限界ギリギリで、長くなんて保たない………
 

 だから、この瞬間に全てを掛けろっ!!


 だが、そんな状態でもメドーサは俺達を威嚇するように喚き散らす……



「はんっ!無駄だよ!!例え動けなくても、その程度じゃ私の体を貫けやしない!これが解けた時が、お前等の最後さ!!」



 …………ああ、そうだ。これでお前が、削り切れるなんて思っちゃいねぇよ!

 だから、俺は更にポケットから文珠を出して奴に見えるようにばら撒いてやる。


「これが見えるか?」
 

 俺の意思で宙空に浮かぶ4個の文珠………そこに刻まれた文字を見て、初めてメドーサの顔色が変わる…………



      『竜』 『気』 『霧』 『散』



 理解したな…………!!


 俺は、浮かした文珠を操作して奴を四方から取り囲むように配置する。

 絶対に逃さねぇ……!!


 俺達がいつも霊気で体を守ってるように、竜族(魔族)である奴も竜気で同じことをしている。そして当然、竜族の方が出力は高い。

 普通なら、いくら雪之丞が霊気ブーストしても、メドーサを倒し切ることは出来ないだろう…………だから、これだ!


 文珠4個の同時制御、読んで字のごとく奴の竜気を霧のように散らして無効化させる。勿論、これだけで奴の竜気全て消すことは出来ないし、恐らく10秒も維持出来ないだろう……

 だが、文珠が効いてる間奴の竜気は著しく下がる!


「よ、止せえぇ!!」
「止すかよっ!!死ねえっ!!!」


 パアァァァッ!


 叫ぶと同時に、4つの文珠に光が灯る。文珠の発動した証だ!



「ぐぁっ、あああぁぁ〜〜……!ち、力がぁ〜………」



 それと共に俺の体から霊気がごっそり抜け、思わず片膝をつく。3個までは平気だが、4個以上の同時制御は霊気の消耗が著しい。

 …………ただ、やった甲斐はあった。力なく叫んだメドーサの竜気も、どんどん弱まって行く。 


 準備は全て整った!千載一遇、乾坤一擲、やるなら今しかない!!


 俺は傍らで、気を練り上げている雪之丞に力の限り叫ぶ!!


「決めろ〜〜〜〜っっ!!!!!」
「消えて、無くなれぇーーーーーーーっっ!!!!!」



 グゥオオオオオーーーーー!!!!!
 


 奴の両手から、全霊力を込めた霊波砲が放たれる!

 いつもとは桁違いの霊気の奔流が、竜気を散らされて裸同然となっているメドーサに炸裂した!!




「グギャアアアアアーーーー!!!!」
「おおおおおぉーーーーー!!!!」









 ………………………………これで、殺ったか?


 グオッ……!


「…………!?」


 俺は、目の前に飛んできた “ソレ” を咄嗟に霊手で掴む。


「忠夫!?」
「ふっ……中々に渋とい、流石は上級魔族だ」


 俺は、皮肉と呆れと感心が詰まった何とも形容し難い感情の込もった声で “ソレ” に語り掛ける。
 

「よ〜〜こ〜〜し〜〜ま〜〜〜〜っっ!!!!!!」


 “ソレ”…………首だけになったメドーサは、霊手の中で呪詛でも吐くように喚き散らす!


「何故だぁ!!?何故、私がお前のような屑にぃ〜!!!!」


 こんな状態になっても、奴の目には煌々と炎が満ちてる…………いや、憤怒やら怨嗟やらそういう執念染みた力は、今まさに絶頂と言った感じか?

 そんな目で俺は睨まれてるんだ。

 普通ならとんでもなくビビリ散らしそうなとこだが、数分間に色々起きすぎて、感情と言うか感覚が既にオーバーフローして自分でも、訳が分からねぇ…………
 

「ああ?そんなの、お前が俺達を舐めたからに決まってんだろ。殺すチャンスは、いくらでもあったのにしなかった、自分の力を誇示するためにな…………武神様なら、こんなミスはしなかったぞ。あのお方は、大義の為に力を振るう。自分の都合しか考えられねぇ、お前とは端から出来が違うんだよ」


 俺の言葉を聞いた、メドーサの目に更に怒りの色が強まる。だけど、それがなんだって言うんだ?


