《地球》
「どうですヒャクメ、装置の弱点は解りましたか?」
「弱点はあるのね〜、あのアンテナの中心が恐ろしく脆いのね〜、あそこを攻撃すれば、一撃で壊せると思うの」
良かった……装置は何とかなりそうね。そう思った、次の瞬間…………
「な、何だあれは!?」
安心仕掛けたのも束の間、今度はジークが驚いたように声を上げる。
それに釣られて皆で “もにたー” を見ると “あんてな” の周りにある、異様な外壁部分……そこから、腕のような物が伸びて…………
「やられた!!」
「マリアぁっ!」
腕の先が光ったと思った瞬間 “もにたー” が暗転してしまったの。
「そうか!わざわざ魔物を外壁にしたのは、アンテナを守らせる為だったのか……!」
悔しそうに歯噛みする、ワルキューレ……
「ど、どうするのね〜……マリアから、通信途切れちゃったのね〜」
「どうするって……こっからじゃ、どうにもならん…………マリア………マリアは大丈夫じゃろうか…………?」
オロオロするヒャクメにカオス氏……
…………そんなぁ!!?
通信が切れたってことは、宇宙船が墜とされちゃったってこと?マリアさんは大丈夫なの?
それに宇宙船が壊れたんじゃ、2人が帰って来れないじゃない!
◇◇◇
「なっ…………!?」
巨大装置の上方に広がる光景は、俺達を絶句させるのに十分過ぎた……
船体に大穴を空けられて、爆発する宇宙船…………爆発なんて一瞬だけだが、『超加速』状態の為にその悲惨な状況を何秒も見せ付けられる羽目になった。
スローモーションで爆発炎上し、堕ちていく船を呆然と眺めることしか出来ない俺達。
マリアは無事だろうか……?
これで、帰る手段が無くなった。
中に置いてきた武器も、宇宙服も吹き飛んだ。奴の言うように装備に宿る竜気だけが、俺達に残された僅かな時間……
『絶望』と言う名の感情が、否応なしに身体中を支配する……
…………そうか。
どうも生物的だと思ったら、あれ自体が一体の魔物だったんだ。自分だけで護らせる処置か?
さっきの強力な一撃といい、あれじゃ破壊どころか近寄るとことすら出来そうもねぇ。
やりあう前に、何故もっとよく調べなかった…………いや、そんな時間はなかった。どのみち俺等は、仕掛けるしかなかったんだ。
「ヒャハハハハッ!!ヒドラが破ったか!こいつぁ、傑作だねぇ♪これでお前達は、地球に帰ることも出来なくなった」
そんな俺達をメドーサは大嘲笑いするだけで、攻撃しようともしない…………
糞が……すぐに殺せる筈なのに、完全に勝ち誇ってやがる…………
……………………だとしても、違うと言えるか?
メドーサを “倒す罠” は、まだ残ってる。
上手く嵌まれば可能性はあるだろうが、その後に装置が破壊出来ないんじゃ結局地球は終わりじゃねぇか…………
僅かな希望を託して、送り出してくれた皆の想い。雪之丞と命懸けで作り出した均衡に、入念に蒔いた布石…………
全部無駄になっちまうのか…………地球にエネルギーが行ったら、全て魔族に蹂躙される。知り合いや、今まで世話になった人達、家族や友人……
当然、“あの娘” も奴等に………………
最悪の想像が、脳裏に浮かんで気持ちがグラついた瞬間だった……そこへ極度の緊張により蓄積した疲労、ついさっき受けたダメージも重なり俺は…………
『超加速』を解いちまった。いや、解けちまった…………
一瞬の油断や焦りが死に直結する、この状況……迫りくる焦燥に贖い切れず起こした、俺のボーンヘッド。
余りに迂闊、余りに軽率、余りに不謹慎…………
だが、後に振り返れば、これが千載一遇の僥倖であったことは確かだ。
俺自身の、あり得ない失態に慌てふためいて『超加速』を掛け直そうとする刹那、マリアの声が “頭” に響いた。
“横島さん・装置は・アンテナの中心が・弱点です……”
これは、通信機の音声じゃない。宇宙服は既に脱ぎ捨てている。だから、連絡を取り合う為にお互い一つずつ文殊を持って『通』と刻んで、発動したままにしておいた。
文殊に向かって喋ると、相手の頭に話した言葉が響くわけだ。これなら、例え宇宙空間でも問題なくやり取り出来る。
勿論、片方が『超加速』状態じゃ無理だが、俺がそれを解いたことで、通信可能になったことを確認したマリアが伝えてくれたんだろう。
…………いい情報だ。
ありがとうマリア、希望が出て来たぞ。思わぬ所で時間を食っちまったが、生きててくれよ雪之丞……
俺は、そう念じながら『超加速』を再開する。
◇◇◇
両腕は…………取り敢えずは、無事みたいだな。だが、痺れてるのか感覚が全くない。拳を握るだけでも一苦労だ。
メドーサに壊された両腕の装甲を修復しながら、俺は4個目の文珠を分解、吸収する。
初手から、様子見なしの全霊力ブッパでここまで来た。例えるなら長距離マラソンを、短距離の要領で走り続けるのと一緒だ。
普通なら、すぐに息切れする所を文珠でドーピングして何とか維持する。無茶苦茶もいいとこだが、そうでもしなきゃ目の前の化け物(メドーサ)に食い下がることは出来なかった。
ただ、状況は極めて悪い。身体中が霊気で満たされるが、疲労感は全く拭えない…………
正直言って俺は、どっか事態を楽観視していた。
メドーサさえ何とか出来れば、後はどうとでもなるだろうと……だが、結果はこの通り。
忠夫は装置だけ壊して逃げることも考えてたが、それも無理になっちまった。
どうする……?
