表示設定
表示設定
目次 目次




粘闘(月編)

ー/ー



《地球》

「どうですヒャクメ、装置の弱点は解りましたか?」
「弱点はあるのね〜、あのアンテナの中心が恐ろしく脆いのね〜、あそこを攻撃すれば、一撃で壊せると思うの」


 良かった……装置は何とかなりそうね。そう思った、次の瞬間…………


「な、何だあれは!?」


 安心仕掛けたのも束の間、今度はジークが驚いたように声を上げる。

 それに釣られて皆で “もにたー” を見ると “あんてな” の周りにある、異様な外壁部分……そこから、腕のような物が伸びて…………


「やられた!!」
「マリアぁっ!」


 腕の先が光ったと思った瞬間 “もにたー” が暗転してしまったの。


「そうか!わざわざ魔物を外壁にしたのは、アンテナを守らせる為だったのか……!」


 悔しそうに歯噛みする、ワルキューレ……
 

「ど、どうするのね〜……マリアから、通信途切れちゃったのね〜」
「どうするって……こっからじゃ、どうにもならん…………マリア………マリアは大丈夫じゃろうか…………?」

 
 オロオロするヒャクメにカオス氏……
 

 
 …………そんなぁ!!?

 通信が切れたってことは、宇宙船が墜とされちゃったってこと?マリアさんは大丈夫なの?

 それに宇宙船が壊れたんじゃ、2人が帰って来れないじゃない!




    ◇◇◇


「なっ…………!?」


 巨大装置の上方に広がる光景は、俺達を絶句させるのに十分過ぎた……

 船体に大穴を空けられて、爆発する宇宙船…………爆発なんて一瞬だけだが、『超加速』状態の為にその悲惨な状況を何秒も見せ付けられる羽目になった。

 スローモーションで爆発炎上し、堕ちていく船を呆然と眺めることしか出来ない俺達。

 マリアは無事だろうか……?

 
 これで、帰る手段が無くなった。

 中に置いてきた武器も、宇宙服も吹き飛んだ。奴の言うように装備に宿る竜気だけが、俺達に残された僅かな時間……
 

 『絶望』と言う名の感情が、否応なしに身体中を支配する……


 …………そうか。

 どうも生物的だと思ったら、あれ自体が一体の魔物だったんだ。自分だけで護らせる処置か?

 さっきの強力な一撃といい、あれじゃ破壊どころか近寄るとことすら出来そうもねぇ。

 やりあう前に、何故もっとよく調べなかった…………いや、そんな時間はなかった。どのみち俺等は、仕掛けるしかなかったんだ。







粘闘 メドゥーサ
「ヒャハハハハッ!!ヒドラが破ったか!こいつぁ、傑作だねぇ♪これでお前達は、地球に帰ることも出来なくなった」
 

 そんな俺達をメドーサは大嘲笑いするだけで、攻撃しようともしない…………


 糞が……すぐに殺せる筈なのに、完全に勝ち誇ってやがる…………
 

 ……………………だとしても、違うと言えるか?


 メドーサを “倒す罠” は、まだ残ってる。

 上手く嵌まれば可能性はあるだろうが、その後に装置が破壊出来ないんじゃ結局地球は終わりじゃねぇか…………

 
 僅かな希望を託して、送り出してくれた皆の想い。雪之丞と命懸けで作り出した均衡に、入念に蒔いた布石…………


 全部無駄になっちまうのか…………地球にエネルギーが行ったら、全て魔族に蹂躙される。知り合いや、今まで世話になった人達、家族や友人……

 当然、“あの娘” も奴等に………………

 

 最悪の想像が、脳裏に浮かんで気持ちがグラついた瞬間だった……そこへ極度の緊張により蓄積した疲労、ついさっき受けたダメージも重なり俺は…………



『超加速』を解いちまった。いや、解けちまった…………



 一瞬の油断や焦りが死に直結する、この状況……迫りくる焦燥に贖い切れず起こした、俺のボーンヘッド。
 

 余りに迂闊、余りに軽率、余りに不謹慎…………


 だが、後に振り返れば、これが千載一遇の僥倖であったことは確かだ。


 俺自身の、あり得ない失態に慌てふためいて『超加速』を掛け直そうとする刹那、マリアの声が “頭” に響いた。


 “横島さん・装置は・アンテナの中心が・弱点です……”