「〜〜殺すっっ!!お前だけは、殺す!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロ___」


 うるせぇな……だったら、すぐに殺れよ。出来ねぇから、そうやって叫ぶだけなんだろ?
 

 まぁ……それも、もう出来なくなるけどな。



「爆ぜろ!」
「コロ__」


 ヴォン!!


 霊手の中で生成した、霊気によって奴の首は完全に消し飛んだ…………


「死んだか…………?」


 横で見ていた雪之丞が呟く。俺もだが、奴の顔にも疲労の色が濃い。


「だろうな……竜気が、完全に消えた」


 体の方は、既に霊波砲で消し飛ばされてる。辺りには、もう何もないし、何も感じない。音のない静寂だけが支配する宇宙空間が、無限に広がるだけだ…………
  
 

「………お前は、ああ言うちんちくりん(・・・・・・)が好みなのか?」
「ちんちくりんでも、可愛いから良いんだよ……!」



 …………いや、違う!

 あの方は、俺に道を示してくれた大恩人だ!!

 



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 マリアの言葉に一筋の光明を見出した俺は、急いで『超加速』を再開する。
 そして、加速後に飛び込んで来たのは果敢にメドーサに突撃を仕掛ける雪之丞だった。
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 取り敢えず無事だったことに安心しつつも、このままじゃヤバそうなんで、どっかで止めようとタイミングを測ってたら、幸いにも転んで(転ばされて)勝手に止まった。
 その後、立ち上がった雪之丞にメドーサが攻撃しようとしてるのを、咄嗟に右手に作っていた霊盾で妨害して今に至る。
「なんだい、懲りないねぇ。大人しく絶望してりゃ、死ぬまで放っといてやったのに」
『超加速』を再開した俺にメドーサが “やれやれ” と言った感じで呟く。そこには怒りや嘲笑はなく、単に面倒くさいという感情しか感じられなかった。
 参ったな。
 さっきまで雪之丞を|あしらい《・・・・》続けたせいで、余裕が生まれちまってる。
 …………いや、余裕を作るための時間が俺達が命を繋げたと考えれば “ツイてた” ってことだろうな。
 雪之丞にかまけて、『超加速』の解けた俺に何もしなかったのが良い証拠だ。
 マリアのくれた情報、雪之丞の奮戦、俺の撒いた罠…………|ピース《・・・》が全部揃った。
 後は、順番さえ間違わなければ………… “勝てる” はずだ!!
 俺は逸る気持ちを抑えながら、右手に霊気を集中する。失敗は許されない。これが逆転への第一歩になるんだからな。
 そんな事を考える俺に、息を整えた雪之丞が話し掛けてきた。表情がいつになく切羽詰まってる。当たり前だ、こんな状況ならな……
「忠夫…………俺達はもう、死ぬ……それは避けられねぇ…………」
「……………………」
「だがな…………死ぬのは免れなくても、殺されるのは我慢出来ねぇ……!!アイツに良いようにされるのだけは、どうやったって我慢出来ねぇんだ!!それを避けるには奴を、俺達で殺すしかない!!!!」
「……………………」
「…………狂ってるか……?」
 そんな必死の形相で訴える奴に、俺は静かに答えた。
「…………いいや。お前らしくて、いいんじゃねぇか」
 こいつが諦めるようなこと言い出したら、どうしようかと思ったぜ。変に “マトモ” なこと言われるより、余程いい。
 そもそも、今回の件は無茶苦茶も良いとこなんだ。
「2人で月に行って地球を救え」だなんて、マトモな神経じゃ|やって《・・・》られねぇ。
 多少頭のネジが飛んでるくらいの方が、ちょうどいい。
「遺言は済んだかい?」
 それまで黙って俺達のやりとを聞いていたメドーサが、ニヤつきながら声を掛けてきた。
 わざわざ、終わるまで待つなんて完全に余裕を取り戻した感じだな。
 “好都合” だ…………余裕ブッこいてる所を突き落とす方が、上手くいく。
「お前、話を聞いてなかったのか?これから俺達は「お前を殺す」って、話してるんだけどな」