例えメドーサを倒せたとしても、装置の破壊はかなり難しい…………いや、そもそもメドーサに勝つ見込みはあんのか?
忠夫は「乱戦に持ち込んでる間に罠を張る」つってたけど、上手く行ったんだろうか?
俺は、そう思って相棒の方を見る…………
「んな……!?」
忠夫の動きが止まってる!?違う、止まってるように見えるだけだ…………詰まり……
「今頃、気付いたのかい?頼りの相棒は、とっくに脱落してんだよ」
愕然としている俺に、メドーサが馬鹿にしたように言う…………
「忠夫!しっかりしろ!まだ、終わったわけじゃねぇ!!」
「無駄だよ、『超加速』が切れてんだ。何言ったって聞こえやしないさ」
糞ったれが……!!
…………いや、責められねぇよな……あんなの見ちまったら、誰でも気落ちする。俺だって、ああなってもおかしくなかったんだ。
「さてと……」
身動きしない忠夫に歯噛みする俺に、メドーサが勝ち誇ったように喋りだす。
「アンタはどうすんだい?あたしをここまだコケにしたんだ。死ぬのは確定事項だが、大人しく負けを認めるなら、苦しまないように消し飛ばしてあげるよ…………さあ、あたしにお願いしてごらん「ゴミの癖に楯突いてごめんなさい」ってね♪」
そう言って、高笑いする蛇女…………完全に人を見下してやがる。奴の顔面を思い切りぶん殴りゃ、どんだけ気持ちいいんだろうな?
…………打つ手無しの、万事窮すか……………だとしてもだ!
それを理由に、全て諦めるわけには行かねぇ!!
死んだママに誓ったんだ。『俺は強くなる』って!
強くなるのは、単に喧嘩が強くなるとか、そういう意味だけじゃねぇ。どんな時でも、絶対に諦めない“想いの強さ” だ。
だから、こんな所で “イモを引く” 訳にゃ行かねぇんだ!!
「ふざけろ、糞蛇がぁっ!!」
「キャハハハ!無駄無駄……お前に出来ることなんて、吠えるくらいさ。大人しくしてりゃ楽に死ねたのに♪」
嘲るメドーサを無視して俺は、全身から霊気を放出、そして魔装鎧に意識を込める。
俺のイメージによって、鎧のフォルムが変化する。
いつもの鎧は上が重装で、下が軽装と言う出で立ちだが、今はその逆。上半身部分を薄くする代わりに、下半身……いや、脛から下の部分を重装化する。これは、防御の為じゃない。
「ほう……鎧を変化させたか、暫く見ない間に随分と小器用になったもんだねぇ」
言ってろ!テメェの余裕面、驚愕に歪めてやるよ!!
「うおぉぉっ!」
俺は掛け声と共に飛び出す!
両脚の厚くした装甲が霊気を帯びて、踏み込みに強力なパワーを発揮する。
防御を薄くすることで、圧倒的な速さを得る。
魔装鎧の新たな形『縮地形態』だ。これなら、速さで遅れをとることはねぇ!!
圧倒的不利……?んなもん知るか!!
どうせ、俺に考える頭なんかねぇ!とにかく、今出来ること全て出して足掻き続ける。
頭を抱えたまま死ぬなんて、真っ平御免だよ。自分から動かなきゃ、何も起こらねぇ!
それで “何か” が起きれば、それが活路に繋がるかもしれない。
そんな想いと共に俺は、月の地面を蹴る。瞬く間にメドーサに接近して奴の顔面を…………
「ふんっ」
だが、身体を僅かに捻るだけでかわされる。
チッ……外されたか。だが、構うか!俺の方が速ぇ、当たるまで何度も突進してやるよ!!
◇◇◇
「糞ったれがあぁぁっ!!!」
「おお〜速い、速い……全く追いつけやしないよ♪」
糞!糞!糞!! 一発も当たらねぇ……!
どんなに仕掛けても、鼻唄混じりで簡単に避けられるっ!!
「うおぉぉぉぉ〜!!!」
「ば〜か……」
何度目になるか解らない突進を仕掛けた瞬間、奴のせせら笑いと同時に俺の視界は急激に乱れた。
「ぐおぉぉっ」
メドーサの槍の柄で脚を取られた俺は、前に何回か解らないくらい転がって漸く静止する。
「ざまぁ、無いねぇ〜……『超加速』といい、その形態といい、あんたまるで使いこなせてないじゃないか。付け焼き刃で何とかなると思ってんのかい?」
「はぁ、はぁ………………」
………………確かにな。これは『超加速』と違ってスピードは上がるが、感覚までは上がらない。
必然的に動きは直線的になっちまう上に、小回りも効かない。他の相手ならともかく、使う相手が悪すぎたか。
深い後悔を抱えながら、立ち上がってメドーサと向かい合う。体力も霊気も、尽きちゃいないが体が重い……
そんな俺を見ながら、奴が冷酷に呟く。
「いい加減、お前達の相手をするのも飽きたよ。もう面倒くさいから、ここで死にな!」
そう言って奴は、槍を持ってない左手に力を込める。俺も反射的に身構える。
…………絶対に諦めねぇ。最後まで、足掻いてやる!!
「雪之丞……!」
「「!?」」
突然、忠夫の声が聞こえたと思うと、俺達の間に投げ込まれた霊気が爆発する!
「忠夫か!」
目の前で起こる爆風を両手でガードしながら、霊気の飛んできた方を見る。
そこには、右手に新たな霊盾を生成しようとしてる忠夫が居た。奴は、バツが悪そうな顔をして呟く。
「悪い『超加速』切れちまった……」
「馬鹿野郎、ヘマしてんじゃねぇよ!」
………………ったく、心配かけやがって。