 これは、通信機の音声じゃない。宇宙服は既に脱ぎ捨てている。だから、連絡を取り合う為にお互い一つずつ文殊を持って『通』と刻んで、発動したままにしておいた。
 文殊に向かって喋ると、相手の頭に話した言葉が響くわけだ。これなら、例え宇宙空間でも問題なくやり取り出来る。

 勿論、片方が『超加速』状態じゃ無理だが、俺がそれを解いたことで、通信可能になったことを確認したマリアが伝えてくれたんだろう。


 …………いい情報だ。

 ありがとうマリア、希望が出て来たぞ。思わぬ所で時間を食っちまったが、生きててくれよ雪之丞……

 
 俺は、そう念じながら『超加速』を再開する。





    ◇◇◇


 両腕は…………取り敢えずは、無事みたいだな。だが、痺れてるのか感覚が全くない。拳を握るだけでも一苦労だ。

 メドーサに壊された両腕の装甲を修復しながら、俺は4個目の文珠を分解、吸収する。

 初手から、様子見なしの全霊力ブッパでここまで来た。例えるなら長距離マラソンを、短距離の要領で走り続けるのと一緒だ。

 普通なら、すぐに息切れする所を文珠でドーピングして何とか維持する。無茶苦茶もいいとこだが、そうでもしなきゃ目の前の化け物(メドーサ)に食い下がることは出来なかった。
 

 ただ、状況は極めて悪い。身体中が霊気で満たされるが、疲労感は全く拭えない…………


 正直言って俺は、どっか事態を楽観視していた。

 メドーサさえ何とか出来れば、後はどうとでもなるだろうと……だが、結果はこの通り。

 忠夫は装置だけ壊して逃げることも考えてたが、それも無理になっちまった。


 どうする……?

 例えメドーサを倒せたとしても、装置の破壊はかなり難しい…………いや、そもそもメドーサに勝つ見込みはあんのか?


 忠夫は「乱戦に持ち込んでる間に罠を張る」つってたけど、上手く行ったんだろうか?

 俺は、そう思って相棒の方を見る…………


「んな……!?」

 

 忠夫の動きが止まってる!?違う、止まってるように見えるだけだ…………詰まり……

  

「今頃、気付いたのかい?頼りの相棒は、とっくに脱落してんだよ」



 愕然としている俺に、メドーサが馬鹿にしたように言う…………


「忠夫!しっかりしろ!まだ、終わったわけじゃねぇ!!」
「無駄だよ、『超加速』が切れてんだ。何言ったって聞こえやしないさ」


 糞ったれが……!!

 …………いや、責められねぇよな……あんなの見ちまったら、誰でも気落ちする。俺だって、ああなってもおかしくなかったんだ。


「さてと……」


 身動きしない忠夫に歯噛みする俺に、メドーサが勝ち誇ったように喋りだす。


「アンタはどうすんだい?あたしをここまだコケにしたんだ。死ぬのは確定事項だが、大人しく負けを認めるなら、苦しまないように消し飛ばしてあげるよ…………さあ、あたしにお願いしてごらん「ゴミの癖に楯突いてごめんなさい」ってね♪」


 そう言って、高笑いする蛇女…………完全に人を見下してやがる。奴の顔面を思い切りぶん殴りゃ、どんだけ気持ちいいんだろうな?
 
 
 …………打つ手無しの、万事窮すか……………だとしてもだ!


 それを理由に、全て諦めるわけには行かねぇ!!

 死んだママに誓ったんだ。『俺は強くなる』って!