 そんな俺の挑発にも、メドーサは余裕の表情を崩さない。寧ろ憐れみすら、浮かべてくる。
「はぁ〜?帰る船が沈んで、血迷ったかい?本当に小竜姫も馬鹿だねぇ〜、美神令子の代わりにこんな連中を寄越すなんて……」
 あっ…………!??
  なんだと、婆婆!!…………いや、キレるな。顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、 “やれやれ” と言った感じで返してやる。
「お前を殺して、アンテナも破壊するって言ってんだよ!頭の悪い女だな…………アレの “弱点” も解ってる」
 そう言いながら、俺は右手に生成した霊盾をこれ見よがしに示してやる。
 バレーボール大に具現化した黄色い球体に『心眼』の目を模した紋様を刻んでる。形は完全に俺の趣味だ…………だが、長い時間を掛けて生成した分威力はそれなり。
 多分、文珠に『爆』と刻んで投げるのと同じくらいだ。
 俺の「弱点」と言う言葉に一瞬ピクリと表情を硬めたメドーサだったが、俺の出した物を見て、ますます呆れたように呟く。
「…………その程度の霊気で私を何とか出来ると思ってるのかい。馬鹿の相手をしても疲れるだけだ、もう死にな!」
 そう言って、手をこっちに向ける。あの手から竜気を放たれたら、俺は跡形もなく吹き飛ぶだらうな……
 絶対絶命………ただ、その状態でも俺は敢えて嗤ってやる。
「フッフッフッ……本当に頭が悪いなぁ〜…………誰が、“お前” に当てるなんて言ったよ!!」
 その言葉と共に、俺の右手から霊盾が消える。
 それを見て、訝しむ表情をするメドーサ…………そして、それは次の瞬間に起こる轟音と超光によって激しい驚愕に歪むことになる。
 ドォゴォオオオオオーーーーーーーン!!!!!!
「なっ!!?」
 奴の後ろ…………つまり、アンテナ(ヒドラとか言ったか?)の方から聞こえた、強烈な爆音に思わず振り向くメドーサ。
 激しい光を放ちながら、色んな箇所が爆散して崩壊していくアンテナ(すげぇな……ここまで派手に行くのは予想外だ)。さっきの宇宙船とは真逆だな。
 今度は、お前が絶望するといい………
(行くな……!)
「……………!!?」
 目を切ったメドーサを見て、飛び掛かろうとする雪之丞を俺は左手と目線で制す!
 まだだ……まだ、そのタイミングじゃない。
 呆然とするメドーサに、今度は俺がゆっくりと告げてやる。
「時空連結爆弾……『転移眼』俺はイメージさえ出来れば、どこからでもピンポイント爆撃が出来る。弱点を知られた時点で、あの装置の破壊は決まってたんだよ」
※幽遊白書の『鴉』の声を目一杯イメージして、脳内補完して下さい。知らない方はYouTubeで調べて下さい! 
 な〜んてな………
 本当は、文珠で霊盾をアンテナの弱点(アンテナの皿の中心)まで転移させただけなんだけどな…………マリアに月へ落として貰う時に、アンテナを上から見たのが活きた。
 ……っと、技の実態はどうでもいい。今は、少しでもマウント取れればOKだ。
「さて…………どんな気分だ? “馬鹿” な武神様が送り込んだ “ムシケラ” に計画を “台無し” にされた気分は?」
「……………………」
 メドーサは、振り向かない。崩壊するアンテナに向かって、固まったままだ。
「慎重に行くぞ雪之丞。こいつは、都合が悪くなるとすぐ “逃げる” からな」
 メドーサが、「逃げる」と言う言葉にピクッと体を震わせたような気がした。
 いいぞ、この調子だ……
「残念だが、俺達はお前逃がす積りはない。お前は “害虫” だ。ここで死ね………!ただ、“遺言” くらいあるななら聞いてやってもいいぞ!」
 そこまで言った所で、ようやくメドーサがゆっくり俺達の方を振り向く…………
 どんな激しい表情をしてるかと思ったが、そこには表情は無かった。目は虚ろで焦点が定まってないように見える。だが、ショックで感情を失ってるのとは違う。
 体の底から湧き上がる感情の激流が強すぎて、表情で表しきることが出来ないんだ。その証拠に体全体が小刻みに震えて、顔面の筋肉が痙攣しまくってる。何か刺激を与えてやれば一気に爆発しそうだ。