 強くなるのは、単に喧嘩が強くなるとか、そういう意味だけじゃねぇ。どんな時でも、絶対に諦めない“想いの強さ” だ。

 だから、こんな所で “イモを引く” 訳にゃ行かねぇんだ!!


「ふざけろ、糞蛇がぁっ!!」
「キャハハハ!無駄無駄……お前に出来ることなんて、吠えるくらいさ。大人しくしてりゃ楽に死ねたのに♪」


 嘲るメドーサを無視して俺は、全身から霊気を放出、そして魔装鎧に意識を込める。

 俺のイメージによって、鎧のフォルムが変化する。

 いつもの鎧は上が重装で、下が軽装と言う出で立ちだが、今はその逆。上半身部分を薄くする代わりに、下半身……いや、脛から下の部分を重装化する。これは、防御の為じゃない。


「ほう……鎧を変化させたか、暫く見ない間に随分と小器用になったもんだねぇ」


 言ってろ!テメェの余裕面、驚愕に歪めてやるよ!!


「うおぉぉっ!」


 俺は掛け声と共に飛び出す!

 両脚の厚くした装甲が霊気を帯びて、踏み込みに強力なパワーを発揮する。


 防御を薄くすることで、圧倒的な速さを得る。

 魔装鎧の新たな形『縮地形態』だ。これなら、速さで遅れをとることはねぇ!!
 

 圧倒的不利……?んなもん知るか!!


 どうせ、俺に考える頭なんかねぇ!とにかく、今出来ること全て出して足掻き続ける。

 頭を抱えたまま死ぬなんて、真っ平御免だよ。自分から動かなきゃ、何も起こらねぇ!

 それで “何か” が起きれば、それが活路に繋がるかもしれない。


 そんな想いと共に俺は、月の地面を蹴る。瞬く間にメドーサに接近して奴の顔面を…………


「ふんっ」


 だが、身体を僅かに捻るだけでかわされる。

 チッ……外されたか。だが、構うか!俺の方が速ぇ、当たるまで何度も突進してやるよ!!






    ◇◇◇


「糞ったれがあぁぁっ!!!」
「おお〜速い、速い……全く追いつけやしないよ♪」


 糞!糞!糞!! 一発も当たらねぇ……!

 どんなに仕掛けても、鼻唄混じりで簡単に避けられるっ!!


「うおぉぉぉぉ〜!!!」
「ば〜か……」



 何度目になるか解らない突進を仕掛けた瞬間、奴のせせら笑いと同時に俺の視界は急激に乱れた。


「ぐおぉぉっ」


 メドーサの槍の柄で脚を取られた俺は、前に何回か解らないくらい転がって(ようや)く静止する。


「ざまぁ、無いねぇ〜……『超加速』といい、その形態といい、あんたまるで使いこなせてないじゃないか。付け焼き刃で何とかなると思ってんのかい?」
「はぁ、はぁ………………」


 ………………確かにな。これは『超加速』と違ってスピードは上がるが、感覚までは上がらない。
 
 必然的に動きは直線的になっちまう上に、小回りも効かない。他の相手ならともかく、使う相手が悪すぎたか。

 深い後悔を抱えながら、立ち上がってメドーサと向かい合う。体力も霊気も、尽きちゃいないが体が重い……

 そんな俺を見ながら、奴が冷酷に呟く。


「いい加減、お前達の相手をするのも飽きたよ。もう面倒くさいから、ここで死にな!」


 そう言って奴は、槍を持ってない左手に力を込める。俺も反射的に身構える。


 …………絶対に諦めねぇ。最後まで、足掻いてやる!!

 

「雪之丞……!」
「「!?」」


 突然、忠夫の声が聞こえたと思うと、俺達の間に投げ込まれた霊気が爆発する!


「忠夫か!」


 目の前で起こる爆風を両手でガードしながら、霊気の飛んできた方を見る。

 そこには、右手に新たな霊盾を生成しようとしてる忠夫が居た。奴は、バツが悪そうな顔をして呟く。


「悪い『超加速』切れちまった……」
「馬鹿野郎、ヘマしてんじゃねぇよ!」
 
 
 ………………ったく、心配かけやがって。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 決着(月編)


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



《地球》
「どうですヒャクメ、装置の弱点は解りましたか?」
「弱点はあるのね〜、あのアンテナの中心が恐ろしく脆いのね〜、あそこを攻撃すれば、一撃で壊せると思うの」
 良かった……装置は何とかなりそうね。そう思った、次の瞬間…………
「な、何だあれは!?」
 安心仕掛けたのも束の間、今度はジークが驚いたように声を上げる。
 それに釣られて皆で “もにたー” を見ると “あんてな” の周りにある、異様な外壁部分……そこから、腕のような物が伸びて…………
「やられた!!」
「マリアぁっ!」
 腕の先が光ったと思った瞬間 “もにたー” が暗転してしまったの。
「そうか!わざわざ魔物を外壁にしたのは、アンテナを守らせる為だったのか……!」
 悔しそうに歯噛みする、ワルキューレ……
「ど、どうするのね〜……マリアから、通信途切れちゃったのね〜」
「どうするって……こっからじゃ、どうにもならん…………マリア………マリアは大丈夫じゃろうか…………?」
 オロオロするヒャクメにカオス氏……
 …………そんなぁ!!?
 通信が切れたってことは、宇宙船が墜とされちゃったってこと?マリアさんは大丈夫なの?
 それに宇宙船が壊れたんじゃ、2人が帰って来れないじゃない!
    ◇◇◇
「なっ…………!?」
 巨大装置の上方に広がる光景は、俺達を絶句させるのに十分過ぎた……
 船体に大穴を空けられて、爆発する宇宙船…………爆発なんて一瞬だけだが、『超加速』状態の為にその悲惨な状況を何秒も見せ付けられる羽目になった。
 スローモーションで爆発炎上し、堕ちていく船を呆然と眺めることしか出来ない俺達。
 マリアは無事だろうか……?
 これで、帰る手段が無くなった。
 中に置いてきた武器も、宇宙服も吹き飛んだ。奴の言うように装備に宿る竜気だけが、俺達に残された僅かな時間……
 『絶望』と言う名の感情が、否応なしに身体中を支配する……
 …………そうか。
 どうも生物的だと思ったら、あれ自体が一体の魔物だったんだ。自分だけで護らせる処置か?
 さっきの強力な一撃といい、あれじゃ破壊どころか近寄るとことすら出来そうもねぇ。
 やりあう前に、何故もっとよく調べなかった…………いや、そんな時間はなかった。どのみち俺等は、仕掛けるしかなかったんだ。
「ヒャハハハハッ!!ヒドラが破ったか!こいつぁ、傑作だねぇ♪これでお前達は、地球に帰ることも出来なくなった」
 そんな俺達をメドーサは大嘲笑いするだけで、攻撃しようともしない…………
 糞が……すぐに殺せる筈なのに、完全に勝ち誇ってやがる…………
 ……………………だとしても、違うと言えるか?
 メドーサを “倒す罠” は、まだ残ってる。
 上手く嵌まれば可能性はあるだろうが、その後に装置が破壊出来ないんじゃ結局地球は終わりじゃねぇか…………
 僅かな希望を託して、送り出してくれた皆の想い。雪之丞と命懸けで作り出した均衡に、入念に蒔いた布石…………
 全部無駄になっちまうのか…………地球にエネルギーが行ったら、全て魔族に蹂躙される。知り合いや、今まで世話になった人達、家族や友人……