「………………おっ……おまっ……よ、よくも……よくも…………!!」
 かろうじて口を開くが、憤怒……?絶望……?悔恨……?とにかく、溢れる感情が強すぎて言葉にならない。同時に奴の体の中で、竜気がどんどん膨れ上がってるのが解る。
 正直に言う………恐ろしくて、仕方ない。
 今は空回ってるが、あの感情が、パワーが爆発したらどんなことになるのか馬鹿でも簡単想像つく。ただ、ここで引けば全て水の泡だ。
 だから、俺は着けていた『虚級の面』を投げ捨てて更に煽る!!
「なっ…………!!?」
 俺の顔を見て、新たな驚愕に染まるメドーサ…………やっぱり “俺” と気づいてなかったが、覚えてはいたようだな。
 先生のおまけ程度……もっと言やぁ “ゴミ程度” にしか見てなかった俺が、ここまで仕出かしたとなりゃあそのショックはどれ程のもんなんだ?
「どうした?この顔が珍しいか?お前の大切なアンテナを壊したボンクラ野郎の顔だよ♪ちゃんと、よく見ろ!ホレ、ホレ、ホレ、ホレ、ホレ___」
 そう言って顎をシャクるように煽りまくってやった所で、遂にメドーサが “キレた” 。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
 もう、何を言ってんだか解らなかった…………
 怒りを通り越した烈情の塊となったメドーサは、俺に一直線に襲い掛かる!
 その距離大体7、8m……そいつを一瞬……いや、それよりも更に短い刹那の時間で俺に迫る。それは最早、 “音速” と表現して良かったかもしれない。
 そして、感情の赴くままに槍で俺を貫く………………ことは無かった。
 バリバリバリバリッ!!!
「な、何ぃっ!?」
 メドーサに何重と巻き付く霊気の縄…………突如、奴の下から現れたそれによって完全に動きを封じられる。突然の出来事に戸惑いながら下を向いた奴は、すぐにその正体に気づいた。
「こ、これは文珠……!?」
「ずっと、待ってたよ!怒り狂って、突っ込んでくるのをなぁ!」
 そうだ……奴の下に光るのは、2個の文珠。それぞれに刻んだ文字は、『束』『縛』!
 ずっと、この時を待っていた…………奴が、文珠の上を通過する瞬間を……
 メドーサじゃ、普通に投げても避けられる。だから、乱戦を繰り広げていたドサクサで罠を張るしかなかった。
 今、発動してるのはその内の一組だ。貴重な文珠を2個一組で複数箇所設置なんてかなりの大盤振る舞いだったが、やっと実を結んだ。
 やってることは単純だが、これは一つの “賭け” でもあった。
 メドーサが、もし飛び道具を使って来たら奴は罠にも嵌らず、俺が消し飛んでたろう。例え、躱すことが出来ても同じ状況を作れる保証なんてない。結局、時間切れで俺達が死ぬだけだ。だが、激昂した奴は俺を直接刺す事を選んで突っ込んできた………
 ………………“賭け” に勝ったぞ………
「準備しろ!!」
 言うやいなや、俺は雪之丞の持ってる文珠の2つに意識を飛ばす!
「うおおぉぉぉぉーーーーーっ!!!!」
 俺の掛け声に応えるように、雪之丞が身体中の霊圧を限界まで引き上げる!
 雪之丞の身体から激しく迸る霊気……これは、ただの全力じゃない。あいつに予め渡して置いた文珠に『三』『倍』と刻んで発動したんだ。
 それによってあいつの霊気回路はブーストされて、普段の三倍の出力まで上がる。当然だが、回路に掛かる負担も三倍……あいつの回路が焼き切れる限界ギリギリで、長くなんて保たない………
 だから、この瞬間に全てを掛けろっ!!
 だが、そんな状態でもメドーサは俺達を威嚇するように喚き散らす……
「はんっ!無駄だよ!!例え動けなくても、その程度じゃ私の体を貫けやしない!これが解けた時が、お前等の最後さ!!」
 …………ああ、そうだ。これでお前が、削り切れるなんて思っちゃいねぇよ!
 だから、俺は更にポケットから文珠を出して奴に見えるようにばら撒いてやる。
「これが見えるか?」
 俺の意思で宙空に浮かぶ4個の文珠………そこに刻まれた文字を見て、初めてメドーサの顔色が変わる…………
      『竜』 『気』 『霧』 『散』