 当然、“あの娘” も奴等に………………
 最悪の想像が、脳裏に浮かんで気持ちがグラついた瞬間だった……そこへ極度の緊張により蓄積した疲労、ついさっき受けたダメージも重なり俺は…………
『超加速』を解いちまった。いや、解けちまった…………
 一瞬の油断や焦りが死に直結する、この状況……迫りくる焦燥に贖い切れず起こした、俺のボーンヘッド。
 余りに迂闊、余りに軽率、余りに不謹慎…………
 だが、後に振り返れば、これが千載一遇の僥倖であったことは確かだ。
 俺自身の、あり得ない失態に慌てふためいて『超加速』を掛け直そうとする刹那、マリアの声が “頭” に響いた。
 “横島さん・装置は・アンテナの中心が・弱点です……”
 これは、通信機の音声じゃない。宇宙服は既に脱ぎ捨てている。だから、連絡を取り合う為にお互い一つずつ文殊を持って『通』と刻んで、発動したままにしておいた。
 文殊に向かって喋ると、相手の頭に話した言葉が響くわけだ。これなら、例え宇宙空間でも問題なくやり取り出来る。
 勿論、片方が『超加速』状態じゃ無理だが、俺がそれを解いたことで、通信可能になったことを確認したマリアが伝えてくれたんだろう。
 …………いい情報だ。
 ありがとうマリア、希望が出て来たぞ。思わぬ所で時間を食っちまったが、生きててくれよ雪之丞……
 俺は、そう念じながら『超加速』を再開する。
    ◇◇◇
 両腕は…………取り敢えずは、無事みたいだな。だが、痺れてるのか感覚が全くない。拳を握るだけでも一苦労だ。
 メドーサに壊された両腕の装甲を修復しながら、俺は4個目の文珠を分解、吸収する。
 初手から、様子見なしの全霊力ブッパでここまで来た。例えるなら長距離マラソンを、短距離の要領で走り続けるのと一緒だ。
 普通なら、すぐに息切れする所を文珠でドーピングして何とか維持する。無茶苦茶もいいとこだが、そうでもしなきゃ目の前の化け物(メドーサ)に食い下がることは出来なかった。
 ただ、状況は極めて悪い。身体中が霊気で満たされるが、疲労感は全く拭えない…………
 正直言って俺は、どっか事態を楽観視していた。
 メドーサさえ何とか出来れば、後はどうとでもなるだろうと……だが、結果はこの通り。
 忠夫は装置だけ壊して逃げることも考えてたが、それも無理になっちまった。
 どうする……?
 例えメドーサを倒せたとしても、装置の破壊はかなり難しい…………いや、そもそもメドーサに勝つ見込みはあんのか?
 忠夫は「乱戦に持ち込んでる間に罠を張る」つってたけど、上手く行ったんだろうか?
 俺は、そう思って相棒の方を見る…………
「んな……!?」
 忠夫の動きが止まってる!?違う、止まってるように見えるだけだ…………詰まり……
「今頃、気付いたのかい?頼りの相棒は、とっくに脱落してんだよ」
 愕然としている俺に、メドーサが馬鹿にしたように言う…………
「忠夫!しっかりしろ!まだ、終わったわけじゃねぇ!!」
「無駄だよ、『超加速』が切れてんだ。何言ったって聞こえやしないさ」
 糞ったれが……!!
 …………いや、責められねぇよな……あんなの見ちまったら、誰でも気落ちする。俺だって、ああなってもおかしくなかったんだ。
「さてと……」
 身動きしない忠夫に歯噛みする俺に、メドーサが勝ち誇ったように喋りだす。
「アンタはどうすんだい?あたしをここまだコケにしたんだ。死ぬのは確定事項だが、大人しく負けを認めるなら、苦しまないように消し飛ばしてあげるよ…………さあ、あたしにお願いしてごらん「ゴミの癖に楯突いてごめんなさい」ってね♪」
 そう言って、高笑いする蛇女…………完全に人を見下してやがる。奴の顔面を思い切りぶん殴りゃ、どんだけ気持ちいいんだろうな?