 理解したな…………!!
 俺は、浮かした文珠を操作して奴を四方から取り囲むように配置する。
 絶対に逃さねぇ……!!
 俺達がいつも霊気で体を守ってるように、竜族(魔族)である奴も竜気で同じことをしている。そして当然、竜族の方が出力は高い。
 普通なら、いくら雪之丞が霊気ブーストしても、メドーサを倒し切ることは出来ないだろう…………だから、これだ!
 文珠4個の同時制御、読んで字のごとく奴の竜気を霧のように散らして無効化させる。勿論、これだけで奴の竜気全て消すことは出来ないし、恐らく10秒も維持出来ないだろう……
 だが、文珠が効いてる間奴の竜気は著しく下がる!
「よ、止せえぇ!!」
「止すかよっ!!死ねえっ!!!」
 パアァァァッ!
 叫ぶと同時に、4つの文珠に光が灯る。文珠の発動した証だ!
「ぐぁっ、あああぁぁ〜〜……!ち、力がぁ〜………」
 それと共に俺の体から霊気がごっそり抜け、思わず片膝をつく。3個までは平気だが、4個以上の同時制御は霊気の消耗が著しい。
 …………ただ、やった甲斐はあった。力なく叫んだメドーサの竜気も、どんどん弱まって行く。 
 準備は全て整った!千載一遇、乾坤一擲、やるなら今しかない!!
 俺は傍らで、気を練り上げている雪之丞に力の限り叫ぶ!!
「決めろ〜〜〜〜っっ!!!!!」
「消えて、無くなれぇーーーーーーーっっ!!!!!」
 グゥオオオオオーーーーー!!!!!
 奴の両手から、全霊力を込めた霊波砲が放たれる!
 いつもとは桁違いの霊気の奔流が、竜気を散らされて裸同然となっているメドーサに炸裂した!!
「グギャアアアアアーーーー!!!!」
「おおおおおぉーーーーー!!!!」
 ………………………………これで、殺ったか?
 グオッ……!
「…………!?」
 俺は、目の前に飛んできた “ソレ” を咄嗟に霊手で掴む。
「忠夫!?」
「ふっ……中々に渋とい、流石は上級魔族だ」
 俺は、皮肉と呆れと感心が詰まった何とも形容し難い感情の込もった声で “ソレ” に語り掛ける。
「よ〜〜こ〜〜し〜〜ま〜〜〜〜っっ!!!!!!」
 “ソレ”…………首だけになったメドーサは、霊手の中で呪詛でも吐くように喚き散らす!
「何故だぁ!!?何故、私がお前のような屑にぃ〜!!!!」
 こんな状態になっても、奴の目には煌々と炎が満ちてる…………いや、憤怒やら怨嗟やらそういう執念染みた力は、今まさに絶頂と言った感じか?
 そんな目で俺は睨まれてるんだ。
 普通ならとんでもなくビビリ散らしそうなとこだが、数分間に色々起きすぎて、感情と言うか感覚が既にオーバーフローして自分でも、訳が分からねぇ…………
「ああ?そんなの、お前が俺達を舐めたからに決まってんだろ。殺すチャンスは、いくらでもあったのにしなかった、自分の力を誇示するためにな…………武神様なら、こんなミスはしなかったぞ。あのお方は、大義の為に力を振るう。自分の都合しか考えられねぇ、お前とは端から出来が違うんだよ」
 俺の言葉を聞いた、メドーサの目に更に怒りの色が強まる。だけど、それがなんだって言うんだ?
「〜〜殺すっっ!!お前だけは、殺す!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロ___」
 うるせぇな……だったら、すぐに殺れよ。出来ねぇから、そうやって叫ぶだけなんだろ?
 まぁ……それも、もう出来なくなるけどな。
「爆ぜろ!」
「コロ__」
 ヴォン!!
 霊手の中で生成した、霊気によって奴の首は完全に消し飛んだ…………
「死んだか…………?」
 横で見ていた雪之丞が呟く。俺もだが、奴の顔にも疲労の色が濃い。
「だろうな……竜気が、完全に消えた」
 体の方は、既に霊波砲で消し飛ばされてる。辺りには、もう何もないし、何も感じない。音のない静寂だけが支配する宇宙空間が、無限に広がるだけだ…………
「………お前は、ああ言う|ちんちくりん《・・・・・・》が好みなのか?」
「ちんちくりんでも、可愛いから良いんだよ……!」
 …………いや、違う!
 あの方は、俺に道を示してくれた大恩人だ!!