 …………打つ手無しの、万事窮すか……………だとしてもだ!
 それを理由に、全て諦めるわけには行かねぇ!!
 死んだママに誓ったんだ。『俺は強くなる』って!
 強くなるのは、単に喧嘩が強くなるとか、そういう意味だけじゃねぇ。どんな時でも、絶対に諦めない“想いの強さ” だ。
 だから、こんな所で “イモを引く” 訳にゃ行かねぇんだ!!
「ふざけろ、糞蛇がぁっ!!」
「キャハハハ!無駄無駄……お前に出来ることなんて、吠えるくらいさ。大人しくしてりゃ楽に死ねたのに♪」
 嘲るメドーサを無視して俺は、全身から霊気を放出、そして魔装鎧に意識を込める。
 俺のイメージによって、鎧のフォルムが変化する。
 いつもの鎧は上が重装で、下が軽装と言う出で立ちだが、今はその逆。上半身部分を薄くする代わりに、下半身……いや、脛から下の部分を重装化する。これは、防御の為じゃない。
「ほう……鎧を変化させたか、暫く見ない間に随分と小器用になったもんだねぇ」
 言ってろ!テメェの余裕面、驚愕に歪めてやるよ!!
「うおぉぉっ!」
 俺は掛け声と共に飛び出す!
 両脚の厚くした装甲が霊気を帯びて、踏み込みに強力なパワーを発揮する。
 防御を薄くすることで、圧倒的な速さを得る。
 魔装鎧の新たな形『縮地形態』だ。これなら、速さで遅れをとることはねぇ!!
 圧倒的不利……?んなもん知るか!!
 どうせ、俺に考える頭なんかねぇ!とにかく、今出来ること全て出して足掻き続ける。
 頭を抱えたまま死ぬなんて、真っ平御免だよ。自分から動かなきゃ、何も起こらねぇ!
 それで “何か” が起きれば、それが活路に繋がるかもしれない。
 そんな想いと共に俺は、月の地面を蹴る。瞬く間にメドーサに接近して奴の顔面を…………
「ふんっ」
 だが、身体を僅かに捻るだけでかわされる。
 チッ……外されたか。だが、構うか!俺の方が速ぇ、当たるまで何度も突進してやるよ!!
    ◇◇◇
「糞ったれがあぁぁっ!!!」
「おお〜速い、速い……全く追いつけやしないよ♪」
 糞!糞!糞!! 一発も当たらねぇ……!
 どんなに仕掛けても、鼻唄混じりで簡単に避けられるっ!!
「うおぉぉぉぉ〜!!!」
「ば〜か……」
 何度目になるか解らない突進を仕掛けた瞬間、奴のせせら笑いと同時に俺の視界は急激に乱れた。
「ぐおぉぉっ」
 メドーサの槍の柄で脚を取られた俺は、前に何回か解らないくらい転がって|漸《ようや》く静止する。
「ざまぁ、無いねぇ〜……『超加速』といい、その形態といい、あんたまるで使いこなせてないじゃないか。付け焼き刃で何とかなると思ってんのかい?」
「はぁ、はぁ………………」
 ………………確かにな。これは『超加速』と違ってスピードは上がるが、感覚までは上がらない。
 必然的に動きは直線的になっちまう上に、小回りも効かない。他の相手ならともかく、使う相手が悪すぎたか。
 深い後悔を抱えながら、立ち上がってメドーサと向かい合う。体力も霊気も、尽きちゃいないが体が重い……
 そんな俺を見ながら、奴が冷酷に呟く。
「いい加減、お前達の相手をするのも飽きたよ。もう面倒くさいから、ここで死にな!」
 そう言って奴は、槍を持ってない左手に力を込める。俺も反射的に身構える。
 …………絶対に諦めねぇ。最後まで、足掻いてやる!!
「雪之丞……!」
「「!?」」
 突然、忠夫の声が聞こえたと思うと、俺達の間に投げ込まれた霊気が爆発する!
「忠夫か!」
 目の前で起こる爆風を両手でガードしながら、霊気の飛んできた方を見る。
 そこには、右手に新たな霊盾を生成しようとしてる忠夫が居た。奴は、バツが悪そうな顔をして呟く。
「悪い『超加速』切れちまった……」
「馬鹿野郎、ヘマしてんじゃねぇよ!」
 ………………ったく、心配かけやがって。